第42話






■side:U-15女子日本代表 岡部 奈緒子






 試合開始の合図と共に私は走り出す。

 以前は色々と装備していた関係で非常に遅かった機動力も今はかなり早い。

 それもそのはず、私は両肩大型ミサイルに腕部ロケットも外して大型ガトリング1本になったからだ。

 しかもガトリングもG.G.G製からFUJISAWA製の大型ガトリングガンに変更している。


 私は、あの『地獄の特訓』とみんなで呼んでいる出来事で人生が変わった。

 『新城 梓』という人に出会ったのだ。

 彼女は、ガトリング1本という今時珍しいスタイルで私達と戦った。


 今の時代は、火力のあるストライカーがその火力で相手戦線を崩すというのが主流である。

 見た目もよく、わかりやすい結果を生み出すためストライカーの選手はみんな火力型になっていった。

 だから最初は火力の無いストライカーなどと侮っていた。


 しかしそれが間違いだと知った。

 ひたすら撃ち合っているのにジワジワとこちらだけ削られる耐久度。

 一気に勝負を決めようとするとさっさと移動して一切相手に付き合わない。

 そして火力を向けても余裕で回避され、まったく当たらないのだ。

 苛立って前に出るとそのまま撃ち合いに負けてしまう。

 こんなのどうしろというのか。


 そんな戦い方を見せた彼女は言った。

 『見た目の派手さに気が取られたストライカーなんて敵じゃない』と。

 確かに攻撃面では弱いだろう。

 しかし防御面で見れば彼女ほど粘り強い戦い方をするストライカーを見たことが無い。

 『ガトリング1本と立ち回り。その基本を極めれば負けることはない』と自信満々に言った彼女に私は初めて誰かに憧れた。

 こんな選手になりたいと思った。

 だから彼女に頭を下げ、こうして戦い方を教えて貰った。

 自分でもまだまだだと思うが、それでも私はこれを極めていつかあの人にもう一度勝負を挑みたい。


 ストライカーでありながらアタッカーとほぼ同じ速度で移動し、中央を先に占拠した。

 今回のマップは、まさに私が新しく再スタートを切った場所だ。



*画像【研究所:U-15戦】

<i533843|35348>



 全員が配置に就きながら積極的に攻撃を仕掛け始める。

 このマップは中央を取られると辛い。

 一見、遠くの発電所を早々に取って一気に司令塔を狙いたくなるマップになっているが、それをすると中央で分断されてしまう。

 そうなると各個撃破されるどころの話ではない。

 前のように完全包囲まで見えてくる展開になりかねない。


 今回2日目の試合では、白石舞や堀川茜など有名人がそれなりに混ざっていた。

 鳥安と渋谷からも『大谷・南先輩コンビに注意しろ』と言われている。

 そんなこと言われずともわかっている。

 あの時、司令塔に攻め込んだ味方はその2人を突破出来ずに追い返され、逃げた先で霧島先輩に殲滅されたのだから。


 障害物利用しながらフェイントを混ぜて顔を出す。

 すると鋭い一撃が障害物をかすめるように飛んできた。

 正面に居る天才ブレイカーである白石舞だろう。


 『ヘッドショットを回避したいなら、常に頭の位置を変則的に動かすことだ』


 霧島先輩に言われたことだ。

 言われたことを1つ、また1つと思い出しながら戦う。


 『何も超能力で相手の頭を狙っている訳じゃない』


 ガトリングを2秒ほど撃った瞬間に隠れる。

 こちらに攻撃してくるサブマシンガンやアサルトライフルの発砲音に紛れてライフルの発砲音が響く。

 相手の狙撃を避けたと判断し、スグにまたガトリングを撃ちながら顔を出す。

 そしてまたタイミングを見て隠れる。


 『毎回、ちゃんと動きを予想したり止まった瞬間を狙っているだけ。だから予想出来ない動きをされると基本的には当てられない』


 カチッ


 嫌な音がして咄嗟に後ろに下がる。

 隠れている自分の斜め前に落下した丸い形の時限式グレネードが地面に落ちると急に真っ直ぐから斜めに曲がって跳ねる。

 まるでグレネード自身が命を持っていて自分で相手を見つけて飛びついてきた……そんな風にしか見えない動きだ。

 スグに下がったおかげでダメージを受けなかったが、下がる判断が遅ければ今のでやられていただろう。

 実際あの時に何度か投げ込まれてキルを取られているから知ってはいたが、ここまで器用な投げ方をされると怖いものがある。


 追撃が来ると思ったが、明美がスグにカバーに入ってくれたようで相手は前に出てこない。

 そのまま明美は、何度かリロードしては白石舞に喧嘩を売りつつ中央がこれ以上出てこれないように牽制している。

 彼女も以前に比べて格段に強くなった印象だ。

 正直、昨日の練習試合では3連勝出来るなんて思っていなかった。

 

 ……きっと私達は強くなっている。

 だけどそれに慢心してはダメだ。

 このまま今日も堅実に勝利を重ね、そして明日に結果を見せるのだ。

 明日は、きっと霧島先輩や新城先輩が来るはずだ。

 あの2人なら必ず選ばれているはず。

 だからあの2人に私達の努力の結果をもう一度ぶつけ、そして今度こそ私達が勝つんだ!






