第47話
■side:レッドチーム 笠井 千恵美
「あー!うざいっ!」
ジワジワと後退しつつチビとの撃ち合いを続ける。
どちらも後ろにサポーターを置いての撃ち合いだ。
弾数も耐久値も、ある程度心配いらない。
ただ気を抜けば回復する間も無く撃破されるだろう。
ショットガンとこれだけ近くで撃ち合うなど本来なら自殺行為なのだから。
しかし恋が前に出ている以上、私が下がる訳にはいかない。
それに相手が今メインで使っているドラムマガジン式のショットガンは、威力・連射力・装弾数全てにおいて素晴らしい。
リロードもドラムマガジンを交換するだけでいいお手軽なものだ。
だがリーチが短めなのが欠点である。
そのため多少距離を取るだけでダメージは比較的抑えられる。
「……アレだけが厄介なのよね」
思わず呟く。
全国の決勝で桃香の奴を一撃で仕留めた例の『マスターキー』だ。
もし僅かでも隙を見せれば突っ込まれてアレを撃ち込まれてしまうだろう。
それが一番最悪のシナリオだ。
「ちょっと千恵美!何下がってるのよ!」
「うっさいわね恋!STが一撃ショットガン持ちのAT相手に距離詰めれるか!」
―――ブルーチーム、発電所制圧!
私が引いた僅かな瞬間に発電所を占拠されてしまう。
だが別に発電所が占拠されようが点数が動く訳でもない。
更に言えばこのマップは奇襲を許すようなマップでもない。
少し下がりながら腕部2連ロケをチビに向かって撃ち込む。
その瞬間に戦況を確認しようとマップとログを開く。
「―――ジャミング?」
マップが映らないのだ。
何が起こっているのだ?と思った瞬間だった。
―――ブルーチーム、司令塔への攻撃を開始しました!
「はぁっ!?」
■side:レッドチーム 南 京子
U-15の決勝戦を思い出すような相手側の連携攻撃を何とか凌いだ私達は、急いで補給を行う。
軍事施設がそこにあると言っても全員で利用する訳にはいかない。
晴香ちゃんと私は、私の持つ支援ポットにて徐々に回復を行いつつ警戒。
飯尾さんはダメージが激しいので軍事施設に下がって貰った。
―――ブルーチーム、発電所制圧!
発電所が制圧されたアナウンスが鳴る。
しかしこのマップでは抜け道がほぼ無いため奇襲される恐れが無い。
なので発電所の権利は正直オマケ程度だ。
「中央も激しいみたいね」
「そうね」
晴香ちゃんの言葉に短く返事をする。
私の返事を聞いているのか既に解らない。
何故なら彼女は、次のやり合いの作戦を考えているようでブツブツと独り言を言い出しているからだ。
正直、晴香ちゃんは一流アタッカーだと思えるほど技量が高い。
決勝戦のアメリカ代表のアタッカーですら彼女とのグレネード勝負を避けたほどだ。
プロリーグで活躍するプロ達からも評価されるほど、特にグレネードを絡めた戦いが上手い。
そんな彼女とここまで対等にやり合える選手などアリスちゃん以外に知らない。
というか、彼女がここまでアタッカーが上手いとは思わなかったというのが正直な感想だ。
「……ホント、アリスちゃんは底が見えないね」
「神様って不公平よね。アリスだけ才能アリアリじゃないの。こっちがどれだけ練習してると……スモークッ!!」
弾薬補給をしていた晴香ちゃんが突然叫ぶ。
すると正面にスモークグレネードが転がってきて視界を奪う。
直接的な攻撃能力は無いが、効果的に使われると非常に厄介な武器である。
晴香ちゃんが銃を構えながら腰に手を回している。
彼女は、アリスちゃんが突撃してくると思っているのだろう。
グレネードで牽制するタイミングを計っているようだ。
だが晴香ちゃんの予想は意外な形で裏切られた。
「ミサイルッ!?」
そう叫ぶと晴香ちゃんは壁側に逃げる。
私もその声で反射的に奥側に逃げると少し離れた位置にミサイルが次々と撃ち込まれてきた。
それを2人でジッと我慢して待ち、ミサイルの弾幕が切れた瞬間に晴香ちゃんが時限式グレネードをそっと転がすように投げる。
それが爆発すると2人で飛び出して未だ煙で見えない場所に一斉射撃を行う。
「―――手ごたえが無い?」
どうも攻撃が当たっている感覚がしないため晴香ちゃんに声をかけて2人同時に下がる。
その瞬間だった。
―――ブルーチーム、司令塔への攻撃を開始しました!
