第48話 皇宮は大騒ぎ

「ブラントーのお爺ちゃま、こんにちは〜」


 皇宮に入って豪華な廊下を、アゼスフォート伯爵を先頭に歩いていると、可愛い幼女がテクテクと歩いてきた。


「ノーラちゃん、ママはいるかい?」

「ママぁ〜? ママはあそんでくれないからきら〜い。お姉ちゃまならいるよ〜」

「そうか、そうか」


 ちっちゃな幼女の頭を撫でるアゼスフォート伯爵。


「こっちだよ〜」


 幼女がテケテケと廊下を走り奥へと向かう。可愛い!


「アゼスフォート伯爵、あの子は皇女様ですか?」

「ノーラちゃんは第二皇女じゃ。いつ見ても可愛いの〜」


 鼻の下を伸ばしてニヘラと笑う剣聖アゼスフォート伯爵。大丈夫か!?



 ノーラ第二皇女の後に続いてやって来たのは、謁見の間だった。豪華な扉を開けると真っ赤な絨毯が上座まで続いている。


 謁見の間には誰もおらず、緊張していたせいか、ホッと息を吐いた。


 ノーラ様が更にテケテケと赤い絨毯の上を走り、玉座の上にピョコンと座った。可愛い!


「どれ、皇帝が来るまで待っておるかの」


 アゼスフォート伯爵は部屋の真ん中辺りまで行くと、ドカっと座りあぐらをかいた。


「ほれ、ここに来て座った、座った」


 俺はルミアーナ様の顔を伺ってみたが、ルミアーナ様もさすがに困った顔をしていた。


「ボォーと待ってるんなら、手合わせしようぜ、です」

「お〜、そうじゃな」


「「えっ!?」」


 まさかまさかの剣聖と剣王のチャンバラが、大帝国の謁見の間で始まってしまった。


「と、止めて下さい、トーマ様」

「お、俺が? む、無理ですよね」

「さ、さすがに不味いですわ」

「し、しかし、剣聖と剣王ですよ! 死にますって!」


 しかし、本当に不味いような気がする。


 ドカーンッと音がして見てみれば、大理石の柱が砕け散っている。


「クスノハァァァッ! ストップゥゥゥッ!」


 大声を上げてみるが、クスノハ様もアゼスフォート伯爵も全く聞こえていない。


 更に三本の柱が破壊され、廊下の向こうから兵士たちが駆け付けて来ている。先頭を走る、銀髪のポニーテールが揺れる少女に目が止まる。


「何事よ!」


 俺とルミアーナ様を押しのけて、謁見の間に入っていく。


「せ、先生! 曲者かッ! 加勢します!」


 銀髪の女の子は問答無用でクスノハ様に、剣を抜いて斬りかかる。


 クスノハ様は近付く銀髪の女の子に気が付き、銀髪の女の子の初撃を躱し、更にもう一本の剣を抜き、二刀を持って剣聖と銀髪の女の子に相対する。


 剣聖には右手の剣で、フェイントを入れながら、直撃をされないように裁く。


 銀髪の女の子には左手の剣で強撃を加え、それを受けた女の子は動きを鈍らせたスキに、剣聖に対して有利な体制を作る。


 更に三人による激しい戦闘が続き、豪華な赤い絨毯はボロボロになり、大理石の壁や柱は崩れ落ちていく。


 銀髪の女の子に付いてきた兵士たちも、三人の激しい戦闘に踏み込む勇気がなく、俺たちと並んで入口にたたずんでいる。


「ト、トーマ様〜」

「お、おう……」


 酷い惨状にオドオドするルミアーナ様。さすがにこれ以上は謁見の間が崩れ落ちてしまう。俺は異世界収納からダイヤモンドを取り出した。


「スキルメイク、重力魔法!」


 ダイヤモンドを糧にして覚えた重力魔法を使う。


「グラビティバインダーッ!」


 シルフィが使っていた重力魔法を唱える。


「「「ぐおわぁぁぁぁぁぁぁッ!」」」


 重力の網に縛られてクスノハ様、アゼスフォート伯爵、銀髪の女の子は床に突っ伏す。


「ふぅ〜」


 なんとか暴風のような三人の暴れん坊を抑えつける事ができた。


「何事ですかッ!」


 玉座の奥から三人の女性騎士を引き連れて出てきた女性。


「マ゛マ゛ぁ〜〜〜」


 玉座に座っていた第二皇女のノーラ様が泣きながら、その女性に抱きついた。


 うんうん、怖かったんだね。


 そして、その女性はノーラ様の手を取り玉座に座った。


 この女性こそが、グレートファング帝国の皇帝エルフリーデ・クラウゼ・ファングその人であった。


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