第47話 クスノハ様の敗北

「ここですね」


 衛兵の詰め所にクスノハ様はいなかった。衛兵からクスノハ様の居場所を聞いた俺とルミアーナ様は、大きな館の前まで来ていた。


 広い敷地を囲む石造りの塀の中から、クスノハ様の気合いの入った掛け声と笑い声が聞こえてくる。


「全くあのは何をやっているのでしょうか」


 さすがのルミアーナ様も困惑顔だ。


 この館のあるじの名はアゼスフォート伯爵と言うらしい。


 豪華な門の前には二人の門番が立っており、俺は門番に事情を話すと、門番は俺たちが来る事を知っていたようで、すんなりと中に入れさせてくれた。


 一人の門番の案内で中庭へと通される。中庭と称したそこは、どちらかと言えば訓練場で、そこに額の汗を腕で脱ぐっているクスノハ様の姿があった。


「クソッ、また負けちまった」

「ガハハハ、恥じる事は無いぞクスノハ嬢ちゃん。このワシを木剣とはいえ本気にさせたのだからな」


 えっ!? クスノハ様が負けた? 剣王のギフト持ちだぞ。何ならドラゴンとだって渡り合えるクスノハ様が負けたなんて信じられない。


 クスノハ様に相対しているのは、白髪ロン毛のお爺さんだ


「もう一試合だ!」


 俺たちが来たのも気付かない程に熱くなっているクスノハ様。両手に木剣を握ると、お爺さんに向かってダッシュする。


「真技、水鳥弧月すいちょうこげつ!」


 クスノハ様が持つ二刀の木剣が重なったかの様になり、傍から見ると一振りの剣にしか見えない。しかし、そのクスノハ様の斬撃は、四方からお爺さんに襲いかかる。


 お爺さんは、年寄りとは思えぬ身のこなしで、全ての剣撃をかわす事に成功すると、「こちらから、行くぞい!」と木剣を上段から振り下ろす。


 お爺さんの一撃は派手さはないが、一撃一撃が精巧で力強い。単調な攻撃なように見えてはいるが、クスノハ様は真剣な顔で、その攻撃を受けている。


 その攻撃を受けきったクスノハ様が、攻撃に転じる。しかし傍から見てもクスノハ様の方が分が悪いのが見て分かる。


 たくさんの汗を流すクスノハ様。汗一つかいていない白髪の老人。二人の実力差は大人と子供程に離れている。


 そして、攻撃していたはずのクスノハ様の二刀の木剣が、中庭から見える青い空に舞う。


「クソッ、もう一本お願いするぜ」

「いや、クスノハ嬢ちゃん、お迎え来たぞ」

 

 ようやく俺たちに気が付いた、クスノハ様は、「ちぇ、早いよ」とぼやいた。


「クスノハ様、無事で良かったよ」

「ああ、剣聖の爺っちゃんが助けてくれたよ」


 剣聖!? な、なるほど、クスノハ様でも勝てないのも納得だな。


「ほう、お主が嬢ちゃんの旦那か。ふむ、良い目をしているな」

「ど、ども」


 いきなり褒められた俺は慌てて頭を下げた。まだ旦那さんになった訳ではないんだけどな。


「皇帝に会いたいのだろ。ワシが連れて行ってやろう」

「はい?」

「ワハハ、クスノハ嬢ちゃんには助けられた借りがあるからの」


 事情を聞いて見れば、先ほどの大通りでの喧嘩騒動は、この剣聖でもあるアゼスフォート伯爵が、チンピラに絡まれていたのを、クスノハ様が助けに入ったとの事だった。


 クスノハ様の助けは不要だったようにも思えたが、無駄な騒ぎを起こさずに済んだと、アゼスフォート伯爵は陽気に笑った。


 そして俺たちは、運良く皇帝陛下との謁見の機会を得られたのだった。


 アゼスフォート伯爵に何故そこまでしてくれるのかと尋ねたら、クスノハ様を気に入ったからとの事だった。


「ワシが、あと十歳若ければ、お主からクスノハ嬢ちゃんを奪っていたワイ」


 と、大きく笑うアゼスフォート伯爵だが、十年じゃまだまだ爺さんだろ。


 何はともあれ、俺たちは皇帝の住む皇城の門を潜ったのである。



――――――――

【作者より】

執筆中に寝落ちして、目が覚めたらスマホで書いていた原稿を、全てデリートしていた事件がおきました。それが夜中の1時😅


眠いなか慌てて書き直したので、文章が変なところがありますが、ご容赦下さい。眠気に負けて推敲が出来なく…………。

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