第50話





■side:U-18女子日本代表 霧島 アリス






 世界LEGEND選手権大会。

 今年もこの季節がやってきた。


 この時期になるとテレビは世界大会の話題一色になる。

 しかも去年の出来事を誰もが覚えている。

 だからこそ『今年も』と思うのは当然の流れだろう。


 大規模なLEGEND施設で世界大会に出場する選手達が全員集合していた。


 U-15・U-18・制限無し


 この男子3女子3の計6チームが勢揃いして日本LEGEND協会だけでなく総理大臣やスポーツ振興大臣などから、ありがた~いお言葉とやらを頂く。

 正直意味が無い行為だと、とある大臣に言ったことがあるのだが『お前の気持ちも解らなくはないが、それこそが大人の事情というやつだ』と言われてしまった。

 大々的に『出陣式』としてテレビで中継され、国を挙げて見送りが行われるという形になっている。

 しかし残念なことに世界大会はブロック予選で国内から出ることはない。

 予選を勝ち抜いて決勝トーナメントに参加するとなった段階で会場となる現地へと移動するのだ。

 なので出陣式をしたところで予選の間は国内で、予選負けすると国内から結局出ないということになる。

 で、予選の段階で果たして出陣式なるものが必要なのか?ということだ。

 まあやりたいなら好きにすればいいのだけども、どうも私はその辺りが引っかかるというか気になる。


 そういう事情もあり、去年予選敗退した男連中や女子のU-18やプロチームは海外には行かなかった。

 だからこそ優勝して帰ってきた時は、私達U-15女子しか居なかったという訳だ。

 そりゃ取材も物凄いことになるだろう。

 願わくば、今年は全てのチームが決勝に進めればと思う。

 そうなれば少なくともマスコミが集中することだけは避けれるはずだ。


 さて、盛大な出陣式もそろそろ終わりだ。

 これが終わればスグに世界大会の抽選が始まる。


 そのまま抽選へとイベントも移動する。

 代表監督達がVR装置でVR世界に入る。

 国際LEGEND協会が作成した豪華な会場には、VRで世界中の参加国の監督達が集まっていた。

 私達は、それをモニターで見守る。

 抽選箱に各国の監督が自分の国のカードを入れる。

 それを最後に国際LEGEND協会の会長が引いて予選ブロックが決まる。


 参加国は、192か国。

 予選は1ブロック6か国で争う。

 この一次ブロック1位のみが二次ブロックに進むことが出来る。

 二次ブロックは勝ち抜いてきた32か国を1ブロック4か国で分ける。

 ここでもまた1位のみが決勝トーナメントに進出となる。

 決勝トーナメントの時点で残りは8か国。

 この時点でベスト8となる。

 そこから準々決勝、準決勝、決勝の3試合を勝ち抜けば優勝だ。

 どの国と当たるのかという運の要素も大きいだろう。


 緊張してますという顔の我らが監督も見守る中で行われた抽選会。

 U-18日本代表とU-15日本代表は、特に強豪とはぶつからないブロックという運の良さに恵まれた。

 だが女子プロチームは運が無い。

 彼女らのブロックには優勝候補として毎回名前が挙がるアメリカとロシアに最近好調のイギリスなどが集まる『死のブロック』に入ってしまった。

 会場全体から聞こえた『あぁ~』という悲鳴にも似たため息が、何とも言えない空気を作り出していた。


 ちなみに男性陣は、全てのチームがブロックに1か国は強豪が混ざっている場所になっているので最初の試練だなんだと早々に騒がれていた。

 ぜひとも勝ち抜けて欲しいものだ。


 まあそんな様々なイベントが行われ、ようやくその時が来た。






■side:U-18女子世界大会 監督 川上 律子






 ついにこの日がやってきた。

 U-18女子世界選手権大会の予選第一試合。


 相手は、スウェーデン。

 ここはLEGENDのプロスポーツとしてはそれなりの規模ではあるが、U-15やU-18になるとそこまで強くはない。

 どうもここ最近LEGENDで特に優秀な実力者が登場していないようだ。

 なのでまず負けるようなことはないが、最初の1勝をどう取るかが大事である。

 ここで圧勝して、勢いをつけたいので選手も手加減無しで決めた。



■出場

・堀川 茜【L】:ストライカー

・一条 恋   :ストライカー

・新城 梓   :ストライカー

・大場 未来  :アタッカー

・大谷 晴香  :アタッカー

・大野 晶   :アタッカー

・南 京子   :サポーター

・宮島 文   :サポーター

・白石 舞   :ブレイカー

・霧島 アリス :ブレイカー


■控え

・大里 朱美  :ストライカー

・谷町 香織  :ストライカー

・笠井 千恵美 :ストライカー

・飯尾 明日香 :ストライカー

・鈴木 桃香  :ストライカー

・三島 冴   :ブレイカー

