Ⅱ
少年は、変な声を出し、歩きを止める。
「何だよ? お礼はいいって言っただろ? それに俺は腹が減ってんだ。奢るかねなんてねぇーぞ」
少年は嫌そうな顔をしていた。
だが、少女は逃げ出しそうになる少年を逃がさず、がっちりと捕まえる。
「逃がしませんよ! それにあなた、男から強奪していましたよね? ここで叫びましょうか? 『恐喝されました!』って、すぐに軍が動くでしょうね」
「小娘がっ!」
少年は、ニヤッと笑う少女に対して、はぁ、とため息を漏らした。
「分かったよ。それでお前は何がしたい」
「とりあえず、何か食事をしに行きませんか? あなたのおごりで」
「それ、お礼じゃないよな?」
「何か、言いましたか?」
「いえ、何も! そうですね、女性に奢らせる男は最低ですよね。うん、ここは奢った方がいい!」
少年は棒読みで言った。
「そうですね。それじゃあ、行きましょうか」
少女に連れられた少年は、レストランへと誘われた。
「あのなぁ、あまり高いのは頼むなよ。俺は、人に奢るのは嫌いだ。奢られるのは好きだけどな」
「それ、人間のクズですね。女子に嫌われますよ」
「いいんだよ。俺は、人に好かれたいとか思っていないし、別に好きなように生きているだけだからな」
少女がメニュー表を見ながら、少年はそう答えた。
「あ、お姉ちゃん。この肉の定食一つね!」
「あの、人に言っておきながら、自分だけ高いのを頼むのはどういうことですかね?」
「ああ? いいんだよ。俺、グルメだし。美味しいものしか、胃が受け付けないの」
少年は、何を言っているのかさっぱり理解できない。
「じゃあ、私はパスタをお願いします」
少女は、注文を取りに来た女性定員に言った。
この少年、一体何者なのだろうか。少女は、じーっと、少年を睨みつける。
「なんだぁ? 俺の顔に何かついているのか? 言っておくけどな、これが終わったら俺と関わるな。食べたらさっさと帰れ!」
「嫌です!」
「聞き分けのねぇー女だなぁ……」
少年は、うざったらしい少女に向かって嫌な顔を向ける。
しばらくして、料理が二人の前にやって来ると、少年は笑顔になる。
「うまそぉ! さーて、食うぞ!」
少年は、ナイフとフォークを持って、肉をがむしゃらに食べ始める。
周囲からどんな目で見られようと、お構いなしだ。
そんな少年を見て、少女は思う。変な人だと。
少女は普通にパスタを食べながら窓の外を見ていると、見覚えのある女性が、街を歩いていた。
「あれって? お姉ちゃん⁉」
と、少女はフォークを置いて、店の外に飛び出した。
「なんだぁ? せっかく、奢ってやったに……まぁ、いいけど」
少年は食べ続ける。
少女は、街を歩く女性に声を掛ける。
「お姉ちゃん! こんなところで何をしているの⁉」
そう呼び止められた女性は、声が聞こえる方へ、振り返った。
少女と顔立ちも似ており、髪も同じ金色であるが、女性の方が長く伸びた髪を結び、着ていた服は、庶民的な服だった。
「あら、アリス。どうしたの? こんなところで何をしているのよ⁉」
逆に言い返される少女・アリスは、苦笑いをした。
「あ、いや、その……」
「ほら、言い訳しないで、さっさと言いなさい!」
「う、ううっ……」
「ほら、早く!」
威圧感が半端ない。
「はい。分かりました。ちょうど、レストランで、男の人と食事をしていたところです」
「あら、そうだったの。それで、その男性は?」
キョロキョロと、探し始める女性。
「あそこです」
アリスは、レストランで肉に噛みついている少年の方を指さした。
「あんなのと食事していたの?」
女性は唖然としていた。確かに周りから見れば、笑われ者だろう。
「まぁ、私を助けてくれた人ですし、悪い人ではないと思いますよ」
「そう。だったら、私にも紹介してもらえるかしら?」
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