Ⅴ
「そんなのは貴族とか、冒険者ギルドに依頼すればいいだろ? 俺よりも確実に魔法の能力とか強化してくれるんじゃないのか?」
「私達にそのようなお金があると思う?」
イリーナが言う。
「ないな。それに俺は人を教えるような人間じゃないんでね。他をあたってくれ」
シキは、デザートに頼んだ巨大なアイスとぶどうジュースを交互に食べたり、飲んだりする。
「そう、報酬はしっかりとお支払いしようと思ったのにねぇ。それに学園の食堂は美味しいものばかりだと聞いたことがあるわ」
イリーナは、ニヤニヤしながら言う。
「ほー、そうかい。へぇ~」
シキは、それを聞くとわざとらしく反応する。
「ま、学園に入るのはいいかなぁ。報酬も出るならねぇ~」
チラッ、チラッとイリーナを見るシキ。
「あ、言っておくけど、学園の学費は別だから。自分で払ってね。そこまでは費用出さないわよ」
「はぁあああ⁉ だったら、俺、どうすればいいんだ⁉」
「知らないわよ。働いたり、貯金したお金を崩せば」
「くっ……」
シキは舌打ちをする。
「それでどうする? やる? やらない?」
「知らねぇーよ。そんな事ならお断りだ。馬鹿やろ! 言っただろ? 俺は自由に生きたいわけ」
シキはデザートを食べ終わると、立ち上がって、代金を置き、立ち去ろうとした。
「じゃーな。もう、会う事はないだろうけど、まぁ、頑張れよ」
「あの……」
イリーナはシキを呼び止める。
「なんだ? 他にまだ、あるのか?」
「代金足りないわよ。店の修理費とか書いてあるし」
「げっ……」
シキは、嫌な顔をして、渋々とお金を払い、店を後にした。
「あの子、私が見た感じ、結構やり手だと思ったんだけどね。しょうがないか」
イリーナは、紅茶を飲み干すと、窓の外を見た。
「お姉ちゃん……」
アリスは、そんな姉を見て、何か思った。
この世界は、何が起こっても不思議じゃない。
生きるか死ぬかの世界である。
「お姉ちゃん、やっぱり、あの人にお願いしに行きましょう!」
「無理よ。もう、諦めなさい」
「いやです! わたしは——‼」
「あの~、ちょっといいですかね?」
と、二人の会話に割って入る人物がいた。
「あなた達は‼」
「あー、今日は厄日だ。早く帰って寝よ」
シキは、大きな欠伸をしながら街を歩いていた。
「それにしても、面倒なんだよ。今更、人と関わるのなんて……」
シキは、急に足を止める。
「あ、いけねぇ……。忘れ物した……」
シキは振り返って、元来た道を引き返す。
店を戻った時には、なぜか、様子が変だった。
店のいたるところがボロボロになっている。いや、確かにさっきまで、ボロボロになっていたのは事実ではあるが、それ以上にひどい状態になっていた。
すぐに店の中に入り、様子を確認する。
「これは……一体……」
酷い有様だった。
客は倒れ、従業員も気を失っている。
「おい、一体何があった⁉」
近くにいた人間に体を揺すって話しかける。
シキに叩き起こされた人間は、体を痛めながらもゆっくりと目を開けた。
「あ、あんたが、み、店を出た後……、女の子二人が……連れていかれた……」
また、気を失う。
「おい! くそっ! また、厄介ごとかよ!」
シキは、店を飛び出して、誘拐された二人の後を追った。
店の中には、スカーレット姉妹の姿がなかったことは、二人が誘拐されたと考えた方がいい。
「全く……なんで、こんなに易々と誘拐されるんだよ!」
シキは、街を走り回る。
二人はそう、遠くに入っていないはずだ。
「今なら、まだ、間に合うか……」
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