すべて遅き覚醒

「しっかしこりゃ、半端じゃねーな」

 通信のチャンネルを切り替え、片丘九段は改めて眼前の光景を睨み据えた。

 敵先遣部隊がはるか前方、といっても時間にすればあと2分もすれば会敵となるが、数え切れぬ光の明滅として迫ってくる。

「先遣と分類した小集団、だな。名目上は」

「小集団って、ほんと笑っちゃうわね。小ってなんだったかしら」

 ケインが苦笑しパトラが鼻で笑うように先遣、小集団とは名ばかりの、1万の光芒である。

 これで敵総数の1%。誰ともなく笑い出す。


 ―――こんなもん、やっぱバカじゃねーか。


 目の当たりにすれば、あまりに現実味のない光景に笑うしかない。

 『宙域生命体群』を前にこれほど愉快な気分になったことがあっただろうか。


「臆したか? なれば下がるといい」

「ハッ。アガってきたところだよ! ダウのおっさん!」

 体に表すべく九段は自機に胸の前で拳を打たせた。ケインは静かに細剣を抜く。

「まずは小手先。斬って捨てよう」

「そんじゃいこうか。作戦名―――」


 何十人もが寝込む程に知恵を絞り、壁に頭を打ち付ける程に執心し、殴り合う程に真摯に考え抜き、考え抜き、考え抜いた作戦だ。


「―――『ノープラン』!」


 泣き崩れながら「何も思い浮かばないの」と託された、人類史上最高の作戦の開始である。



―――――――――



 一番槍の誉はやはりニコラ・ギャラガーが戴くこととなった。

 異常同調による加速度耐性を存分に利用した急加速急転回、そして突出した最高速度での擦れ違いざまの一閃、『アロンダイト』の大剣が甲殻じみた『宙域生命体群』の体を次々に両断していく。

 それはまるで宙の絵に筆を走らせるが如くの光跡だった。


 続けて九段の『フツノミタマ』とケインの『デュランダル』の2機が円を描くように、そしてその円はまるでブーメランであるかのように、宙域生命体の群れを割っていく。

 上下から円軌道を阻害しようとするモノあれば、『レーヴァテイン』から放たれた鉄火が砕き落とす。

 パトラの援護をうけた古株コンビを止める術はない。


 『ハルペー』の曲刀が閃き、『フレタム』の光鞭が踊る。


「みなさん、張り切り虫なこって」

 『アメノムラクモ』の刀で宙域生命体の頭蓋を撫で切りながら、大吾は100km四方に及ぶ戦闘領域を分析していた。

(ぼちぼち、先走りは半減ってとこか)

