第39話
■side:鳥安 明美
「という訳で、この辺でどーん!と火力をぶつけてだね~」
久しぶりというべきなのか、また出たというべきなのか。
目の前では、去年U-15女子日本代表を優勝に導いた監督が作戦説明をしていた。
相変わらず『どーん』『ずがっ』『がつん』など擬音が多い。
話し方も少し変だし擬音も多い不思議ちゃん。
本人には決して言えないが、私としてはそんな感じの評価だ。
で、何故今更作戦の説明をしているのかって?
そりゃ前の監督の置き土産が進化したからですよ、ええ。
アリス先輩に喧嘩を売って、それがそのままU-18選考会に利用されるなんて話が出ていた。
それはもちろん前の監督が辞任したことにより消滅したと思っていた。
……まさかそれが生き残っているどころか進化しようとは。
元々は選考会メンバー全員集合しての1日試合を何度かして~って流れだった。
それが今では、ルール改定に伴うU-15の控え10名を選ぶ場にもなっている。
そのため現在、前の時に選ばれなかった子達で今回控えスタートでもいいから参加したいという子を再度募集した。
すると落選した子の9割ほどが再度集まったのだ。
おかげで私達もこの控え選手をお試ししながら試合をすることになった。
ただ私が文句を言いたいのは、これだけではない。
今回のU-18との互いの選考会を含んだ試合は、何と4日間やることになっている。
しかもU-18側は、1日ごとに1チームづつの3日間3チーム。
そして最後に3チーム全部を統合した総合練習を1日の計4日間。
だがこちらは4日間全てを私達が戦い抜かねばならない。
いくら控え選手選びだからといっても選抜メンバーが全員休んで~なんてことはないだろう。
つまり下手をすると4日間フル出場しなければならなくなる。
「いつの間にプロリーグに参加したのか」
そう言いたくなるほどのスケジュールである。
いや、プロだって4連続の試合ともなれば色々人を入れ替えるだろうよ。
今回10名という大幅なベンチ枠拡大によって人の入れ替えが容易になった反面60秒制限もあるため限定的スイッチなどの戦術が使えなくなった。
そしてLEGENDとしても『もっと色んな選手で盛り上がって欲しい』という感じではないだろうか。
個人的にもそっちの方がありがたい。
最近マスコミの取材が来ると、必ずリーダーだからと応じなければならない。
そして必ず聞かれる『今年も優勝出来ますか?』『霧島アリスや白石舞をどう思いますか?』というテンプレ質問。
現時点で優勝出来るかなんてわかる訳がない。
『仲間と共に頑張っていきたいと思います』ぐらいしか答えようがない。
そしてあの2人をどう思うと聞かれても『天才だと思います』ぐらいしか答えようがないよ!
こういう下らない質問でもマスコミに取材されたいなんて変な子は、チームにいっぱいいるのだからそっちに声をかけろよと言いたい。
そんなことを考えている間にも監督の変な擬音連発の作戦とも呼べない何かが延々と語られている。
「ここまで押し込めばあとは前からビシビシと押しつつ後方からもバババッっと攻撃しながらどーんと行けば終了だね」
『ここまで追い込めばあとは前から【ビシビシ】と押し込んで後方からも【バババッ】っと援護しながら【どーん】と行けば終了だ』
何気なく言いたそうなことを予想してみたが、まあこんなものだろう。
いつも似たようなことしか言わないのだから。
これをよく谷町先輩は理解して、あそこまで運用出来たなと感心する。
今度は、それを私がやらなければならない時点で悲しくなってくるが逃げようがない以上何とかするしかない。
今回1日目に選ばれたマップは、市街地だ。
*画像【市街地:初期】
<i526147|35348>
ここはG.G.G製の最新型多脚戦車『スパイダー』が乱入してことでも有名になったマップである。
あの時は、この南側にそびえ立つビルを倒壊させて身動きを封じた。
そして未だ抵抗を続けるスパイダーをアリス先輩がゼロ距離で零式ライフルを撃ち込んで仕留めた。
もしあれが自分の身に起こったならどうしただろうか?
「……まあ無理だよね」
そう、あれは琵琶湖女子がおかしいのであって普通なら青峰のように一方的に蹂躙されて終了なのだ。
とてもではないが、どうこうしようとすら思わないだろう。
それから監督のありがた~い演説も終了して、自軍ベンチへと一斉に向かう。
ミーティングルームから外に出ると相手側もゾロゾロと移動していた。
1日目に呼ばれたU-18候補の人達だ。
佐賀県立大学附属の飯尾に奈良大東院に行った元U-15で一緒に戦った笠井先輩。
あれって確か大阪日吉の宮川?……ああ、宮島。
そう、宮島 文だ。
あ、U-15で一緒だった三島先輩も居る。
あそこの人、どっかで見たんだよなぁ~。
……思い出した!
