第19話






■side:青峰女子 リーダー 大里 朱美






 試合開始のアナウンスと同時にお互い配置まで全力で走る。



*画像【市街地:開始】

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「しばらく防衛優先!

 状況を見て作戦通り仕掛ける!」


「了解!」


 仲間の返事を聞きながら全体マップで相手の配置を見る。

 予想通り、相手はバランスを重視した配置になっていた。

 唯一の予想外と言えば―――


「最南通路!

 相手アタッカーが単独でショットガンを撃ってきます!」


 あのショットガンしか持っていない大場?だったかな。

 それが、最南に居るぐらいか。


「挑発には乗らないで!

 仕掛けてくるなら一旦引いて味方に合流!

 誘い込んで撃破すればいい!」


「了解!」


 手早く指示を出しつつ仕掛ける順番を組み立てる。

 徹底して練習した『対琵琶湖女子戦術』。


「さっそく先手で行ってみますかね」


 ある程度の流れを想定し、全体に連絡を入れる。


「中央から北側で仕掛ける!

 状況見て、南にも振るから気を抜くな!」


「おっけ~。

 じゃあ初手は、任せて貰いますよ」


「なら恋、任せるわ。

 ちゃんと思いっきり引かせなさいよ!」


「了解!」


 返事をした恋が勢い良く動いて方向を変える。


「ほらほら、逃げないと潰すわよ!」


 恋が好戦的な言葉を叫びながら北側から中央に対して斜めに攻撃をする。

 射線上には、相手側のリーダー藤沢 花蓮が居る。

 急に側面気味な攻撃を受けた藤沢は、それを嫌って後ろに後退した。


 それを確認した中央の2人が、一気に前に出ながら攻撃を開始する。

 すると相手のアタッカーとサポーターも状況不利と判断したのか、障害物に隠れる。

 だがこちらの2人がそれを気にすることなく前に出ると、藤沢が飛び出してきてミサイルの一斉掃射。

 しかしこれを予想していた2人は、北側に逃げつつ間にある障害物でミサイルを回避した。


「作戦通り!

 これより仕掛けます!」


 中央の2人が北側に逃げるように移動したことで北側は、4人になっている。

 その4人が一斉に発電所を超えて攻撃を仕掛けた。

 突然の枚数変化による突撃に新城は、驚きながらも冷静に牽制攻撃をしつつ下がる。

 宮本もカバーに入ろうとしたが、新城に下がるように言われ同じく牽制攻撃をしつつ後退する。

 しかしそれを簡単に許さない。

 孤立しかけた2人を撃破するべく大きく前に出る4人。


 だが―――


「くっ!

 後退します!」


「ちっ!

 耐久値半減につき後退します!」


「北側中止!」


 立て続けに胴体にアリスの狙撃を受け、2人が下がることになったため無理に攻めず後退を指示する。


「遮蔽物のおかげで助かったね。

 やっぱアリスは、怖いわ」


 元の防衛位置まで下がった恋が、通信で感想を口にした。


「どう?

 いけそう?」


「北側は、アリスが居るから厳しいかな。

 相打ち上等で良ければいけそうだけど」


「それは最終手段ね。

 じゃあ今度は、南で仕掛ける!

 南は、準備して!」


「了解!」


 全体マップを見ながらタイミングを計る。


「南側、誘い出しを仕掛ける!

 最南は、釘付けにして!

 行動開始!」


「了解!」


 指示を出すと南のビル内で戦っていた味方が全員一斉に下がる。

 あえて撃ち負けた感じに見せつつ、一斉に後退。

 すかさず相手が詰めてくるが、ビルの外に一旦出た瞬間に反転して一斉に攻撃を開始。


「逃がさないわよ!」


 早々に下がることを選択した相手を追いかける。


 カチッ!


 その音が聞こえた瞬間、舌打ちしつつその場で立ち止まる。

 すると少し前にグレネードが落ちてきて爆発した。

 そのまま追撃をしていると当たっていただろう。


 本来ならここで終わりだが、そのまま再度前進して追撃を再開する。

 更に前に出てくるとは思っていなかったのか、相手のアタッカーは中央側に逃げサポーターとブレイカーは後方に下がった。


「チャンスよッ!」


 味方にそのまま追撃指示を出し、私は中央へ向けての牽制攻撃を開始する。

 追撃した味方は、ビルの外に出た相手サポーターを最南に追い込む。

 そして一直線に逃げてしまった相手ブレイカーが障害物に隠れる前に銃弾を叩き込んだ。



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:安田 千佳

 〇  京都青峰:北出 心愛



「やった!

