第52話





「さあ、今夜もお届けします!

 水曜日の夜は、もちろんこれ!

 【NEWS・LEGEND】のお時間がやってまいりました~!」


 未だ好感度ランキング1位を独走する女性アナウンサーは、元気いっぱいの声でお馴染みの台詞を口にする。


「皆さん、こんばんは。

 司会の大館(おおたち) 次郎(じろう)です」


「司会補助の江口(えぐち) |梨々花(りりか)で~す」


 ここまでが番組開始のテンプレであり、2人にとって色んな意味で挨拶みたいなものだ。

 LEGEND人気の上昇に番組枠の拡大、それらは自分達の人気や評価を益々上げていた。

 まさに『NEWS・LEGEND様様』である。

 更に2人は、この番組を通して上辺だけしか知らなかったLEGENDに関して深く理解するようになっていた。

 今では解説役のゲストなど呼ばずとも十分詳しい解説や解りやすいコメントが出来るようになっており、それらも2人の評価に繋がっている。


「では、さっそくいきましょう!本日は日本中……いえ世界中が夢中になっている世界選手権の話題から!」


 江口がポーズを取ると空中に映像が映る。

 日本代表達の戦績表だ。


「皆様、もうご存知ではあるでしょうがもう一度戦績を振り返ってみましょう!」


 その言葉をきっかけに表が大きくなり見やすい位置に移動する。

 カメラが切り替わったのを確認すると大館が話始める。


「まずU-15男子。彼らは非常に惜しかった。4勝1敗ながら、その1敗によって予選敗退となりました」


 それを慣れた感じで江口がフォローする。


「予選ブロックの壁と言われ、日本よりも格上だったイギリス代表。彼らに負けてしまいましたからね」


「しかもイギリス代表は5連勝で予選通過を決めています。これでもしイギリス代表が1敗していれば日本にもまだチャンスがあったのですが……」


「そうでしたよねぇ。同じことがU-18男子にも言えますよね?」


「そうです。U-18男子も同じく予選の壁と言われたフランス相手に僅か20P差での負けが響いての予選敗退でした」


「こちらも確かフランス代表が5連勝してしまったために……という非常に惜しい敗退です」


「ええ、男子全日本のように2勝3敗などでしたらある程度諦めることも出来たでしょうが勝ち越しでの敗退は、非常に惜しいと言わざるを得ません」


 スタジオも少し暗い空気になる。

 しかしそれは予定通りだ。

 スグに江口が動く。


「ですが!暗い話題だけではありません!」


「そうですね。男子は惜しくも全チーム予選敗退となってしまいましたが女子は違います」


 画面の表が切り替わる。

 今度は女子の戦績が大きく映し出される。


「皆様、これをご覧ください!またまた彼女達がやってくれました!」


「はい、U-15女子とU-18女子の2チームが一次予選を見事通過。更に本日、見事二次予選も1位通過で決勝トーナメント進出を決めました」


「いや~これは正直凄いですよね~!」


「昨年度U-15がアジア勢初となる優勝をしましたが、今年もまさか決勝トーナメント進出を決めるとは……素晴らしい戦果です」


「……残念ながら女子全日本は、予選敗退をしてしまいました。ですのでU-15とU-18女子には、ぜひ期待したい所です!」


「それではここで、もう少し詳しく解説をしていきましょう」


「はい、わかりました。それでは~こちらをご覧ください!」


 江口が手をグルグル回すと表示されていた画面もグルグル回って別の画面が出てくる。


「まずは、U-15から!彼女達は一次予選・二次予選と特に強豪とぶつかることもなく順調に決勝まで進めましたね」


「そういった運の要素ももちろんありましたが、それだけではありません」


「はい、それではU-15の勝利に特に貢献した選手を紹介しましょう!まずはこの選手!」


 横から動画が入れ替わるように出てきて表示される。


「まずは、縦横無尽に戦場を駆けるU-15のニューヒーロー!岡部奈緒子選手です!」


「彼女は最近追加された新装備による高機動戦闘を得意とする選手です。ガトリング1本で相手チームの前衛を圧倒する姿はU-15の中でも特に輝いて見えます」


「そうなんです!一見地味にも見える装備編成ですが、そんなことを感じさせない戦果を挙げています」


「確か、U-18女子日本代表に選ばれている新城選手と関係があるとか?」


「そうです、一次予選通過時のインタビューで『新城先輩に憧れて同じスタイルになった』と言っていました」


「なるほど、確かに去年まではミサイルなどを装備していましたからね。大幅な装備変更にはそんな事情があった訳ですね」


「その話題で言えば、彼女も同じと言えます」


 映像がまた切り替わる。


「U-15女子日本代表リーダーにして絶対的エース!鳥安明美選手です!」


「彼女は一次・二次予選全てに出場し8試合で51キルという圧倒的戦果を挙げています」


「彼女はブレイカーという職業でしたよね?」


「はい、そうです。狙った獲物は逃がさない……まさに狩人ともいうべき狙撃で相手を次々に倒していきました。去年のU-15女子の絶対的エースだった霧島アリス選手を思い出す方も多かったのではないでしょうか?」