確か宮城の―――
「久しぶり、鳥安」
相手のチェックをしていると、突然後ろから肩を叩かれる。
驚いて振り返ると東京の大神に行った鈴木先輩だった。
「ビックリした~!脅かさないで下さいよ~!」
「この程度で叫ぶなよ」
この先輩。
見た目は可愛い系の人なのに何故か口調が超キツイ。
さながら『毒舌系少女』だ。
「で、何してたの?」
「対戦相手に誰が居るのか気になったのでチェックを」
「相変わらずね」
「先輩が居るってことは、今回は砲撃警戒ですね」
「……解らないよ?もしかしたらガトリングで最前線に居るかも」
「あははっ!流石にそれは無いですよ~!」
「……今日、絶対焼き鳥にしてやる」
「ええっ!?ちょっと先輩!!今のどこが地雷だったんですっ!?」
突然意味不明なキレ方をした鈴木先輩は、早々に去っていってしまった。
「えぇ~……」
意味解んね~と思っていると、またも後ろから声をかけられた。
「今のは明美が悪い」
振り返るとそこには私と同じぐらいの背丈のスレンダー美少女である『渋谷(しぶたに) 鈴(すず)』が居た。
彼女は私と同じで去年U-15に呼ばれた1人だ。
4試合に出場して12キル6デスという記録を残したサポーターである。
そして我々現U-15代表の中で『裏切者』とされている子でもある。
何故裏切者なのか?
それは、この前の魔お……アリス先輩率いる殺戮マシーン軍団との戦いに彼女は参加していないのだ。
その時偶然、手続きやらなにやらで日本LEGEND協会に行かなければならなかったらしく居なかった。
そして次の日にあの地獄のような試合と突然の監督辞任劇を説明すると大爆笑しながら『その場に居なくて良かった』と言い出した。
あの先輩達の徹底した殺戮行為にほとんどの子達がプライドをへし折られたというのに、彼女だけ平然としている。
そりゃみんなに裏切者だと言われるのは仕方が無いだろう。
更に言えば彼女も私と同じくプライドの高い連中に呆れていた1人だ。
しかも空気を読まない。
だから堂々と『そんなのアンタらが弱いから押し込まれて負けただけでしょ』と言い放つ始末。
いや~、3日ほど色々荒れたね。
それを仲裁しなきゃならない私の身にもなって欲しかった。
唯一の救いは、彼女は実力者であり腕で黙らせることが出来るという点だ。
まあそんな騒動もあり、最近ようやく彼女も周囲との関係が修復されつつある。
「地雷を踏んだってことまでは解るんだけどね……」
「だって鈴木先輩って元は迫撃砲なんて持たずに前に出るタイプのストライカーだったの。でも最前線で戦い続けるだけの技量が無くて後方支援に回った。そこでたまたま出会った砲撃で才能が開花したって感じ。だからきっとまだどこかで最前線で戦うストライカーに憧れが残ってるんじゃないのかな?」
「……ああ、なるほど。それなら確かに今のは私が悪いわ」
LEGENDというスポーツは、上を目指そうとすると必ず壁にぶち当たる。
その壁は『好きだから』という気持ちだけでは決して登ることが出来ない壁なのだ。
そして大半のプレイヤーは、その壁を超えることが出来ず……やがて知るのだ。
『自分には才能が無い』という非情な現実を。
きっと鈴木先輩もそんな壁に一度は屈してしまった人なのだろう。
その気持ちは嫌というほど解る。
私だって常に目の前には『霧島アリス』『白石舞』という双璧が立ちはだかっているのだから。
「まあしんみりするのはいいけど、手加減はしないでよ?」
「当たり前でしょ、そんなの。むしろ手加減出来るような人なんて1人も居ないわ」
対戦相手はU-18に入れる実力を持つものばかりが集まっているのだ。
それに対して手加減など出来る訳がない。
何より―――
「今、私がどこまでいけるのかも試したいからね」
「そうこなくっちゃ」
二人でお互いを見合って笑う。
相手が誰であろうが全力を出すだけ。
今度は、この前の練習試合のような無様な姿だけは見せてはダメだ。
あれからみんなを鍛えてくれた琵琶湖女子の先輩方のためにも。
何よりそこから更に死ぬ気で練習した私達のU-15女子日本代表選手としての誇りのためにも。
「新生U-15女子日本代表。舐めてかかると痛い目見ますよ、先輩方?」
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