第44話
■side:霧島 アリス
「……ああ、私はどうして生まれ変わったのだろう」
最近、特に思う。
前とは違い恵まれた環境、恵まれた世界。
誰もが必死に生きていない世界。
どこか他人事の世界。
ただ適当に生きて適当に死ぬことが出来る世界。
そんな中で出会ったのがLEGENDだ。
これだけが『つまらない』と感じた世界に唯一の彩(いろどり)を与えてくれた。
所詮ゲームでありながら、たった弾1発で決まる勝敗に一喜一憂するプレイヤー達。
命懸けでも無いのに必死になって身を屈め相手を撃ち取るその姿は、さながら民兵のようだ。
しかし決して私は笑わない。
私はこれに似た本当の戦場で戦い、多くを失いながらもそれ以上の多くを得てきた。
こんな世界でも、例えゲームの中であろうとも『全てを賭けた命の輝き』は、本当に素晴らしいものだ。
そしてスグにLEGENDにハマった。
正直、新兵を虐殺している気分だったがどうせゲームだ、死ぬことはない。
それに前世では相手が子供であろうが武器を持てば兵士だ。
殺すことを躊躇えば、自分の命どころか仲間の命まで危険に晒すことになる。
……気づけば中学生大会に優勝し、U-15世界大会に出ていた。
仲間と共に戦場を駆け抜ける。
最初は愉しかったそれも次第に飽きてくる。
「……新兵ばっかり」
この世界の僅か十数年生きてきただけの少女達に言うのも酷な話かもしれないが、私は数十年間最前線で戦い続けたのだ。
彼女らとは比べものにならないのは当たり前の話。
それでも期待していた。
世界レベルならば、きっと凄い選手もいるだろうと。
それどころか『自分達は国家を背負っている』と言わんがばかりの自信を持って目の前に現れる。
「―――薄っぺらい」
本物を知らなさすぎる。
そう思った。
本当に国家を、家族を背負った者達の気迫とは程遠い。
むしろ彼らと比べるのは失礼なレベルだ。
『死』というものから隔離された戦場というものは、こうも違うものなのか?
所詮ゲームだと分かっていても、これは無いのではないだろうか?
自分の実力を過信するのは構わない。
でもその状態で『我らが祖国のために』などと言われたら、もう我慢が出来なかった。
「―――お前らがその台詞を口にするな」
気づけば徹底的に殺していた。
相手の心が折れようが関係がない。
中途半端な覚悟で、中途半端な言葉を口にして、それらを否定されれば泣き叫ぶ?
……本当に残念だ。
その日の夜は、何度も考えた。
『やり過ぎだ』
『当然だ』
この2つが頭の中をグルグルする。
LEGENDは、ゲームだ。
この世界ではスポーツとして分類されている。
生死の境界が曖昧な戦場ではない。
しかし同時にLEGENDしか私には無いのだ。
これを失えば私の人生は、また彩の無いものとなるだろう。
結局、答えなんて出なかった。
そして気づけばU-15も決勝戦。
アメリカ代表は、直前認可という手段で新型装備を持ち込んできた。
表立っての非難はほぼ無いが、対戦した選手達は不満爆発といった感じらしい。
「馬鹿らしい」
正直そう思う。
戦場で常に相手が予定通りの装備しか持ち込まないなんてことはない。
常に想定外なことが起こるのが戦場だ。
そして相手と自分の武装に差が出るのも仕方がない話である。
みんな仲良く統一して撃ち合おうねなんてお遊戯ではないのだから。
なので私は周囲ほどアメリカ代表の直前認可に文句などない。
ゲーム中も常に3人が私を徹底して攻撃し、狙撃させないように必死だった。
返り討ちにするのは問題なかったが、その勝ちへの執念は好感が持てた。
むしろそこまでして勝とうとする気持ちを見習えと言いたい気分だ。
最終的に点差が開いたまま時間稼ぎをして司令塔まで下がったアメリカ。
このままでは時間的にも間に合わないだろう。
だが、それでいい。
幸い私は、徹底マークされていたことを理由にすれば誰も文句など言わないだろう。
時間切れで負けて悔しい想いをすれば、少しは勝つための執念ぐらいは身に付くはずだ。
そう思ってかなり離れた位置でスコープ越しに戦況を見守ることにした。
―――だが
「……チッ」
思わず舌打ちが出た。
アメリカ代表のリーダーが笑みを浮かべたのだ。
これ以上ないほどの笑みで突っ込めない日本勢を見下していた。
そしてよく見れば他の大盾を持った連中全てが同じような笑みを浮かべている。
「―――多少マシになった程度の新兵ごときが」
もう勝った気でいるのか?
