第46話 お金が無い

「クスノハ様は大丈夫でしょうか?」


 歳は俺と同じ十六歳だが、クスノハ様は身長が低いせいか幼く見える。あの衛兵Cあたりに悪さをされてなければよいが……。


「オホホ。あのに敵う者などそうそういませんわ。それよりも――」

「そうですね。先ずはお金を確保しましょう」


 俺たちにはお金が無い。全くのゼロではないが、森に入る前に何かと買い込んだので、手持ちは少ない。クスノハ様の保釈金が幾らになるか分からない以上、それなりに用意しておく必要がある。


「……ところでルミアーナ様、手はもう離してもよいのでは?」

「オホホ。恋人同士が手を繋いで歩くのに、何か問題でも?」


 そ、そうだった。俺とルミアーナ様は婚約者なんだから、いわゆるカップルだ。問題は――。


「ハハ、問題は無いですね」


 てな訳で、二人で手を繋いで入ったお店はアクセサリーショップだった。



「いらっしゃいませ、と言いたいところですが、当店はお兄ちゃん、お姉ちゃんがデートで遊びにくるお店ではございませんので、お引取り下さい」


 宝石のショーケースが並ぶ、綺羅びやかな店内に入った途端、チョビ髭、七三ポマードのおっちゃんに帰れと言われた。なんだこの店は!


「残念ですがわたくし達はお客ではありませんわ。オホホホホホ」


 わざとらしく左手を口に当てて笑うルミアーナ様。左手に嵌められた大粒のダイヤモンドの指輪が眩しく輝きを放っている。


「ヒィィィィィッ、そ、それは……」


 ドスンと尻もち、いや、腰を抜かしたチョビ髭のおっちゃん。


「オホホ。このダイヤモンドの指輪はトーマ様から頂いた婚約指輪エンゲージリングですわ」


 そのダイヤモンドの輝きに店内にいる女性客の皆さんも目がトロンとなって見つめている。


「う、美しい……、美し過ぎる……」


 腰を抜かしたおっちゃんが、ほふく前進でルミアーナ様に不気味に近寄っていくので、思わずおっちゃんの背中を踏んづけてしまった。「ムギュ」っと、ほふく前進を止めるおっちゃん。


「あ、す、すみません。俺たちはダイヤモンドを売りに来たんです」

「ま、まさか、そのダイヤを!?」

「オホホ。ご冗談は顔だけにしてください」


 ルミアーナ様がしているダイヤモンドの指輪は、白金貨三千枚、約三十億円相当になる。このサイズの在庫はあるが、このお店じゃ買い取れる金額じゃないだろう。


「ルミアーナ様、このお店ならどのクラスのダイヤがいいかな」

「そうですわね――」


 ルミアーナ様が店内に並ぶ宝石を見渡した。


「D級からF級といったところですわね。客層はよくて伯爵家まで、C級を取り扱えるとは思えわませんわ」


 俺とルミアーナ様とで、俺たち流のダイヤモンドのカテゴリーを作ってある。D級からF級は金貨五十枚から五枚、日本円にして五百万円から五十万円相当になる。この金貨は売値に値するから、買い取り価格はこれの半分程度を見越している。


 俺はショーケースの上に柔らかい黒い布をひき、D級からF級のダイヤモンドを十個程度、異空間収納に繋がるショルダーバッグから取り出し並べてみた。


「「「キャアアアアアアッ!!!」」」


 チョビ髭のおっちゃんに見せるつもりで並べたダイヤモンドに、お店にいたお姉さん方が群がってしまった。


「ダイヤモンドが輝いているわ!」

「凄い綺麗! こんな綺麗なカットは初めて見ましたわ!」

「お幾らかしら!」

「ちょっと、あなた、それは私が目をつけたのよ!」

「ねぇパパ、あたしこれ買ってくれたら、何でもしちゃうんだけどな〜」


 いやはや大盛況である。しかし、異世界にもパパがいようとは驚きだ。


「お、おっちゃん、なんとかしてくれ」


 女性なれしていない俺では、群がるお姉さん方をさばききれない。


「は、はい! お客様、しばしお待ち下さい。こちらのダイヤモンドはお客様に販売いたしますので、しばし、しばしお待ち下さい」


 ダイヤモンドをいったんショルダーバッグにしまい、おっちゃんの後に続いて店の奥へと入っていった。


 お店にいたお姉さん方が買う気が満々だった事もあり、十個プラス更に十個近いダイヤモンドを取り出して、販売価格の6割相当で買い取って貰えた。締めて白金貨二十七枚と金貨六十二枚、日本円にして三千万円に近い金額が一気に手に入った。



「オホホ。さすがはトーマ様のダイヤモンドですわ」


 アクセサリーショップを出た俺たちは、大金が手に入りホクホクだった。お祝いに豪華なランチといきたいが、クスノハ様を迎えに行かないといけない。


「クスノハ様を迎えに行きましょう」

「オホホ。そうでしたわね」


 途中、衛兵の詰め所の場所を人に聞きながら歩き、ほぼ間違える事なく、衛兵の詰め所に到着したのだが……。


「クスノハ様がいない?」


 詰め所にクスノハ様の姿は無かった。

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