第6話 婚約者達の葛藤

「オ、オ、オレだって剣王のギフトだけで、リオンと婚約するわけじゃないぜ、です!」


 赤い顔でクスノハ様が大きな声をあげた。


「我がムッソウ流の夢は、大陸最強を轟かせる事だ、です! 天啓で貰った剣王のギフト、鍛錬を励めば剣聖になれる可能性だってあるんだ、です! だからオレはリオンと行く道を選ぶ、そこには愛も恋も関係ねぇ、です」


 しかしクスノハ様は少し寂しい影を、顔に落とした。


「だ、だからオレの処女はリオンにくれてやるぜ、こんちくしょうめ! です!!」


 目がバッテンになるくらいに自棄やけっぱち宣言をしたクスノハ様。


「わ、私は……」


 俯いて口を開いたのは義妹のシルフィだった。


「……私には分からない。私はお兄様を絶対に愛せない。でも私にも大魔法使いになりたいという夢がある……。そして多くの魔術師がその生涯を費やしても辿り着けない頂きの一つを私は授かってしまった。これを手放す勇気が私には無い……。分からない……、分からないよ……」


 俯いいていたシルフィは両手で顔を塞ぎ、泣き出してしまった。


「素敵な人と恋がしたい。可愛いお洋服を着て、素敵な人とデートしたり、お食事したり、お散歩したり、そんな素敵な恋を私はしたい……。でもお兄様ではそれは叶わない……」


 美少女三人との婚約は俺にとってはご褒美だが、彼女達にとっては神が与えた試練であり、人生の苦行になりかねない。


「シルフィ……。ルミアーナ殿下、クスノハ様、婚約の件は解消しませんか?」


 リオンがこの世界から逃げ出した理由。彼はこうなる可能性に気が付いていたのか。


「オホホ。わたくしは解消いたしませんわ」

「オレも解消しないぜ、です」

「…………私は……分からない。でも、今はついて行く……。もう少し考えたいから……」


「分かりました……」


 直ぐには決めなくてもいいのか。俺もしっかりと考えないとな。


「ではリオン様、荷物を積み込んでください」

「はい」


 俺は荷物の前にいき、昨夜に俺のギフトである『スキルメイク』で覚えたスキルを使う。


「異空間収納!」


「「えっ!?」」


 ルミアーナ様とクスノハ様が驚いている。


 今朝、シルフィもびっくりしていた。



 今朝の事、シルフィが俺の部屋にがなりながら入ってきた。


「お兄様ッ!」


 俺は昨夜にギフトを色々と試していた。生活系の低レベルなスキルから試して、最後に作ったのが異空間収納だった。


 俺の『スキルメイク』は魔力は当然として、錬金術の様に対価が必要になる。俺の場合は有り余る脂肪があるので、無駄な血や肉を引き換えにして、スキルを作り出した。


 低レベルスキルは体感的には何も感じなかったが、異空間収納を覚えた時には体重がガガっと減った感があった。


 この『スキルメイク』が、ダイエットにも使えるって事が分かったのは僥倖だったな。


「早朝に出立ってどういう事ですか! 女の子には荷造りの時間が必要なんですよ!」


「あ、それなら大丈夫だよ」


 俺はシルフィの部屋に行って昨夜に覚えたスキルを使った。


「異空間収納!」


 俺の目の前に小さな黒い穴が現れる。


「シルフィ、この中に部屋の物を全部入れるよ」

「えっ、ちょっと、何その魔法!? 異空間収納ってなんですか?」


「異空間収納だよ? アイテムボックスとも言うかな?」

「し、知らないよ、そんな魔法!」


 あれ? この世界には異空間収納は無いのか?


「それがお兄様のギフトなの?」

「違うよ。のギフトは――――」


 ギフトの説明をしながらシルフィの部屋の物はベッドからタンス、カーテンに至るまで、全てを異空間収納に収めた。


 シルフィは何やら俺を不信な目で見ながら異空間収納に私物を投げ入れていた。



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