第34話
■side:U-15女子日本代表 岡部(おかべ) 奈緒子(なおこ)
中学生最後の年。
私はついに念願のU-15女子日本代表となった。
去年は選考会で惜しくも落選。
あの時は悔しくて悔しくて堪らなかった。
その悔しさを練習にぶつけ、ようやく今年それが報われたのだ。
これで私は世界に挑める。
そう……テレビで見ることしか出来なかったあの場所へ、ついに私は行くのだ。
代表リーダーは『鳥安 明美』。
彼女は日本の悲願だった世界大会優勝という結果を持ち帰った去年のU-15女子日本代表でもある。
リーダーになれなかったのは仕方が無い。
彼女は実績もあるし、何より二年連続で代表入りしている数少ない選手の1人だからだ。
テレビで彼女の腕前も見ているので、そこに関しての疑問もない。
むしろ強力な仲間として共に世界に挑み……そしてまた優勝という結果を日本に持ち帰るのだ。
そう思っていた所で監督から練習試合の話が出た。
相手は高校生大会優勝チーム。
しかもあの霧島アリスが居るチームなのだ。
話を聞いた時は、思わず身震いをした。
世界最強の1人に数えられる天才ブレイカー。
あの白石舞よりも強いとさえ言われている。
実際に世界を相手に戦った選手と戦える……。
これは絶好のチャンスだ。
ここで良い戦績を見せることが出来れば、今なお起こっているレギュラー争いも決着するだろう。
そうなれば私は、全試合に出場しそこで活躍。
優勝トロフィーを持ち帰る私を日本中が大歓声と共に―――。
「―――お前達の力を見せつけてやれ!」
「了解!」
おっと気づけば監督の挨拶が終わっていた。
私はミーティングルームを出ながら改めて今回、監督が決めた作戦を思い出す。
私達はブルーチームとなった。
*画像【研究所:初期】
<i531645|35348>
今回のマップは研究所。
見ての通り変わった形のマップだ。
発電所が大きく離れており発電機を占拠してから押し込むのが手間である。
しかし復帰したメンバーなどが即相手司令塔へ仕掛けることが出来るという側面もある。
そして中央が意外と乱戦になりやすい。
また一歩間違えば完全包囲を食らいかねない危険なマップでもある。
そんなマップの特徴を活かした戦術を監督は考えていた。
*画像【研究所:監督戦術】
<i531646|35348>
まずリーダーの鳥安ともう1人軽量装備のアタッカーが開始と同時に全速力で発電所に向かう。
相手は中央を抑えるか発電所を目指すだろうが、こっちは最速のブレイカーと速度重視のアタッカー。
こちらの方が圧倒的に早く発電所にたどり着くだろう。
そして素早く発電所を占拠してゲートを解放する。
その頃、スタートしてから少し様子を見てから残り8人が一斉に相手司令塔へ総攻撃を仕掛ける。
司令塔への防御など開幕なら1~2人ぐらいだ。
一気に踏み潰し、空いたゲートからそのまま司令塔になだれ込んでの一斉攻撃。
8人による攻撃だ。
一瞬で相手のポイントが吹き飛んで終わるだろう。
監督がこれを説明するとミーティングルームの誰もが驚きの声を上げた。
私もこれほど見事な作戦を見たことが無い。
「まずこの作戦で開幕、挨拶として1勝貰う。相手のプライドを叩き折ってやれ!」
堂々とそう宣言する監督の何と頼もしいことか。
相手チームもミーティングが早く終わったらしく早々に準備をはじめている。
「……あれが霧島アリス」
テレビで見たことがある顔だ。
同じ女としても羨ましいぐらいの美少女である。
聞いた所によるとLEGENDをプレイしてからまだ1度も撃破されたことがないとか。
「いいわ、いいわ!ここで私が彼女を落とせば私の実力が示せると同時に世界中が私に注目する!」
本当に今日の練習試合は、運が良いとしか言えない。
ここから私の伝説が始まるのよ!
時間になり全員がVR装置の中に入る。
ベンチと周囲も隔離された。
装置の中で準備を終わらせてシートにもたれかかる。
VRが起動し、仮想現実の世界に転送される。
そしてカウントダウンが開始された。
この試合が始まる前の緊張感は癖になる。
―――試合開始!
開始のアナウンスと同時にリーダーの鳥安ともう1人が作戦通り全力で発電所を取りに行く。
私達は作戦がバレないよう、少しだけ時間を置いてから敵司令塔へと攻め込んだ。
味方の1人がレーダーを設置する。
そこには予想より1人多い、3人の反応が見えるが関係ない。
このまま押しつぶせばいいだけだ。
―――ブルーチーム、発電所制圧!
