第26話






■side:琵琶湖スポーツ女子学園1年 安田 千佳






「はぁ、はぁ、はぁ」


 息苦しさを感じながらも必死に考える。

 残り時間も僅かになった段階で相手が一斉に攻め込んできた。


 私は何度も銃を撃った。

 半分も当たらなかったけど、ちゃんと当たった弾もある。

 なのに相手が下がらない。


 ……怖い。


 顔を出すと撃たれる。

 銃を当てても死なない。

 それどころか凄い顔をしながら迫ってくる。

 私は、ずっと練習を頑張ってきた。

 試合でもとにかく撃てば良いと言われて銃を撃ち続けてきた。

 あのでっかい機械が出てきた時も、怖い気持ちを必死に抑え銃を撃って当てた。


 ずっとずっと頑張ってきた。

 なのにどうして今、こんなに苦しいのだろう。

 みんなが通信で必死に叫んでいる。

 みんなのこんな必死な声を聞いたことなんてない。

 どうしたら良いの?

 もしかして私が悪いの?

 また知らずにみんなの足を引っ張ってるの?


 怖い。

 苦しい。

 ……そして悔しい。


 そんな中、恵理ちゃんと灯里ちゃんが通信で何かを言い出した。

 2人とは同じ初心者同士頑張ろうと毎日のように励まし合っている仲だ。

 その2人が先輩達に必死に頭を下げ、そして何とかしようと動き出した。



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:宮本 恵理

 〇 東京大神 :大野 晶



 ◆キル

 × 東京大神 :西井 愛

 〇 滋賀琵琶湖:三峰 灯里



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:三峰 灯里

 〇 東京大神 :大野 晶



 キルログが更新されるたびにビクっとしてしまう。

 あの2人は、私と違って恐怖に負けず突撃をした。

 敵をちゃんと倒した。

 ……ちゃんと諦めずに戦った。



 ◆キル

 × 東京大神 :大野 晶

 〇 滋賀琵琶湖:藤沢 花蓮【L】



 ―――そして結果をちゃんと残した。


 私だけ……またお荷物だ。

 無力な自分が情けなくなる。

 スグに逃げてしまう自分が許せない。

 何より一緒に頑張ろうと言っていた2人は、既に自分とは違ったのだ。


 ずっと一緒だった恵理ちゃん。

 同じく初心者で目立った活躍が無い灯里ちゃん。

 この2人は、私と同じくお荷物だと思っていた。

 同じ人間が居るんだと安心していた。

 でもそれは私の思い込みだったのだ。

 とっくに2人はちゃんと自分の足で歩き、自分の道を見つけていたのだ。

 対して私は、比較的安全な高台で今も何も出来ずに居る。


 試合中なのに思わず泣きそうになる。

 泣いちゃダメだと分かっていても気持ちが高ぶってしまう。


 そんな時だった。


 いきなり肩を叩かれ驚きながら相手を見る。


「……アリスっち」


 相手は、反対側の高台に居るはずの人物。

 私が夢見る理想をある意味体現している人だった。


「時間が無いから用件だけ言うね」


「へ?」


「1回しか言わないよ?聞き逃さないでね」


「一体何を……」


「ほら、あの反対側の高台あるでしょ?あそこにもうスグ1人相手が出てきて背中向けると思うから、頭を狙って撃ち抜いて」


「……それは、アリスっちがやれば―――」


「時間が無いって言ったでしょ。それに私はやることがあるの。心配しなくても一旦停止もしてくれる優しい相手だから」


「そんなの私には―――」


「じゃあ任せたわよ。心配しなくても外したからって誰も文句言わないわ」


 そう言ってアリスっちが私の肩を叩く。


「前に言ったわよね。アナタは自分のしてきた努力を自分で否定するの?」


「……私は―――」


「じゃあ、もう行かないと」


 そう言ってアリスっちは、走って何処かへ行ってしまった。



 ―――残り時間 1分



 私だって諦めたくない。

 私だって活躍したい。

 みんなの役に立ちたい。

 頑張ったねって認めて貰いたい。

 例え……みんなのように上手く出来なくても。

 

 私は……私は―――


 銃を構える。

 アリスっちが言った通り誰かが高台に登ってきて背中を向けた。

 スコープを覗く。

 相手が止まった。


「―――私はッ!!!」


 気づけば引き金を引いていた。

 先ほどまで狙いをつけていた相手がゆっくりと倒れ光の粒子となって消えていく。



 ―――ヘッドショットキル!