 仕留め―――」


 ―――ヘッドショットキル!


 ◆ヘッドショットキル

 ×  京都青峰:北出 心愛

 〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス



「一旦下がって!

 カウンター警戒!」


「了解!」


 作戦通り孤立した相手を確実に仕留めたのだが、早々に返されてしまった。

 しかも中央から藤沢が、南側に向けてミサイルを撃ってくる。

 それを障害物で回避しつつ味方が戻りきるまで支援していると

 中央の味方が中央の藤沢の突出を止めるために攻撃的に前に出た。

 

 すると―――


「きゃっ!?」


 前に出た仲間から悲鳴が上がる。

 どうやら肩を狙撃されたようで、耐久値が4割ほど減っていた。


「周囲でカバー!

 下がって回復!」


「りょ、了解!」


「ちょ、何ッ!?

 どっから撃たれたのッ!?」


 自分の前に居た味方アタッカーが叫ぶ。

 彼女の耐久値が半減していた。


「私が出るから、下がって!」


「了解!」


 代わりに前に出た瞬間、恋が言っていたことを思い出し、少しだけフェイントをかけてみる。

 すると、普通に前に出たら当たっているタイミングでどこからともなく狙撃が飛んできた。

 間違いなく霧島 アリスだ。

 恐らく彼女の言っていたように壁の割れ目などを縫うように狙撃してきたのだろう。

 正直、こっちは廃ビルの中に居るんだぞ。

 正面に居るブレイカーに攻撃されるならまだわからなくも無いが、どうして北側に陣取っているアイツ(アリス)がこうもビル内の相手を狙撃出来るのよ!

 というか、どの辺が射線通ってるのか解らないわよ!

 もうホント、絶対アンドロイドだわ。


 などと考えていると、カチッ!っという音が僅かに聞こえた気がしてスグに後ろに下がる。

 すると先ほどまで居た場所に何かが投げ込まれた瞬間、爆発する。


「あ~、大谷もウザい。

 てか、的確過ぎるでしょ!」


 対面している大谷のグレネードも対策案の1つとして徹底して回避訓練をしたおかげで何とかなっているものの、初見なら間違いなくもう3キルぐらいは取られているだろう。


 気づけば既に試合時間は、10分以上過ぎている。

 互いに撃破は1キルのみ。


 990 VS 990


 琵琶湖女子対策を徹底したからこそ多少こちらが優位な展開を維持しているが、その対策をはるかに超える対応の速さに正直驚いている。


「―――確実に、強くなってる」


 こちらが成長する以上、相手だってもちろん成長する。

 それを考慮し、前日の試合なども踏まえた計算の元で対策を組んできた。

 しかし目の前の相手は、それをはるかに超える速度で成長していたのだ。

 特に自分本位な緩やかな連携は、ほとんど無くなり誰かが必ず援護に入るようになっている。

 そして何よりヘッドショットを優先せず一部でも見えれば即攻撃することで相手の動き自体を萎縮させる霧島 アリスの狙撃も計算外だ。

 おかげで追撃が非常にやりにくい。

 更に何処に射線が通っているのかも解らない。

 やはり霧島 アリスを封じるタイプの戦術を取らなければならないのか・・・。


「最南通路、敵ショットガン持ちが、またチョロチョロし始めました」


「相手の誘いには、絶対に乗らない!

 ただ油断もしないで!


 そいつは、スモークで突撃するのが得意みたいだから仕掛けてきそうなら連絡しつつ後退。

 誘い込んで逆に狩るから!」


「了解!」


 仲間の通信に指示を出しながら全体の状況を再確認する。


 ―――絶対に勝つ!


 そう思った瞬間だった。


 信じられないほどの破壊音。

 通信から仲間の悲鳴が聞こえてくる。

 そして聞いたことも無い機械の音。


 何事かと通信回線で確認しようとした瞬間。

 お腹に響くような低い低音が鳴り響く。


「きゃぁぁぁぁぁーーーー!!」

「いやぁぁぁぁぁーーーー!!」


 またも仲間の悲痛な叫び声。

 そしてまたも何かが破壊される音。

 マップから消える仲間の信号。


「どうしたッ!?