司令塔攻撃のアナウンスが会場に鳴り響いた。
「えっ!?」
思わずマップを確認するが―――
「―――ジャミングッ!いつの間にッ!?」
マップはジャミングによって一時的な使用不能状態にされていた。
「―――司令塔カバーしてくるわッ!」
私が驚いている間に飯尾さんがそう叫びながら司令塔に走っていく。
「こっちもカバー入るわ」
白石さんもカバーに入ると通信があったので私は晴香ちゃんを見る。
すると今のうちに前に出ると顔に書いてあったので一緒に飛び出す。
それを理解していたのか、高台から相手リーダーの堀川さんがガトリングとミサイルで攻撃してくる。
そして砲撃を辞めた桃香ちゃんもガトリングで牽制攻撃を徹底してきた。
ここで盾持ち重装甲ストライカーでも居れば別だったが、こっちは中装甲のアタッカーとサポーターだ。
流石にこの中を強引に進むことは出来ない。
特に高台に対しては、もう少し前に出ないと晴香ちゃんでもグレネードを投げ込めない。
例え投げ込めたとしてもそれで討ち取れるとは限らない。
高台を抑えられない以上、前に出にくい。
更に言えば桃香ちゃんも砲撃だけということはない。
彼女は昔、最前線で戦う重火力ストライカー志望だったのだ。
今は砲撃スタイルのガトリング持ちとはいえ、そのガトリングの腕は彼女の努力のあとが見える丁寧な射撃だ。
「……もう少し私に火力があれば」
そう思わずにはいられない。
流石にガトリング相手にサブマシンガンではどうしようもなかった。
■side:ブルーチーム 霧島 アリス
「それじゃ、そろそろ仕掛けるで!」
「りょ~かい」
茜の声に返事をしておく。
今回、適当に撃ち合ってもつまらないのでアタッカーで晴香を挑発しておいた。
これで『仕込み』は完了したと言えるだろう。
早々に下がって兵種変更を選択してブレイカー装備に変更する。
そして元の位置まで戻ってからスモークグレネードを手前気味に投げ込む。
煙で視界を遮った段階で私は一気に北と中央の間の通路に向かって走り出す。
その瞬間、茜がスモークを投げた付近にミサイルを適当に撃ち込んでくれた。
通路に入ると走りながら設置型のジャミング装置を起動して捨てていく。
ミサイルの音が私の足音を消し、ジャミングによってマップで私の位置を確認出来なくなる。
本来ならここで私が中央を裏取りして中央を壊滅。
そのまま押し込めば左右も下がらなければ危険になり、下がるしかない。
という感じを考えていたのだが、丁度発電所が落ちているのだ。
もっと面白いちょっかいをかけよう。
私は予定を変更してそのまま司令塔へと滑り込んで司令塔攻撃を開始する。
―――ブルーチーム、司令塔への攻撃を開始しました!
*画像【初期マップ:凸】
<i535123|35348>
ある程度攻撃を加えると、そろそろかなと思って北側にライフルを構える。
こちらに急いで走り込んできたストライカーをとりあえず討ち取る。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× レッドチーム:飯尾 明日香
〇 ブルーチーム:霧島 アリス
そして北側へと走る。
曲がり角を曲がってそのまま中央へと走り込むと後ろを向いたままのサポーターを見つけて背中のコアをナイフで刺す。
―――バックアタックキル!
特殊アナウンスと共にキルログが更新される。
それに気づいた前の2人が撃ち合いをしつつも振り返る。
だが、既に遅い。
既にこちらはライフルを構えた後だ。
「―――バイバイ、笠井千恵美」
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× レッドチーム:笠井 千恵美
〇 ブルーチーム:霧島 アリス
これで中央には、恋だけになった。
彼女もそれに気づいたのか、悔しそうな表情を浮かべているがそれでも抵抗を辞めるつもりはないようだ。
必死に前を牽制しつつこちらをどう対処しようか悩む動きをしている。
その様子があまりにも面白くて、つい悪戯心が出てしまう。
そのまま恋を倒さずに、彼女に向かって手を振りながら堂々と味方エリアに帰る。
途中ですれ違った大場先輩と新城先輩は、何とも言えない乾いた笑みを浮かべていた。
「アリスゥーーー!!覚えてなさいよぉぉぉーーー!!」
恋の遠吠えが聞こえてきた。
「なら、私を倒してみなさいな」
私はそう呟くと開始地点まで戻り兵装交換を行う。
ちなみにその様子を見ていた新城と大場は、一条のあまりの可哀想さに追撃を辞めて見逃した。
それが更に彼女のプライドを傷つける結果となり、一条はこの日から更に厳しい練習をするようになったらしい。
*画像【初期マップ:戻り】
<i535124|35348>
■side:レッドチーム 大野 晶
―――ブルーチーム、司令塔への攻撃を開始しました!