 僅か5分に満たない時間で数千からの敵を屠る。改修された『スティアドール』が生み出す戦闘における速度感覚、時間感覚は常人の理解の範疇から外れてしまっている。


 戦場を飛翔する『アメノムラクモ』に並ばんとする影があった。

「どうしたよ。抱っこちゃんをご所望か?」

「ちがう! ばか!」

 おんぶに抱っこで手を貸して欲しいわけではないらしい。

 パイロットの怒りを発露するように『エクスカリバー』の銃剣が火を吹き、刀身は手近な宙域生命体に叩きつけられる。

 ほぼ初陣にしちゃ上出来だ、と大吾が内心に評価していることなど露知らず、リオンは先ほどから抱く不安を口にした。

「なにか、なにかおかしいの。圧し潰されそうな、嫌な感覚が離れない」

 新兵に起こるような恐慌の兆し、ではないと大吾は考える。

 リオン・ヘイゼルという少女は、あのニコラにも劣らない同調率を示しながらである。事実、過去に幾度か予言めいた言葉を発することがあった。

「それは確かな感覚か?」確認したのはムーチェンだ。

 戦闘時のため各機通信出力を絞っており、リオンの不安は『アメノムラクモ』とたまたま近くにいた『バクヤ』にしか届いていない。

 『バクヤ』が両の手に携える直剣が揺らめき、直後四方に展開していた宙域生命体が細断される。

「たぶん……」

 リオン自身、自分の感覚を疑っている。いや、違うのだと思いたかった。

 胸の内に滲む不安、焦燥、危機感、なにか起こってしまうのだというこの恐れは、ただの気のせいだと思いたかった。

「たぶんだと。曖昧なことを言って味方を惑わすようなら後方に下がっていろ」

 ムーチェンの物言いは尤もなもので、リオンは肩を落とした。

「チッ。本当に下がっているか? リオン・ヘイゼル」

 動きの鈍った『エクスカリバー』を狙った『宙域生命体群』の光弾の雨を『アメノムラクモ』と『バクヤ』が切り払う。

「ムーチェンさんは語気が強いんですって。女の子には優しくしてあげないと」

「戦いの場に男も女もないだろう」

 これに普段ならもう一言、軽口を返してやるところであったが、視界の端に捉えた異変が大吾の口を閉ざさせた。



―――――――――



 戦場から1万km離れた旗艦『アトランティス』でも、その異変は観測されていた。

 敵第一陣を蹂躙するほどの活躍を見せる『スティアドール』たちの雄姿に艦橋の誰もが沸く中の報告であった。

「戦闘宙域中央! 重力異常検知!」

 同僚たちの綻んだ表情を余所目に通信士は自モニターが伝える情報を理解し、悲鳴にも似た声をあげる。

「ワープしてきますっ! 巨大質量! これは……隕石です!」

 思わず立ち上がり、遠く光芒瞬く艦前方に目線を移した。

「つ、月の10分の1の質量の……隕石が……」


 ゆったりと、その姿を現した。



―――――――――



「うーわー。これはマズいね」

「言ってる場合か!」

「急ぎ、対処しなければなりませんね」


 焦っていないようであってもこの上なく焦っているニコラが大剣を振るう傍ら母艦との通信を試みる。

 『アロンダイト』の後方は『ハルペー』の大楯が十全に防護する。

 リリースルムが宙域全体に回線を開き呼びかけた。

「みなさん、状況は見ての通りです。ニコラが『アトランティス』に通信を繋げるのでしばしご奮迅のほどを」


 呼応して六つの光が弾ける。

 巨大な隕石はただそれのみで現れたのではなかった。目算だが先遣部隊に倍する数の『宙域生命体群』を伴っていたのである。

 なにはなくともこれを撃滅せねば隕石をどうのと考える段にも至らない。


「よう大吾! 嬢ちゃんの様子はどうだ」

「九段さん。どうもこうもないっすよ。ありゃやっぱ新世代っす、ね!」

『アメノムラクモ』渾身の振り下ろしが光刃となって爆炎の列を形作る。

「リオンのやつ、きっちり予知してみせましたよ」

「そうか。それで? これで終わりじゃないんだろう? 彼女の未来予知は」

 『フツノミタマ』と『アメノムラクモ』が互いの背後に忍び寄る宙域生命体を両断する。

 九段の目には『エクスカリバー』の挙動はやはりどこか戸惑いを孕むように見えた。

「……なにも変わんないそうです。あれを見ても、なにも。圧し潰される感覚がずっと変わらず残ってんだそうっすよ」

 全容が知れないほどの巨大隕石、あんな非常識な代物をして、リオンの予感は変わらず彼女を苛んでいるらしい。

「そうか……ま、とりあえずは目先の事だな! 死ぬなよ坊主」

 言い置いて離れていく『フツノミタマ』を見送る。


「きた! みんな、きたよー!」

 ニコラが全員をチャンネルに強制接続する。

「目の前のあれは単純な隕石みたいだー」

「宙域生命体の類ではないということかい?」

 ケインの質問に「そゆことー」と答え、ニコラは『アトランティス』から伝達された情報を伝えていく。

「だから壊せる。僕らじゃなくてもね。ただし質量はなんと月の10分の1ー。とんでもないねー」

「つまり砕けってことだよな。巡航艦の火力でもどうにかできるくらいに小さく、俺らで砕いてやればいい、そういうことだろ?」

「YES、九段。そのとおりー。あいつはもう地球の重力に引かれてる。加速度的に速度を増してー、15分後には地球にドカンだ。だから猶予は5分ってさー。5分以内にあいつを芯から砕ければ破片くらいは防いでみせるってアーサーさんが躍起だよー」

