第17話
■side:大阪府立日吉女学園 リーダー 堀川 茜
霧島 アリスによるグングニルという奇襲に対抗するため
最後の突撃を行った私達。
壁役、囮役、自爆役など皆が勝利のために形振り構わず戦った。
相手の激しい抵抗の中、こちらの気迫勝ちで
中央突破に成功し、敵司令塔の攻撃に成功した。
しかし最後の最後に邪魔をしてきたのは
やはり霧島 アリスだった。
彼女との司令塔攻防戦は、互いの全力を賭けた勝負となり
私が負けたものの、かなり良い勝負となったはずだった。
試合中、あまりにも必死過ぎて点数を見ていなかった私は
試合終了のアナウンスと共に点数を確認するも
激しい点数変動のせいか、少し点数が表記されるのが遅れていた。
まあ遅れたといっても僅か2~3秒程度。
しかしその数秒が、私にとっては数十分に思えるほど長く感じた。
そして―――点数が表示される。
点数が表示された瞬間、観客は総立ちとなり大歓声が会場に響き渡った。
観客の大歓声の中で私は、点数を確認する。
大阪日吉:770
滋賀琵琶湖:780
その差、僅か10P。
たった1人分の点数差。
最後にタックルで邪魔をされたあのハンドガンの1発は、1発当たれば8P。
リーダーである自分の攻撃なら16P。
つまりあれさえ当たっていれば勝っていたのだ。
「・・・ウソやろぉ~」
思わず今まで座っていたVR装置のシートに倒れ込む。
私達の想いは、ほんの僅かに・・・たった数ミリ届かなかった。
その数ミリが、勝敗という形で明確な差を生み出す。
思わず全身から力が抜ける。
結果が受け入れられず、思考が上手くまとまらない。
未だ電源が入っているため、通信越しに仲間達の泣き声が聞こえてくる。
恐らく外でも同じくみんな落ち込んでいるだろう。
ここは、自分が声をかけなければと思うが、どうも未だに身体に力が入らない。
それどころか、何だか視界もおかしい。
「・・・ああ、そうか。
ウチ、泣いとるんか」
自分が泣いていることに気づいた瞬間、一気に感情が溢れ出してくる。
―――悔しい。
ただひたすらに、心の底から悔しかった。
涙が止まらない。
感情のままに、声を上げて泣いた。
―――こうして私の高校生最後の夏は、悔しさと共に終わりを迎えた。
・・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
しばらくして、ようやく落ち着いた私は、VR装置の外に出る。
周囲では、仲間がみんな泣いていた。
みんな最後まで勝つために努力した。
最後に交代をすることになった選手も悔しかっただろう。
私なら『最後の突撃まで参加させろ』と叫んでいた自信がある。
それを文句も言わず勝利のために交代してくれた彼女達には
本当に感謝している。
いつもは、ヘラヘラしている文ですら号泣していた。
彼女は、撃破されたとは言え
梓と、もう1人のストライカーの2人相手に
粘りに粘って最後まで発電所を占領させなかった。
そう、みんな頑張った。
負けたのは、全て私の責任だ。
なのでみんなに対して謝罪をしようとした時だった。
試合終了のためVR装置などがあるベンチと会場の隔離が終わり
会場と接続され、自由な行き来や通信が可能となる。
―――その瞬間
応援席からいきなりの大歓声が上がった。
あまりの出来事に、泣いていたメンバー達も何事かと応援席を見る。
「ようやったでっ!」
「頑張った! 感動した!」
「大阪の意地をよくぞ見せてくれた!」
「これや! こんなレジェンドが見たかったんや!」
てっきり落胆されたり、また来年があるなどという
適当な励ましという名の同情をかけられると思っていた。
だが結果は、この通り。
まるで優勝したかのように歓迎されている。
「もっと胸を張りなさい。
良い試合だったわよ」
いつの間にか後ろに居た監督も笑顔でそう言う。
予想外の待遇に戸惑っていた仲間達も
次第に笑顔になっていく。
そんな時だった。
「やっほ~!」
聞き覚えのある声がして振り返ると
そこには―――
「・・・梓。
それに霧島 アリス」
1人は、元仲間だった新城 梓。
そしてもう1人は、先ほどまで戦っていた霧島 アリス。
梓は、笑顔で手を差し出してくる。
「いや~、最後面白かったですね。
日吉が、こんなに面白くなってるなんて思わなかったですよ」
私は、その手を握り返す。
「抜けたお前を悔しがらそうと思ってな。
どうや、悔しいやろ」
「いや、ホントこれは酷い」
笑いながらそう言うと、梓は文に向き直る。
そしてまた手を差し出す。
「あの泣き虫が、ここまで頑張るなんてねぇ」
「うっさい、梓!
