第十八話「私は刀になる」

 宮廷最奥部に位置する部屋「泉水の間」。

 円卓に座する五人の男たちは深夜にも関わらず、会合を開いていた。


「間違いないんだな?」


 朔が問う。


「はい。実桜と私の前で豹変したように妖魔をなぎ倒し、そのまま意識を失いました」


 凛が一際冷静な口調で当時の状況を報告した。


 結月は妖魔を一撃で仕留めた。

 否、実際のところもはや常人には『一撃に見える』その斬撃で敵の息の根を止めていた。

 そしてそのまま力尽きてその場に倒れこんだ。


「ひとまず、かすかな外傷の治療を行い、自室で眠っていただいております」


 その言葉を最後にわずかな静寂に包まれた。

 新たに言葉を発したのは瀬那だった。


「じゃあ、やっぱり【神器】で間違いなさそうってことですか?」


「はい。涼風家の刻印も見られましたし、間違いないと思います」


「12年前のあの時に行方不明とされていた【神器】は結月に継承されてたってことっすか?」


 蓮人は確認をするように凛に質問をした。


「おそらく。千十郎さんの報告では、神社の前で結月さんを見つけたときには『すでに持っていた』ということですから、継承は済んでいたと見るのが自然です」


「朱羅はあの日涼風の娘と神器を消滅させることができなかった。あるいは『あえてそうしなかった』」


 朔が頬杖をつき、長い足を組みながら言葉を発した。

 あえてそうしなかったのであれば、何を目的に朱羅はそうしたのか。

 その場にいるもの誰もが答えを出すことができなかった。


──────────────────────────────


 結月は夢の中にいた。

 遠い遠い自分の幼かった頃の記憶。

 結月の父、千里は自分の娘の背の高さまで屈み、子供には重たい二つの刀を持たせて言った。


「結月。これは父様の大切なもの。そしてみんなを守る大事な大事なものなんだ」


「だいじなもの…?」


「そう。いつか結月のことも守ってくれるし、結月が大切にしたいものを守ることができる。何があっても手放さないこと。いいね?」


「……はいっ! ゆづき、たいせつにします!」


 千里は結月に微笑みかけた──



──────────────────────────────


「……ん…………」


 結月はそこで目が覚めた。寝ている布団の横には二つの刀が置かれている。

 起き上がり、置かれた二つの刀を見つめて思う。


「そっか……。あの時……お父様は私にこの双剣を渡してくださった。どんな時も手放さないようにと……」


 結月は二つの刀を手に取り、棟区むねまちに刻まれた涼風家の刻印をそっとなでる。


(お父様……)


 今は亡き父親の面影を思い出しながら、結月は天井を見上げる。


「私は大切なものを守る【刀】とならなければならない。そのために私は生まれてきた」


 結月は自分の使命を感じながら、わずかに痛む身体で立ち上がった──

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