「鳥安選手は霧島アリス選手や白石舞選手の2人と並んで名前が挙がるブレイカーとして有名で『日本の3大ブレイカー』という声もあるほどです」


「そんな彼女の前には、いつもこの選手が鉄壁の守りを見せました!」


 またも画面が切り替わり別の選手が映し出される。


「渋谷鈴選手です!サポーターながら新装備の大型マシンガンで相手を寄せ付けない動きをしながらも周囲への支援をしつづけ全ての試合で中央を守り切りました!」


「本来サポーターというのは、支援に特化していて火力面が少し不足しがちでしたが最近のルール改正などの影響で大きく火力を強化した兵科といえます。彼女はその新しいサポーターの代表と言えるでしょう」


 そこから更に3選手の詳しい話をし始めたが途中でアシスタントのカンペが目に入る。

 そろそろ先に進めという指示だ。


「―――では、そろそろ次のU-18の話にいきましょう!」


 指示を見てキリが良い所でスグに話題を変更する。


「今年のU-18女子日本代表は、まさに歴代最強とも言える布陣です!まずはこちらをご覧ください!」


 そういって登場するのは、U-18女子のメンバー表だ。


「見て下さい!この選手層の厚さを!」


「昨年度に活躍した霧島選手を始めとしたU-15勢に昨年度にU-18を率いた白石選手をはじめとしたU-18勢だけでも相当なものですね」


「はい、しかもそれだけではありません!今年話題になった堀川選手や飯尾選手に大里選手などの強力なリーダー選手も多数参加しています」


「しかも話題性だけでなく実力も凄かったですよね?」


「そうなんです!日本のダブルエース!白石選手と霧島選手による圧倒的な狙撃によって相手チームは一方的に崩され、そこをこのドリームチームが一瞬にして薙ぎ払うというまさに圧倒的な差を見せつけての予選突破です!」


「特に予選の第一試合、スウェーデン戦ではU-18女子世界大会での試合終了最速記録を大幅に更新したとか」


「はい。これには世界中が驚きましたよね!スウェーデン国内でも『あれは仕方が無い』とむしろ選手に同情が集まるほどでした!」


「そんなU-15とU-18の次の相手はどこになりますか?」


 大館のその質問で画面に映っていた表が決勝トーナメントの表へと切り替わる。


「こちらをご覧ください!まずU-15女子の準々決勝の相手はドイツです!」


「ドイツと言えば強豪チームの一角ですね?」


「はい、避けては通れないとはいえこの試合がある意味U-15の試練となるでしょう」


「ではU-18女子の方はどうでしょうか?」


「U-18女子の準々決勝の相手は、中国です。中国は決勝トーナメント初出場ですね」


「ここでまさかのアジア勢同士の戦いになるとは……」


「その中国ですが、今回はいつもと気合が違います」


「どういうことでしょう?」


「今回、中国には新しいエースが居るからです。その名は『黄 若晴(ファン ルォチン)』。突如中国LEGEND界に現れた若き天才です」


「黄選手は、どのような選手なのでしょうか?」


「彼女は、U-18に突如現れた高校1年生選手でLEGEND歴も1年という状態にも関わらずにエースとして登場した真の天才選手です。何より特徴的なのがその戦い方にあります」


 画面が彼女の試合中の映像を映し出す。


「彼女はブレイカーながら狙撃銃を一切使いません。遊撃という本来のブレイカーとしての動きをするかのようにひたすら前に出てくるブレイカーです」


「これは凄いですね……一瞬にして3選手を撃破しました」


「これこそが彼女が天才と言われる理由です。あの霧島選手ですら接近戦は奇襲攻撃しかしませんでしたが、彼女は真正面から接近戦を挑んで相手を倒すのです」


「これは非常に怖いですねぇ~」


「そんな彼女は、この試合後のインタビューで次の日本との対決に対し『ぜひ天才と呼ばれる霧島選手と対戦したい』と言っていました。ですので次の試合はそこも見どころになるのではないでしょうか?」


「それは凄いですね~。益々目が離せません!それではここで一旦コマーシャルを挟んだ後、次のコーナーに行きたいと思います!」


 江口の台詞でコマーシャルに入る専用BGMが鳴り響き、カメラの映像も遠のくような演出になりそしてCMに入る。

 その瞬間、スタッフが忙しく走り回り、大館と江口も手持ちの資料を別のものに入れ替えながら次の準備を進めるのだった。




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