第18話






■side:青峰女子学園 一条 恋






「押せ! 押せ! 押しきれ!」


 全体通信からそんな声が聞こえてくる。

 これ以上押し込む必要性を感じないものの

 そういう指示がある以上、仕方が無いと割り切ってラインを上げる。


 こちらの火力に撃ち負け次第に下がっていた相手のストライカーは逃げ場を失い、ヤケになったのかボロボロの盾を構えて飛び出してきた。


「さっさとやられなさいよ」


 両肩のツインガトリングによる一斉射で、相手のストライカーは、構えていた盾ごとハチの巣になって倒れて消える。


 それを見た相手のアタッカーが背中を向けて逃げ出す。

 しかしそんな隙を見逃す訳もなく、その無防備な背中にガトリングを撃ち込もうとして、ふと気づく。

 そしてスグに射撃体勢を解除して近くの遮蔽物に滑り込むように隠れると、隠れた遮蔽物に大きな音と共に弾が撃ち込まれた。


「ふぅ、危ないなぁ」


 仲間を囮にしての狙撃だ。

 気づかなければ危なかっただろう。

 スグに全体マップで狙撃してきた相手の位置を仲間に伝える。


 ―――ブルーチーム、司令塔への攻撃を開始しました!


 場内に攻撃開始のアナウンスが流れる。


「これは、終わったかな?」


 こちらの攻撃を止められず、ドンドンと減っていく相手の点数。

 何とか一矢報いようと相手は、防衛に回ろうとするが、そもそも半包囲している時点で逆転要素など無い。


 ―――試合終了


 相手の点数がトンで試合が終わり、VRから現実世界に引き戻される。


「それじゃ、時間だから全員ミーティングルームに移動してね」


「了解」


 通信でリーダーからの指示に従いミーティングルームに向かう。

 たった今終わった2軍との練習試合。

 正直もっと接戦になると思っていたが、予想外に簡単に終わってしまいチームとしても困っている状況だ。

 1軍を徹底的に強化するという方針に問題はない。

 だが同時に2軍との差が明確になってしまった。

 これでは、簡単にメンバーを入れ替えるような戦術が取れない。

 それに来年以降のチームの実力が落ち込むことも懸念される。


 そんなことを考えているうちにミーティングルームに到着する。

 メンバーが集まると、監督が大型モニターを操作して映像を流し出す。


 大型モニターに映し出されたのは、これから始まる

 大阪日吉 対 琵琶湖女子の試合だ。


 本来ならこの試合は自分達と同じく昨日行われる予定だったのだが、機材などのトラブルが重なったため、この試合だけ1日遅れることになった。

 そのため大会全体の予定が1日ズレることになったのだが、まあ仕方が無い話だと言える。

 トラブルの内容も「放送が出来ない」というもの。

 この注目カードが放送出来ないなど色んな所からクレーム殺到だろう。


 モニターの向こうでは実況アナウンサーが、既に熱い語り口で試合の見どころなどを解説している。


 そして試合前に出されたメンバーと装備の一覧が映し出された辺りで、大きなざわめきが起こった。

 実況しているアナウンサーは、いまいちよく理解していないようだが隣に居る解説の元レジェンドプロは、その異常な点に触れていた。


 この一覧表は、実際に対戦するプレイヤーや監督などには伝わらない。

 メンバーと装備が解ってしまうと作戦がバレてしまう可能性があるからだ。

 そのため試合前になるとベンチは、世の中から完全に隔離されるようになっている。


「グングニルとか、うっそでしょ」


 私は、思わず呟く。

 霧島 アリスの所が、見たことも無い状態になっていた。


 ■霧島 アリス

 兵種:ストライカー


 兵装:ビビット製 長距離大型砲『グングニル』

   :ビビット製 大盾『対砲撃用防御シールド』

   :ビビット製 特殊装置『グングニル専用データ観測装置』

   :ビビット製 特殊装置『グングニル専用照準器』


 装甲:ビビット製 グングニル専用頭部『オーディン』

   :ビビット製 グングニル専用胴体『オーディン』

   :ビビット製 グングニル専用腕部『オーディン』

   :ビビット製 グングニル専用脚部『オーディン』


 EUの企業連合が作ったLEGEND企業ビビット社。

 最初は、やたらG.G.Gに張り合って高火力や高耐久などを追及していたが、いつの間にか日本のアイドル文化にでも侵食されたように、アーマードレスのような謎の見た目重視な装甲を数多く手掛けるようになり、一部のコアユーザーのための企業と化していた。


