第14話





「さあ、今夜もお届けします!

 水曜日の夜は、もちろんこれ!

 【NEWS・LEGEND】のお時間がやってまいりました~!」


 元気の良い女性アナウンサーの声で、番組がスタートする。


「皆さん、こんばんは。

 司会の大館 次郎です」


 ベテラン司会者が、落ち着いた声でいつものように挨拶をする。


「司会補助の江口 梨々花で~す」


 現在、好感度No1女子アナウンサーである江口 梨々花は

 最近調子が良いらしく満面の笑みを浮かべていた。


 この番組は、元々平均視聴率15%という人気番組だったが

 霧島 アリスの登場と、U-15女子世界大会優勝という快挙のおかげで

 レジェンド人気が更に加速し、視聴率は平均25%という数字を叩き出している。


 そのおかげで最近、彼女の後輩の1人で

 大きな胸を強調した服を着た、天然系お色気アナウンサーが

 彼女の人気と仕事をジワジワ奪っていたのだが

 番組人気のおかげで彼女の人気にもブーストがかかり

 背後から迫ってきていた、その後輩を大きく突き放すことに成功したのだ。


 あんな露骨に媚を売る女に負けたくないと思っていた彼女は

 この幸運に感謝し、特にこの番組を大事にするようになっていた。


 そして大館 次郎。

 彼も、長年フリーのアナウンサーとして頑張ってきたが

 最近は、あまり評価されない日々が続き

 この番組も降板では?という声まで聞こえてくるほどだった。


 だがU-15女子世界大会優勝に伴うレジェンド人気爆発で

 元々あった番組人気が更に急上昇する。

 その影響で、彼自身の評価も急上昇し

 急にいくつもの仕事が舞い込むようになった。


 そんな【NEWS・LEGEND】は

 来月には、番組枠30分拡大が正式に決まっており

 2人は、自信満々といった感じで仕事に取り組んでいた。


「本日のゲストは、またまたお越し頂きました!

 今年のU-18女子世界大会 監督の川上 律子さんで~す!」


「こんばんは。

 よろしくお願いします」


 以前より勢いのある2人に若干驚きながらも

 川上は、しっかりと挨拶をする。


「今日は、今一番ホットな話題と言ってもいいかもしれません。

 昨日終了した、全国女子高生LEGEND大会のリーグ戦と

 勝ち抜いた8校を、川上さんと徹底解説したいと思います」


 大館の言葉で、画面はリーグ戦の一覧に切り替わる。


「それでは、まずはこちら!

 Aブロック!」


 江口の言葉でAブロックの部分が拡大される。


「Aブロックを勝ち抜いたのは、佐賀県代表 佐賀県立大学附属高等学校!

 このブロックには、東北勢が4校と少し偏ったブロックでしたが

 安定した戦いを見せた佐賀県立大学附属高等学校。

 4勝1敗で見事勝ち抜けました!」


「川上さん。

 この佐賀県立大学附属高等学校のことは、ご存知でしょうか?」


「はい。

 この学校は、とても総合力が高い所です。

 特に統一感のある集団行動で一気に戦場を動かすことが得意で

 今までいくつもの高校が、この一斉攻撃によって撃破されてきました」


「なるほど。

 確かに今回、青森県代表相手に負けはしたものの

 その他では、圧勝をしていますよね」


「そうなんです。

 更に今年は、U-15で活躍した黒澤選手と長野選手という

 とても攻撃的な選手が加入しているので

 最後の最後まで気が抜けないチームと言えるでしょう」


「川上さん。

 この佐賀大学附属で注目選手は、誰になりますか?」


「1人あげるとするなら、リーダーの飯尾選手でしょうか。

 彼女の統率力が、いくつものチームを葬ってきた集団攻撃を

 支えていると言えますので、彼女無しに佐賀大学附属は、語れません」


 大館の最小限でありながら的確な言葉によって

 川上の解説も綺麗な形で進む。


 ADからの指示を確認した江口が

 解説の隙間に素早く入り込むと、まるで決められていたかのように

 コーナーを進行させる。


「佐賀大学附属、侮れませんね~。

 では、続いてはBブロック!


 ここを勝ち抜いたのは、東京都代表 私立大神高等学校!

 前回の優勝校ですね!」


 大館も流れを察して、川上に会話を繋ぐ。


「川上さん。

 Bブロック、どう見ましたか?」


「Bブロックは、皆さんご存知の通り

 死のブロックと呼ばれた1つで

 柏原国際を破ったダークホースとして注目された長野県代表大黒高等学校や

 攻めの姿勢で何度も名勝負を制してきた鹿児島県代表の桜島女子高校。

 前回ベスト8の群馬県代表 水堀西高等学校などが集まった

 非常に高レベルなブロックでした。


 このブロックを無傷の5連勝で勝ち抜けたのは

 本当に凄いことだと思います」


「確かに。

 抽選では、かなりざわついたブロックでした。

 実際、このブロックでは何度も大波乱があり

 激しく勝敗が動いていましたが

 その中で、5連勝した大神高等学校は

 流石、昨年の優勝校と言った所でしょうか。


 では、川上さん。

 ここでの注目選手は、誰になりますか?」


「それは当然、リーダーでもあり

 昨年のU-18でもリーダーを務めた白石選手でしょう。


 今回の5試合で26キル、1試合平均5キル越えという好成績です。

 流石は、天才ブレイカーと呼ばれるだけはありますね。

 それにリーダーというのは、とても大変な役割ですので

 その経験者としても注目しています」


「リーダーというのは、それほど大変なのですか?」


「はい。

 リーダーというのは、試合中にチームの全てを把握して

 指示を出せなければなりません。


 レジェンドは、試合中に監督が選手に声をかけることが基本的に出来ません。

 それをしようと思えば、誰かが一度試合中に戦場から一時撤退しなければならず

 その間、人数が不利になってしまいます。

 なので、試合中の作戦や選手の入れ替えなどを含め

 その全てを自分で考えて行わなければなりません。


 つまり試合結果の全てを、ある意味監督よりも背負わなければならない役職なのです。

 そんな責任を背負いながら、自らも戦わなければならないというのは

 物凄く精神的に厳しいと言えます」


「それは確かに大変ですねぇ。

 ならば試合中、監督は何をされているのでしょうか?」


「監督は、全体マップを見ながら相手の作戦を予想し

 選手交代や選手の一時撤退の際に、選手にその情報を伝えたり

 リーダーが選手交代などを申請した合図を確認し

 それを審判団と自軍ベンチに伝え、スムーズな選手交代が可能になるように

 準備をしたりすることが主な役割ですね」


「なるほど。

 試合中も、様々なことで選手を支えているという訳ですね?」


「そうなります。

 基本的に、選手が100%力を発揮出来るように

 その環境を整えたり、チームのバランスを考えたりと

 裏方で選手を支える存在・・・それが監督という仕事です」


「なるほど~!

 普段は、なかなか知ることが出来ない仕事ですからね!


 ではここで、一旦CMを挟みまして

 どんどんと紹介していきますよ~!

 ぜひチャンネルは、そのままで!」


 会話が変な方向に行きそうになっていたこともあり

 江口は、スタッフからの指示で上手く会話に割り込むと

 CMを告知してポーズを決めると、番組はCMに切り替わる。


 CMの間に再度進行する流れを確認したり

 手元の資料を入れ替えたりしていると、スグにCMが終わり

 番組が再開する。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 勝ち上がった8校の紹介が終わり、改めてその一覧が並ぶ。