「よし!このまま―――」
勢い良く前に突撃しようとした瞬間だった。
一瞬何かがチラついたかと思えば、目の前には復活カウントの表示。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :岡部 奈緒子
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
「……うそ、でしょ?」
■side:琵琶湖女子1年 南 京子
試合開始の合図と共にみんなが走り出す。
私は一応半包囲されないようにということで司令塔付近を晴香ちゃんと防衛することになった。
なので2人でゆったりと配置に就く。
このマップは、基本的に中央で乱戦になりやすい。
発電所付近を抑えても中央で粘られれば意味が無いし、何より中央を完全に取られると発電所側が完全孤立する。
そのため発電所よりも中央を抑えようとする形になりやすく、互いに戦力が集中しやすい。
私達の役目は、可能ならばこちらから中央にプレッシャーをかけることで―――
「―――相手速攻!たぶん司令塔に総攻撃来るッ!!」
突然、普段は出さないような厳しい声でアリスちゃんが指示を出した。
「え?」
「はい?」
「ちょっと……」
U-15でも1度だけしか指示を出さなかったアリスちゃんが、突然指示を出したのだ。
指示内容よりもそっちの方が衝撃的だったのか通信が混乱している。
「ああ、もう!千佳、司令塔防衛!新城先輩はオマケ連れて中央!残りは発電所半包囲!!」
かなり怒っている感じの指示に思わず全員が返事をして走る。
その直後、相手側から集団が一気に走ってきた。
―――ブルーチーム、発電所制圧!
なるほど、そういうことか。
何となく相手の作戦を理解しながら隅に陣取った晴香ちゃんの足元に弾薬パックを滑らせるように投げる。
何処まで耐えきれるか解らないけど、ここは死守させて貰うわ!
私はマシンガンを構えて撃ち―――
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :岡部 奈緒子
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
「……練習試合だって言ったのに」
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :橋田 三美
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
「『戦術』が試したいなら他でやれっての」
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :和田 麗美
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
「あの馬鹿、一度追い詰めなきゃわかんないみたいだね」
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :曽野 純子
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
「ホント、くだらないことを……」
あー。
久しぶりに見た。
二度だけU-15の時にあった。
何が気に入らなかったのか知らないけども、アリスちゃんが切れたのだ。
その内の1つは、香織ちゃんに『攻め込む必要なし。リーダーだけ残して全部狩り続ける』って言い出して相手リーダーのみ武器だけを撃って飛ばし続けた。
そして復活したリーダー以外の選手は全て姿を見せると同時にヘッドショット。
最初は相手リーダーも怒って何とか反撃しようと奮起していたが最終的には心が折れてその場で泣き崩れ、他の選手も戦意を喪失してその場から動かなくなった。
そこまでやってようやく司令塔を破壊して終了となった。
2つ目もたった1人で敵陣に切り込んで10人全て倒してしまった。
その後、全員復活してリスキル防止の3秒間の無敵時間が終わると同時にヘッドショット。
これを繰り返した結果、相手選手全員が復活拒否をして戦場外から帰って来なくなった。
VR装置の中では少女達が泣き叫ぶ声が響いたらしい。
LEGENDのルール改定にまでなった前代未聞の事件だ。
未だ通信越しに小声で文句を言い続けるアリスちゃんに誰も何も言えない。
U-15で経験している私や晴香ちゃんですら言えないのだ。
これに初めて出会う他のメンバーでは声のかけようがないだろう。
私達は微妙な空気の中で、それでもちゃんと試合をするべく相手を押し返していく。
■side:U-15女子日本代表リーダー 鳥安 明美
もしこれが夢ならば、早く覚めて欲しい。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :岡部 奈緒子
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
いきなり流れた特殊キルアナウンス。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :橋田 三美
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
そのアナウンスは、まるでログが更新すると必ず鳴り響く装置と化していた。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :和田 麗美
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
一体誰だろう、アリス先輩がここ最近不調だなんだと言っていたのは。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× U-15代表 :曽野 純子
〇 琵琶湖女子:霧島 アリス
とりあえず1つだけ確実に言えることがある。
それはもちろん。
「―――アリス先輩が切れてるぅぅぅぅぅぅ!!!」
私の脳裏には、あのU-15の惨劇が思い出される。
日本の圧勝に湧いた日本のファンですら一部から『やり過ぎ』だ『なぶり殺し』だと非難された例の事件だ。
世の中のアリス先輩は、あまり話をしない大人しい人というイメージがあるらしい。
だが一緒に戦ったみんなは知っている。
あの人の中には、得体のしれない凶暴な何かが居るのだ。
その『何か』の機嫌を損ねると、洒落にならない虐殺が始まってしまう。
普段、正面から突っかかってくるようなのには見向きもしない。
なのにたま~によく解らないことで切れる。
U-15の選考会でも何がそんなに気に障ったのか、1人のアタッカーが練習試合でアリス先輩にひたすら狙われ続けて泣き出した。
そりゃ1試合中に20キル以上も決められれば心が折れるよ。
だからアリス先輩を知っている人は、絶対にアリス先輩を怒らせない。
決して悪い人じゃない。
それは誰もが解っている。
でも、みんなアリス先輩には慎重に対応してしまう。
逆に堂々とアリス先輩に文句が言えたのは、谷町先輩ぐらいじゃないだろうか?
前から押し寄せる敵を牽制しつつ発電所を放棄するも、どう頑張ってもここから巻き返せるとは思わない。
だって今、確実にアリス先輩が切れていると思われる状況なのだから。
「―――ははっ、私の人生もここまでかなぁ」
*画像【研究所:対応】
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