第15話
■side:大阪府立日吉女学園 リーダー 堀川 茜
「さて、最終ミーティングを始めるで!」
「はいっ!」
会場の控室で、そう声を張り上げると元気の良い返事が返って来る。
本来なら昨日行われていたはずの試合だったが
機材関連のトラブルとやらで、結局次の日にという話になり
本日開始という流れになった。
これから試合だというモチベーションを一度崩されたため
再度全体の精神的な調整に苦労をした。
その甲斐あってか、何とか立て直しには成功したと言える。
とはいえ、大会全体の日程が1日ズレたということ。
何より本日は、昨日出来なかった私達の試合のみが行われるという
決勝戦並みの待遇で、嫌でも注目度が高い。
しかも相手は、あの霧島 アリスが居る私立琵琶湖スポーツ女子学園。
精神的なプレッシャーが、ハンパ無い。
「では、さっさと始めますよ~。
ホワイトボードを見るっすよ~」
全員が聞く姿勢になった所で、相変わらずのボサボサ頭。
副リーダーの宮島(みやじま) 文(ふみ)が説明を始める。
*画像【渓谷:初期】
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「最終確認っす。
マップは、渓谷。
適度に木々と草むらに覆われた坂道だらけの場所なので
移動が大変だということを頭において欲しいっす。
初手のフォーメーションは、C。
途中でBかDに変更する可能性大なので
各自再度チェックしておくよ~に。
最重要注意点は、霧島 アリス。
何かアタッカーやってるっすけど
どうせ危なくなったらブレイカーになるはずなので
下手に射線が通る位置には、絶対立たないよ~に。
特にこのマップは、障害物少ないんで注意っすよ。
何なら中央は、取られても問題無いっす。
次に注意が、藤沢 花蓮。
あのミサイル数は、ぶっちゃけ脅威っす。
特に足の遅いストライカーは、常に障害物を意識しよ~。
あと大谷 晴香にも注意。
アレのハンドグレネードは、異常過ぎっす。
投擲モーションを見たら、確実に回避行動を取るよ~に。
この3名は、常に位置確認と報告を。
・・・で、リーダー何かあります~?」
相変わらず独特というかマイペースな彼女に
苦笑しつつも、話を繋ぐ。
「ん~?
みんなは、ここまでで質問は?」
そう聞くと手が上がった。
・・・目の前で。
「・・・はぁ。
で、文。 何よ?」
「え~っと。
フォーメーションCは、まあ解るんすけど
結局、霧島 アリスをど~するんすか?」
「完全封殺」
「渓谷で?」
「渓谷で」
「ブロックリーグで高知代表が失敗してたっすよね?
・・・渓谷で」
「あれは、高知が悪いんよ。
あんな中途半端にマークするから抜けられる。
ウチは、最大3人で徹底マークするんやし
これで抜かれたらもうどうしようもないわ」
「そもそも渓谷で封殺が厳しいと思うんすよね。
フォーメーションAで地道にKD稼ぐんじゃダメっすかね?」
彼女の言う通り、渓谷は遮蔽物が少なく
射線が通りやすいため、長射程武器が有利とされている。
迂闊に距離を詰めれない状況で、その長射程武器を使用する
霧島 アリスをどうするのかは、非常に重要だ。
「それだと霧島 アリスに稼ぎ負ける可能性が高いって
前のミーティングで結論出たでしょ」
「いや~、冷静に考えて
向こうだってたぶん霧島 アリスの封殺って予想してそうだし
対策されてたら、どのフォーメーションでも無理ゲーっすよ?」
「・・・それを今になって言うのかね?」
「・・・今になって気になったっすよ」
「じゃあ、我らが副リーダー殿は
どうしたいんですかね?」
「最初からフォーメーションDを採用しつつ
後方だけフォーメーションAを併用ってどうっすか?
