第45話 帝都で喧嘩はご法度
「帝都は賑わいが違うな」
「オホホ。大陸でも五指に入る大都市です。アザトーイ王国とは比べ物になりませんわ」
俺はこちらの世界に来て、ろくな観光もせずに辺境の森に行ってしまったので、こうやって賑わいある街中を歩くのが楽しくてしかたない。
ゲート魔法で俺とルミアーナ様、クスノハ様の三人が帝都付近の草原に瞬間移動して、先ほど帝都の大きな城門を潜ってきたばかりだ。
某夢の海の楽園でしか見たことのない石造りの家が建ち並ぶ大通りを、お上りさんよろしくキョロキョロと首を振っては感動していた。
「おっ! 串肉屋台があるぜ! 肉食おうぜ、肉!」
クスノハ様が鼻をクンクンさせながら見つけた屋台からは、肉の脂が焦げた、食欲をそそる香りがする。
串肉を三本購入して、歩きながら肉を頬張る。鳥肉のジューシーで柔らかな食感に、よい塩梅の岩塩の塩っぱさが、口の中で混ざり合い、ここ最近は無かった美味しい肉の味を思い出させた。
なにせクスノハ様は魔獣である六角鹿ばかりを狩ってくる。六角鹿の筋張った肉を食べては「顎が鍛えられていいだろ」とか言っているが、食事は鍛える場所ではありません!
鳥肉を大きく口を開けてがぶりと食べるクスノハ様に比べ、ルミアーナ様は小さな口ではむはむと食べている。ジャンクフードを食べるルミアーナ様も素敵です。
「おっ、あの人だかりは喧嘩っぽいぜ」
通りの向こう側に見える人だかり。「ジジイ、そこをどけよ、バーカ」などとイキッた声を上げているスキンヘッドの男が見える。
「行って見ようぜ」
クスノハ様は馬車が走る通りに飛び出し、ひょいひょいと馬車を躱して、反対側まで行ってしまった。
◆
俺はルミアーナ様の手をとり、通りの馬車が走り抜けるタイミングをまって、反対側へと辿りつく。
通りを渡り抜ける時にルミアーナ様が笑っていたのは、ちょっとしたスリルを楽しんでいたからなのだろうか?
「放せよ、コラ」
通りを渡った頃には状況は、訳が分からない程に、一変していた。
状況から見るに、気絶しているスキンヘッドの男を倒したのはクスノハ様だろう。正義感溢れる少女は、暴漢からジジイと呼ばれていたお爺さんを助けに入ったのだろう。
分からないのは、帝都の衛兵三人にクスノハ様が捕らえられている事だ。
「だ〜か〜ら〜、オレは爺さんを助けに入っただけだっつうの!」
「その爺さんってのは何処にいるんだ」
「帝都内で喧嘩はご法度だぞ」
「さあ、可愛いお嬢ちゃん、詰め所でオジさんとお話ししようね〜、ムフフ」
クスノハ様はいま正に衛兵に捕まれ、詰め所へと連行されようとしている。クスノハ様の力があれば、衛兵を倒す事も簡単だろうけど、さすがにそんな無茶はしない。
俺が助けに入ろうとしたら、ルミアーナ様が繋いでいた手をギュッと握り、俺を止めた。見れば首を横に振っている。
「助けないと不味いでしょ」
「この程度の揉め事であれば、衛兵にお金を渡せば解決できますわ。今は事を荒げない方がよいですわ」
そう言うと、ルミアーナ様はクスノハ様にアイコンタクトを送り、クスノハ様も小さく頷いた。
衛兵達に連行されるクスノハ様。しかし心配だ。特に衛兵Cから湧き出る変態臭が、めちゃめちゃ心配だ。
俺のクスノハに変な事したらぶっちボコボコに、ブッ殺す!
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