・――――――



 既にミーティングも終わっているため、あとは試合開始を待つだけだ。

 選手達もVR装置で既に会場でスタンバイしている。


 私の後ろには、公平性のために派遣されてきた審判が3人居る。

 まあいつも通りやるだけなので気にする必要などない。


 開始時間が迫る中、テレビはどのチャンネルをかけても世界大会の中継。

 実況アナウンサーや解説役が違うだけという状態だ。

 街中の街頭テレビも中継が流れており、まだ昼だというのに既に居酒屋で騒ぐ人も居るようだ。

 そんな日本中が注目する試合が、今始まる。

 ベンチが世界から隔離される。


 ―――試合開始!


 アナウンスと共に鳴り響く音。

 同時に飛び出す少女達。


 歓声の中、早々に銃声が響いたかと思えばスグにログが動く。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × スウェーデン:ボティルダ・ルンドマルク

 〇 ジャパン  :マイ・シライシ



 開幕20秒ほどでいきなりのヘッドショットに会場が沸く。

 それでも冷静に防御陣形を組もうとするスウェーデンだったが―――



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × スウェーデン:カミラ・バリエリーン【L】

 〇 ジャパン  :アリス・キリシマ



 突然の通信障害と、その原因を知らせるログ。

 せっかく防御陣形を組んだはずが、開幕のあり得ない状況につい後ろに下がってしまう。

 これは悪手だ。

 自分達から隙を作ったようなものである。



 ◆キル

 × スウェーデン:エリーカ・ノルドクヴィスト

 〇 ジャパン  :ハルカ・オオタニ



 その隙を見逃さず、大谷のグレネードが決まる。

 中央で立て続けにリーダーを含めて3人やられたスウェーデンは左右の防御を緩めて中央を固めようと選手が自己判断で動いてしまった。

 だがそれは一番やってはいけないことなのだ。

 自分達でどんどん付け入る隙を大きくしてしまった彼女らは、自分達で孤立して各個撃破を誘発してしまう。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × スウェーデン:サンドラ・ホーゲ

 〇 ジャパン  :マイ・シライシ 



 中央のカバーに入ろうとした選手は、障害物の無い場所に飛び出した瞬間ヘッドショットを決められて撃破される。

 こうなるともはや一方的だ。



 ―――チーム・ジャパン、発電所制圧!



 堀川の指示で強気に前進してきた日本に中央で生き残っていた1人が無謀にも攻撃を仕掛ける。

 しかし真正面からガトリングの雨を受け、その圧倒的火力の前に何も出来ずに撃破された。



 ◆キル

 × スウェーデン:アニトラ・ストランドリンド

 〇 ジャパン  :レン・イチジョウ



 そして中央突破する日本を止めたくとも止めようがない。

 唯一、北側ルートから妨害しようとした選手も居たが、その行動も虚しい結果となった。

 何故なら狙っていた相手ストライカーが最新装備であるクイックブースターで一瞬にして正面から側面に回り込んできて攻撃をしてくるのだ。

 正面に捉えようとするがあまりの高機動力の前に旋回が間に合わず、銃口を相手に向けることすら出来ずに撃破された。



 ◆キル

 × スウェーデン:アン・スヴァンホルム

 〇 ジャパン  :アズサ・シンジョウ



 そしてそのまま司令塔が攻撃され、試合終了となる。


 ゲーム開始から僅か1分19秒。

 日本がその圧倒的な実力差を見せつけての、まさに完勝だった。


 日本中で歓声が沸き起こる。


「今年もいける!」

「間違いなくU-18女子は大丈夫だ!」

「流石は歴代最高チーム!」


 その数時間後に行われたU-15女子も相手を冷静に追い詰め、試合時間28分で相手チームの点数をとばして終了。

 またも日本はまるで優勝したかのような騒ぎとなった。


 しかしその日本の活躍に困った所もある。

 テレビ局だ。

 せっかくたっぷり放送時間を確保したのに一瞬で終わらされてはその後の放送をどれだけ頑張っても盛り上がらない。

 同じリプレイを馬鹿みたいに流しながら必死に選手紹介など試合とは関係なさそうな話題まで積極的に振りながら放送時間を埋めるしかないのだ。

 特にU-18女子の試合を担当したアナウンサーと解説で呼ばれたゲストは、必死で残り50分以上の生放送を何とかしなければならない。

 そのあまりの可哀想さに、視聴者から2人に対しての応援メッセージが多数届くという珍事件を生み出した。


 こうして世界中のLEGEND関係者を驚かせた試合と共に、日本の世界への挑戦が始まった。




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