第53話






■side:U-18女子日本代表 飯尾 明日香






 正直、最初はどうしたものかと思った。

 私達U-18女子日本代表は、決戦の地であるスイスに到着した。


 スイスと言えば中立国として有名だが、あくまでも武装による中立国である。

 国民全員が兵士としての基礎訓練をしているらしくどの家にも銃火器が大量にある。

 家もそれとなくトーチカっぽいものもあったり地下室が当たり前だったりと、言われて見ると気づく点が多い。


 ここで3日間ほど調整した後に中国との戦いに向かう。

 その予定だった。

 だが、謎の機材トラブルに集団体調不良と次々問題事が起こる。

 誰かが何かしているのか?という疑いの声もあったが証拠なども無いのに騒ぎ立てる訳にもいかない。


 結局一部メンバーが完全に使えない状況での戦いを強いられることになった。

 しかしこれは私を含めて控え選手達にとってはチャンスだ。

 予選から何度か出場の機会があった選手は良いだろうが、私のように出場機会がほとんど無かった選手にとってはこの機会を逃す訳にはいかない。


 リーダーとしての地位を確立していた堀川は、まさかの大声の出し過ぎにより休養中。

 VRなのでいくら叫んでも声が潰れるなど無いはずなのだが、あまりにも必死に叫ぶために脳と喉が誤認して声が出にくくなっているらしい。

 ある意味VRを初めて経験する人がそういう様々な誤認を起こしやすく、症状もスグに収まるので問題無いそうだ。

 だがそんな『VR初心者病』みたいなものを今更、しかも緊張のし過ぎで発症してしまったことに堀川自身は顔を真っ赤にしていた。


 そんな訳で、今回の中国戦では私がリーダーとなる。

 ここで活躍すれば準決勝か決勝でリーダーが出来るかもしれない。


 他にも控えから4人出ることになった選手達も若干緊張しているように見える。


「いつもの練習通りにやれば問題無く圧勝出来るわ!さあ、いくわよ!」


「了解!」


 全体通信で声をかけたあたりで時間となる。



 ―――試合開始!



 そのアナウンスと共に全員が走り出す。

 この開幕ダッシュをしなければ、下手をすると開始直後に押し込まれた状態からスタートになりかねない。

 なので必ず中央ラインを最低抑える必要があるため全員走っているのだ。


 今回のマップは、工業区。

 左右にある高台はブレイカーなど射程の長い武器を持つ兵科にとっては非常に有利なマップである。

 白石・霧島コンビが健在である以上は普通にKD勝負をしても問題無いだろう。


 そう思いつつ正面の発電所をいきなり抑えて圧力をかけようとする2人を援護する。



 ―――レッドチーム、発電所制圧!

 