「チッ、何やってんのよ」
思わず舌打ちをしてしまう。
相手の防衛が意外と堅実で南側が停滞している間に司令塔が攻撃されるなんて。
北側の連中は、一体何をしているのか。
白石先輩が司令塔カバーに入ったのでそれはもういいだろう。
問題はこのままではマズイということだ。
「私がやるしかないか」
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× レッドチーム:飯尾 明日香
〇 ブルーチーム:霧島 アリス
突っ込む決意をしている最中でこれだ。
―――バックアタックキル!
面白いぐらいに翻弄されている。
こうなれば南側を制圧しなければ逆転など不可能だろう。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× レッドチーム:笠井 千恵美
〇 ブルーチーム:霧島 アリス
「ミサイルの後、中央のカバーに入る!」
高台からリーダー役の大里がミサイルを撃ちながら全体通信でそう叫ぶ。
私はその置き土産であるミサイルと共に前へと飛び出す。
丁度相手はミサイルを警戒して下がった瞬間だ。
そして最南には腕部ガトリングのストライカーと冴だけ。
冴の一撃を回避しつつショットガンを連射してストライカーを潰す。
腕部ガトは取り回しが良い分、火力が低めだ。
しかもガト全体に言えるが僅かな空転時間が接近戦では致命的である。
その後ショットガンを捨てつつアサルトライフルに持ち替えて冴を潰せば抜けれる。
ここで裏取りから南側を壊滅させれば、完全に南の主導権は取れるだろう。
そうすれば流石に中央も一旦下がらざるを得ないはずだ。
ミサイルが着弾して多少煙幕で視界が悪い中を突っ込む。
「―――ッ!?」
迎撃に出てきたのは、冴とサポーターだった。
「ストライカーだと思ったすか?残念!サポーターっすよ!」
マシンガンによる反撃は、火力こそないものの近距離だとそこそこのダメージになる。
しかも自分は重装甲のストライカーではなく中装甲のアタッカーだ。
このまま撃ち合いになれば間違いなく負ける。
そう判断してアサルトライフルの牽制攻撃をしつつグレネードを投げ、ついでにスモークグレネードも投げる。
グレネードが爆発した瞬間、スグにスモークも煙を周囲に撒いてくれ視界が悪くなる。
正確な追撃が出来なくなった相手が、それでもこちらの位置を予測して撃ってくるため慎重に回避しつつ後退する。
丁度突っ込む前の壁がある場所まで後退することに成功したホッとした瞬間だった。
嫌な音が聞こえたと思って上を見上げると、スグ上空には無数の黒い塊。
「しまっ―――」
砲弾の雨が降り注ぎ、気づけば私は復活カウント待ちになっていた。
「クッソ、桃香の奴……いつの間にこっちに―――」
そう呟きながらキルログを見ると―――
◆キル
× レッドチーム:大野 晶
〇 ブルーチーム:霧島 アリス
「―――えっ!?」
■side:ブルーチーム 堀川 茜
「あはははっ!めっちゃ面白いやん!」
私はマップを見て思わず笑った。
まさにやりたい放題である。
霧島アリスから少し手伝って欲しいと頼まれた作戦を聞いた時は思わず『こいつ頭のネジ飛んでるんじゃないか?』と思った。
そして今、この状況を見て思う。
「やっぱ頭のネジ飛んでるわ。流石グングニルを引っ張り出してきただけはあるなぁ」
その辺の学校相手ならまだ解る。
だが今、この試合は全国から精鋭が集まって行われている試合だ。
そんな中でこんなことを平然とやってのけるその神経が凄い。
しかも帰って早々に砲撃ストライカーに兵科を変更すると南側で攻撃の起点になっていた選手を倒した。
このアリスの行動で、相手の動きが全体的に鈍くなった。
唯一、白石舞だけが何度かヘッドショットを取ってきたがそれだけではどうしようもない。
誰もが次にアリスが何を仕掛けてくるのか解らず警戒するあまりに身動きが取れなくなっていた。
「ええな!ええなっ!!ウチの所でもこういう戦術を組みたいな~」
そう思いながら高台で相手アタッカーの動きを止める。
相手はグレネード投げの天才だ。
しかしそれさえ警戒してしまえば、残っているのはサポーター。
対してこちらはストライカーが2人。
絶対的に火力が足りない状況で押し込むなど不可能だ。
例え人数が増えた所で、アリスという幻影に怯えて大胆な行動など取れないだろう。
「さあ、残り時間も僅かや!焦らず冷静に相手の反撃を潰して仕舞いや!」
こうして紅白戦1戦目は、終了した。
この後、メンバーを入れ替えつつ全てを終えた選手達は期待と不安の中、帰宅することになる。
そして1週間後。
選ばれた選手の手元には、U-18女子日本代表決定のお知らせと次回の集合場所が記された手紙が届くのだった。
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