第49話
■side:U-18女子日本代表 霧島 アリス
「さて、始めますか」
自室の専用VR装置を起動して先日購入した装備のテストを開始する。
みんなと一斉にやっても構わないのだが、こういうことは出来れば一人で黙々とやりたい。
まずはアタッカー装備。
追加された重装甲にロケット関連を中心に装備してみる。
「……これは無いわ~」
正直重すぎる。
これならストライカーをやった方がマシだ。
一応火力を出せるが重装甲は装備すべきではない。
スグに中装甲に戻して再度装備の検証をする。
シングルミサイルは片側にだけミサイルを付ける関係でバランスが悪い。
腕部装備武器は、アサルトライフルと併用出来ず牽制武器と化している。
やはりアタッカーは、適度な機動力を不意を突ける高火力グレネードが一番だろう。
大型アサルトライフルなど、ストライカーで大型マシンガンを持つ行為に近い感じだ。
もうここまでいけばストライカーでガトリングを持った方が火力面でも防御面でも高いと言える。
速度に関しても大型武器を持つ関係でどちらにしろ鈍足化するのだから。
あとは適当な的を用意して各種武器の火力数値を見る。
火力だけは高いが、やはりそれだけである。
データを取り終えると次はサポーター装備に切り替える。
とりあえず大型マシンガンと肩ミサイルを装備してみた。
「……アタッカーと変わらないわね」
結局、重すぎるのだ。
そこまでして火力を求めるのならストライカーで良くない?というやつである。
腕部ガトリングも欠点がある。
腕がガトリングと一体化することにより支援装備の設置などが出来ない。
片手だけ一体型にしても片手で支援装備の設置をする必要がありスムーズにいかない。
……完全に欠陥品である。
「そしてこれもまた重いわね」
盾がサポーターに移動するとなった際に追加で登場した新しい盾の1つだ。
ストライカーの大盾に近い巨大な盾をしている。
ただ中装甲でこれを持つメリットは少ないだろう。
従来のバックラーのような盾などで十分だ。
もしくはそこそこのサイズの中型盾で良い。
結論としてはワンポイントで武装を追加するぐらいなら有効だろうが、大きく持たせるのは間違いだという感じだろうか。
そして次がストライカー。
早速、クイックブースターだけを装備してみる。
「おお~!」
装甲だけで何も持たないせいもあるが、ブースターを噴射すると一気に前に押し出される。
高台から使えば僅かだが空中を飛ぶような感じになって面白い。
全力で使う場合や小刻みに使う場合など、様々な実験を繰り返し稼働時間や機動力を検証する。
そしてそのあと、武装を装備して再度同じ検証を行う。
「これは使い方次第で、化けるかもしれない」
非常に可能性を感じさせる装備だ。
これは今後も要検証装備だなと思いつつ、一旦別の装備も試すために装備変更を行う。
肝心のロケットランチャーは、癖も無く真っ直ぐ飛ぶタイプであり威力も安定している。
特にメイン武器として持つタイプは、火力・爆発範囲共に優秀で真っ直ぐ飛ぶ関係で簡易的な狙撃にも使えるだろう。
まあ狭いマップでしかもゲームルール上の縛りがあるので全てリアルの通りとも行かないのが残念ではあるが。
サブに使う用の小型なものも威力は低めだが、爆発もあってそれなりに良い武器だと言える。
大きな武器ほどたまに大きな一撃で使用不能判定を受けることがある。
そうなると装備を取りに戻らなければならない。
そのタイミングで攻撃されるのが一番困るが、こういう牽制武器が充実すると益々ストライカーはアタッカー並みに戦線維持が可能な兵科となるだろう。
あとはその鈍足さが何とかなればアタッカーは完全に食われてしまう可能性があるぐらいだ。
そして最後は、問題武器多数のブレイカー。
大型ブレードを持ってみるが、結構良い重量だ。
相手の武器ごと叩き切れる性能をしており、紹介動画でも相手の盾ごと切っていた。
もちろん腕ごと切ったからといって腕が飛んでいく訳でも首を刎ねたら首が飛ぶようなグロテスクなことにはならない。
実体の無い映像が通過するように……そうまるでお化けに攻撃をするように通り抜けるだけ。
それでちゃんとダメージ判定となり相手を戦闘不能にする。
威力だけは申し分ない。
腕や足を切られただけでもほぼ即死判定が出るためだ。
大型なのでリーチもそれなりにあり、突きも有効なのでこれで突進されると厄介かもしれない。
2丁銃に関しては、完全に突撃用だ。
防御だけの話で言えば強力なのを1丁持てばいい。
2つ持つ意味が無い。
狙撃を捨てた遊撃がこれで突撃するという感じだろうか。
そして接近武器が大型ブレードって感じかな?