 そのアナウンスの音に隠れるように嫌な音が聞こえてきたので、上を見上げる。

 するとやはり上から砲弾が降って来ていた。


「中央!砲弾警戒!相手砲撃ストライカーあり!」


「了解!」


 振ってきた砲撃を何とか回避しながらどうしたものかと考える。

 砲撃手を潰そうにも奥に居る。

 無理をする必要はないし、何より相手の砲撃は広範囲に弾をばら撒くため威力が低いというタイプだ。

 2~3発直撃を受けても耐久値半分減れば良い方だ。

 奇跡的な頭部ヒットなどを警戒さえすればそこまで脅威じゃない。


 放置すべきか、それともこちらも砲撃手を出して応戦すべきか……。

 私は悩みながらも前衛の援護を続けた。






■side:U-18女子日本代表 大場 未来






*画像【工場区:中国戦】

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 中国の陣営を見た時、思わず気味が悪いと思った。

 何故ならラインに出てきている全員がストライカーかサポーターであり、その全てが盾を装備していた。

 まだそれだけならギリギリ理解も出来たかもしれないが、その全員が盾で綺麗に頭部を隠しているのだ。

 そして盾で頭部を庇いながら僅かな隙間からこちらを見て攻撃してくる。 


 明らかにヘッドショット対策なのは解る。

 だが、かつてここまで徹底してヘッドショット対策をしてきた所があっただろうか。

 普通やっても半分の5人ぐらいだろう。

 それをまさか全員がやってくるとは。

 しかもその状態は非常に戦いにくいはずなのに、その状態でも普通に攻撃してきている。

 そのあまりの変な統一感に薄気味悪さを感じて仕方が無かった。


 さっさと倒しに行きたいが作戦としては撃ち合いで差をつけるKD指示が出ている。

 どうしたものかと考え事をしている時だった。

 相手側からスモークグレネードが丁度中間位置に投げ込まれたかと思えば誰かが突っ込んでくる。


「いきなり無謀だなぁ」


 何て感想を抱いていたこの時の自分を殴ってやりたい気分だ。

 突如現れたのは、長い髪をポニーテイルにしている相手選手。

 しかも狙いはリーダーの飯尾だ。

 高台に居る白石が無謀にも突っ込んできた相手を射撃する。


 金属音がしたかと思えば相手はそのまま飯尾に迫る。


「……マジかッ!ってか、させるかよっ!!」


 相手は接近用のナイフで何とヘッドショットを狙った白石の銃弾を弾いたのだ。

 人間技ではない。

 咄嗟にポンプ式ショットガンを撃って飯尾を庇うように前に出る。

 すると相手は、もう片手に持っていた大型ブレードを振り下ろしてきた。

 それを何とか回避するも続けてナイフが見えたのでショットガンを盾にする。

 手に衝撃と共にショットガンにナイフが刺さり、使用不能判定が出る。


 すぐさまショットガンを相手に向けて投げ捨て、腰にあったマスターキーを手にする。

 それを前に出した瞬間、ブレードが下から上へと振り上げられマスターキーが真っ二つになった。

 私は焦りながらも使用不能になったマスターキーも投げ捨て、最後の1本を手にする。

 目の前には既にナイフが迫ってきていたが、それどころじゃない。

 あえてナイフを腕に受ける。

 耐久値が3割ほど減ったが、それでいい。

 その隙に最後に残ったドラム式のオートショットガンを相手に向けて乱射する。


「うおぉぉぉぉぉぉーーー!!」


 正直、叫んだのは恐怖心を振り切るためでもあった。

 これで決まったと思った乱射も、相手は冷静にナイフとブレードでショットガンの弾を弾きながら横に飛ぶと隣から援護しようとしていた味方サポーターをブレードの一閃で仕留める。

 その直後、高台から白石の第二射が飛んでくるも、またもナイフで弾くと私のショットガンも受け流しながら走って逃げていった。

 次第にスモークが消え、元に戻るもこちらの被害が大きすぎる。


「あれ、絶対人間じゃないでしょ!?何あれ!?」


 思わずそう叫んだ。

 銃弾を弾くなど映画の中だけの話だ。

 現実で……いやVRでも無理だよ。


「と、とりあえずカバーに入ります!白石さんはそのまま北側援護を!大場さんは装備の補充を!」


 同じくあり得ない現場を見せられた飯尾だったが、リーダーとしての仕事を思い出したのかスグに指示を出す。

 消耗した武装を再度補充するため一度下がりながら、ミーティングでの話を思い出した。

 『黄若晴には気をつけろ。決して接近を許すな』という話だ。






■side:U-18女子中国代表リーダー ワン 蘭玲ランリン






 3度目の砲撃を行った後、全体通信を入れる。


「相手は狙撃しか能が無い連中よ!私達の相手じゃないわ!」


 味方を激励していると個別通信が入って来る。

 相手は、我らがエースである黄若晴だ。


「どうしたの?」


「切り込んでみたけど、相手もなかなかやるわね」


「あら、アナタがそんなこと言うなんて珍しいじゃない」


「アリスよりも先にマイって方を仕留めようと思ったのだけど、その手前に居たやたらショットガン持ってる子に邪魔されたわ」


「アナタでも失敗することはあるのね」


「そりゃそうよ、私だって人間だもの」


「それは冗談として笑った方が良かったかしら?」


「……まあ良いわ。とりあえず大したことがないのも居るから、そいつらを狩りつつアリスに飛び込む」


「やけにこだわるわね?」


「日本のアリスとロシアのアナスタシアを両方倒して私こそが世界一のブレイカーだと証明してみせるわ」


「ならある程度削れて優勢になったらアナタの自由にしてくれて構わないわ」


「わかった」


 通信を終えると思わずため息を吐く。

 突如中国LEGEND界に現れた絶対的エース。

 ナイフ2本だけで突撃して相手を蹂躙するその姿は衝撃的だった。

 大型ブレードが追加されてから、更にそのヤバさが格段に上昇している。

 もはや彼女を止められる相手など居ないだろう。

 何故なら彼女に銃弾など無意味なのだから。


「どんな天才も、真の天才には敵わないものよね」


 対戦相手の日本は、今回何故かベストメンバーと呼べる編成ではないらしい。

 つまりそれが我々中国を舐めているということ。

 まあそれはそれで構わない。

 その傲慢さが、勝利を逃したのだと気づいた時には既に遅いのだから。


 日本の狙撃の天才と呼ばれる2人のことは徹底して研究した。

 今回の狙撃対策もやり過ぎを超えた更なるやり過ぎぐらいまで徹底している。

 狙撃さえ注意すれば相手のエースの力など半減するだろう。

 そうなれば我々のエースの独壇場だ。

 特にこういう密集している戦いほど彼女は真価を発揮する。


「日本の次ということだけは気に入らないけど、次にアジアに世界一を齎すのは我々だ!」






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