 何があったッ!?」


 声をかけるも既に仲間は、パニックを起こしておりロクな返事もない。


 こうなったら自ら確認するしかない。

 そう思って廃ビルから下がって出ようとした瞬間。

 廃ビルの中央入口から巨大なミサイルが入ってくるのが見えた。



 ―――次の瞬間、大爆発と共に私は吹き飛ばされた。



 VRのおかげで気を失うことも、全身に痛みも怪我も無いのが幸いだった。

 その場でスグに起き上がると、廃ビルが斜めに傾いていた。


「・・・あ、ありえない」


 思わず呟く。

 レジェンドでは、障害物は決して壊れることがない。

 そのため薄い壁であってもそれに身を隠して撃ち合うことが出来るのだ。

 なのに、目の前では真っ直ぐに建っていた廃ビルが傾いている。


 それだけではない。

 ハッと気づいて周囲を見ると障害物が破壊されていた。


 一体どういうことだ?という疑問は、スグに解決する。


「―――多脚、戦車」


 恐らく発電所があったであろう場所に巨大な8本脚で動くロボットが居た。


『多脚戦車』

 AIによって制御された複数の脚を持つロボット。

 キャタピラの代わりに複数の脚でバランスを取りながら移動するため

 悪路をものともせず動き回れる機動性と、旧戦車を超える圧倒的火力と武装の数々で、今や次世代戦車と呼ばれているものだ。

 何といっても人が搭乗する必要が無いというのも評価されている点である。

 現実世界では、既にどこの軍にも一定数が配備されている戦車。


 それが、何故VRに?

 どうして試合中に?


 状況に混乱していると、多脚戦車の近くで誰かがガトリングを撃っていた。


「―――恋ッ!?」


 それは、来年にはリーダーを任せようと思っている一条 恋だった。


「何なのよ、コイツッ!!

 せっかくの試合をッ!!」


 しかし歩兵用装備のガトリングでは、多脚戦車の装甲を抜くことなど出来ない。

 虚しく弾が弾かれるだけ。


 だが多脚戦車は、攻撃を受けたと判断し恋の方へと向き直る。


「逃げなさい、恋ッ!!!」


 通信で叫ぶが、恋は逃げない。


 多脚戦車は、背中に背負った巨大な砲身を恋に構える。

 砲身が光り始め、明らかに発射体勢に入っていた。


「コイツのせいで滅茶苦茶じゃないッ!!」

「ふざけるんじゃないわよッ!!」


 恋に感化されたのか、彼女の周囲に居た仲間達が次々と攻撃に参加する。


「早く逃げてッ!!!」


 心の底から叫んだが、彼女達が逃げるよりも先に多脚戦車の砲身から光が溢れ、周囲を包んだ。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 凄まじい光の発光が収まる。

 そして私は、愕然とした。


 恋達が居た場所どころか、後方の施設などまで綺麗に跡形もなく消し飛んでいた。


「・・・か、荷電、粒子、砲」


 聞いたことがあった。

 VR上でしか再現出来ていないレーザー砲。

 それが最近ようやく現実でも再現出来そうだという話を。

 多脚戦車に実装される予定だということを。


 戦車は、荷電粒子砲の砲身をスライドさせると排熱装置のような所から一気に蒸気を排出する。


「・・・あ、そうだ!

 恋ッ!! 恋ッ!!」


 慌てて恋を呼んでみるが、返信はない。

 全体マップを見ても彼女の反応は、消失している。


 突然意味の解らない状況に投げ出された気分だ。

 気づけば手が震えているのが解る。

 それでも精一杯、何とか緊急用のコンソールを開いて外部に通信を入れる。


「監督ッ!!

 聞こえますか、監督ッ!!」


 必死に叫ぶも相手からの返信などない。

 当然の話だ。

 目の前に表示されている画面には『外部との全ての通信が遮断されています』という文字。


「どうしましょう、リーダーッ!!」

「どうなってるんですかっ!?」

「何なの、アレッ!?」

「大里先輩、どうしたらッ!?」


 通信からそんな声が聞こえてくる。

 どうしたらいい?