「5分か……」

 呟いたのはケインだったが、みな心境は同じだった。

 5分であの大質量を粉砕するとなると、全機の全火力でも足りるかどうか。それに周囲を埋める『宙域生命体群』が見ているだけであるわけもない。

「あーもぅ! やるわよ、やってやろうじゃない。ほら、みんな、やるわよ!?」

 パトラがパンパンと自分の頬を張る。

「そうだな」

「あぁ。パトラ、改めて君を愛してよかった」

「ちょっと!? やめてよケイン! こっちが気合入れてるってのに不穏なこと言うのは!」

「堪らなかったんだよパトラ」

 みな心境は同じだった。―――よそでやれ。



―――――――――



 『アトランティス』および参集したすべての艦の乗員は慌ただしく準備に勤しんでいた。

 当然に臨戦状態でこの場に集ってはいるが、具体的な行動が示されたならば相応に態勢を整え直す必要がある。

 旗艦たる『アトランティス』においてはなおのこと、アーサーは指示に全精力を注いでいた。

「左右だけではない、上下にも展開しろ! どう砕けるにしろ爆発するようなものになるはずだ! 飛散破片の軌道予測より広く展開しろ!」

「全艦全乗員を動員するよう伝達しろ! 今動かずなんとする! 一人残らず、監視でもなんでもいい、全力をもって対応するように!」


 ―――役に立たぬ? 100の艦影を並べて役に立たないだと?

 ―――バカめ。


 自分を唾棄する。


 ―――はじめから役に立たないと諦めていたのは私ではないか。


「『スティアドール』全機、吶喊していきます!」

「よし! 全艦全砲門エネルギー充填開始!」

「全艦に通達! 全砲門エネルギー充填開始! 全砲門エネルギー充填開始!」



―――――――――



 連合艦隊が満身の力を込め迎撃準備にあたる頃、九段たちは全機による隕石肉薄を試み、『宙域生命体群』の厚い壁を抜けられずにいた。

「代田大吾! 私が右翼を落とす! 一旦引け!」

 『バクヤ』の両手首に光輪が浮かぶ。それは握った剣に昇り、ムーチェンの操縦に従って放たれると宙間を、『宙域生命体群』を裂いて飛んでいく。

「すんません! リリーさん準備は!?」

「あと少し!」

『フレタム』の背に翼が生えようとしていた。それは炎の如く揺らめく赤い翼だ。

「ぐっ!」

 ダウードが呻く。『ハルペー』の周囲に伸びる九つのサブアームは全長1000mにも及び、戦場を縫って僚機の背を守っていた。


「合わせてリオン!」

「はいパトラさん!」

 『レーヴァテイン』の長銃と『エクスカリバー』の銃剣が並び、共鳴し、銃口に巨大な光球を生じさせる。

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 光の奔流が『宙域生命体群』の壁を穿ち『フツノミタマ』と『デュランダル』が押し通る道と成す。


