第68話 ミッション2 Side ルミアーナ&クスノハ

【Side ルミアーナ】


「ルミアーナさまぁ!」



 冬の訪れを間近に控える冷たい空気が漂う朝、元気な姿で走って来たのは、まだ幼い女の子のセリナでした。


 わたくしは背をかがみ、走ってきたセリナを抱きしめました。



「ごめんなさい、ごめんなさいねセリナ」


「何で? 何でルミアーナさまが泣いているの?」


「ごめんね、ごめんなさいね……」


「ううん。ありがとうだよ。マリヤさまが言ってたよ。緑のお薬を持って来てくれたのはルミアーナ様だって」


「違うの……、違うのです……」



 わたくしがセリナに謝罪をしていると、遅れてセリナの父親と母親が来ました。



「ルミアーナ様。娘の命を助けて頂きありがとうございました」


「ありがとうございました、ルミアーナ様」



 わたくしに頭を下げる両親ですが、わたくしは……。



「ねえ、ルミアーナさまぁ。ルミアーナさまのお国に連れて行ってくれるの?」



 そ、そうでしたわ。許しを乞うのは全てが終わってからですわ。



「ええ、そうですわ。さあ、行きましょう、我がアマノガワ王国へ」


「アマノガワ王国? そこがルミアーナさまの国なの?」


「はい。トーマ様が作られた素晴らしい国ですわ」


「トーマさま? トーマさまって誰? 」


「オホホ。トーマ様はわたくしの――――」




【Side クスノハ】


「お嬢、この地区は全員避難しましたぜ、です」


「ヨシ、次の地区を確認すんぞ! トーマとシルフィっちが作ったゲートは六時には消えちまう時限式って話だからな」



 オレはムッソウ流剣場の門下生五人と、アマノガワ王国に避難を決めた地区の人たちが、逃げ遅れていないかを確認しながら、薄暗い朝の路地を走り回っていた。


 他の門下生たちのチームや、イレーヌさん、ミレーヌさんたちも、広い王都内を走り回っている筈だ。



「しかし、何で六時に消えちまうんすか、です?」


「知らねえ。でもトーマとルミアーナ様、シルフィっちが考えた作戦だからな」 


「お嬢は入ってないんすね、です」


「う、うっせえよ! ほら、お前らは向こうを探せッ!」



 門下生たちに散らばるように指示を出す。コイツらと一緒にちんたら探している訳にはいかねえからな。



「しっかし、お嬢のお友達は凄えでがすな、です。ゲート魔法なんざ聞いた事もねえでげすよ、です」


「ああ、アイツらは凄えんだ。そんでもって、アイツらは友達じゃねえよ」


「「「へっ?」」」


「アイツらは家族だ!」




 門下生と別れ、屋根伝いに辺りを見渡しながら、逃げ遅れている人がいないか探して回る。



「おっ!?」



 細い路地裏におばあちゃんが座りこんでいる。



「おばあちゃん、大丈夫か、です」



 おばあちゃんは少し疲れた顔をしてオレをみた。



「ハハハ、疲れちゃって休んでいたんだよ。姫様のところに行こうかと思ったけどね、あたしみたいなおばあちゃんが行っても、迷惑をかけちまうからさぁ」


「そんな事ねえよ、です。オレが連れて行ってやるよ!」



 オレはおばあちゃんを横抱きして、軽く跳躍しながら、学院の校庭に設置してあるゲートを目指した。



「ひえぇぇぇぇぇ」


「アハハ。怖がらなくても大丈夫だよ、です。アマノガワ王国はめっちゃいい所だからさ、です」



 一旦屋根に降り立ち、更に大きく跳躍した。



「ヒャアアアアアアアアア!!」


「アハハハハ。だから大丈夫だって。トーマはめっちゃめっちゃいいヤツだからさ、です」



 もう一度屋根に降り立つと、更に更に超大きく跳躍をした。


 あれ? おばあちゃんがオレの腕の中で眠っちゃってるよ?



「しかたねえなぁ」



 そうしてオレはシルフィっちが担当している学院の校庭を目指した。

 

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