第4話 シルフィの悩み
「お父様、お兄様を殺してください!」
屋敷に帰れば義妹のシルフィが、最低最低とあたり散らし、しまいには父殿に俺の殺害依頼を出すしまつだった。
「なぁ、シルフィ」
「何よ! クソデブお兄様ッ!」
「別に婚約は絶対ではないのだから破棄すればいいじゃないか」
「それが出来ていたら苦労しないわよッ!」
婚約破棄は本人の意思で簡単にご破算に出来る。それが出来ないって事は……。
「シルフィは何のギフトを貰ったんだ?」
「べ、別に何でもいいでしょ! クソデブ! 豚デブ! キモデブ!」
プンプンと怒りまくっているシルフィに助言をする人がいた。義母殿だ。
「シルフィ、あなたがリオンさんの事を嫌う気持ちがある事に、母はいつも悲しく思っていました。でもサセタ神様はそれを見ていたのですね。あなたが婚約破棄をしない理由、それをゆっくりと考えてみなさい」
「……は、はい、お母様」
少し溜飲を下げたシルフィだけど、俺は彼女に告げなければならない事があった。
「シルフィ、少し俺の話を――――」
「ふん! お兄様を許すとは言ってません! なによ、もうっ!」
プンスカとまたまた怒りだし、シルフィは二階への階段を上がっていってしまった。
バン! っと二階の部屋の扉が閉まる音が響いた。
勢いよく閉まった扉の音は、俺の言葉に耳を傾ける気がないことを告げている。
リビングに残された俺、父殿と義母殿。魂の異世界転移して、彼から記憶を受け継いではいても、他人感は拭えきれない。
どうせなら、さっさとクエストに出掛けたいくらいだ。
『夜分に申し訳ございません』
若い女性の声が戸外から聞こえた。ご年配のメイドさんが玄関に向かい、そして戻ってきた。
「お坊ちゃまにお手紙です」
ご年配のメイドさんから渡された一通の手紙。先ほどの声の主が届けに来たようだ。
俺は開封して中を確認した。そこにはこう書かれていた。
『明朝、北の城門にてお待ちしておりますわ。オホホ』
◆
朝の街はまだ人が少ない。中世ヨーロッパ風の街並みに、異世界に来たんだなぁと思いながら、俺は御者台に座り、馬車を走らせていた。
当然だけど現世で馬車など操った事は無い。ならば、何故に馬車を操れるのか、それは俺がサセタ神から授かったギフト『スキルメ――――』
「ちょっと、クソデブバカお兄様! こんな朝から『狂った森』に向かうって、どういう事よ!」
御者台の背にある幌の間口から身を乗り出し、俺の首を締める義妹のシルフィ。
ハハハ、俺の脂肪を舐めて貰っては困るのだよ。君の細い指では君のウエスト程はある俺の首は締めきれまい。
昨夜に貰った手紙に従い、俺は早朝に家を出た。
昨夜のうちに父殿に婚約者の事やクエストの事を話した。優しい父殿は俺に金貨十数枚の路銀と馬車をくれた。
そして義母殿が、昨夜に俺の事をシルフィに話をしてくれていたのだけど、情報が上手く伝わっていなかったようだ。朝からシルフィはプンスカと怒りまくっている。
それでも俺に付いて来たからには、クスノハ様の様に質の良いギフトを授かっているのだろうな。
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