Ⅲ
主にこの家の雑務を担当している。
雑務と言っても、家事ばかりであって、他にやることがない。
この家の家主であるシキは、いつもぐーたらな生活を送っており、アリスは、ため息をつく回数を覚えていないほど、だらしない男なのだ。
「ふわぁ……。ねみぃ……」
と何も活動していないのに眠そうにここに来るのはどういう事だろうか。
アリスの怒りも限界だ。
シキは、席に座り、ご飯を食べ始める。
パクパクと食べるシキ。
だが、まだ、食べ始めないアリス。
「どうした? 食べないのか?」
と、不思議に思ったシキ。
「あー、もう! 我慢できない!」
と、テーブルを叩き、いきなりアリスは立ち上がった。
「ど、どうしたんだ? うんこでも我慢していたのか? 漏れる前に早めに言って来いよ。女の子として、はしたない」
シキは、ご飯を食べながら言った。
この男、アリスが思っていることが理解できない。
「違うわよ! 我慢なんてしてないわよ!」
と、怒りをぶつけるアリス。
「じゃあ、なんだよ。あの日、なのか? まぁ、女はこれだから……」
シキは、やれやれと言いながら、ご飯を食べる動きをやめない。
「だーかーら! 違うって言っているでしょ‼」
と、アリスは勢いよくシキを殴った。
そして、きれいに飛んでいくシキ。
「ズヘボラッ‼」
壁に激突し、頭を抑える。
「イテテテ……。ったく、何するんだよ……」
「何するんだ、じゃないわよ!」
アリスはシキの前に立ちふさがる。
「お金よ! 分かる、お金が足りないのよ!」
アリスはお金の入った袋を見せた。袋には少ないお金しか入っていない。
「だから何だって言うんだよ……」
シキは、この家の家計の事など、何にも思っていないようだ。
「後、数日したら、パンの耳が買えるのか、怪しいのよ! それだけ、うちは財政難にあっています!」
「うちって、ここお前の家じゃないだろ……。それにそれ、俺の金だし……」
「そうよ。あなたが持っていると、家計が崩壊するに決まっているでしょうが!」
アリスは怒ってばかりだ。
「いやー、俺はそれでもいいけどな。また、盗賊とか悪い奴らから、お金を奪えばいい事だし……」
シキはゆっくりと立ち上がる。
「ダメよ! 明日は働きに出るわよ!」
「ええええええ……」
シキは嫌そうな顔をする。
だが、それを許すアリスではない。ギロッ、とシキを睨みつけ、威嚇する。
「分かったよね? その馬鹿な頭でも分かるようにもう一度、体に叩き込んであげましょうか?」
手の動きが完璧に戦闘態勢に入っている。
それを悟ったシキは、諦めた。この女、怒らせると面倒で、怖いと思った。
「はい、はい。分かりましたよ。仕事すりゃあ、いいんだろ? でも、学校が始まってからはどうするんだ?」
シキはアリスに訊く。
「もちろん、お金を稼ぐために仕事は程々にするわよ。当り前じゃない」
アリスはニコッと笑みを浮かべて言うのだ。
「あははは……。でしょうね……」
どっちが大黒柱なのか分かりもしない。
「そんな事よりもお前のねーちゃんに頼んで、仕送りしてもらえばいいんじゃないのか?」
「ダメよ。お姉ちゃんに出してもらうのは学園の資金よ。分かる? 出来るだけ、私達で稼がないといけないの」
「はぁ……。これなら一人の方がマシだ……」
シキは天井を見上げ、明日からの平和な一日が労働力のために生きると思うと、嫌になる。
なぜ、ここまでしてアリスは、しっかりとしているのか。
貴族の娘なら貴族らしく、ポンポン、お金を使えばいい。
シキは椅子を起こし、席に座る。
アリスも向かい側に座って、ご飯を食べ始めた。
チラッと、シキはアリスを見る。
「ん? どうしたの?」
漆黒のファンサー 佐々木雄太 @yuta4
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