第46話
■side:U-18女子世界大会 監督 川上 律子
色々あった。
本当に色々あった。
この苦労を的確な言葉にして誰かに伝えることが出来ない自分がもどかしい。
U-18女子日本代表の選考会もついに最終日を迎える。
連日夜遅くまでスタッフ陣は会議を続けていて、色々と限界が近い。
それでも今日を乗り切れば……を合言葉に頑張っている。
しかし選考会は、本当に予想外だらけだ。
1日目は、U-15側の予想外の強さに驚いた。
こちらが負けると思っていなかっただけに衝撃的だった。
2日目は、逆にこちらがU-15側を終始押し込む形である意味予定通りと言えば予定通りなのだが個人技が中心という点が微妙だと言える。
堀川をリーダーにした時は彼女が声を上げ続け連携を取らせていたが、彼女以外をリーダーにするとダメだった。
3日目は、霧島アリスという規格外の選手に圧倒された。
まさか1人で試合を決めてしまうほどの戦果を挙げるとは。
そして4日目。
U-15側の監督からの申し出でU-18候補のみの紅白戦となった。
理由は単純だ。
「流石にさ~、戦力的に無理そ~だからね~」
向こうの言い分は、もっともだ。
完成形ですらない2日目と3日目で押し込めている時点で最終調整として試合をするメンバーでは相手にならないだろう。
結局、お互い紅白戦で最終調整をするという形になった。
スタッフ陣で会議をして紅白戦のメンバーを決める。
■赤
*リーダー:大里 朱美
・飯尾 明日香
・笠井 千恵美
・大谷 晴香
・南 京子
・大野 晶
・一条 恋
・白石 舞
・―――
■青
*リーダー:堀川 茜
・谷町 香織
・大場 未来
・新城 梓
・宮島 文
・三島 冴
・鈴木 桃香
・霧島 アリス
・―――
霧島アリスに関しては、本人に確認すると『好きにさせて貰えるなら』という条件での参加となった。
この好きにというのも『兵科や武装などの指定は受けない』とのことで指揮に従わないということではない。
紅白戦だと説明した瞬間、空気がピリピリとし始めた。
今まではU-15という共通の敵を倒しつつのアピール合戦だ。
しかし今日は、ライバルを直接倒してのアピール合戦になる。
1回戦目のメンバーを発表し、それぞれリーダーを中心にミーティングを10分間取る。
それが終われば試合開始だ。
■side:ブルーチーム 新城 梓
試合開始のアナウンスと同時に一斉に飛び出す。
今回は紅白戦ということで、敵も味方も豪勢だ。
去年はダメだったが、今年はぜひ世界大会に出場したい。
本日のマップは、非常に懐かしい。
このマップから琵琶湖女子が始まったとも言えるマップだ。
*画像【初期マップ:N】
<i534860|35348>
中央に走り込むと、さっそくご指名の声が聞こえてきた。
「今日こそアンタを倒すッ!もちろん逃げないでしょうねッ!!」
確か『日本のガトリングガール』と呼ばれる一条恋だ。
彼女のような有名選手に狙われるなんて、喜んでいいのか悲しめばいいのか……。
「アンタだけ面白そうなことしてんじゃないわよ!」
相手側にもう1人のストライカーが滑り込んでくる。
「残念だけど早い者勝ちよ、千恵美!」
「ガト専には私も最近ストレス溜まってるのよ!」
2人が競うようにガトリングを撃ってくる。
「はっ!どうせなら2人同時にかかってきなっ!!」
……とは言ったモノの、流石にこれは少し厳しい。
すると横からショットガンが連射される。
距離があるためそこまでのダメージにはならないものの、ダメージを受けることを嫌ってか相手2人ともが少し下がった。
「ハロ~、梓。面白そうなことしてるじゃん。私も混ぜて貰うよ」
発電所前の最前線に躊躇いもなく突っ込んできたのは、未来だ。
こういう時、知っている人間がカバーに入ってくれると安心感が違うね。
「じゃあ、2対2ってことで仕切り直しと行きますかね。『ガトリングガール』さん?」
「上等ッ!!」
「チッ!邪魔した以上、チビでも容赦しないよ!」
「チビって言うなッ!!」
■side:ブルーチーム 谷町 香織
試合開始と同時に担当することになった南側に移動する。
このマップ、南側が相手側の侵攻ルートになりやすい。
そのため防御を徹底する必要がある。
相手側に顔を出した瞬間、チラっと見慣れた姿を見つけスグに下がる。
すると発砲音と共にスグ近くの壁に弾が撃ち込まれた。
「あ~、先輩こっちか~」
私の中で敵に回したくない人ナンバー2である白石先輩が居た。
「南側、敵3で高台不明。相手に白石舞を確認」
「了解」
先輩の位置を報告してから気合を入れ直す。
あの人の実力は嫌というほど知っている。
少しでも気を抜けばやられるだろう。
「……白石舞は、こっちで抑えた方がいい?」
「……いや冴は高台を抑えて欲しい。多分火力型のストライカーが出てくるだろうから」
同じく南側担当になった冴がブレイカー同士で牽制し合うという基本的な対策を言い出したが止めた。