 ◆ヘッドショットキル

 × 東京大神 :白石 舞【L】

 〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳



 更新されるキルログ。

 それが理解出来ずに呆然とログを見る。

 やがて少しづつそれを理解し始めると、思わず力が抜けてその場で座り込んでしまう。


「……私が、倒した?」


 今までずっと取れなかった撃破。

 ロクに弾が当たらず当たった所でダメージが入るだけ。

 だからずっとなりたかった。

 アリスっちのように一撃で相手を倒す凄い選手に。

 ずっと夢見ていた。

 いつか私も一撃で相手を倒すのだと。


「……やっだぁ…わだじやっだよぉぉぉぉ!!」


 気づけば私は、号泣していた。

 LEGENDをやってきて初めて取った撃破。

 そして初めてのヘッドショット。


「えりぢゃぁぁん!わだじぃやっどみんなどやぐにだでだよぉぉぉぉ!!」


 もう何も考えられなかった。

 ただひたすらに私は泣いた。






■side:私立大神高等学校1年 谷町 香織






 ―――ヘッドショットキル!


 ◆ヘッドショットキル

 × 東京大神 :白石 舞【L】

 〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳



「はぁっ!?」


 正面で新城梓とやり合っていた私は、突然流れたアナウンスとログに思わず声をあげた。

 白石先輩がやられたッ!?しかもアリスじゃないッ!?

