ハーレムプラクティス

杜侍音

Starter マジメちゃん


「先輩、マッチングアプリ始めるって……本気ですか?」

「もちろん本気だ! 大学生になって早三年。来年は就活で忙しいからな。遊ぶなら今しかないのだよ……!」

「いや、三年生ってもう就活しないといけないで──」

「だから! 今しか遊べないんだよ‼︎」

「あ、そですか。それにしても何でマッチングアプリなんですか? 別に遊ぶの一人でいいじゃないですか」

「おいおい〜、そんなのひとしきりやり尽くしたに決まってるじゃないか〜」

「泣けますね」

「いいか? 男にはな、夢ってもんがあるんだよ」

「夢、ですか?」

「そう! 夢のハーレム生活っていう夢がな‼︎」

「ハ、ハーレム⁉︎ え、ハーレム作りたいんですか⁉︎」

「まぁ、男なら誰しも持つものだからな。なんだ悪いか?」

「べ、別に……好きにすればいいですけど。まぁ、先輩には到底不可能だと思いますよ」

「なんでだ⁉︎」

「だって、先輩って女の人と喋れないですよね? 私以外」

「そんなわけあるか! 例えばだな……」

「お母さんとかコンビニ店員はなしですよ」

「ぐっ! さすが後輩……よ、よく知ってるじゃないか……」

「まぁ、伊達に4年後輩してないですからね」

「高校生からだもんな。一人で漫喫していた文芸部に突如入ってきては、まさか大学まで付いてくるとは」

「そ、そんな、私がまるで先輩を追いかけたみたいな言い方やめてください! 先輩と同じく家から通える距離で就職率が高いところを選んだだけですから」

「とか言いつつ今下宿してなかったか?」

「さすがに通学二時間はキツイので。一限多いですし……」

「サボればいいじゃん」

「うわぁ……」

「ガチ引きやめて⁉︎ 大学生ってそういうもんだよ⁉︎ そっちがマジメちゃん過ぎるんだよ!」

「マジメちゃんで結構です! それにサボるのって友達がたくさんいる人ができる裏技みたいなものなのに、先輩は……」

「だ、大学ってのは勉強するところであって友達作るとこじゃないからな!」

「さっきと言ってること矛盾してますけど。それに、先輩って普通に単位ヤバいですよね?」

「こ、これも計画の内だ……!」

「そのうえ大学の演劇部でも先輩はボッチになって──」

「断じてボッチではない! なぜか部員がみんな辞めていったのだ!」

「それ結局ボッチになってますよね⁉︎」

「別に俺のせいではない。単位がどうのとかバイトが忙しいだとか。まぁ多くは恋愛のもつれがあったりだとかでここに居られなくなり退部、あるいは演劇サークルの方に移籍したりなどしたからな」

「そしていつの間にか私たち二人だけになったと。これだけで演劇なんてできませんし、ただ脚本を読んでは感想を言い合う──文芸部と何ら変わりないことしてますよね」

「……ま、そうだな。だから俺は! このままじゃいけないと思い! 自分を変えようということで! このマッチングアプリを始めようというわけさ!」

「別に変わんなくてもいいんじゃないですか? 陰キャは一生陰キャのままですし」

「おいおい〜酷い言い草だな。それはやってみないと分からんだろ」

「じゃあ、そこのコンビニ行ってきてくださいよ。ちょうど店員さん若い女の人ですし。連絡先でももらってきてください」

「えっ⁉︎ それは、仕事中だからちょっとな……」

「せめて日常会話を交わすとかでもいいので。とっとと行ってください」

こくだな⁉︎ まぁ、いいだろう。俺の覚悟をとくと見届けるがいい!」




「ほら、言ったじゃないですか。ていうか泣かなくても」

「泣いてはないぞ⁉︎ あれだ、目にお釣り投げつけられただけだから」

「それは素直にクレーム入れてください。じゃなくて、外から見てましたけど、ただビミョーな顔した男が息荒かったから気味悪がられただけですよね」

「むむっ……確かに俺は少し女性と話すのが苦手かもしれない……」

「え、少し?」

「だが大丈夫だ! あむっ……マッチングは……んっ、うん! 出会う前にステップを踏まないといけないから! メール、電話を通じて会うかどうかを決める。テレビ電話機能もあるし、コミュ障でも段階を踏んで慣れていける! あむっ」

「広報の人ですか? けど、まぁ直接会う前に相手と話せる機能はいいですね。先輩は演技してもすぐにフラレそうですけど」

「何っ⁉︎ メールでなら大丈夫だろ! こう見えても高校大学六年間と小説や脚本を書いてきたんだ。それぐらいなら──」

「いやだからそこじゃなくて、電話。加えてテレビ電話なんてもう死刑ですよ」

「死刑なの⁉︎ 情状酌量の余地はあっていいんじゃないか⁉︎」

「いやぁ……あ、私にもからあげちゃんくださいよ」

「あむっ。


「ムグッ、ふんふん、おいし」

「ふむ、電話でなら女性と喋るいい練習になると考えたんだが、練習の練習をしないといけないなぁ」

「何ですか練習の練習って。先輩に付き合ってくれるような女の子がいればいいですね」


「………………」

「……えっと、先輩? 何ですか、ジッとこっち見て……?」

「それだ!」

「どれ⁉︎」

「手伝ってもらえればいいじゃないか! 演技で! 色んな性格の子を演じてもらって!」

「……え、私⁉︎」

「頼むよ! 美少女新人女優と部活で言われていただろ⁉︎ できるって!」

「いや何ですかその異名。初めて聞いたんですけど」

「俺が勝手に呼んでた。先輩や同期からどんな子が入部してくるのかって説明する際に理解してもらいやすくな」

「び、美少女って……そんな勝手な……」

「そこは本当だろ。なんだ千年に一人のってつければよかったか?」

「そうじゃないです。ほんと昔から勝手なこと言いますね。これだから九十八枚目俳優は」

「九十八枚目俳優って何⁉︎ 百から二枚目引かれてるんだけど⁉︎」

「報酬は」

「ん?」

「報酬。だって毎晩わざわざ先輩に電話をかけないといけないんですよね。しかもキャラを変えて。ある程度の見返りないとやれないですよ」

「報酬か……い、いくらだ……」

「現金じゃなくて! そうじゃなくて、なんかこう……ありませんか⁉︎」

「えぇ、何か欲しい物とかあるのか?」

「別に欲しい物とかは……うーん、とりあえず後払いでいいです。今は敷金礼金としてからあげちゃん二個で我慢します。はむっ」

「なぁーっ⁉︎ 最後の一個が‼︎ ──まぁ、考えておくよ」

「ムグッ。じゃあ、そういうことで」

「あぁ、あと別に毎晩じゃなくていいぞ。そっちの都合が良い時に──」

「時間が空いたら先輩話し方のコツ忘れちゃうでしょ。それにバイトは夕方。夜は暇ですから」

「そうか。って、いつの間にかバイト先に着いたな」

「はい。じゃあここまでありがとうございました。またバイト上がりに電話かけるので、しっかり準備して待っててください」

「おう。必ずこの練習をものにして、ハーレム王に俺はなる!」

「はいはい、頑張ってくださーい」

「……おぉ、緊張してきたな」

「もうですか⁉︎ どんだけ緊張しいなんですか、もう……」



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