第45話






■side:京都私立青峰女子学園3年リーダー 大里 朱美






 ハッキリと言おう。

 私は今、緊張していると。


 正直、G.G.Gの最新式多脚戦車乱入事件以降ずっと病院のベッドの上だった。

 幸い、何人か少し精神的に不安定さがあるものの回復に向かっている。

 後遺症などもまず残らないだろうとも聞いている。


 部長として心配事が無くなってホッとしたのも束の間、私は比較的マシだということで早々に退院することになった。

 その後、一応部活の練習などにも少し参加しつつリハビリ生活を送っていた。

 その間、公式戦などからも遠ざかっており流石にプロになるのは無理かなと諦めかけていた頃。

 私に届いたU-18女子日本代表選考会の招待状。

 最初は、ドッキリか何かかとも思ったがどうやら本物らしく恋が同じものを見せてくれた。


 ……人生初の世界大会参加の可能性。

 諦めかけていたプロへの道が目の前に広がった気分だ。

 それからしばらく万全な状態で臨みたいと監督と相談して独自のトレーニングメニューを作って貰い、恋と同じく個別訓練に励んだ。

 そして今日、選考会の会場に恋と共にやってきた。


 事前に対戦形式でと聞いていたが、まさかU-15女子日本代表との練習試合だとは思わなかった。

 てっきりU-18の選考会に来たメンバーで紅白戦をやるぐらいだろうと思っていただけに驚く。

 試合前、恋が知り合いを見つけて声を掛けにいった。


 霧島アリスが居るのは予想出来たが、他にも東京大神の大野晶と谷町香織が居る。

 そしてU-15側で私と同じ名前の鳥安明美に攻撃的サポーターである渋谷鈴が居た。

 こうしてみると本当に去年のU-15が黄金世代と言われる理由が解る。

 彼女らは、全国様々な高校に散らばったが全員がどの学校でもスタメンに居る。

 強豪校のスタメンに1年生ながら即戦力として採用されるだけの実力があるということだ。


 周囲を見渡すと琵琶湖女子の新城と大場が居た。

 新城の方は、地味に恋の奴がライバル視しているストライカーだ。

 彼女は、とにかく防御が上手い。

 そしてガトリングのみにも関わらずこちらに踏み込ませないよう弾幕を切らさない。

 攻撃的なガトリング使いとして知名度の高い恋からすれば、同じガトリング使いでしかもガトリング専。

 そんな相手を正面からの撃ち合いで潰せないことが彼女のプライド的に許せないらしい。

 私もガトリングを持つストライカーだからその気持ちは解る。


 大場もあまり目立った戦績が無いアタッカーのように見えるが、あの決勝戦で見せた突破力はLEGEND界で高く評価されている。

 U-15の時にショットガン特攻をしていた2人が居るが、あれは相打ち上等という感じで自爆と大した違いが無かった。

 だが大場は、仲間の支援があったとはいえ一気に2人を倒して切り込み、奥に居た砲撃の天才と呼ばれる鈴木を仕留めた。

 しかもその時、大場はまだ死んでいない。

 つまり3人倒してなお戦える状態なのだ。

 自爆突破という言葉が出来るぐらいに捨て身突撃が多い中でのこの戦果は非常に注目を集める結果となった。 

 何より通常アサルトライフルなどやシングルミサイルなどを使うアタッカーにおいてショットガンのみで撃ち合いをこなし戦線を維持出来ている時点でおかしいのだ。

 大阪日吉の時など、完全な事故みたいなものであって彼女の評価を落とすものではない。


 時間になり集合が掛かると今回のU-18監督である川上さんが現れた。


「今回、練習試合を休憩を挟んで3試合行います。その3試合で交代などをしながら全員に出場機会を与えますので実力をアピールしてください」


 まあ当然の話だろうなと思いながら話を聞く。

 一人につきどれだけ時間をくれるかにもよるが、ここぞという場面で活躍出来るだけの腕や運というのも重要な要素だ。


「―――という訳で今回……1試合目のリーダーは、京都私立青峰女子学園の大里朱美さんにお願いします」


「へ?」


 思わず間抜けな声で返事をしてしまう。

 恋の奴が笑いをこらえているのが見える。

 あとで覚えておけよ!


