第41話
■side:U-18女子日本代表 監督 川上 律子
審判用の特殊なモニターで選手達の練習試合を眺める。
大きな戦果を挙げている人だけでなく、地味でもちゃんと活躍している人もなるべく評価すべきだからだ。
今回、監督の私とそれぞれの兵科を担当するコーチ陣と全体管理のスタッフも含めて選手のチェックを行う。
元U-15の選手達が喧嘩を始めた時は、大きなマイナスだと思ったがそんな状況でも的確に動けていることに気づいて評価を改めることもあった。
そんな中、予想外に強いU-15にむしろ驚きを隠せない。
元々今回、総勢25名もの選手を選ぶにあたってかなりの人数を招集した。
ここ最近の中で確実に最強とも呼べるチームが出来ると誰もが思っている。
そこでもし優勝を逃したら?
考えるだけでも恐ろしいことになるだろう。
だから慎重にメンバーを選ぶ必要がある。
今回、ある程度のメンバーごとに日にちをズラして3チーム分を招集した。
A、B、Cチームとそれぞれで即席のチームを組ませ個人能力だけでなく様々見させて貰おうという訳だ。
今戦っているAチームは、主に控え枠として考えている選手が多い。
個別ではそれなりに一芸があったりバランスが取れていたりする。
しかしどこでも誰でも通じるのか?という点では疑問だ。
例えば、鈴木桃香。
今で既に3試合目に突入しているが現在U-18側で彼女が一番貢献してる。
しかし彼女の砲撃はマップ下のビル内など『砲撃不可能エリア』に対して圧倒的に弱い。
つまりマップ次第では使えないのだ。
三島冴にしてもそうだ。
彼女は、手数重視のライフルで積極的に前に出る攻撃的なブレイカー。
しかしその反面、前に出過ぎて撃破の危険に晒されやすい。
今の所、鳥安相手に撃破を取られてはいないものの完全に撃ち負けている。
これがもし白石舞や霧島アリスなら、確実に彼女は撃破されている所だろう。
もし今大暴れしている鳥安明美のような腕ならば、また違った運用も考えられるのだが……。
笠井千恵美に関しては、思ったよりも粘り強い戦いをしている。
しかし彼女の持ち味であるキルを取っていくスタイルではない。
その原因の1つに正面で応戦しているU-15選手の存在がある。
今時珍しい肩シールドを付けただけのガトリング専。
確か岡部とかいう名前だったか。
軽量装備故の動きやすさで笠井が2連ロケットなどを構えると即発電所で射線を切る。
相手のガトリングの性能を知っているのか、自分の方が有利な距離を保っていた。
多少、変な動きをすることもあるがしっかり形にはなっている。
そんな彼女の戦い方に主導権を握られてしまっているようで、笠井は上手く切り込めないようだ。
まあ下手に切り込めば鳥安が容赦なく狙うだろうが。
何度か南側の突撃を指揮した宮島文は、良くも悪くも平均的だ。
バランスが良すぎてどこでも一定の成績は残せるだろうが、それで終わり。
まだ2年なので、このまましっかり育てばそれなりのリーダー候補にはなるだろう。
だが彼女自身の何かウリが欲しい所でもある。
そしてリーダーをやっている飯尾明日香は、即興チームを上手くまとめている方だとは思う。
適度な交代を入れつつ何度か攻撃を仕掛けては、また交代をすることで相手に次を読ませないようにしている。
そういう意味では、流石強豪校のリーダーだと言えるだろう。
だが、相手を崩せず点差も埋まらないという状況で焦りが見える。
リーダーとは最後の1秒まで逆転の手を諦めてはいけない。
もちろん無理な突撃などで逆転チャンスを自分から捨てるような行為もアウトだ。
最後まで冷静に戦えなければならない。
その点を考えると彼女は『まだまだ』と言わざるを得ない。
他の選手も評価をある程度付け終わるとU-15の選手を見る。
今、またキルを取ったのは鳥安明美。
彼女は、どちらかと言えば三島と同じく前に出る攻撃的なブレイカーだったはずだ。
それが今は違う。
相手を決めると一瞬飛び出て、あの爆発する弾を撃つ狙撃銃で素早く2連射。
そしてまたスグに下がる。
実に典型的なブレイカーの動きであり、特に珍しいものでもない。
だがその珍しくも無い典型的な動きの中で的確に『倒せる相手』を選んで『確実に2連射とも当てる』のだ。
去年の彼女の動きを見たことがある私からすれば、何が彼女にあったのか?と思ってしまう。
それぐらいに彼女は、この1年で進化していた。
白石舞や霧島アリスとはまた違う方向性ではあるが、あの2人に負けないレベルの完成度だ。
今年のU-15もやってくれるのではないか?と思わせてくれるような感じである。
