第69話 ミッション3 Side シルフィ

【Side シルフィ】


 多くの人々が、私たちが通っていた学院の校庭に設置した十枚のゲートに列を作り、アマノガワ王国へと避難していく。


 この目の前の光景は、お兄様とルミアーナ様が起こした奇跡だと私は思う。





 数日前に聞かされたルミアーナ様の計画は、私たちの考えの遥か上をいっていた。お兄様でさえ、目を見開いて驚いていた。


 王都市民一万人をアマノガワ王国に避難させる計画。もちろん、狂った森に行く前から思いついていた訳では無かったようだけど。


 ルミアーナ様は仰った。錬聖のスキルを持ち、この世界とは異なる思想を持つお兄様がいて、辺境の危険な森で安全に暮らせる為に、森に棲む魔物を間引きするクスノハ様がいて、私の大賢者としての力があったから、この計画が可能なのだと。


 確かにそうかもしれないけれど、私から見れば、お兄様……いえ、トーマ様がいなければ、あのような大都市を僅か数日で作る事など出来なかったのだから、ルミアーナ様が一番にお気にかけているのはトーマ様だ。


 私にしても、トーマ様のお蔭で大賢者になれて、皆んなの力になれている


 そして、この計画を知った時にルミアーナ様の慧眼に驚かされた。


 多分、お兄様とクスノハ様は、なぜ帝国に売り込みに行ったのか、その理由に気付いていない。私もこの計画を聞いて初めて気付いたのだから。


 サディスティア王国がアザトーイ王国を狙っている事は、ルミアーナ様やレオノーラ様からのお話しでお兄様も分かっているし、第三勢力としての帝国の存在も理解している。


 でもルミアーナ様はそれを理解した上で帝国にくさびを打ち、エルフリーデ皇帝もアザトーイ王国とアマノガワ王国をはかりにかけて、アマノガワ王国の話に乗った。


 アザトーイ王国とサディスティア王国の間で戦争が起きれば、帝国もそれに乗ってくる。


 それを知るサディスティア王国はアザトーイ王国の政治と経済への介入という搦手からめてから攻めてきた。


 帝国もそれを知りながら武力介入のタイミングを狙っていたに違いない。


 その帝国にルミアーナ様は、アマノガワ王国と交易を持つ旨味を教え、アマノガワ王国の持つ自動人形オートマトンという軍事力を見せ、とどめにエリクサイトの湯で、皇帝陛下の心をも見事に射止めた。


 それによりこの先、アザトーイ王国、サディスティア王国、そしてアマノガワ王国の三つ巴のいくさになったとしても、大陸最大戦力を誇る帝国が武力介入してくる事はなくなった。


 そうなれば千機でも、万機でも自動人形オートマトンを作れるお兄様の前に敵はいない。ただしお兄様が――――。



「シルフィ様!」



 私に声をかけてきた三人の女の子たちは、学院に通っていた時のクラスメイトたちだった。



「ご、ごきげんよう、皆さん」



 この三人は騎士爵位を持つ家の令嬢で、いつも三人グループを作っていた。



「皆さんもアマノガワ王国に来て頂けるのですか?」


「はい。母からこの国から逃げろと言い渡されました」


「ご両親はご一緒ではないのですか?」




 私の言葉に三人が困った顔をしながら、お互いが顔を見合わせている。


 そして、三人はヒソヒソと小声で相談を始め、暫くして三人が私の方を見た。



「シルフィ様……、実は―――」

 

 

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