「今回、リーダー適性があると判断した選手に指揮を執って貰うことにしています。ちなみに2戦目は東京私立大神高等学校の谷町香織さんに決めています」


「は?」


 私と丁度反対側で同じく間抜けな声が上がる。

 やはり声の主は、谷町だった。

 彼女は自分がそんな声を出したことが恥ずかしいのか、顔を赤らめている。

 ……その気持ちは痛いほどわかるよ。


 その後、ミーティングが終わると試合へという流れになる。

 1試合目の出場選手がVR装置へと向かい、その他はベンチへ移動する。

 しかしここで私は違和感を感じた。


 霧島アリスだ。

 普段から無表情で何を考えているのか解らない。

 しかしそれでも声をかければ返事はするし、別にそこまで人見知りでもない。

 だが今日、彼女は不機嫌なのか『近寄るな』という圧倒的不機嫌オーラを隠そうともせず歩いている。

 そのせいで彼女と会話をしたがっていた連中は、近づくことも出来ずどうしていいのか解らないという顔をしていた。


 まあ私がどうこうできる問題でもない。

 なので放置して試合に臨む。


 1試合目のマップは、大阪日吉の突撃で一気に『特攻マップ』などと呼ばれるようになった渓谷だ。

 実際は下手な特攻などした瞬間に壊滅するマップである。

 あれは様々な要素があって成立したものだ。

 本来はブレイカーなどの遠距離攻撃武器を持つ兵種が有利なマップであり撃ち合いで決着が付きやすい。

 そのためアタッカーやストライカーはロケットやミサイルなどを持ち込んだり逆に盾類を持ち込むことも多い。


「さて、作戦通り強気で削っていきましょう」


「了解!」


 良い返事が返ってきた頃、試合開始のアナウンスが鳴り響く。

 全員速攻で坂を駆け下りる。

 そしてさっそくプレッシャーをかけるために前に出るのが上手いと言われる大野と最前線で常に戦うことを誇りにしている恋。

 更にそこに恋がライバル視している新城までが発電所になだれ込む。


 ―――レッドチーム、発電所制圧!


 開始スグに発電所を制圧することで相手にプレッシャーを与えると同時に発電所を盾にして攻撃の手を強める。

 そういう作戦でありそれの第一段階が成功したなと思った瞬間だった。


 ―――ヘッドショットキル!


 いきなり特殊キルアナウンスが会場に鳴り響いた。


「おっ?」


 開幕誰がとばしてるんだと思ってログを確認しようとした瞬間。


 ―――ヘッドショットキル!


 またも特殊キルアナウンス。


「おいおい」


 そう声に出してツッコミを入れながらログを開いた瞬間。


 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × U-15:岡部 奈緒子

 〇 U-18:霧島 アリス



「ああ、やっぱりか」


 予想が付いていたとは言え開幕3連続ヘッドショットって―――



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × U-15:渋谷 鈴

 〇 U-18:霧島 アリス



 またも更新されるログ。

 一体何が起こっているんだと思いつつもこれはチャンスだなと考える。

 中央から4人も減ったの―――



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × U-15:鳥安 明美【L】

 〇 U-18:霧島 アリス




*画像【渓谷:U-15】

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「……味方で良かった」


 思わずログとマップを見てそう思う。

 開幕2分ほど経ったぐらいで既に5連続ヘッドショット。

 しかもヘッドショットを決めはじめてからで言えば1分もかかっていない。

 そこまで考えてハッとした。

 これは選考会だ。

 このままでは霧島アリスだけが活躍してその他は添え物と判断されかねない。


「全員、強引にでも押し込めッ!!これ以上一人に手柄を取られるなッ!!」


 全体通信でそう声を上げると誰もがそのことに気づいたのか元気良く返事が返ってくると一斉に押し込み始める。

 その瞬間またヘッドショットでログが動く。

 こうなってしまうと、もうどんなチームでも無理だろう。

 人数差もそうだが相手のエースが大暴れしている状態で止める手段がない。

 更にそれらを指揮するはずのリーダーも落とされ通信も出来ず連携も取れない。

 相手のモチベーションは間違いなく最底辺だろう。

 

 相手チームを気の毒だと思いつつもこちらも手を抜く訳にもいかず一斉攻撃にて一気に殲滅。

 そのまま相手司令塔を破壊して終了となった。


 早々に試合が終わり、双方の選手達がVR装置からリアルに帰ってくる。

 だが誰もが困惑していたり呆れ顔だったりとカオスな状態だ。

 そんな状況を作り出した本人は、さっさと監督の元に歩いていくと『これ以上アピールすることはない』と言い切って『残り試合には出ない』と言い出した。

 本来ならそんな傲慢な態度、反発を生むだけなのだが誰もが先ほどの試合を見ている。

 霧島アリスにこれ以上荒らされるよりは、他の選手達に枠を譲って選手選びをした方がいいと誰もが思っただろう。

 何よりあれだけの戦果を示されて、これ以上試すなど意味が無い行為だ。

 間違いなく霧島アリスがこの選考会で誰よりも最初に代表入り確定を決めた瞬間だろう。


 そして思った以上に早く試合が終わってしまったこともあり本来3試合だった試合数が急遽4試合になった。

 その分アピールチャンスが増えたと純粋に喜んだ人間は半分ぐらい。

 残りは霧島アリスという選手が自分達のはるか上を行く相手だという現実を突きつけられ、その圧倒的差に苦悩するような表情を浮かべていた。




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