第24話
■side:東京私立大神高等学校 谷町 香織
試合開始のアナウンスと共に合図が会場に鳴り響く。
「……ついに始まったか」
予定している位置に走りながら呟く。
そして全員が配置に就くと同時にレーダーが展開された。
すかさず全体マップをチェックする。
*画像【工業区:開始】
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配置を一瞬で頭に入れ、さあと思った瞬間。
「北側! スモークが投げ入れ―――」
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
X 滋賀琵琶湖:三峰 灯里
〇 東京大神 :白石 舞【L】
―――バックアタックキル!
◆バックアタックキル
X 東京大神 :石井 美羽
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
「チッ!北側に回るッ!!」
晶が通信で叫ぶ。
動きが早い!
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
X 滋賀琵琶湖:宮本 恵理
〇 東京大神 :白石 舞【L】
―――バックアタックキル!
◆バックアタックキル
X 東京大神 :江里口 華
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
「北の援護は不要ッ!!」
晶が動いた瞬間、白石先輩が通信で叫ぶ。
「……了解」
明らかに渋々といった返事で前線に戻る晶。
確かに今、北にアリスが攻め込んできている。
だがアリス以外が北から攻めてきたらどうするんだと。
「……はぁ」
思わずため息を吐く。
これは全国女子高生LEGEND大会の決勝戦。
白石先輩だけでなくチームメイト全員が色んな思いと共に、この場で戦っている。
勝ちたいのはみんな同じなのだ。
それを個人的な欲求を優先するなど話にならない。
白石舞だけの決勝戦ではない。
私達、私立大神高等学校LEGEND部全員の決勝戦だ。
「……」
本当に迷惑だ。
結局アリスはそのまま前に出ることなく下がったが、晶もさっきから不機嫌さを隠そうともしない。
「……状況変化してるのに指示無いの?」
誰もが無言の中、中央に大型迫撃砲を撃ち込んでいた桃香が通信を入れる。
「そんなの復帰まで北警戒しつつ防衛に決まってるでしょ!」
苛立っているような声で白石先輩が返事をする。
その通信に思わず舌打ちをしてしまう。
アンタ自身が北の援護不要って言ったんだろ!
何が北警戒しつつ防衛だよ、バカにしてんのか!!
前に出て腹いせに大型ガトリングを撃ちまくる。
確かに開幕の一瞬の緩みを狙ったスタートダッシュでいきなりアリスに切り込まれ2人早々に潰されたのは痛かった。
そして冷静に開幕ヘッドショット2連発を早々に決めた白石先輩も凄い。
だが、何度だって言ってやるよ!
白石舞と霧島アリスの2人だけの勝負やってるんじゃないんだよ!
北側に居る晴香と京子は特に攻める様子を見せないが、晴香が居る時点でグレネードの脅威がある。
一瞬でも気を抜けば再度北側は、攻め込まれかねない。
撃ち合いの中でコッソリ晶に近づいて直接声をかける。
「悪いんだけど、何かあったら北のカバー行ってくれない?」
「行ったらアレが怒り出すと思うけど?」
「この試合は私達全員の決勝戦。下らないプライドに巻き込まれて負けるなんて嫌よ、私は」
「……はぁ、解った」
いざという時に援護に行くように説得し終わると元の位置に戻る。
相手はいきなり中央で2人も減ったせいで牽制攻撃を徹底していた。
先に発電所だけでも取ろうかとも思ったが、元の位置に戻ったアリスが怖い。
ふと銃声がしたと思ったら、私の足元にいきなりライフル銃が落ちてきた。
……零式ライフル。白石先輩も使っているライフルだ。
何でこれが?
そう思っていると通信ではなく直接声が聞こえてきた。
『ふざけんじゃないわよッ!!!』
鬼のような形相の白石先輩が、高台から全力疾走でこちらに走ってくるとライフルを回収してまた高台に走っていった。
何があったのかは知らないが、間違いなくアリスが何かやったのだろう。
そんなことがあってから10分ほど経過した。
互いに撃ち合いが続くものの開幕のような激しさも無く点数の変動もしない。
どちらも何度か相手を撃破寸前まで追い込むこともあったが、全てあと1発が足りず逃げ切られてしまう。
何故そんな状況なのか?