彼女には悪いが、彼女で先輩が止めれるとは思わない。
「やたら好戦的なのが居ると思ったら、正面に晶が居る」
「めんどくさいわね」
冴からの通信に思わず顔を顰める。
晶の切り込みの鋭さは同じ仲間なので知っている。
それが十分な後方支援を受けて突っ込んでくるのは厄介だ。
「なら完全にガード固めるしかないっすね。こっちからミリでも前に出たら負けるっすよね?」
「えっと……宮島さんでしたっけ?そうですね。白石先輩と突っ込むのが得意な晶のコンビは怖いです」
「じゃあ徹底して相手に付き合わずに戦うっす。幸い正面には障害物が無いっすから撃ち合いで負けなきゃ問題ないっすよ」
「そうですね。じゃあ南は徹底して防戦。前には出ないってことで」
■side:レッドチーム 大谷 晴香
試合開始直後に少しでも優位を取ろうと前に出ると相手側にも同じ考えのアタッカーが居たようで早々に撃ち合いとなる。
北側は、相手側の侵攻ルートだ。
恐らくそれなりに火力のある選手が来るだろうと思っていた。
「チッ!上手い!」
相手アタッカーとの撃ち合いは、一方的にこちらが負けていた。
いくら撃っても攻撃が当たらない。
普通なら最低でも数発ぐらいは必ず当たるのに相手はそれすらも許さない徹底した動きをしている。
しかもそれでいてこちらにはしっかり弾を当ててくる。
「こんな奴居たっけッ!?」
あまりの技術差に思わず声に出してしまう。
このままではマズイと踏んで一旦隠れるフェイントを入れ相手側に着発式グレネードを投げ込む。
その隙にリロードを挟みつつ爆発音が聞こえるものの『当たった感触』がしないためアサルトライフルを構えて飛び出そうとした瞬間。
まるで風に運ばれてきた落ち葉のような自然さで、足元に時限式グレネードが落ちていることに気づいた。
「―――ッ!?」
声にならない声をあげつつ盾にしていた正面の壁を思いっきり蹴って、その反動で後ろに吹き飛ぶように逃げる。
その直後、グレネードが爆発する。
一気に耐久値を半分もっていかれた。
撃ち合いと合わせると8割ほど減っていて危険な状態だ。
「―――京子ッ!」
「任せてッ!」
U-15時代からの相棒は、名前を呼ぶだけで状況を理解してカバーに入ってくれる。
相手が出てこれないように念入りに銃弾を撃ってくれている間に軍事施設側に全力で移動する。
その時、相手側のアタッカーがハンドサインを見せた。
素早く『敵』『自分が仕掛ける』『倒す』の3つだ。
これを組み合わせて考えれば『お前を私が倒す』ということだろう。
その『琵琶湖女子が使う』ハンドサインを見て相手が誰かを察する。
京子の援護もあり軍事施設側に滑り込むと設置されている支援ポットで耐久値を回復する。
「北側のアタッカー、あれアリスだ!」
全体通信でアリスの情報を入れると様々な反応が返ってくる。
そりゃそうだろう。
まさかアタッカーで最前線に居るなんて誰も思わない。
京子が牽制を終えてリロードをし始めた瞬間。
「グレネード来るわよ!」
同じく北側を担当することになった飯尾さんが叫ぶ。
その声で私と京子は後ろに反射的に下がる。
するとその直後に着発グレネードが障害物の壁ギリギリ横という嫌らしい位置で爆発した。
アリスがアタッカーが出来るのは琵琶湖女子なら誰もが知っている。
それが結構上手いというのもだ。
だがここまで見事なグレネード投擲を決められると、嫌でもプライドが刺激される。
何より片手間でアタッカーをやっているような相手にメインでアタッカーをやっている私が負ける訳にはいかない。
体勢を崩しながら相手のグレネードをなんとか回避したが、ここで嫌な音に気づく。
スグに上空を見ると何か黒いものが見えた。
「砲撃だッ!逃げろッ!!」
そう叫んだ後、全力で後方に逃げる。
2人のことを確認している場合ではないからだ。
軍事施設の後ろに滑り込んだ瞬間、京子も同じく滑り込んで来る。
そしてスグ近くで相手の砲撃が着弾して爆発音が響き渡る。
何とか避けきった。
そう思った直後に飯尾さんがボロボロの姿で現れた。
耐久値残り1割。
直撃こそ回避したが爆撃を食らってしまったようだ。
しかし撃破されなかったことは幸いだ。
そのまま後ろに下がった飯尾さんの代わりに耐久値を8割ほど回復した段階で、まず相手が来ている前提で着発グレネードを投げる。
スグにグレネードを補給して前に飛び出すと向こうからグレネードが飛んできたので、驚きながらも下がりつつ時限式グレネードを相手に投げる。
互いのグレネードが爆発した後、再度スグに前に出ると流石にアリスも後ろに下がったようだ。
その一連の攻防を回復しながら見ていた飯尾さんが『流石は選考会最終日。滅茶苦茶だわ』と呆れるように呟いていた。
*画像【初期マップ:U-18】
<i534861|35348>
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