 その企業が、かつてまともであった頃の装備だ。

 ただこのグングニル、非常に使いにくい性能をしており、まず専用の観測装置と照準器が無いとまともに命中しない。

 次に観測装置で戦場データを最低でも30分以上観測し続けないと、まともに狙った所に着弾しないという性能なのだ。


 しかも試合時間の半分以上を何もせず観測するだけに費やしても照準器が手動操作で、砲撃も手動であるためどこまでいっても最終的には『砲撃手の腕次第』という、もう何がしたいのか解らないとまで言われてしまった武器である。


 更に言えば観測中もあまり動いてはいけないわ、そもそも重量が重すぎるので専用の装甲セットでないとダメだわ、ある程度の射線が通ってなければ意味が無いわ、砲撃のためにアンカーなどを地面に打ち込むなどの動作のせいでその場から動けず位置バレすると集中砲火を浴びかねないわと欠点をあげだすとキリがない。


 唯一の長所としては例え相手が戦車だろうが要塞だろうが、一撃で吹き飛ばす超火力と戦場の端から端まで届く超射程ぐらいだろうか。

 まあそんな武器なので、誰一人としてまともに運用出来なかった。

 現実の戦争ならともかくLEGENDではまったく使えないと、早々に皆の記憶から忘れ去られてしまったものである。


 今、この試合を見ているであろうLEGEND関係者の誰もが霧島 アリスの兵装に驚いている間に、試合開始の時間となる。


 試合開始のアナウンスと同時に飛び出す両チーム。

 そして予想通り陣地を構築しての撃ち合いになる。


 渓谷と呼ばれるこのマップは、障害物の少ない坂道が主戦場であり中央に行く分には下り坂なので行きやすいが後退しようとするか相手側に進行しようとすると途端に坂道となるため非常に攻めにくいし下がりにくい。

 そのため少ない障害物に隠れての撃ち合いとなりやすく地味なKD戦を強制されるので、あまり人気ではないマップの1つだ。


「あはははっ!

 あれ、囮かぁ~!」


 試合状況を見て思わず声を出して笑ってしまった。



*画像【渓谷:テレビ】

<i526156|35348>



 中継は、基本的にマップ全体を上から見下ろした映像が中心で状況によって選手視点や一部を拡大した映像などが映る。

 これは、その映像を管理する人間のセンスによるところが大きい。

 試合をより面白く、ダイナミックに魅せるということは視聴率に大きな影響を与えるためテレビ局でも非常に重要なポストになっている。

 ちなみにこの仕事をする場合はLEGEND協会が発行する専用の資格が必要で、合格率はかなり低い。


 そんな選ばれたプロによる魅力溢れる試合の映像が流れているが、その映像が捉えていたのは琵琶湖女子側の軍事拠点に居るブレイカー。

 装備そのものは、完璧にアリスなのだが、動きが明らかに『らしくない』。

 しかし大阪日吉は、ブレイカーを3人も採用しアリスモドキに攻撃を集中している。


 そしてアリス本人は、はるか後方でグングニルを背負ったままジッとデータ収集をしていた。

 まさか、はるか後方でそんなことをしているとは思っていない大阪日吉は中央に居るブレイカーをアリスだと判断し、それを抑えることで射撃戦で有利を保とうとしている。


 こうしてテレビで見ていると『何やってるんだ!』と言いたくなるだろうが実際の試合を経験すれば、そんなことは絶対に言えない。

 戦闘しながらだと視野は、どうしても狭くなりがちだし上から見下ろして全体が見れる訳でもない。

 全体マップに映るのも、あくまでレーダーにかかった相手や仲間から送られている位置情報だけ。

 だから、中央にアリスが居ると誰かが思い込んでしまうのも仕方が無いし位置情報としてそれが共有されてしまうと、こうして引っかかってしまうこともある。


「・・・大阪日吉は、そろそろ危ない」


 ふと、誰かがそんな台詞を口にする。

 確かにそうだ。

 このままダラダラと射撃戦をやっているとグングニルが動き出す。


 ほとんど状況に変化が無いまま時間だけが過ぎていく。

 そうして試合時間は、いつの間にか残り10分を切っていた。

 いつグングニルが動き出してもおかしくはない。

 だが、大阪日吉にそんなことが解るはずもなく、更に時間が経過しもうスグ残り時間が8分になろうかというタイミングで大阪日吉が、ジワジワとフォーメーションを変更し始める。