……いや~、どっちにしろ頭のネジが飛んでる人間しか無理だろう、そんなの。
まあブレードに関しては使ってみたくはあるものの、別に前世が剣豪だったわけじゃない。
ある程度は使えるだろうが、所詮その程度である。
「それより、問題はコイツだよね」
手にあるのは『黒いフリスビー』『焦げたピザ』このどちらで呼ぼうか悩んでいる地雷である。
どう頑張っても最終的に『中央の赤くピコピコ発光している光が邪魔だ』という結論に達する。
何故地雷の癖に自己主張がそこまで激しいのか?
いくら対車両用の地雷とはいえ、流石にちょっと遊び過ぎなのではないだろうか?
そもそも対人地雷サイズではダメだったのか?
センサー式の指向性クレイモアっぽいものなら役立ったかもしれないが。
そもそも鉄の塊だから重い。
大きさもそれなりで携帯するのも邪魔だ。
さっさとその辺に投げ捨てたくなる。
一応、これを完全に踏まずともかなり近くまで行けばセンサーが反応して爆発するみたいだ。
しかしほぼ踏むに等しい近さであるため一切期待出来ない。
「……さて、どうしたものか」
その場で立てたままコマのようにスピンさせてみたり、フリスビーのように的に思いっきり投げつけてみたり、立てたまま転がしてどこまで進むかチャレンジしたりしてみたが使用案が浮かばない。
そうして遊んでいると電話のコールが鳴る。
練習モード時は、外との通信を繋いだままにしているのが常識だ。
そうでないと誰もVR内に居る相手と連絡が取れなくなってしまうからだ。
VR内で通話に切り替える。
相手は、晴香だ。
すると相手もVR内からかけてきたようでビデオ通話の相手側の後ろも練習モードの背景だ。
「やっほ~。どうせならみんなで練習しながら全員の装備を相談しようって話になってるんだけど、来ない?」
「チーム全体の装備の話でしょう?じゃあ行かなきゃダメじゃないの」
「いやいや、アリスがこっちに合わせるよりこっちがアリスに合わせる方が多そうだからさ?」
「……まあとりあえずそっちに行くわ。そのまま繋ぐ」
そう言って通信を切るとVR装置の設定を操作する。
そして学校のネットワーク経由で部室のVR装置から練習モードに繋いでいるメンバーの部屋へと入る。
そこではみんながそれぞれ武装などを試しつつ様々な意見を言い合っていた。
中には黙々と1人で装備を検討しているのも居る。
そんな中で真っ先に声をかけてきたのは、千佳だった。
「アリスっち~、新しい武器とか私使った方がいいかな?どう?」
「……はい」
出会い頭の事故の如く、突然現れ騒ぐ千佳に『黒いフリスビー』を渡す。
「ん?何これ?」
「新武器よ、使いたいのでしょう?」
未だ手に持つものが何か解らないという顔をしている彼女にアレの未来を託そう。
そしてそのまま千佳をスルーして連絡を入れてきた晴香の所に移動する。
彼女は、新城先輩と1対1で撃ち合いをしながら装備を試していた。
晴香は、腕部ロケや肩ミサイルなどを装備して火力面を強化したスタイルだ。
対して新城先輩は、面白いスタイルになっていた。
「はっは~!当たらないね!」
大型ガトリングに肩盾。
そして追加装甲。
これが彼女のガトリング専門スタイルである。
そこにクイックブースターが入るとどうなるのか?
彼女は飛んでくるミサイルやロケットを当たる直前でブースターを使用して回避する。
そして高速で距離を詰めながらガトリングを撃つ。
そこに着発グレネードが綺麗に投げ込まれるも、またもやブースターを使用して高速で後退して回避していた。
「……何か違うものに進化してるわね」
「ああいうの見てると憧れちゃうよねぇ」
同じく見学していた宮本恵理が愉しそうに話す。
そのまま眺めていたが、その内何故かどれだけグレネードやミサイルを回避し続けられるか?という謎の戦いが始まる。
そんな不毛なことをしている2人を放置して反対側を見ると、京子ちゃんが色々装備を並べて唸っていた。
彼女は前々から火力不足に悩んでいたようだから、まず火力武器を手にするかと思えば意外と慎重に選んでいるようだ。
確かに下手に好戦的になるのならサポーターにこだわる必要もない。
そうして適当にぶらぶらしていると藤沢先輩が何やら液晶端末を操作してデータを取っていた。
近づくとこちらに気づいたようで声をかけてきた。
「あら、アリスさん。どうされましたの?」
「いえ、何をしてるのかなと」
「ああ、皆さんの全国大会のデータなどから今後のチーム戦術を検討してましたの。私は自社のミサイル装備以外使う気がありませんから」
ハッキリとそう言い切る藤沢先輩を面白いなと思いつつ隣でデータを見る。
意外とと言えば失礼かもしれないが、かなり良くまとまっているデータだ。
「これを一人で?」
「監督がメインですわ。流石に私だけでここまでのデータ集めなど無理ですから」
「なるほど」
何もおかしな話でもないので普通に返事をしておく。
確かに監督という仕事で一番に出てくるのが選手や対戦相手のデータ収集や管理だろう。
それから先輩と適当に戦術の話をしながら『来年こそもっと部員が来ますように』という願い事のような話を練習終了までしていた。
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