『見逃して貰えているだけ』なのに。
『勝利を譲って貰えているだけ』なのに。
アメリカ代表に抱いていた好意は、その瞬間一気に殺意へと変わった。
調子に乗っていた連中をまとめて処理すると気づけば日本が勝っていた。
正直、勝敗などどちらでもいい。
私はただ、あの馬鹿共に現実を教えただけなのだから。
それからは、勝手にドンドンと進んでいった。
祖母が創設する学校に行って新しい仲間と出会った。
人数は少なかったが、多少はマシなメンバーが集まったと言える。
練習試合をしたがそれぞれの腕も悪くない。
一部初心者も居るが、それぞれがカバーしているので問題もないだろう。
安田とかいう初心者は、銃弾の音で逃げ出す民間人だったので邪魔にならない位置に隠れていろと言って遠ざける。
覚悟の無いものにウロウロされても邪魔なだけだからだ。
その後、コイツは何故か私に指導を求めてきた。
やる気が出たのは良いかもしれないが、どこかの国の代表みたいな中途半端な気構えの奴を鍛える気はない。
諦めさせるつもりでキツく言ったにも関わらず無駄に食い下がってきたので徹底して追い回した。
そしてやる気があるならせめてもう少し体力を付けろと言っておいた。
LEGENDは60分間戦う競技だ。
そのため途中交代に制限は、ほとんどない。
なので体力を考慮した交代も多い。
しかし私達はギリギリの人数だ。
体力が切れようが戦場から逃げ出すことはできない。
新兵用のトレーニングメニューに少し手を加えたものを渡しておいた。
やる気があるなら育つだろうし、そうでないならそれまでだ。
それからも何度も、何度も試合を行ってきたが『つまらない』。
まるで自分だけが停滞して腐っていくような、そんな感覚。
抜け出そうともがくほど、深みにはまっていく気がする。
そんな時だった。
ふとLEGEND用の本を見ていると『LEGENDはチームプレイ』という文字を見つけた。
なるほど、そういうのもアリかもしれない。
そこで私はもっともらしい理由を述べて『縛りプレイ』を愉しむことにした。
これが意外と良かった。
勝敗など気にせず味方に任せて自分の行動を『制限』する。
勝つか負けるか解らない勝負。
味方頼りという自分ではどうしようもない運要素。
そして―――
大阪日吉が坂を一斉に駆け上がってきた時は思わず興奮した。
「そう!これよ、これ!」
この全てを賭けた気迫!
口先だけではない仲間への信頼感!
何より勝つことへの執念!
思わず自分が決めた前提条件を覆して相手リーダーを止めてしまった。
だが後悔などない。
相手リーダー……堀川茜は、素晴らしかった。
何が何でも勝つんだという全てを背負ったまさに『命懸け』での司令塔攻撃は、思わず本気で戦ってしまった。
それほどまでにあの時のやり取りは輝いていた。
だからこそ私は『チームプレイ』という言葉を利用した。
多脚戦車の時も、邪魔をされて苛立っていたのは事実だ。
しかし心のどこかでこのイレギュラーを愉しんでいる自分が居た。
そんなどうしようもない感情を抱えたまま決勝戦を迎えた。
相手のリーダーは、努力をしただろう動きが見えるちゃんとした『スナイパー』だ。
しかしそう思えたのも最初だけ。
どこの世界に挑発に乗る狙撃兵が居るのか。
例え親の仇だろうが、冷静さを失った時点で死ぬのは自分だ。
それを理解しろとは言えないのがLEGENDの……このゲームの辛いところだ。
試合の最後は予想通りの乱戦になった。
私にとって勝敗などどうでもいい。
だから最後に何か愉しめることはないかと思って安田千佳の存在を思い出した。
予想外に練習を続けている彼女に全てを背負わせてみることにした。
その方が『面白い』からだ。
適当に押し付けてそのチャンスを待つ。
やはり晴香は、私が突っ込むだろうと予想して道を切り開いた。
その信頼を有難いと思う一方で、どことなく迷惑にも感じてしまう。
相手は、やはりこちらの動きに釣られて安田千佳など眼中にない。
あとは彼女次第だ。
これでもし彼女が失敗しても、それはそれ。
ただ試合に負けるというだけ。
そう思っていると奇跡的に狙撃が成功して点数がひっくり返った。
「―――あはははっ!」
思わず笑ってしまった。
まさか上手く行くなんて。
あまりにも予定外な出来事に動揺したのか、つい香織への狙撃で『手を抜いて』しまいガトリングで受けられてしまう。
「ああ、ダメ。どうも可笑しくてやる気まで無いわ」
試合はそのまま勝利となった。
試合が終わった時に、ふと昔のことを思い出した。
「姉御!俺も姉御みたいにバンバン敵を倒したいんですよ!」
「馬鹿野郎!そんな浮ついた気持ちじゃ先に頭ぶち抜かれるのはテメェだよ!」
命懸けで共に戦う戦友達とのやり取り。
ふと『チームプレイ』も悪くないという気分になる。
だがそれは所詮夢だ。
嫌でもまた現実が私に『つまらない』を押し付けてくる。
次は、U-18女子日本代表の選考会。
どうせここでも『つまらない』連中ばかりなのだろう。
「……ああ、私はどうして生まれ変わったのだろう」
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