 最後に何かやるつもりなのだろう。


 実況アナウンサーが、大阪日吉の動きについて解説の元プロに話を振っていた時だった。

 急に試合の映像が後方に下がって、とある場所を映し出す。


「ようやく動き出すって感じかな」


 リーダーの大里先輩が、皆が思っていることを口にした。


 映し出されたのは、霧島 アリス。

 グングニルが、ゆっくりと展開されていた。

 盾を前に出し、装甲から出てきた三脚で前かがみになると他の専用装甲からも、いくつものアームのようなものが出てきてそれらは、次々に地面にアンカーを撃ち込む。

 背中のバックパックと砲身が、ゆっくりと組み立てられながら前を向く。

 そして全ての変形が終わると戦車か巨大砲台ぐらいにしか見えない姿となっていた。


 専用装備によってのみ運用可能な兵器。

 本来、歩兵が持てないはずの圧倒的火力。

 長距離大型砲『グングニル』。


 ―――残り時間 ご


 残り時間が5分を切ったアナウンスと同時に、その超兵器が火を噴いた。

 あまりの砲撃音にアナウンスが掻き消される。

 そしてスグに映像が全体を見下ろす状態へと変化し大阪日吉側のはるか後方に着弾。

 そしてキルログが更新された。


 テレビでは、あまりの大迫力にアナウンサーが黙ってしまう。

 会場の声も、歓声からざわめきへと変わっていた。

 そして誰もが驚いている状況の中、再度グングニルが放たれまたもキルログが更新される。


 その段階になって、ようやく状況を理解し始めた人々が動き出す。

 テレビでは解説の元プロがグングニルの解説を始め、会場ではざわめきから徐々に歓声へと変化していく。


 グングニルを撃たれてパニックになっていた大阪日吉はリーダーが指示をしたのか、一斉に撤退を開始する。

 だがここは、渓谷だ。

 坂道が撤退を阻み、琵琶湖女子の追撃によってドンドンと点差が開く。


 それなりの犠牲を出して撤退した大阪日吉は、急いで立て直しを行っている。

 対して琵琶湖女子は、残り時間を守り切れば勝ちであるため無理をせず防衛に徹する姿勢を見せていた。


「こりゃ厳しそうだ」


 私は、素直にそう思う。

 残り時間5分を切って50P差。

 リーダー撃破というロマンもあるが

 そんなことは相手も理解しているだろう。


 それに渓谷というある意味正面からしか戦えないマップでは、奇跡的な展開というものが起こりにくい。

 しかも下手に出ればグングニルの餌食だ。

 ある意味、完全に詰みである。


 周囲を見ても、誰もがもう琵琶湖女子の勝ちだろうと思ってかテレビを見る体勢を崩している子も多い。


 そうしている間に大阪日吉は立て直しを完了し、何やら装備類を大幅に変更している。

 そんな大阪日吉にテレビの映像も近づく。


 何やら相手が防衛を固めているためか堂々とミーティングを開いていた。

 その様子に滅多に無い音声を拾うという判断がされたようで何を話しているかが聞こえてくる。



「みんな自分の役割ちゃんと覚えてるやろな?」


「はいっ!!」


 大阪日吉のリーダーの言葉に元気良く返事をするメンバー。

 てっきり士気が下がっているかと思ったが・・・。


 全員の返事を聞いてから、1度深呼吸。

 そして―――


「配置に付けッ!!


 残り時間2分でスモーク投擲ッ!!

 カウント5でスタートッ!!


 お前らッ!

 日本中にッ!!

 世界中にッ!!

 大阪日吉の意地を見せたれッ!!!


 絶対止まんなよッ!!!

 最後に勝つんは、ウチら大阪日吉やッ!!!」


「おおーーーーッ!!!」


 そう皆が叫びながら腕を天に突きあげる。

 そしてそれが終わるとスグに全員が配置に付く。


 その姿にミーティングルーム内が、ざわついた。

 流石にこれだけ高い士気は、予想外だからだ。


「スモーク準備ッ!」


「スモーク準備ッ!」


 大阪日吉の先頭の2人が両手にスモークグレネードを持つ。


 ―――そして残り時間 2分となった瞬間。


「投擲ッ!!」


 渓谷の頂上から投げられたスモークは

 高低差もあってかなり広範囲に広がりを見せる。


「カウントッ!!


 5ッ!


 4ッ!


 3ッ!


 2ッ!


 1ッ!