次こそボコボコにしてやるっすからね!」
「上等!
今度は、言い訳出来ないほど叩き潰してあげる」
互いに好戦的にな笑みを浮かべて握手をする。
そんな面白くも懐かしいものを眺めていると
いつの間にか近くに来ていた霧島 アリスが手を差し出してきた。
霧島 アリスと言えば、こういったことを一切しない選手として有名で
淡々としている姿が、クールだなんだと言われている。
なので驚きながらも、何とか相手の手を握る。
すると握った手に力が入ると、いつも何を考えているのか解らない
無表情に近い顔から、一気に飛び切りの笑顔になった霧島 アリスは
「すっごく、愉しい試合だった。
ああいう試合ならいつでも大歓迎」
と言いながら握った手を上下に振る。
その変化の激しさと、美少女の満面の笑顔に脳が処理出来ず
フリーズしそうになった瞬間。
バシャバシャバシャバシャッ!!
「うわっ!」
いつの間にか物凄い数のマスコミが周囲に集まっていて
一斉に写真によるフラッシュの嵐。
経験したことが無い数のフラッシュに思わず驚いて声が出る。
そんな私の姿に霧島 アリスは、クスリと笑った後
「じゃあ、また」
そう言って迫るマスコミの質問などを無視し
梓と共に自陣ベンチへと帰っていった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
そして次の日から、我ら大阪日吉の日常は
何故かあり得ない方向へと変化した。
決勝トーナメント敗退、ベスト8。
決して優勝した訳ではないし
ベスト8が初めてでもない。
過去には優勝もしている。
なのにだ。
学校の近くの商店街でパレード。
大勢の人々に大歓迎され、学校でも表彰される。
市長から大々的に表彰されたかと思えば
大阪府知事からも面談を申し込まれ、知事からも表彰を受け
大阪のローカルテレビ局どころか、関西にある全国放送のテレビ局にすら
呼ばれて色々と聞かれるほど。
正直、何が起きているんだ?と思う。
ネットでもあの試合が大絶賛されており
特に大阪を応援していた人々からは、感動で泣いたとまで言われ
まるで伝説のように語り継がれる勢いだ。
レジェンドは、最近負け試合になると
適当に消化試合のような雰囲気になったり
逆転のための突撃も単調だったり
とてもではないが、必死に最後まで勝とうという意識が無い。
プロは、年間を通しての勝率であるため無理をしない。
それがレジェンド界全体に広がり、ある意味問題でもあったのだ。
それをアマチュアの女子高生達が
統率力で知られる強豪校や
プロチームでも出来ないような統一感のある突撃を行った。
仲間を信じ、最後まで試合を諦めない姿勢。
何より勝利のために自己犠牲すら躊躇わない強靭な精神。
最後まで勝つために足掻く姿が、停滞しつつあったレジェンドに
文句があった多くのレジェンドファン達を魅了したのだ。
『LEGENDとは、本来こうあるべき』
テレビの取材に応じたアリスの祖父も、そう発言したことで
これを切っ掛けにレジェンドの在り方も変わるだろうと言われるほど
彼女達の試合は、日本レジェンド界に大きな影響を与えることになった。
またアリスと握手をした写真も大反響となった。
普段そんなことをしないアリスが握手をした。
しかも滅多に見せない笑顔で。
そのせいでLEGEND界隈では
「アリスが堀川をライバルと認めた」
という話題で持ち切りになり、堀川の知らない所で
彼女の知名度は、勝手に爆上がりしていく。
自分達の戦いが、そんな大事になっていると理解していない私達は
今日も招待された、地元の子供達にレジェンドを教えるボランティアに参加していた。
■side:琵琶湖女子監督 前橋 和歌子
試合後、控室に帰ってきた選手達は
皆、まるで負けたかのようにグッタリとしていた。
原因は、何となく解っている。
今まで接戦という勝負は何度かあったが
どれも接戦ではあったが安定した勝利だったし
敗北も初心者組がミスをしただけのもの。
そう考えれば、あそこまでの激しく点数が変動する
泥仕合のような試合など経験したことが無いのだろう。
プロだってこんな試合、まず出会うことがない。
私だってこんな試合、1~2度あったかどうかぐらいだ。