答えは簡単だ。
先ほどから白石先輩は、アリスしか狙っていない。
そしてアリスは狙われていることを理解しており、徹底して挑発行為を繰り返しているみたいだ。
おかげでこちらの作戦である『防衛をしつつ狙撃と砲撃でKD差を広げる』が半分破綻していた。
桃香の砲撃は完璧だ。
そもそも背中に背負う大型迫撃砲は、ほぼ垂直に弾を撃ち出し高高度で相手に落下しつつ弾が分裂して爆撃するというもので相手からすると真上から砲撃が降って来る感じになる。
障害物など関係無く相手を真上から爆撃出来るという点では非常に強い武器なのだが欠点もある。
それは狙う角度などは全て手動で操作しなければならないという点だ。
ほんの僅かなズレが最終的に数メートル単位のズレにもなる爆撃において、彼女のように毎回狙った場所に砲弾を落とすことが出来るのはある意味凄いことだ。
本来なら突然の砲撃の雨に対処出来ず直撃を受けて倒れていく相手が多い。
しかし相手は決勝戦まで来た強豪校。
砲撃の音を聞いてスグに回避行動を取ることで被害を最小限に留めている。
本当ならば回避行動をする一瞬を白石先輩が狙撃することでより効率的にKD差をつけるはずだったのに……。
何度か痺れを切らした晶が前に出ようとするが、相手のストライカーや晴香のグレネードに狙われスグに下がってくる。
南側はほとんど銃撃すら起こっていないので少し不気味だが、今はそれよりも破綻した作戦をどう立て直すかだ。
……いっそ南から押してみるか?
いや、余計なことはせずもう少し様子を見るべきだろう。
個人的に作戦を練り直していると、正面の相手ストライカー2人がこちらに攻撃を仕掛けてくる。
やたらと積極的だが、そんな露骨な挑発に乗るつもりはない。
一瞬の弾幕の切れ間に両肩のミサイルを撃ち込んで相手を牽制しておく。
すると個人間通信が入って来る。
これは通信を全体ではなく2人だけの個別にして他人に聞かれないようにするモードのことだ。
送ってきたのは桃香。
「完全に破綻してるじゃん。どうするのよ?」
「それはアリスの挑発に乗って馬鹿みたいにライフル乱射してる人に言ってくれない?」
「これじゃ作戦を決めた意味がない」
「私もそう思うわよ。でも誰がアレ止めるのよ?」
「チッ!クソが……」
「私に言うのやめてくれない?私のモチベまで下がるんだけど」
「もう監督に直訴したら?」
「……後10分して状況変わらなかったら一旦離脱して直訴するわ」
「そうしてくれると助かる」
「……何でみんな私に言うかなぁ」
「よっ!U-15の英雄!最高のリーダー!」
「……はいはい」
あまりに見え見えで下らないやり取りに通信を切る。
そして周囲に居る仲間に先ほどの内容を伝えて状況次第では一旦離脱することを説明した。
残念なことに誰もがそれを聞いても何も言わないどころか『頑張って』とか『任せた』などと言われてしまう。
それから互いに何度か仕掛ける素振りを見せるも相手の過剰なまでの防衛反応で不発に終わる。
そうしている間に10分経ってしまい、私は仕方なく監督に直訴するために戦場から一時離脱をする。
ベンチでは、まるで来るのが解っていたかのように監督が待っていた。
「監督!あのですね―――」
「―――解ってる。白石の件だろう」
「はい。作戦が破綻しています。どうしようもありません」
「ゲームの仕様上リーダーを変更することはできない。だが事実上の指揮権をお前に渡す。アレが何か言ったら『作戦を台無しにしたお前が悪い』と監督が言っていたと言えばいい」
「了解です!」
「白石抜きになるが、お前の思った通りの作戦で戦え」
「わかりました。白石先輩は頭数に入れません」
「苦労をかけるな」
「……まったくですよ」
監督から許可を貰った私は、スグに戦場に復帰する。
そして未だ高台でアリスにしか興味の無い白石先輩に直接声をかける。
「先輩。申し訳ありませんが以後、指揮権は私になりました」
「は?何言ってるの?」
「監督から伝言です。『作戦を台無しにしたお前が悪い』……以上です」
「……なら好きにしなさい。その代わりそれなりの責任は覚悟することね」
「……わかっています。では先輩はどうぞご自由に」
先輩に話をつけた後、私は全体通信を入れる。
「全員に連絡。監督から正式に指揮権を白石先輩から私に移動するよう指示が出た。以後私が指揮を執る」
「了解!」
全員の返事があると、全体マップを確認する。
そして即興で作戦を組み立てる。
「これから一度相手の出方を窺うために仕掛けてみる。行けそうならそのままなんて甘いことは言わない。今回のはあくまで偵察。行けそうでも下手な追撃をしないように」
注意を促してから作戦の説明を行う。
全員に説明を終えた段階で、試合時間は30分を過ぎていた。
「試合時間が30分を過ぎた。ここからが正念場だ!気合入れていくぞ!」
「了解!!」
「では、作戦開始ッ!!」
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