 突撃ィィィィィィィッ!!!!」


 その言葉と共にテレビの映像が一気に全体を見下ろす視点になる。

 と同時に大阪日吉が一斉に飛び出し、それを狙って琵琶湖女子の攻撃も開始された。


 ―――ブルーチーム、発電所制圧!


 制圧アナウンスが会場に鳴り響く。


 あれだけ一斉に突っ込んだのだ。

 中央ぐらいは、簡単に到着出来るだろう。

 問題は、ここからだ。

 完全に敵の射程内であり坂道である。


 スモークから勢い良く飛び出したのは、可能な限り軽量の装甲で機動力を重視し両手に大盾を持ったストライカーが3人。

 一切の攻撃を捨て、ただ壁となって突撃するだけの存在。

 既に数多の攻撃を受け、耐久度が減りボロボロな姿になっているがそれでも彼女達は、突撃を辞めない。

 自分達の役割が道を切り開くための囮であり味方を護る盾であることを、誰よりも理解しているからだ。


 その圧倒的な気迫に、琵琶湖女子の中央が大きく押し込まれ始める。

 それを嫌ってか側面からリーダーでありミサイラーでもある琵琶湖女子の藤沢 花蓮が、ミサイルのフルバーストで応戦する。


 だがそれに気づいた大阪日吉の盾役の1人が、ミサイルに自分から突っ込んで味方を庇う形で撃破された。

 しかもそれで終わらない。

 その後ろに居たアタッカーが、藤沢 花蓮にタックルを仕掛けて動きを封じると流れるようにグレネードを叩きつけて自爆する。


 あまりの光景に会場では、歓声の中に悲鳴が混ざり始める。

 ミーティングルームでも、ざわめきと悲鳴ばかりが聞こえる。


 壮絶な突撃と流れ続けるキルログの数々。

 ほんの少し前まで、誰もが琵琶湖女子の勝利だと思い込んでいた。

 だが今は、どうだ?

 大阪日吉の最後の抵抗に思えた突撃は、逆転勝利を呼び込もうとしている。


 琵琶湖女子の生き残っている選手達は必死に抵抗をし続けるが中央は、完全に抜かれてしまう。

 それでも諦めずに後方から追撃をしようとする者は足止めに残った者に邪魔をされ、発電所を抑えに行った者もそれを阻止するための相手と戦闘になっている。


 中央を抜けたのは、大阪日吉のリーダーを含めた2人。

 だが、司令塔へと走る2人のうちの1人が頭部装甲をまき散らしながら倒れ、キルログが動く。



*画像【渓谷:決着】

<i526155|35348>



「霧島 アリスッ!!」


 ミーティングルームで誰かが、そう叫んだ。

 そう、霧島 アリスである。

 いつの間にかグングニル装備ではなく、いつものブレイカー装備になっており司令塔近くで狙撃体勢に入っていた。


 だが一度に狙撃出来るのは、一人だけ。

 残った大阪日吉のリーダーが、ボロボロの盾で頭部を庇いながらも司令塔へと攻撃を開始する。



 ―――ブルーチーム、司令塔への攻撃を開始しました!



 攻撃が通り出したアナウンスが響く。

 ここからどこまで弾を叩き込めるかで試合が決まる。

 いくら耐久度がギリギリとはいえ、盾を抜いてのヘッドショットは流石に威力的にも不可能だろう。

 一撃必殺を妨害されている以上、逆転を止める術はない。


 ・・・そう思ったのだが、やはり霧島 アリスは別格だった。


 霧島 アリスの2射目は、何と相手のマシンガンを狙った一撃だった。

 ダメージにはならないものの、その一撃でマシンガンを大きく吹き飛ばされる堀川。

 これで攻撃が一時的に止まった。

 だが堀川は、スグに腰にあるハンドガンを手にする。

 それと同時にアリスがライフルを捨てつつ何かを投げ、更に腰のリボルバーを手にしつつ走り出す。


 投げられた投擲物は、相手の盾に当たった瞬間爆発。

 その瞬間、堀川の動きが止まる。


「―――スタングレネードッ!!」


 思わず叫ぶ。

 LEGENDは武装・装甲など全て、電子制御で動いている。

 そのためスタングレネードなどにより強力な電磁波を受けると破壊されてしまう。

 それを回避するため全ての武装・装甲などには、対スタン用装置が取り付けてある。

 これにより電磁波を受けた瞬間、安全装置により一時的に全機能を停止させられるが、スグに再起動して動けるようになるようになっていた。


 装甲の対スタン対策能力やスタングレネードの威力などによって短ければ1秒、長ければ10秒近く相手の動きを止めることが出来る。

 しかしアタッカーなら直接ハンドグレネードで撃破を取ればいいだけなので、それを制限で持てないブレイカーが代わりに持つものではあるが、基本的に前に出ないブレイカーだと予備弾倉やレーダーなど他の支援装備を持つことが多いためそこまで人気のある武器ではない。