―――試合終了
丁度試合も終わったようだ。
結局、3試合やって3試合ともU-15側の勝利。
1試合ぐらいは負けるだろうと思っていた私からすれば予想外の結果だ。
隔離が終わって選手達が出てくるが、その表情は対照的だ。
U-15組は、喜んでハイタッチなどをしている。
逆にU-18組は、誰もが口を開かず空気も重い。
この状況にあまり追撃をかけたくはないが、それでも彼女達のことを考えれば必要なことだ。
U-18組を集めて1人1人に良かった点と悪かった点を説明しながら試合の解析を行う。
そして最後にもう一度全員が集合しての最終練習があることを告げて解散する。
明日来るBチームは、2位・3位のメンバーを集めている。
要するに主力メンバーだと考えている選手と役割が被ったりするのでスタメンではなく控えスタートの選手だ。
なので今回の選考会の結果次第では、主力と入れ替えることも検討している。
そして明日の目玉選手は、白石舞だろう。
霧島アリスが登場するまで彼女が最強と呼ばれていた。
全国決勝戦の動画を見た限りアリスにこだわり過ぎている感じがしないでもなかったが、序盤の速攻やリーダー狙撃など負けたとはいえ十分過ぎるほどの戦果を挙げている。
そしてもう1人は、堀川茜。
琵琶湖女子との試合で大激戦を繰り広げた大阪日吉のリーダー。
彼女に指揮を執らせてみたいという気持ちがある。
佐賀大付属の飯尾が崩せなかったU-15をこの2人がどうするのかが愉しみだ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
■side:U-15女子日本代表 渋谷 鈴
最初はどうなるかと思っていた今日の選考会という名のU-18候補との対戦。
結果は、私の予想を大きく裏切る3戦全勝。
こう言ってはなんだが、U-15の連中はどいつもこいつもプライドばかりで使えない連中の集まりだった。
こんな連中と一緒に戦うなら恥をかく前に代表を辞任した方がマシなのでは?と真面目に考えるぐらいに酷かった。
だが『地獄のような試合』とやらの後、こいつらは雰囲気からして変わった。
あれだけ高かったプライドも、かなり控え目になっており正直ドッキリか何かを疑ったレベルだ。
今回、1回目の試合では後半になってビル側から仕掛けてきた相手を上手く引き込んで突進力を奪っていた。
今までのこいつらなら適当な誰かのせいだと騒ぎながら撃破されて抜かれていただろう。
アタッカーの連中も、今までグレネードなど適当に投げるしか能が無かったのに相手の突撃に合わせて投げることで足止めに使うようになった。
特にプライドの塊だったストライカーどもも、連携という言葉を覚えて無意味に前に出なくなっていた。
一番驚いたのは、岡部と明美の2人だ。
岡部は今時の超重量級の超火力路線を走る火力馬鹿だったのが180度方向展開してガトリング専という渋いチョイスになっていた。
初めて見た時は『装備忘れた?』と聞きそうになったぐらいに驚いた。
その岡部は、やたらと前に出る代表だった癖に一切前に出ず嫌らしく相手を削るベテランストライカーみたいな動きをし始めた。
まだ練習中なのか多少怪しい場面が何度かあったが、それでも劇的な変化を遂げていた。
そして明美。
獲物を追い詰める狩人のような奴だったが、深追いし過ぎて逆に狩られることもよくあった。
だが今日見たアイツは何だ?
一瞬しか顔を出さず、その一瞬で確実に獲物を倒す一撃を決める。
たまに援護に回ることもあるが、その援護も的確で途中から出てきた三島先輩が完全に抑え込まれていた。
あの爆発する弾を撃つ新しい銃に変更したからだろうが、ここまで変化があるだろうか?
まるで霧島先輩を見ているような的確なキルを量産する明美を見て、はじめて『怖い』と思った。
私が居ない時に何があったのか聞いたが、たった1日でここまで変化するのか?
そりゃもちろんその後の努力もあっただろうが……。
今回新規控え枠で来た10名は大したことはない。
だが最初から控え枠で居た5名は、明らかに進化している。
今日、U-18候補との練習試合で初めて私は明確な焦りを感じた。
今のままでは私は、下手をすれば控えに回されるかもしれないと。
「あ~、クッソ。あの時、変な手続きさえなければなぁ~」
最初聞いた時は参加しなくて良かったと思っていたが、今では琵琶湖女子との試合に参加しておけばよかったと後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます