第40話
■side:佐賀大付属3年 リーダー 飯尾(いいお) 明日香(あすか)
今年初めて呼ばれたU-18女子日本代表の選考会に私は喜んだ。
決勝戦トーナメントまでは進んだもののスグに優勝候補だった東京大神とぶつかり負けてしまった。
やはり優勝候補は別格だった。
連携が取れた鉄壁と言える防御陣形を崩すことが出来ずに苦労していた所へ、的確な攻撃が飛んでくる。
白石舞のヘッドショットは、大盾によるブレイカー対策でも止めることが出来ない。
更に足を止めて撃ち合えば、そこに上から砲撃が綺麗に降ってくるのだ。
防御を固めているはずの相手から、必殺の攻撃が飛んでくる。
まさに悪夢のような状況だった。
結局、組織力がウリだったはずがそれを活かせず敗退。
これで高校生活最後のLEGENDが終わったと思ったら、今回のチャンスである。
絶対に代表入りしてプロになるんだ。
私は、そんな気持ちで今回の試合に挑んだ。
今回はバラバラに選ばれたメンバーで即席チームを組まされて、U-15女子日本代表と戦う。
そして最後にもう1度、合同で練習するらしいがこれは恐らく『最後の微調整』だろう。
つまり最初の試合でそれなりの結果を残さなければならないのだ。
試合前に軽い顔合わせをした。
何人か知っている顔もあった。
ラッキーだったのが、私達佐賀代表を苦しめた砲撃手である東京大神の鈴木が居ることだ。
彼女が味方なら防御重視でも砲撃によって相手を潰せる。
それに去年のU-15女子日本代表だった笠井と戦績はイマイチだったが三島が居る。
残りもそれなりの強豪校出身者ばかりだ。
これなら何とかなるかもしれない。
事前の打ち合わせで私がリーダーをすることになった。
メンバーの中に他にもリーダー経験者は居たのだが、佐賀大付属のリーダーという肩書を聞いて譲ってきた。
即席チームに連携など不可能だ。
そんな状態でリーダーなどデメリットでしかないが、断れる雰囲気でもないので仕方なく引き受ける。
こちらにはU-18女子日本代表の川上監督と、それを支えるスタッフらしき人が数人居た。
全員何やら端末を操作して色々と個人的に書き込んでいるようだ。
「今回は、それぞれの能力・適性などを見てみたいので選手主導で戦闘をお願いします」
川上監督のその言葉で私達が即席で戦術を組むことになった。
「どうせ連携出来ないでしょうから、徹底して防衛からのKD戦で行きましょう。まあ多少プレッシャーぐらいはかけますが」
「なら、発電所は抑えても?」
U-15代表だった笠井さんが声をあげる。
「取れるなら取って貰えると。ただ無理して撃破されないように」
「りょ~かい」
「あと何か意見は?……無いようならこの作戦で」
「了解」
返事を終えるとみんなさっさと外に出て準備に向かってしまう。
本当に統率力の欠片もない烏合の衆だ。
「まあ去年みたいにヤバイ選手が居る訳でもないからマシか」
そしてあっとうい間に時間となったので試合が始まる。
試合は始まって全員がそれぞれ配置に就く。
さっそく笠井が前に出て発電所を制圧する。
―――レッドチーム、発電所制圧!
「このまま圧力をかけつつ、KD差をつけていきましょう!」
全体に声をかけつつ私は牽制攻撃を開始した。
最初は互いに様子見の要素が強く、あまり激しい撃ち合いにはならなかったが時間が経つごとに激しさが増してきた。
このマップは中央から南側は、相手の障害物までの距離が長く安易に詰めることが出来ない。
そのため発電所側からジワジワ詰めるか、何かしらの作戦で中央や南を動かすしかない。
もしくは最南の通路でタイマンが発生して、それに味方が勝利し裏取りを行うかぐらいだ。
だから発電所側から圧力をかけた笠井の判断は正しい。
しかしそれ以上にU-15女子日本代表を心のどこかで格下に見えていた自分が居た。
そのせいで対応が遅れてしまった。
開始10分ほどは点数も動かず大人しいものだったが、それ以降がダメだった。
「悪いけど交代!」
交代申請を出してブレイカーの子を下がらせて、同じくブレイカーの三島を出す。
しかしそれから更に20分ほど経過するも状況は良くならない。
*画像【市街地:U-15戦】
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「あー!クソッ!耐久3割切った!下がる!」
「はぁ!?またなのっ!?」
三島が下がるという言葉に笠井がキレる。
ある意味仕方が無いだろう。
自分が一度も下がっていないにも関わらずその後ろに居るブレイカーが下がると言い出すのだ。
しかもこれで3度目である。
「最前線に居るストライカーが戦い続けてるのに、そのはるか後ろに居るブレイカーさんは気楽なもんだね!」
「なら笠井!アンタ正面崩してみなさいよ!」
「アタシは既にプレッシャーかける役割こなしてるでしょ!」
「チッ、うっさいんだよお前ら。喚くならせめて1キルでも取ってから喚け」
笠井と三島の喧嘩に鈴木まで割り込んできた。
同じU-15メンバーだった3人だが、仲が悪いのか?
「うっさいんだよ、鈴木!後ろから砲撃するしか出来ない癖に!」
「はっ!未だ1キルすら取れてない最前線ストライカーに言われたくないね!U-15なんて楽勝とか言ってませんでした~?」
「そうよ!正面のガト専1匹まだ仕留めてもいない癖に人のことよく言えるわ!」
「うるさいんだよ、下手くそブレイカー!だから鳥安一人に良いようにやられてるんだろうが!」
「はぁ!?正面何度削ってあげたと思ってるのよっ!?にもかかわらず一度も仕留めれてないじゃない!!」
「3割削ったぐらいでデカい顔するなよ!」
「こっちは砲撃でお前らの食い残しを処理してやってるんだから、むしろ感謝して欲しいわ!」
「アンタもちょっと撃破取ってるからって調子乗ってるんじゃないわよ!」
「鳥1匹仕留められないどころが抑え込まれてるブレイカー様は、言うことが違いますね~!」
喧嘩は、どんどんエスカレートしていた。
いや、そんな感想を抱いている場合じゃない。
「喧嘩をするなっ!お前ら!このまま負けたいのかっ!?」
思い切って怒鳴ると全員が黙った。
まったく、私達は運命共同体だ。
ここで足の引っ張り合いなどしている場合ではないのだ。
「南側、何とか仕掛けられない?」
「下手に仕掛けるとバランス崩れて大変っすよ~?」
確か宮島だったかな?
彼女が返事をする。
「押し込めない?」
「良くて相打ち。悪くて負け越しっすね。相手は南で勝負する気が無いみたいっす。何しても誘いに乗らないっすから」
「……そう、わかった」
通信を終えると私は考える。
このままでは危ない。
思わず点数を確認する。
U15:960
U18:910
こちらの撃破は全て鈴木の砲撃によるもの。
対して相手の撃破は、全て相手リーダーの鳥安によるものだった。
本来なら笠井と鈴木の砲撃で上側をこじ開ける予定だった。
そこにブレイカーも入れればいけるだろうとも思っていた。
だが上側に居る相手ストライカーが意外としぶとい。
左肩に盾を装備したガトリング1本しか持たないガトリング専。
最近ではほとんど見ることが無くなったスタイル。
まさかU-15でそんな『渋い』装備をしている選手が居るとは。
定期的にちょっかいをかけてくる正面のサポーターも目障りだが、そればかりに注意する訳にもいかない。
気づけば連続で2発、爆発する弾を撃ち込まれる。
あんな狙撃銃あったかな?などと思いながらも相手リーダーの鳥安がまた狙撃場所をウロウロしていた。
先ほどから三島を含め、隙あらば撃ち込まれる狙撃で一気に耐久値を削られる。
そこまで強力ではないものの、流石に2発食らうと結構なダメージになる。
しかも弾は爆発するのだ。
盾すらも関係なく爆風によって削られるのが痛い。
撃ち合いに集中し、耐久値がもうそろそろ半分になりそうかなというタイミング。
まさにこれから引こうという瞬間に狙撃され、一気に撃破されてしまうのだ。
スグそれに気づいて『耐久値7割以下で撤退』と厳命するが、どうしてもそれ以下になってしまう場合がある。
それを相手の鳥安が見逃さない。
確実に2発当てて撃破してくる。
これによりブレイカーの子が、撃ち合いに負けて何度も撃破された。
それだけに留まらず上側の援護をしている子や中央の子まで耐久値が減った瞬間を狙撃されて落とされる。
笠井だけがずっと粘っている所を見ると、彼女だけは他とレベルが違うのだろう。
流石にマズイと思って温存しておいた三島を投入した。
しかし鳥安を止めるために投入したはずの三島は、実力差なのか逆に抑え込まれる始末。
まあ交代した子とは違い撃破までされることが無くなったので、点数差がこれ以上酷くならなくなったのは幸いだが……。
現状、鈴木のおかげで何とか50P差に収まってはいるが、非常にマズイ展開だ。
いくら即席チームとはいえ、相手もそこまで練習量があるとも思えない。
そんな状態でU-15にU-18候補がここまで押されるのか?
「悪いけど何人か交代して貰うわ!準備して!」
下側の数名を入れ替えて下側から仕掛けるしかない。
上側を入れ替えても良いが、笠井や鈴木を変更する訳にもいかない。
変更しても三島ぐらいだろう。
1人変更して上の環境を変えるぐらいなら、下側を思い切って入れ替えて仕掛ける方が分はある。
「ここで負ける訳にはいかない!何としても勝つわよ!!」
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