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■side:大阪日吉3年リーダー 堀川 茜






 ホント、選考会に呼ばれた時は驚いた。

 しかも文の奴まで呼ばれた時は、何事かと思った。

 最近、やたらとマスコミに追い回されテレビだ雑誌だに呼ばれる毎日でいい加減ストレスが溜まっていた。


 いやいや、気持ちはわかるよ?

 ウチもあそこまで全力出した試合とか初めてやったし、みんな負けたし悔しいけど出し切れた試合やったって言ってる。

 海外でも取り上げられたらしくて海外のLEGENDファンって子からウチ宛てに手紙まで来てビックリしたぐらいや。

 でも、それでもちょ~っと追い回し過ぎやないか?って思うわ。

 霧島アリスがマスコミを全部スルーしてるって気持ちが今なら解る気がする。


 まあそんな訳でや。

 今回の試合でそれを発散してやろうと思っていたら監督からリーダーをやれと言われた。


 『は?白石舞が居ますよね?』


 思わず間抜けな声でそんなことを言いながら本人を指差してしまった。

 どうやら監督は、白石舞をブレイカーという役割に集中させリーダーにはしないようだ。

 その辺の話を丁寧に説明してくれるのは構わないのだが、何故に私なのか。

 『あの大阪日吉の集団突撃のような統率力を期待している』とか言われても、今回寄せ集めみたいなチームなのをこの人は理解してるんやろか?


 それに正直私より良いリーダーなんていっぱいいるだろう。

 佐賀大付属の飯尾とか、結構良い指揮してると思うんだけどなぁ。


 そもそも何で文とは別に呼ばれたのかも解らん。

 せめてアイツが居ればもう少しマシな指揮が取れそうなんやけどな。

 見た感じ、霧島アリスがおらんのも気になる。

 もう一度最終があるみたいな話をしてたから、もしかしたらバラバラにチーム組まされてるのかもな。

 まあそれが解った所で何やって話やけど。


 斜め前のサポーターからマシンガンを撃たれスグに障害物に隠れる。

 やれやれ、考え事1つ出来ないとは。


「どうも相手は攻めっ気が強い。様子見しつつも仕掛けていくで。一人に絞って攻撃してミスを誘え。ミスったのを狩っていけばええ」


「了解」


「……おい、何人か返事しとらんやろ?」


「……」


 明らかに返事が少なかった。

 例え臨時の協調性が欠片もないチームだろうが、ウチがリーダーである以上勝手は許さん。


「お前ら、ふざけんなっ!!リーダーの指示に返事1つ出来んのなら今すぐ控えと代われやっ!!自分勝手な舐めた真似すんなっ!!」


 誰が何を想ってどう戦おうが知ったことじゃない。

 だが、チーム全員に迷惑を掛けかねない行為だけは許さん。


「わかったら返事せいやっ!!」


「了解!」


「まだ何人か不満そうやなっ!?さっきも言ったやろっ!!不満ならさっさと控えと代われっ!!そうじゃないなら返事ぐらいしろっ!!わかったかっ!!!」


「了解!!」


 ……はぁ。

 ここまでやってやっとまともな返事を返してきたか。

 ホンマ、こんな状態のチームリーダーなんて罰ゲームやで。


「ならまず司令塔前!そっちは2-2やから下手に倒されるな!引き分けでええ!」


 マップを開きながら指示を飛ばす。


「次、中央!前に出てるのを集中攻撃!仕留めれたらよし!無理そうなら別の狙え!ただし必ず全員で集中攻撃しろ!」


 相手側からしつこくこっちの隠れている場所に攻撃を仕掛けてくるのをスルーしながら相手の意図を考える。


「発電所は、おそらく何か仕掛けてきたがってるから注意しろ!最悪一旦取られても構わん!」


 指示を終えるとスグに顔を出してガトリングを撃ち込む。

 相手のアタッカーが1人前に出たがっているみたいや。

 自爆も警戒やな。


「……おい、返事ッ!!」


「了解っ!!」


 ……はぁ。

 もう誰かリーダー代わってくれ。




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