少年は、変な声を出し、歩きを止める。


「何だよ? お礼はいいって言っただろ? それに俺は腹が減ってんだ。奢るかねなんてねぇーぞ」


 少年は嫌そうな顔をしていた。


 だが、少女は逃げ出しそうになる少年を逃がさず、がっちりと捕まえる。


「逃がしませんよ! それにあなた、男から強奪していましたよね? ここで叫びましょうか? 『恐喝されました!』って、すぐに軍が動くでしょうね」


「小娘がっ!」


 少年は、ニヤッと笑う少女に対して、はぁ、とため息を漏らした。


「分かったよ。それでお前は何がしたい」


「とりあえず、何か食事をしに行きませんか? あなたのおごりで」


「それ、お礼じゃないよな?」


「何か、言いましたか?」


「いえ、何も! そうですね、女性に奢らせる男は最低ですよね。うん、ここは奢った方がいい!」


 少年は棒読みで言った。


「そうですね。それじゃあ、行きましょうか」


 少女に連れられた少年は、レストランへと誘われた。


「あのなぁ、あまり高いのは頼むなよ。俺は、人に奢るのは嫌いだ。奢られるのは好きだけどな」


「それ、人間のクズですね。女子に嫌われますよ」


「いいんだよ。俺は、人に好かれたいとか思っていないし、別に好きなように生きているだけだからな」


 少女がメニュー表を見ながら、少年はそう答えた。


「あ、お姉ちゃん。この肉の定食一つね!」


「あの、人に言っておきながら、自分だけ高いのを頼むのはどういうことですかね?」


「ああ? いいんだよ。俺、グルメだし。美味しいものしか、胃が受け付けないの」


 少年は、何を言っているのかさっぱり理解できない。


「じゃあ、私はパスタをお願いします」


 少女は、注文を取りに来た女性定員に言った。


 この少年、一体何者なのだろうか。少女は、じーっと、少年を睨みつける。


「なんだぁ? 俺の顔に何かついているのか? 言っておくけどな、これが終わったら俺と関わるな。食べたらさっさと帰れ!」


「嫌です!」


「聞き分けのねぇー女だなぁ……」


 少年は、うざったらしい少女に向かって嫌な顔を向ける。


 しばらくして、料理が二人の前にやって来ると、少年は笑顔になる。


「うまそぉ! さーて、食うぞ!」


 少年は、ナイフとフォークを持って、肉をがむしゃらに食べ始める。


 周囲からどんな目で見られようと、お構いなしだ。


 そんな少年を見て、少女は思う。変な人だと。


 少女は普通にパスタを食べながら窓の外を見ていると、見覚えのある女性が、街を歩いていた。


「あれって? お姉ちゃん⁉」


 と、少女はフォークを置いて、店の外に飛び出した。


「なんだぁ? せっかく、奢ってやったに……まぁ、いいけど」


 少年は食べ続ける。


 少女は、街を歩く女性に声を掛ける。


「お姉ちゃん! こんなところで何をしているの⁉」


 そう呼び止められた女性は、声が聞こえる方へ、振り返った。


 少女と顔立ちも似ており、髪も同じ金色であるが、女性の方が長く伸びた髪を結び、着ていた服は、庶民的な服だった。


「あら、アリス。どうしたの? こんなところで何をしているのよ⁉」


 逆に言い返される少女・アリスは、苦笑いをした。


「あ、いや、その……」


「ほら、言い訳しないで、さっさと言いなさい!」


「う、ううっ……」


「ほら、早く!」


 威圧感が半端ない。


「はい。分かりました。ちょうど、レストランで、男の人と食事をしていたところです」


「あら、そうだったの。それで、その男性は?」


 キョロキョロと、探し始める女性。


「あそこです」


 アリスは、レストランで肉に噛みついている少年の方を指さした。


「あんなのと食事していたの?」


 女性は唖然としていた。確かに周りから見れば、笑われ者だろう。


「まぁ、私を助けてくれた人ですし、悪い人ではないと思いますよ」


「そう。だったら、私にも紹介してもらえるかしら?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る