第十九話「婚約の儀式」

「はあ……疲れた……」


 結月は重たい着物を着替えもせずに自室にへたり込む。


「結月様、だらしない格好はおやめくださいませ」


 美羽は結月に向かってしかりつける。


「でも……さすがにあの歓迎されていない空気の中で食事してさらに隣に朔様がいらっしゃるなんて、疲労も限界です……」


「何をおっしゃるんですか。結月様は朔様の婚約者なのですよ? もっと胸を張って堂々としていらしてください」


 結月はじーっと美羽のほうを見る。


「な……なんでしょうか?」


「いや、美羽ちゃんも最近私に対して厳しいなって」


「そのようなことはございませんよ」


 結月は不満そうに口をとがらせる。


 結月が来てから一カ月が過ぎようとしていた。

 涼風家に伝わる双剣のおかげで結月は妖魔退治を問題なくこなしていた。

 結月が討伐に参加してからというもの、街は一時的に平和を取り戻していた。

 もちろん、妖魔による危機は民衆には気づかれていないため、綾城という街は安寧秩序を保っていた。


「結月様、本日は凛様が妖魔退治の任務はお休みで良いとおっしゃっておりました」


「そうなの? まあ……確かに少し妖魔の勢いが削がれているって言ってたし、今日だけはお休みをいただきます」


 そういいながら、結月は重い着物を脱ぎ、寝間着に着替える。


「それでは結月様、おやすみなさいませ」


「はい、おやすみなさい」


 ふすまをゆっくりと閉める美羽。

 美羽が去ったところで布団に入る。


 どっとたまった疲れが結月を眠りに誘う。

 目の前がゆらゆらと揺れたのち、瞼が重くなった。



──────────────────────────────


 一刻ほどたった頃、結月はなんともいえない不快感に襲われた。

 禍々しく自分の首を絞めてくるような、息ができない状態に陥る。


「やはり生きていたか、涼風の娘」


 結月の頭の中で声が響く。それは深い深い闇の底から聞こえるような低い男の声だった。


(誰……)


「オマエが持っていたとはな」


 結月は呪縛を解こうとするが、まるで効果がない。そればかりかさらに絡まるように禍々しい瘴気の渦に捕らわれるようだった。


「いずれ……」


「──っ!!」


 結月は布団をはねのけるように目が覚めた。


「はぁ……はぁ……なに……今の…………」


 悪夢だったのか、と思った刹那、首に違和感を覚えた。

 鏡を見ると首に瘴気の跡が見えた──

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