多少防御がアレっすけど、ハマれば勝ちっすよ?」
「う~ん・・・」
提示された作戦を考える。
フォーメーションDとは、霧島 アリスに3人マークを割き
少ない人数で防衛を維持しつつ、防御重視だと勘違いさせてから
一気に仕掛ける陣形で、特に射撃戦に特化している。
フォーメーションAは、防衛を維持しつつ後方支援を高火力にすることで
積極的にKD戦を仕掛けていこうという陣形である。
つまり前に出るようなスタイルを捨て
射撃戦特化でアリスの動きを牽制しつつ
KD戦を仕掛け、最終的に最後にラッシュを仕掛けるといった感じだ。
「・・・監督、どう思います?」
元プロで、スーツをビシっと決めた女性監督は
しばらく唸ってから
「悪くはないと思うわ。
あとは、貴方達次第ね」
と、無難な返事を返してくる。
「・・・どの道、相手の動きを見て戦術を変更するつもりだったから
一旦は、文の提案通りに仕掛けてみますか」
「え?
いいんすか?
失敗しても責任取らないっすよ?」
「提案したアンタが
そんな台詞を吐くなんて許されると思ってる?」
「うげっ・・・」
私達の漫才のようなやり取りに周囲から笑い声が聞こえてくる。
変に緊張しているより、よほどマシだ。
「じゃあ今回は、我らが副リーダー様の作戦を採用ってことで。
初期の配置に関しては―――」
多少変更する点を素早く確認して指示を飛ばす。
早々に霧島 アリスと当たってしまったが
同時に彼女に勝てなければ、どの道優勝など出来ない。
さあ―――「バケモノ狩り」といきますか。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
■side:大阪府立日吉女学園 副リーダー 宮島 文
試合開始の合図が鳴ると、敵味方共に一斉に配置に付く。
*画像【渓谷:開始】
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渓谷は、中央の川に3つの橋がある谷間で
橋付近、中央、後方の3段階の高さに分かれている。
障害物が非常に少なく、高低差があるだけで射線が非常に通りやすい。
そのため、障害物が無い谷間に侵攻することが難しく
下手をすれば射撃戦のみで試合が終わってしまうことも珍しくないという
見せ場らしい見せ場が無いため、ある意味『人気が無いマップ』とされていた。
もちろん射程の長い武器を使う選手達からすれば、違う意見が出てくるだろうが。
「という訳で相手の配置は、以上っす」
相手の配置情報を報告すると
予想通り、いまいちといった感じの返事をする先輩。
「霧島 アリスが、正面ねぇ・・・」
「一番最初の予想通りじゃないっすか。
建物を壁にしつつ弾薬補給も出来て全体のカバーも出来る位置。
まあ、最初からブレイカーって点だけは、予想外だったっすけど」
「で、1人足りない気がするんだけど?」
「え~っと、確か安田でしたっけ?
解析班から『モロ初心者なので問題ない』って返事のあった」
「そう、そいつ。
何でその初心者が見当たらないのよ?」
「さあ?
まあブロックリーグでも散々逃げ回ってたらしいっすから
私と同じく後方狙撃待ちじゃないっすかね?」
「な~んか、引っかかるのよねぇ。
・・・ホントに中央、アリスなんでしょうね?」
「スグに隠れて、ほとんど顔出さないっすけど
装備が事前情報通りでしたよ?」
そう言いながら先輩に仲間からの情報を流す。
中央に居たブレイカーは
KAWASHIMA製・零式ライフルを持ち
ブルーム製・軽量装甲を装備していた。
これは、U-15の時からずっと彼女が使用している装備である。
一般的なブレイカーは、胴体などにカウンタースナイプを受けても
ある程度耐えられるように防御力重視となりがちだが
霧島 アリスだけは違う。
胴体ヒットでも即死判定を受けかねないほどの軽量装甲で
とにかく機動力を重視し、今まで被弾らしい被弾もしたことがない。
そんなブレイカーが中央という一番の好位置に居る。
例え距離と頭部装甲のせいでスグに判別出来ないとはいえ
ここまでの条件が揃っていれば、中央に居るブレイカーを
誰もが霧島 アリスと断定するだろう。
「万が一、安田とかって初心者ブレイカーっぽいのだったとしても
このマップで霧島 アリスが接近奇襲出来る訳ないっすし
最悪狙撃で1人やられた時点で場所割れするっすから巻き返しは
十分可能圏内っす」
霧島 アリスに先手を取られるというのは
そもそも想定内である。
この渓谷は、下手に接近出来ないマップであるため