 そんなの私が聞きたいよ。


 遠くから、ガコンという無骨な音が聞こえてくる。

 気づけば多脚戦車は、こちらに先ほどの荷電粒子砲を向けていた。


「みんな逃げ―――」


 咄嗟に逃げるように叫んだ瞬間。

 私は、光に包まれた。






 □■□■□■□■□■□■□■□■






■side:霧島 アリス






*画像【市街地:兵器登場】

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「何がどうなってんのよ~」


 大場先輩の愚痴に誰も答えない。

 いや答えられないと言った方が正しい。

 だって誰も状況が解らないのだから。


 咄嗟にウチは、全員が一斉に逃げた。

 あんな一方的に青峰を蹂躙する姿を見せられて、誰が戦おうと思うものかといった感じである。

 その判断は、正しい。

 おかげでまだこちらは、全員生存している。


「ちょ~っと騒がしくなるけど見つからないでね」


 全体通信でそう言うと、さっさと位置を移動する。


 相手は、目の前で2度目の荷電粒子砲を撃った多脚戦車。

 何故、あんなものが突然乱入してきたのか?

 もちろん、そんなステージギミック的なものは無いしドッキリにしてもタチが悪い。

 現に対戦相手の青峰は、全員倒されてしまっている。

 運営側が、試合を潰す理由もない。

 そして試合も止まらない。


 ならば今、やるべきことは1つ。

 多脚戦車が排熱のために中身を晒した瞬間。


「―――弱点晒すとか馬鹿でしょ」


 排熱装置をKAWASHIMA製・零式ライフルで撃ち抜く。

 撃ち抜かれた排熱装置は、火が噴き出て小規模な爆発音が何度も響く。

 多脚戦車は、早々に諦めたのか荷電粒子砲をパージする。 

 パージされた荷電粒子砲は、その場でスグに粒子となって消える。


 そしてスグにこちらに向かって牙のように付いている30mmチェーンガン2門を撃ってくる。

 動きを予測するような射撃を見せるため、少しフェイントを入れつつ逃げる。

 弾の当たった壁は、簡単に吹き飛ぶのを見ていると恐らく現実世界と同じような設定になっていると思うべきだろう。

 相手の追撃を避けきり、崩れかけの壁に滑り込む。


 こちらを見失った多脚戦車は、背中から折り畳み式の砲身を展開する。


「・・・やっぱり持ってたか~」


 前に見た軍事系雑誌に載っていたスペック通りである。


「何なんですか、アレ・・・」


 宮本 恵理が、通信越しに震える声で呟くように声を出す。


「―――G.G.G社製・最新式蜘蛛型多脚戦車『スパイダー』

 武装は

 30mmチェーンガトリングx2

 3連装ミサイルx1

 120mm滑腔砲x2


 ・・・でも荷電粒子砲のせいで120mmは、1つに減ってるみたいね」


「・・・えっと。

 性能とかを聞いてる訳じゃなくて・・・」


「聞きたいことは、恐らく解るけどそれを誰に聞くつもり?

 誰もこんな状況説明出来ないわよ?」


「た、確かに・・・」


 自分でも意味が無いことを言ったことを理解したのか、それ以上何も言わずに彼女は黙ってしまう。


「それにしても、よく仕掛けましたわね?」


 沈黙に耐えかねたのか、藤沢先輩が口を開く。


「あんな危ないもの、どの道放置しておけない」


「確かに、あんなもの振り回されたらひとたまりもありませんわね」


「あ~、やっぱりスタートポイント死んでるわ」


 会話に割り込んできたのは、晴香だ。

 彼女は、早々にVRから出られないか確認してくると言って開始地点へと移動していた。


「緊急用の通信も死んでるんでしょ?