 駆け抜けた二機が光刃と弾丸をばら撒く。膨れ上がる風船のように爆炎が広がっていった。

 『スティアドール』登場の最初期からコンビを組み戦い続けてきた二人。

 ぶつかり合ったことなど数え切れない。互いの拳の固さを、その腕と技にどれほどの血と汗が染みているかを、よく知っている。

「ケイン!」

「あぁ! 九段!」

「おうとも!」

 連携というほど効率のいいものではない。ただお互いの邪魔をせず、先に撃てる方が撃ち、先に斬れる方が斬るだけの、これはそう競い合いだ。

 『フツノミタマ』が3体の宙域生命体を纏めて切り伏せれば、『デュランダル』の細剣が続けざま4体を貫く。


「ノッてきてんなぁ二人とも!」

 壁の内に分け入った二機の奮闘により、壁自体が薄く脆くなろうとしている。

その手応えを大吾は感じていた。

 しかし、時間が足りない。ちらりと目を走らせた計器に示されたリミットは残り120秒。

「準備できました! いきます!」

 『フレタム』の炎翼が羽ばたいた。

 触れる全てを焼き尽くしながら、戦場を抱擁するように二度、三度。

「こ、これで、すこしは」

 リリースルムが荒く息を吐きだす。『スティアドール』各機の有する超常機能は程度はそれぞれではあるがいずれも搭乗者に負担を強いるものであった。

「いや、あれは、まさか」

「そんなー」

 ムーチェンの驚愕と同時、ニコラの発声はなんとも気が抜けた具合にも聞こえた。

 見覚えのある空間の歪曲が生じている。隕石が現れた時に比べればひどく小さなものではある。だが、次々に排出される『宙域生命体群』は一体、どれほどの数なのか。


「上等だなっ!」


 青光の剣を握りしめ『フツノミタマ』が駆けた。

「ケイン! ムーチェン! ニコラ! わりぃが死ぬ気であいつら抑えといてくれ! パトラとリオンは俺の援護! おっさんとリリーと大吾は、あれだ、適当に!」


「締まらないね君は」

「九段さん、なにを……」

「おっさんはやめろっ!」

 それぞれに代表するようにケイン、リオン、ダウードが応じる中、片丘九段は一人、隕石に向かって直進していった。



―――――――――



「どうにかならないのか!」

「全艦の砲撃でなら奴らの障壁を突破できるのではないか!?」

「できませんよ! だいたい今撃ったらこのあとどうする気です!?」

 『アトランティス』艦橋内、秩序と平静を是とする軍にあっても、少なからぬ混乱が生じていた。

「『九重システム』は!? なぜ起動しない!」

「わかりません! 『エクスカリバー』『アメノムラクモ』両機とも機能開放はしているのですがっ」

 最大火力、最大戦力と目されている最新鋭の二機にも議論が及ぶ。とはいえ実際に起動したことのない機能であり、パイロット含め半信半疑の代物に過ぎない。

「『フツノミタマ』隕石に接触しますっ!」

 状況は進んでいく。元より5分の勝負である。すでに5分の4を使い切った人類には議論を交わす余裕すら残されていなかった。

「なにをする気だ!?」

「『フツノミタマ』より全っ……」

 もはや変わりゆく状況に疑問を呈するだけの空間で、アーサーは通信士の唇に血が滲むのを見た。

 言葉の続きは5秒あと、違う声が伝えた。


「『フツノミタマ』より全人類へ。『Good Luck。みんな元気でな』……以上です!」



―――――――――



 片丘九段はかつてないほどリラックスしていた。

 温かな、穏やかな気分で、ただ優しく操縦桿を握っているだけ。

(風呂にでも入ってる気分だ)

 『フツノミタマ』この愛すべき相棒が、自分を抱きしめてくれているのだとそう実感していた。

(わるいなぁ。おまえはもっと、暴れたかったよな)