彼女の機動力を活かした奇襲や攪乱なども出来ない。
つまり純粋な射撃戦になるだろうし
それ対策で全員が射撃戦を想定した装備になっている。
「とりあえず中央の霧島 アリスを徹底マーク。
万が一、見失ったり先手取られても、対策班が抑え込むこと。
抑え込みが上手くいったら、積極的に仕掛けるわよ!」
「了解!」
仲間達の元気が良い返事で全体通話が終わると
改めてスコープを覗き直す。
霧島 アリスを抑える対策班の班長を任された私は
ここ最近徹底して練習してきたブレイカー装備で
彼女が居る中央の軍事施設を監視する。
こうして会話をしている間も谷間では
激しい撃ち合いが起きていた。
障害物が少なく、自陣が丘という状態は
非常に後方に下がりにくい。
少ない障害物に人が殺到するため
人が密集しやすく、そのため撃ち合いも激しい。
こういう時に、迫撃砲などがあれば良いのだが
基本的に射程距離が足りない。
一部、長射程・超火力な砲撃が出来るものもあるが
超重量・超鈍足で非常に扱いにくく命中精度も悪いため
結局ロマン武器のカテゴリから出ることがない。
というかまともに扱える人が居ないというべきか。
なので地道な射撃戦をする以外に道など無く
このマップが不人気と言われる理由でもある。
相手は、予想通りの武器と編成だ。
アリスを中央に配置して、左右にストライカーやアタッカーを配置し
中央に余裕を持たせる形でジワジワとKD差を詰める予定なのだろう。
だが―――
対象が見えたので、引き金を引く。
施設の壁に当たっただけだが、自分を含め3人からの一斉狙撃で
僅かに出ようとしていた霧島 アリスは、逃げるように施設を盾にして隠れた。
「今ので良いっす。
外れても問題無いから、徹底して霧島 アリスが
射撃体勢に入るのを止めるっすよ!」
「了解!」
仲間の返事を聞きながら、リロードを済ませる。
先ほどから互いに1人撃破しては、1人撃破され返されるといった感じで
無理をした奴から撃破されるといった非常に地味かつ精神的に厳しい戦いが続く。
減った仲間が復帰しても障害物の少なさで、下手に前に出れないため
一斉攻撃によって相手の頭を抑えている間に配置に滑り込む。
双方共に、この繰り返し。
点数も同点である以上、少しでもミスした側が負ける。
この均衡を崩す存在が居るとすれば、それは彼女しか居ない。
だからこそ、こちらは少しでも中央で彼女が見えれば狙撃で抑えている。
「残り時間3分から撃破取りに行くから
それまで下手に撃破取られるんじゃないよ!」
先輩の声に仲間が反応して返事をする。
非常に良い流れだ。
このままいけば、相手はこちらの奇襲でリードを奪われ
それを巻き返そうとして自滅するはず。
―――残り時間 5
残り時間5分を切ったアナウンスが鳴ったかと思ったら
そのアナウンスは、聞いたことが無い爆音によって掻き消された。
あまりの音に身をすくめた瞬間。
自分が居る自陣エリア最上段の高台。
そこに居た、自分と同じく霧島 アリスを抑えるための
ブレイカーが居た位置で、大爆発が起きた。
あまりの爆風に近くに居た、私すら後ろに吹き飛ばされる。
舞い上がる砂煙。
混線したかのように耳元では、色んな人間の声が混ざって聞こえる。
VRであるため、軽い痛みしか無いのが幸いだ。
とにかく起き上がらねばと、立ちあがると砂煙がジワジワと晴れてくる。
「なっ―――」
それ以上、声が出なかった。
仲間が居たであろう場所の地面が、抉れて吹き飛ばされていた。
一体何が起こったのか?
倒れそうなほどの衝撃を何とか堪え、とりあえず隠れていた壁まで歩く。
そこから外を見れば戦場全体が見える場所だ。
何が起こったのか?
今どうなっているのか?
これらが解るのではないかと、ヨロヨロ歩いて壁までたどり着くと
そこから身を乗り出すように戦場を見る。
すると、スグに相手側の最上段奥の坂道に
砲身から白い煙を吐き出している砲台のような何かが見えた。
あんな設備なんてあったかな?
なんて思っていると、耳元で先輩の声が聞こえた。
「今すぐ下がれぇ!! 文ぃぃぃぃぃぃ!!!」
その言葉を理解するより先に、身体全体に衝撃が走ると
次に目の前に現れたのは、復活カウント。
―――そしてキルログ。
◆キル
× 大阪日吉:宮島 文
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
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