更に言えば、この試合は
途中まで―――そう、安田を霧島だと勘違いさせ
グングニルまでの時間を稼ぐという作戦は、想定通りであり
あの一斉突撃が無ければ完璧な勝利だったはずなのだ。
それをあんな形で返されると誰が思っただろうか。
それに三峰と安田は、経験不足で
そして大場に関しては、完全に位置が悪かった。
突撃の進路上であったために轢き殺されたようなものだ。
あれだけの気迫で、しかも大人数に迫られ蹂躙される。
トラウマにならないか、心配になるレベルだ。
藤沢と杉山は、一瞬の隙を突かれての自爆。
この2人に関しても、自爆などという戦い方を経験したことが無いだろう。
目に見えて落ち込んでいる様子からも、それが解る。
大谷と南は、冷静に後方から追撃して足止めを行ったのは流石だったし
新城も宮本を引き連れ、足の遅さを考え
あえて発電所を抑える方向にシフトしたのも良い判断だった。
結果的に制圧が間に合わなかったが、あと数秒もあれば制圧出来ていたことからも
あの判断は、間違っていないだろう。
何より今回、早々にグングニルを含む装備を全パージして
開始位置に戻り、ブレイカー装備に切り替え
司令塔のカバーに回った霧島の判断が無ければ逆転負けは、確実だった。
あれは、霧島でなければ止められなかったし、霧島でなければ
リーダーの撃破まで行けなかったはずだ。
結果的に何とか勝てたとはいえ
プロでも経験したことが無いと言っても差し支えが無いほど
激しい試合だったと言える。
彼女らが、こうして自信を無くすのも解らなくもない。
逆に、U-15の3人組である、大谷・南・霧島と
新城に関しては、むしろ先ほどの試合を愉しんでいたぐらいで
その点だけは、マシと言えるだろう。
何とも頼もしい限りだ。
明日の試合は、広島の芦見川の点数を飛ばした
京都私立青峰女子学園。
あの最初の練習試合以来の相手だ。
あの時は、こちらの勝利に終わったが
当然相手もレベルアップしているだろうし
前回の試合内容も含めて対策もしてきているだろう。
何より、今回の試合でメンタルをやられた彼女達を
明日までに立て直さなければならない。
「さて、監督らしいことをしますかね」
まずは、リーダーである藤沢からだろうと思い
藤沢に声をかけにいった。
ちなみに今回の試合は、次の日のニュースなどを通じて
日本中で話題となった試合の1つとなる。
最初こそ、グングニルという誰もが忘れていたであろう
骨董品を運用するという作戦に出た奇策が評価され
グングニル自体も、状況次第では強力な武器であることが証明され
今後、似たような兵器が登場することになる切っ掛けとなった。
しかし、次第に勝つためにあらゆる手段で僅差まで迫った
大阪日吉の気迫に話題が集まり、大阪日吉は謎のブームとなる。
またネットでは、勝率や効率重視で捨て試合を行うこともある
プロスポーツとしてのレジェンドに対して、盛大なクレーム祭りとなった。
「プロの癖に、アマ以下の試合ばかり」
「所詮、お金のためにやってるだけ」
「プロとして恥ずかしくないのか?」
「そんなことだから日本は世界に勝てないんだ」
などなど、今まであった不満が爆発したかのような事態に
日本レジェンド連盟が、公式会見を開くことになるなど
レジェンドを取り巻く環境の大幅な転換期を迎えつつあった。
ちなみに余談だが
最後の突撃前に茜が行った演説と、そこからの突撃。
そして霧島 アリスとの事実上の一騎打ちのような攻防。
それら全てが映画のように編集され、ネットにアップされると
爆発的な再生数を記録し、特に演説の部分が大好評で
「熱すぎるっ!!」
「これぞLEGEND!!」
「ヤバイ、泣けてくる」
「彼女こそ今年のU-18のリーダーになるべき」
「堀川マジで最高に良い女」
などなど、称賛の嵐。
あのアリスと握手をしている写真や、噂になっている
「アリスが堀川をライバルと認めた」
という話なども重なって勝手にドンドンと事実が誇張されていく。
そしてそれを見た堀川本人が
顔を真っ赤にして悶え苦しむことになるのは、また別の話。
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