 『スティアドール』には気性がある。ある、気がする。それは九段の自論でしかないが、九段には確かに愛機の息遣いが聞こえる時があったのだ。

 それははじめて窮地に陥った時。それは守れなかった街を前に慟哭したあの日。それは寝ずの番で朝を迎えたあの瞬間。


 『フツノミタマ』の両の手が隕石表面に触れる。

 感傷は捨てよう。

 九段はスロットルを全開にし、愛機のエンジンをフル回転させた。

「いけよっ、相棒!」

 バーニアが焦げ付く、装甲が漏出するエネルギーによって光り輝く。

 『フツノミタマ』が"布都御魂"と化していく。

 同調などではない。同化し、混ざり合い、生命が吸われていく。『スティアドール』の心の臓が脈打つ。

 視認できるほどの波動が『フツノミタマ』を中心に広がり続け、全てを飲み込んでいく。

「九段っ!!」

 もう一人の相棒の声が通信を超えて宙に走る。悲しむわけでも励ますのでもない。ただ、ケインは呼び慣れすぎたその名を叫ばずにはいられなかった。

 波動の膜が隕石をも凌駕した時、ケインたちはしかとその姿を目撃した。


 それは『スティアドール』の本来の姿たる剣であった。


「いけるよなっ! 『フツノミタマ』ァァァァァァァァ!!!」


 極光の霊剣が振り下ろされる。

 星を切り裂く神魂の一振りである。


 隕石を断ち割って突き進み、その中ほどまで達した"布都御魂"は、そして一際大きく輝きを放った。



―――――――――



「巨大隕石、割れます! いえ、これは、砕けていきます! 信じられないっ! 崩れていく!」

 報告の任を代わって受けた通信士であったが、その言葉を聞き届けている者はなかった。

 遠く1万kmを隔ててなお望遠に捉えることの易い隕石である。『アトランティス』艦橋の誰もが息を呑み自壊するように崩壊していく塊を目に焼き付けていた。

「っ! 総員戦闘用意! 全艦にも伝えよ!」

 一足早く我に返ったアーサーが叫ぶ。

「これより隕石片迎撃を行う! 全艦全砲門解放! 仰角自在! 一片たりとて通すな! 目標は―――目につく端からだ!」

「全艦に通達! 総員戦闘用意! 隕石片迎撃を開始せよ! 全砲門解放! 仰角自在! 目につく端から、撃ち落としてください!」


 数百もの銀光が宙を貫いていく。

 止めどなく放たれる無数の光の線が、一つまた一つと隕石の残骸を打ち砕き、細かな破片へと変えていく。



―――――――――



 彼方からの光波が幾筋も駆け抜ける戦場で、残された人型兵器たちは各々に『宙域生命体群』への対処に追われていた。

「ちぃ、またか!」

 隕石は砕けたが、残骸が散らばった宙域での戦闘は容易ではなかった。

 今もまた、ダウードが狙う個体が破片の後ろへと隠れてしまった。こうもデブリが多いと敵を捕捉し続けるのにも苦労する。

「敵第二陣が間もなくだよー! って、クソ!」

 特に高速戦闘を主体とする『アロンダイト』は装甲表面に数え切れない擦り傷をこさえ、ニコラも口汚い言葉を抑えることが出来ない。


 仲間を失ったばかりであるからなおのこと。


 ケインもパトラもリリースルムもムーチェンも、常の繊細さを欠いていた。


 そしてリオンと大吾は、尊敬する先輩の最期に感傷に浸ることさえ許されなかった。


「『エクスカリバー』……どうしたの? どうして動かないの」

「なんだ、こいつ。なにが……『アメノムラクモ』、どうしたんだよ」


 生きた心地ではない。

 デブリと敵だらけの中にあって『エクスカリバー』と『アメノムラクモ』はその機能を停止していた。通信さえも。

 仲間に助けを乞う事も出来ず戦場の只中である。

 まったくもって生きた心地などしなかった。


 大吾が操縦桿を滅多矢鱈に動かすも反応はない。リオンが備え付けのマニュアルを片手にいくつもボタンを押しては首を捻るがやはり反応はない。


「なんっだよ! おい! 動けこの……ナマクラがっ!」

 怒りと焦燥から大吾がボードに拳を叩きつける、とディスプレイに光が灯った。

「! なんだよ、おまえっ! 動けるんなら……『九重システム』?」


「たしか、私の『エクスカリバー』と大吾の『アメノムラクモ』に搭載された新システム……だったよね?」

 時を同じくして同じ文字を読み上げたリオンが、出撃前に伝えられた情報を振り返る。

 原理不明のシステム、といっても『スティアドール』の多くの機能は原理不明だが、『九重システム』は鉱石の波動振幅を重ねることで云々と、とにかく、出力強化のシステムだったはずだ。

 過去1年間のテストでも実践でもついぞ起動しなかったシステム。

「なんで……今……どうしてっ!」

 計器から読み取る数値に目の奥が焼けた。

 こんな値を、力を引き出せるのなら、何か違ったかもしれない。そう思わずにはいられない高い数値がリオンの唇を引き結ばせる。

 同調する鉱石から伝わる力強ささえ、今は後悔を後押しするだけだった。

「……遅いよ」

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