 なら、どうするの?」


「私に言われても解らないわよ」


 京子ちゃんの言葉に素っ気なく答える晴香。

 まあそうだろう。

 誰もがその答えを知らないのだから。


 そんな話をしていると、スパイダーが何かを探すように周囲をウロウロし始める。


「とりあえず、もうちょっと全員下がろう。

 スパイダー君が、私達を探してる」


 私の言葉に全員が、ゆっくりと下がり出す。



 ―――それから60分経過した。



 とっくに試合終了時間を経過しているにも関わらず、ゲームが終了することも無ければリアルと連絡もつかない。

 会場の声も聞こえず点数などを表示する掲示板なども完全に消えていた。


「じゃあ、あの3つめの崩れた壁辺りで」


「行くよ」


 私の指示で晴香が、どこかの障害物の欠片を投げる。

 装甲のおかげで通常ではあり得ないほど遠くに飛んでいった欠片は、スパイダーのはるか後方に音を立てて落ちる。

 するとスパイダーは、反転して音がした方向へと移動していく。


「いつまでもこのままって訳には、いかないよねぇ・・・」


 杉山先輩が、そう言ってため息を吐く。

 このままでは、いずれ見つかる。

 そうなれば一方的に蹂躙されるだろう。

 所詮、VRだ。

 やられれば、意外とアッサリ現実に戻れるかもしれない。


 みんな一度は、そう考えただろう。

 だが誰もそれを口にしない。

 そう、これが異常事態であるというのがネックなのだ。

 外部との通信も出来ない、手動でリアルに戻ることも出来ない。

 そんな状態でやられた時、どんな影響があるか解らない。

 その恐怖があるからこそ、みんな逃げ回っているのだ。


 ・・・仕方が無い。

 私が言うしかないだろう。

 ハンドサインで全員スタート地点に集まるように指示を出す。


「―――アレ、潰しましょう」


 全員が集まった所で、遠慮なく思っていたことを口にする。

 私の言葉に、全員が息をのむ。


「アレに見つかるのは、時間の問題。

 VRから離脱も出来ない。

 外との連絡も取れない。


 なら私達がやることは、アレを潰すこと。

 潰して安全を確保するしかない」


 私の言葉に誰も答えない。

 長い沈黙が続く。


 ・・・仕方が無い。

 私だけでも仕掛けるか。

 多脚戦車なんてものは前世を含めて人生初だが、普通の戦車ぐらいなら結構な数を潰してきたものだ。

 上手く誘い込めば、私だけでも問題ないだろう。


「―――やりましょう、みなさん」


 諦めて一人で飛び出そうと思った瞬間、意外な声が聞こえてきた。


 三峰 灯里だ。


 彼女は、どちらかと言えば気弱な方だったはず。

 なのに一番最初に答えたのは、彼女だった。


「アリスさんの言う通りです。

 いつまでも逃げ回れない以上、倒すしかありません」


 彼女の力強い言葉に、皆が驚く。


「ふふ。

 あはは。


 いや~、そうだね。

 その通りだね」


 新城先輩が、笑いながら話す。


「あんなデカブツ、私達の相手ではありませんわ」


 藤沢先輩が、いつもの感じで声を出す。


「そうだね。

 あんなのぶっ壊せばいいだけじゃん」


 大場先輩も愉しげに会話に参加する。


「それしかないなら、仕方ないわね」


 杉山先輩はやれやれといった感じだが、明らかに表情は笑っていた。


「みんなで力を合わせれば、いけますよねっ!」


 宮本 恵理が、恐怖に負けないようにと元気良く声をあげる。


「物好きだねぇ。

 まあ、嫌いじゃないけど」


 晴香が、苦笑しながらライフルの残弾を確認している。


「それじゃ、さっさと潰して帰りましょうか」


 京子ちゃんは、弾薬パックをみんなの前に出して補給を促す。

 全員がやる気になった顔をして立ち上がる。


「あ、あの!

 え、えっと!


 わ、私も、頑張る!」


 突然、震え声のままそんなことを言い出す安田 千佳に、みんな堪え切れずに小声で笑い出す。

 どうしてみんなが笑い出したのか理解出来ない彼女は、座ったまま首を傾げる。


 そんな彼女に手を差し伸べる。


「頑張るんでしょ?

 なら、ちゃんと立ちなさい」


 いまいちよく解っていないといった感じだが、差し出した手を握って立ち上がる安田 千佳。


「―――じゃあ、作戦なんだけど」


 私は、ずっと考えていた作戦を説明する。

 最初は、みんな半信半疑といった感じだったが、しっかりと状況などを説明すると理解してくれた。


 作戦の説明を終えると、私は円形に集まって貰いその場でライフルを斜め上に突き出すように持ち上げる。


 スグに何人かが意味を理解して、同じく武器を斜め上に突きあげる。

 特定の武器を持っていない藤沢先輩や大盾の宮本 恵理は、手を斜め上に伸ばす。

 すると円形の中央で、みんなの武器が触れ合う。


「景気良くスクラップにしてあげましょう」


 私の言葉に全員が軽く笑ってから


「了解」


 小さく、でも力強い返事が返ってくる。

 そして全員が一斉に動き出した。



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