「え?」


「別に構わないでしょ? 悪い人ではないんでしょ?」


「あははは……。そうですね……」


 姉の威圧感には勝てないアリス。


 苦笑いした彼女は、そのまま姉を連れたまま、少年の元へ案内した。


 追加で肉料理を頼んだ少年は、まだ、食事に夢中であった。


 そこへ、先程、外に飛び出したアリスとその姉が戻って来て、向かい側に座る。


「おい、その隣にいる女は誰だ? 俺は、お前にそれしか奢らないとしか言っていないはずなんだが?」


「違うわよ。たまたま会った、私のお姉ちゃん」


「イリーナです。妹が、お世話になって申し訳ありません」


「あー、そういうのいいから。で、それで何?」


 少年は、食べる勢いを止めない。


「ねぇ、アリス?」


「何、お姉ちゃん?」


 アリスはイリーナの方を見る。


 すると、イリーナは、微笑んでいるが、顔が笑っていなかった。


「この人、殴ってもいいかしら? 腹立つんだけど」


 やばい、そう頭に浮かんだアリスは、少年の元に行き、耳元で話しかける。


「ねぇ、お姉ちゃんがやばいから話聞いてあげて!」


「ああ? なんで? 別にいいだろ? 興味ないんだし……」


「そういう問題じゃないの。お姉ちゃん、自分の話を聞かない人は嫌いなのよ! お願い! これはあなたのためなのよ!」


「はぁ? 俺のため? 何言ってんだか。知らんぞ。姉妹喧嘩がしたかったら、外でやれ、外で」


 少年は、アリスの話など相手にもしていない。


 話にもならないと思ったアリスは、はぁ、とため息を漏らした。


 すると、


「ねぇ、ねぇ、そこの君」


 と、アリスの後ろから声を掛けてくる人がいる。


 振り返ると、そこにはチャラそうな男が二人いた。


「そんな坊主とデートしなくてさぁ。俺達と遊ばない? 奢ってやるからさぁ」


 面倒くさいなぁ、と思うアリス。


「結構です。私、お姉ちゃんと一緒に来ているので!」


 アリスは、男の一人が方に載せた手を払いのけると、男達の方を振り返る。


「お姉ちゃん?」


 男達はイリーナの方を見た。そして、アリスの方を見る。


「そうです。だから、結構です!」


 はっきりと断るアリスは、プクー、と頬を膨らませながら言った。


「ふっ……、ハハハハハハッ! お姉ちゃん⁉」


「どう見ても君の方が若いし、俺達の好みぃ。あんなおばさんとではなくて、俺達と遊ぼうぜ」


「そうそう、そっちの方が絶対、楽しいって」


 やーばい。言っちゃったよ、言っちゃったよ。この人達……。


 アリスは、恐る恐る後ろを振り返る。


 そこには姉の姿ではなく、鬼が潜んでいた。


「ねぇ、あなたたち。今、なんて言ったかしら?」


 終わった。この人達、命がない。


 そう、脳裏に走った。


「ああ? あんたに用はないんだよ!」


「そうだ。おばさんは黙ってろ!」


 ガンを飛ばす男達。


 だが、イリーナは不敵な笑みを浮かべて立ち上がり、男達の方へ歩み寄る。


 ああ、これはお店に被害が及ぶんじゃないの?


 アリスは淡々と慌てだす。


「だーれがっ! おばさんだぁあああああ⁉」


 イリーナは、男の顔面を思いっきり殴った。


 男はカウンターの方まで吹き飛び、店内が壊れ始める。


「ヒィイイイイイ! もう一人の男が怯え始める」


「あんたら、誰がおばさんだって?」


 指をボキ、ボキ、と鳴らし、男の前に立った。


「あ、あの……。お、お助け……」


 男は怯えながら助けを求める。


「ふふふふ」


 イリーナは、男の顔面を右手だけで握り、そのまま床にたたきつけた。


「おらぁ! テメーの血は何色だぁあああああ!」


 店内に響き渡る男の叫び声と殴る音。


 客は怯え、アリスは、あ~あ、やっちゃった。と頭を抱えた。


 食事に夢中になっていた少年は、チラッとその方へ視線を向ける。

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