 ・・・霧島 アリスを除いては。


 彼女の場合は、このスタングレネードやスモークグレネードにレーダーを攪乱するジャミンググレネードなどの多種多様な支援装備を使用した突撃も得意としており、彼女のおかげでこれら人気の無かった商品達はU-15以降大幅に売り上げを伸ばした経緯がある。


 そんなスタングレネードによって動きを止められた堀川。

 霧島 アリスは、リボルバータイプの武器を撃ちながら堀川に向かって走る。

 だが弾は、全て盾に当たってしまう。

 ・・・と思っていると6発目にして盾が、堀川の手から弾き飛ばされた。

 怖い話だが、これを狙っていたのだろうと思う。 


 しかし堀川の再起動も終わり、動き出す・・・と同時にアリスのタックルが決まり2人は、大きく吹き飛ぶように倒れ込む。

 盾を奪われ、しかもその反動で変な体勢になっていた所から全力のタックルを喰らえばいくら重量級のストライカーでも倒されるだろう。

 何とか1発ハンドガンを発砲したようだが、運に見放されたのか司令塔のフチに当たり弾かれてしまったようだ。


 そして倒れ込んだ2人だが、アリスが圧倒的な速さで起き上がりながらナイフを振り上げると、未だ状況把握すら出来ていないであろう堀川に容赦なく振り下ろした。



 ◆キル

 ×  大阪日吉:堀川 茜 【L】

 〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス



 ―――試合終了


 その直後、試合終了のアナウンスが会場に鳴り響く。


 そして表示される試合結果・・・のはずが、少し様子がおかしかった。

 後半一気に点数が変動したせいもあり、表示が遅れる点数表記。

 まあ遅れたといっても僅か2~3秒程度。


 若干遅れはしたが、点数が表示される。



  大阪日吉:770

 滋賀琵琶湖:780



 その差、僅か10P。

 たった1人分の点数差。


「ああぁ~!!」


 ミーティングルームに響き渡る残念そうな声。

 いつの間にか、誰もが大阪日吉を応援していたようだ。


 予想外の試合展開と結果に、ざわめきが止まらない。

 そんな中、リーダーである大里先輩が声を上げる。


「いや~、面白い試合だったねぇ。

 てか今年は、大阪日吉とウチが当たらなくて良かったわ。

 こんなのとやり合ってたら、まず間違いなく余計な精神力を大量に持っていかれてるところよ」


「まったくだね。

 むしろ琵琶湖女子を削ってくれたと感謝すべきでしょうね」


 監督もそう言って頷いている。


「しかし、改めて思うわ。

 霧島 アリスを何とかしないと勝てないって」


 大里先輩の言葉に誰もが頷く。


「グングニル運用もそうだけどアタッカー・ストライカー・ブレイカーと全てにおいて隙が無いし、何をしてくるか解らない怖さがある。

 急な状況変化に対しての対応力も異常なほど高い。

 正直、霧島 アリス以外だったら、堀川 茜の最後の突撃を止められなかったでしょう。


 ・・・ネットにある『アンドロイド説』を信じたくなるわね」


 先輩の冗談めいた言葉で、ミーティングルームに軽い笑い声が響く。

 しばらく笑い声が続いた後、監督が手を叩く。

 それによって全員が監督を見る。


「想定外のことが多かったけど、ある意味予定通りに琵琶湖女子が勝ち上がってきた。

 これで今までやってきた琵琶湖女子対策が無駄にならずに済んで良かったわ。

 本当ならこれから対グングニル対策もと言いたい所だけど試合マップは『市街地』だから使えないでしょう。

 でもだからといって油断出来る相手じゃない。

 徹底した対策で、完全勝利を目指す。

 この前の練習試合の借りを今こそ返してあげなさい」


「はいっ!!」


 全員で返事をすると、監督が指示を出し始める。

 これから夜まで徹底的に様々な状況に合わせた『対琵琶湖女子』作戦を練習することになるだろう。


「次に勝つのは、私達よ!」



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