 混乱しそうになる頭を振って正面を見据える。


「まだだッ!まだ終わっちゃいないッ!!」


 前に出ようとすると後ろからミサイルが飛んできて新城を追いかける。


「復帰した!援護する!」


 後ろから大声でそう叫びながら仲間が2人走ってくる。

 増援を確認してそのまま押そうと思ったら、ふと横から音が聞こえた気がしてそちらを見るとアリスがこちらにライフルを構えていた。


「チッ!」


 とっさにガトリングを持ち上げて盾にする。

 その瞬間、ガトリングに弾が当たった音と衝撃が手に伝わってくる。

 ガトリングを構えるとアリスは、さっさと逃げ出す。


「まだ20秒近くあるッ!まだ試合は終わってないッ!!最後まで諦めるなッ!!1発でも多く相手に撃ち込めッ!!!」


 私は、通信障害など気にせず直接大声でそう叫びながらガトリングを撃ってアリスを追い回した。







■side:琵琶湖スポーツ女子学園2年 新城 梓






 ◆ヘッドショットキル

 × 東京大神 :白石 舞【L】

 〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳


「おおっ!?」


 このキルログを見たとき交戦中に関わらず思わず2度見してしまった。

 そして点数がひっくり返ったことに気づいて思わず顔がニヤける。


「よくやったよ、安田ちゃん!」


 未だ通信障害だけどそう言わずに居られなかった。

 撃ち合いをしていた相手の後方から増援が走ってくる。

 恐らく復活した連中だろう。


 ギリギリ届くかという辺りからいきなりミサイルを撃ってくる。

 もう残り時間も無い。

 とにかく何でもいい、マグレ当たりでもいいからとにかく撃ってきたといった感じだ。

 後ろに下がって障害物を盾にしようと思った瞬間、壁に足をぶつけて体勢を崩してしまう。


「チッ!こんな時にッ!!」


 つまらないイージーミスだ。

 だがそのせいでミサイルが避けれない。


「先輩ッ!援護しますッ!!」


 突然誰かが前に飛び出してきてミサイルに当たる。


「……ははっ、助かったよ宮本ちゃん」


 それは大盾を構えた宮本ちゃんだった。

 復活が間に合ったのだろう。


「援護します!下がって下さい!」


 三峰ちゃんが援護射撃をしてくれる。


「あと少し粘れば勝ちだよ!!」


 お互いに大声で声を掛け合いながら粘る。

 相手も時間が無いから我武者羅に突っ込んでくるが、こちらはそれを許さない。

 次々と復活してきた相手が走ってくるが、こちらも次々と仲間が復活して援護に回ってくれる。


 そして数十秒などあっという間に過ぎた。



 ―――試合終了



 時間切れによる試合終了のアナウンスが鳴り響く。


 全国女子高生LEGEND大会決勝戦。

 東京都代表:私立大神高等学校 対 滋賀県代表:私立琵琶湖スポーツ女子学園の試合。

 850 VS 870 という僅差で、琵琶湖スポーツ女子学園が勝利を収めた。






■side:琵琶湖スポーツ女子学園1年 霧島 アリス






「ふぅ、終わった」


 現実世界へと戻った私は一度は上半身を起こしたものの、そのまま再度シートに倒れ込む。

 U-15の時は、好き勝手に動いた。

 だからこそあの時は、私がみんなを勝利に導いたんだという気持ちがあった。

 でも今回は違う。

 一人の選手としてチーム全員と連携しての勝利を目指した。


 ふと前世を思い出す。

 最初は一人で戦っていた。

 自分の身を護れるのは自分だけ。

 それがいつしか誰かと共に戦うようになり、気づけば人を率いて戦っていた。


「―――仲間、か」


 悪い気分ではなかった。

 このまま何とも言えない心地が良い気分に浸っていたかったが、ふとVR装置のドアを叩く音がする。

 苦笑しながら私はVR装置から外に出る。


「アリスちゃん!」


 いきなり京子ちゃんが泣きながら飛びついてきた。

 その後ろには、同じく笑顔の晴香が立っている。


「アリス!」


 晴香が片手を上げる。

 私も片手を上げる。


 そしてお互いに手を相手に叩きつけるようにハイタッチをした。


「みんな!最高の試合だったわ!」


 後ろからやってきた監督も既に目には涙が浮かんでいる。

 監督の声を聞いて京子ちゃんが離れた。


 少し離れた所に他のみんなが集まっていることに気づいて近づくと元気の良い泣き声が聞こえてくる。

 みんな泣き顔だったり泣いた後があったりしているが、一人だけずっと泣いていた。


「うわぁぁぁぁん!ありずっぢぃぃぃぃぃ!!」


 ガチ泣きしていたのは千佳だった。

 こちらを見つけるとそのまま抱きついてきた。

 あまりの泣きっぷりに若干引き気味ではあるが、気持ちは解らなくはないので好きにさせる。


 そしてベンチと会場の隔離が終わり接続されると、会場からの大歓声が一気に届く。


「良い試合だった!」

「ありがとう!感動した!」

「熱かった!」

「最高だったぜ!」

「思わず泣いた!」


 観客からの声援にみんなで手を振ると、更に歓声が強くなる。

 そしてようやく千佳が離れたと思ったら見知った顔が近づいてきた。


「はぁ、負けたわ」


 やってきたのは香織・桃香・晶の3人だ。

 私は手を差し伸べる。


「良い試合で面白かったわ」


 香織は苦笑しながら手を握って握手に応じてくれる。


「私も何だかんだで愉しかったわ」


 次に桃香と握手をする。


「もうちょっとで勝てたんだけどなぁ~」


 最後に晶と握手をする。


「来年は、絶対私達が勝つからね!」


 そう言うと3人は、スグに自軍ベンチへと帰っていった。

 その3人を見送った私は振り返ってみんなに告げる。


「それじゃ、帰りましょうか」


「了解!」






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