Lesson1 ギャルちゃん


「もしもし」

『もしもし先輩? すみません、バイト長引いて遅くなってしまいました』

「いや大丈夫だ。ゲームしてたし」

『いや、ゲームしてないで就活準備してください』

「手厳しいな……。しかし、ただゲームしていたと思うなかれ。ゲームはゲームでも、女の子の気持ちを理解するために」

『ギャルゲーですね。はいはい』

「なぬっ⁉︎ さすが後輩……よく分かってるじゃないか。さては乙女ゲーで俺でも攻略したか?」

『ばっ……かなこと言ってないで……早速始めますよ。もう夜遅いですし』

「了解だ」

『で、まずは何のキャラを演じればいいか決めてたりします?』

「もちろんだ! 最初はやっぱりギャルだ!」

『ギャルー? ゲームの影響か知りませんが、どうしてです?』

「こういうマッチングアプリってのは、陽キャやパリピがやるもんだ。つまり! その代表例であるギャルとマッチングする確率が高い!」

『はぁ、ガッツリ偏見ですね。まぁ、いいと思いますよ。先輩みたいな陰キャには強引に引っ張ってくれるような人じゃないと会話すらままならないですからね』

「おいおい〜褒めるなよ〜」

『しっかりけなしましたけど。とにかくギャルですね。じゃあ一旦間を空けたらそのキャラで話し始めるので。そのつもりで』

「了だ!」

『じゃ行きまーす。7・8・9』



『──もしもーし♪』

「あ、もしもーし」

『ハハッ、ちょっと〜別にムリして合わせなくても大丈夫だからねー』

「お、おぅふ……。えっと、ギャルちゃんですか?」

『そだよー。え、なに? テレてるのー? マジウケるー笑』

「あはは、ウケるー」

『マジでさー、いきなりDMきたときはさー、ちょービックリしたんだけど、なんかけっこー顔タイプかもーと思ったから返事したんだー』

「お、おぅ……。ふっふっふっ、俺のこの美形に気付くとはなかなか分かってるじゃないか」

『え、キモ。さすがにそのノリ萎えるんですけど』

「あ、すまん。そーだよな。じゃあバイブス上げてこぉ‼︎」

『それもちがう』

「すまん」

『だからムリしなくていいんだって。ありのままのキミでいいんだよ』

「そ、そうか。なるべく努力しよう」

『ハハッ! そのままでいいのにがんばるとか、けっこう健気でカワイイんですけど〜』

「いやぁ、それほどでも」

『まぁいいや。そんなことはどうでもよくて』

「急に辛辣⁉︎」

『で、どこ連れてってくれるの?』

「どこ、とは?」

『え? アタシとデートしたいから、いいねしたんじゃないの?』

「も、もちろん! その通りだ。そうだな……うーん、え、映画館とか?」

『ふーん。なにみんのー?』

「現在大ヒットのラブストーリー──とか、どうだ」

『うーんビミョー。そんな気分じゃないんだよね』

「別のジャンルが良かったか」

『映画の気分じゃない』

「さっきの会話丸々カットなんだが⁉︎」

『それよりさ、カラオケ行かない? そっちの方が楽しいって⭐︎』

「カラオケか……久しく行ってないな。最後に行ったのは公演の打ち上げでだったけな」

『公園? ライブでもしてきたの?』

「俺は別にアーティスト活動してないぞ⁉︎ って、そうか。知らない設定になるよな。俺は大学にある演劇部に所属している。といっても、今は後輩と二人だけなんだが。去年はそれなりに部員がいたんだよ。で、公演ってのは劇の本番のこと」

『へー、そうなんだー』

「あんま興味なさそうだな……。ま、カラオケはそれくらいだな。あ、そうそうそういえば、その後輩がさ! めちゃくちゃ音痴なんだよ!」

『っ……、へ、へーそうなんだー。それはオモシロイねー』

「音程はバラバラでリズムもめちゃくちゃ。それになんか変な揺れとか」

『へ、変な揺れ……?』

「歌ってる時の癖なのか知らないが、マイクを両手に持ちながらさ腰から前後に揺れてんだよ。その上つま先立ちしたりで上下運動してて、よくそれで歌えるなって!」

『そ、そうなんだー……知らなかった……』

「ま、一生懸命なとこは可愛いんだけどな」

『はっ⁉︎』

「ん? って、あぁごめん。つい喋り過ぎちゃったな」

『い、いや別に。そんなこと気にしないんだけどさ……えっと、カワイイってことは、その後輩って女の子なわけ?』

「ん? そうだが?」

『他にさ、どういうとこがカワイイとかあんの……?』

「そうだな。一口が小動物並みに小さいとか」

『ほぉほぉ、そんで?』

「の割にめちゃくちゃ大食いなとこ」

『え、そ、そんなに食べてるかな……』

「あぁ、食べてるね。以前バイキングに行った際、これでもかとお皿に乗せ──」

『ああー! もういいんじゃないかな⁉︎ その子の話は⁉︎』

「そっちから振ったのにか? まぁ、幸せそうに食べているところが可愛かったと伝えたかったが、まぁいいだろ」

『ふ、ふーん。まぁいいや。じゃ、なんかキミと話すの飽きたし、バイバーイ』

「ええっ⁉︎ いきなり⁉︎ ──切られた……あ、電話かかってきた」


『……もしもし』

「もしもし? いやーやっぱり凄いな! 途中から後輩と話してたってことすっかり忘れてたよー! まぁこれで? ハーレムへの道が開かれたな。女の子と話せるくらいわけな──」

『ダメに決まってるでしょ! 調子に乗らないでください!』

「えぇ⁉︎」

『そもそも女の人と話してる時に別の女の子のことを話さないでくださいよ』

「いやぁ、どっちもお前だろ」

『何のためのシミュレーション⁉︎ さっき私ということ忘れてたって言ってましたよね⁉︎ 今電話したのは私じゃなくてギャルちゃんなんですから、その設定をそっちも守ってください!』

「あ、あぁ、そうか」

『とにかくこれじゃまだダメなので、明日もまた電話します。今度はどんな子がいいんですか?』

「そうだなー。グイグイ来てくれる子とは違って俺が引っ張っていく必要がある子──そうだ、クールな子はどうだ」

『クール、ですか』

「ああ。普段は口数少なく感情表現もあまりしないが、そのうえ特定の人の前ではデレるとなおよしだ!」

『はぁ……先輩ってそういうのが好きなんですか?』

「ああ、もちろんだ! 嫌いな男はいないだろ」

『そうですか。分かりました。じゃあ次は電話かけた時から始めるので、そのつもりでよろしくお願いします』

「おう!」

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