第5話 俺の婚約者が三人いる件

 街中を走り抜けて、城門の外へと出ると、俺は馬車を停車させた。


 城門の外で待っていたのは、アザトーイ王国第三王女のルミアーナ・アザトーイ王女殿下と、ムッソウ子爵のご令嬢クスノハ・ムッソウ様だった。


 彼女たちの後ろには沢山の荷物が山となっている。


「お、お兄様? これはどういう事ですか?」

「ルミアーナ王女殿下とクスノハ様も俺の婚約者なんだよ」

「聞いて無いわよ……」


 昨夜、義母殿から聞かなかったのか、聞いていなかったのか、何れにせよシルフィは二人を見てびっくりしていた。


「オッハー、シルフィっちぃ〜、です!」


「おはようございます、シルフィさん」


「お、おはようございます、ルミアーナ様、クスノハ様」


 頬を引き攣らせながら笑うシルフィがなんとも滑稽で面白かった。


「なにニヤついてんのですか、クソバカ変態キモデブお兄様」


「え、いや、別に……」


「はぁ〜、なんでこんな兄に美少女が……」


「シルフィっち、それがボクらの試練だぜ、です。アハハハ」


「……そうですね」


 はぁ〜、と肩を落とすシルフィ。それでも帰らないところを見ると、やはり俺達と一緒に『狂った森』に行く事を決めているようだ。


 そして気になる人、昨夜の手紙の主に俺は話しかけた。


「あの、ルミアーナ王女殿下。殿下ともあろうお方が、俺の婚約者で宜しいのですか?」


 リオンの記憶の中には、ルミアーナ様と喋った記憶は一つもない。つまりは喋る価値さえ無いキモデブに、ギフトが良いってだけで婚約するには、ルミアーナ様の地位は高すぎる。


 クスノハ様は子爵家の令嬢で、リオンの家とは爵位が一つしか違わない下級貴族だから、俺も彼女のギフトの質を聞いて、まあ納得は出来たけど、ルミアーナ様はこの国の王女様だ。


 たとえ質の高いギフトだったとしても王女の地位を捨てる程の価値があるのだろうか?


 えっ?


 ルミアーナ様が俺の丸太の様な腕に抱きついてきたよ?


「わたくしにはもう、リオン様しかおりません」


 腕に伝わる双丘の柔らかさは人生初の経験だ。ラノベでおっぱい小説はたくさん読んだけど、やはり本物は質感が半端ない!快楽の極みだ!


 うるうるとした瞳で俺を見上げるルミアーナ様。


「で、殿下……」

「もう殿下ではありませんわ。国王代理様に国外追放を言い渡されてしまいました。オヨヨ」


 オヨヨって、なんか演技じみているけど……。


「国外追放ってどうかされたのですか?」


「兄である国王代理様が、わたくしとリオン様の仲を認めてくれなかったのですわ。だからわたくし、ついお兄様に『国王がセバスチャンでは笑われてしまいますわ。オホホ』と言ってしまいまして、国外追放にされてしまいましたわ。オヨヨ」


「「「ぷっ」」」


 俺とクスノハ様、生真面目なシルフィまでもが吹き出してしまった。


 アザトーイ王国の誰もが思っていて、されど決して口に出してはいけない言葉を、第一王子のセバスチャン殿下に言ってしまったらしい。


「それにお兄様はリオン様と別れて、隣国サディスティア王国の変態王子と結婚しろと迫ってきたのです。わたくしはキッパリと言いましたわ『肉達磨のリオン様を、この世の誰よりもお慕い申し上げております』と」


「ちょ、ちょっとルミアーナ様!?」


 声を大にしたのはシルフィだった。


「ルミアーナ様がお兄様とお話をしている所を一度も拝見した事が有りませんが」


「ええ、一度も有りませんわ。今お話したのが初めてになりますわね。オホホ」


「で、では何故、キモデブのお兄様を……」


「何故? わたくしは敬虔なサセタ神様の巫女です。天啓が降ればそれがキモデブでも、豚デブでも、ヲタデブでも関係ございませんわ。オホホ」

 

 本当か? 天啓は確かに大きな要素ファクターかもしれないけど、それでは余りにもチョロイン過ぎる。


「殿下もやはり質の良いギフトを授かったのですか?」


「そうですわね。わたくしに与えられたギフトこそが天啓であったと思いますわ。ただわたくしのギフトについてはこの場でお話する事は出来ませんわね。オホホ」


 ルミアーナ様が辺りに目を配る。人には聞かれてはならないギフトって事か。


「でもリオン様。わたくしはリオン様と共に進む道を選び、リオン様にわたくしの貞操バージンを捧げる覚悟で参りました」 


 マジか!? 現世では童貞だった俺にも春が!


 しかし、そう告げるルミアーナ様の肩が何かに怯える様に震えている。


 キモデブの俺と婚姻する事は女性にとって幸せとは限らない。優しかった『彼』はだから逃げ出した。俺はルミアーナ様を受け入れていいのか?



―――――――――――――

【作者より】

面白いと思って頂ければフォローや★をして頂ければ幸いです。


★は目次脇のレビュータグから☆を★に出来ます。


★1でも、メチャ嬉しいので宜しくお願いします。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る