 Aブロック  佐賀:県立大学附属高等学校

 Bブロック  東京:私立大神高等学校

 Cブロック  京都:私立青峰女子学園

 Dブロック  大阪:府立日吉女学園

 Eブロック  山梨:私立大熊高校

 Fブロック  滋賀:私立琵琶湖スポーツ女子学園

 Gブロック  広島:県立芦見川高校

 Hブロック 神奈川:私立栄女学園


「川上さん。

 この一覧を改めてご覧になって、どうですか?」


 大館が、改めて川上に声をかける。


「こうして見ると、関西勢・・・が多いですね」


「確かに。

 今年は、京都・大阪・滋賀の3校と近畿勢が多く

 西日本という流れだと佐賀と広島が入りますので

 8校中5校が西側となりますね」


「今回、綺麗に関西勢が別ブロックになったとはいえ

 こうして勝ち上がって来るのを見ると

 関西勢のレベルが上がって来ているように思えます」


「それはやはり関西の方がレジェンドが盛んであるということでしょうか?」


「いえ、そういう訳ではありません。

 ただ最近、日本代表選手になっているような実力のある選手が

 関西に多くなっているので、必然的に関西勢が強くなってきているのでしょう。

 決して、関東が劣っているという訳ではありません」


「言われて見ると確かにそうですね。

 先ほども紹介があった琵琶湖スポーツ女子学園などは

 昨年のU-15女子世界大会で日本を優勝に導いた霧島 アリス選手をはじめとして

 実力のある選手が多数在籍している強豪校だったりしますので

 やはり強い選手を多く抱えているチームほど強いといった所でしょうか」


「それは、否定しませんが

 必ずしも強い選手を集めれば勝てるというものでもありません。

 レジェンドは、10人で戦うチーム戦です。

 仲間との協力が何より大事なスポーツですので

 個人の強さが全てではありません。


 それだけは、誤解しないで欲しいです」


「単独行動をしがちな選手も居ますが

 本来、チーム戦であり、それぞれが役割を果たすことが大事であるというのは

 レジェンド界では、よく言われる話でしたね」


「はい! それでは!

 最後に、本日発表された決勝トーナメント表をご覧ください!」




 第一試合

 東京:私立大神高等学校

 佐賀:県立大学附属高等学校


 第二試合

 山梨:私立大熊高校

神奈川:私立栄女学園


 第三試合

 京都:私立青峰女子学園

 広島:県立芦見川高校


 第四試合

 大阪:府立日吉女学園

 滋賀:私立琵琶湖スポーツ女子学園




「一試合目は、前回優勝校である東京都代表:私立大神高等学校。

 対するは、圧倒的な統率力を見せつけた佐賀県代表:佐賀県立大学附属高等学校。


 二試合目は、攻撃的なスタイルで接戦を制してきた山梨県代表:私立大熊高校。

 対するは、安定した防御戦術で堅実な勝利を重ねてきた神奈川県代表:私立栄女学園。


 三試合目は、歴代優勝回数最多の名門校である京都府代表:私立青峰女子学園。

 対するは、カウンター戦術で毎試合一気に勝負を決めてきた広島県代表:県立芦見川高校。


 四試合目は、非常に完成度の高い戦術で危なげなく勝ち上がってきた大阪府代表:府立日吉女学園。

 対するは、今年からの新設校ながら一気に決勝まで上がってきた滋賀県代表:私立琵琶湖スポーツ女子学園。


 ということになりました。


 川上さん。

 改めて最後に、一言お願いします」


「どちらも高いレベルで連携が取れている大神と佐賀附属の対戦は、非常に愉しみです。

 次に攻撃型の大熊と防御型の栄女学園の攻防も、どうなるか愉しみですね。

 常勝校である青峰に芦見川のカウンターがどこまで通用するのかも興味深いですし

 安定感のある日吉に、新設校である琵琶湖スポーツがどう仕掛けるのかも気になります。


 ですので今年は、全体的に非常にハイレベルな試合が見れると思っています」


「なるほど。

 ありがとうございます。


 さてここでお時間が来てしまいました。

 川上さん。

 今日は、ありがとうございました」


「いえいえ。

 こちらこそ、ありがとうございました」


「それでは、本日の【NEWS・LEGEND】はここまで。

 ご視聴、ありがとうございました」


「ありがとうございました!」


 3人が全員頭を下げると画面がフェードアウトしていき

 そしてCMに入る。


「はい、終了です!

 お疲れ様でした!」


 スタッフが終了の合図をすると

 一気にスタジオの空気が軽くなる。


 大館と江口は、改めて川上に挨拶をする。

 すると川上は、苦笑しながら気にしないで欲しいと答える。


「逆にここまでされると恐縮してしまいます」


 と発言し、周囲で笑いが起こる。


「では、これからみんなで一杯どうですか?」


 誰からともなくそんな声が上がったが

 川上が申し訳なさそうに


「これからまだ仕事がありまして・・・」


 と返事をする。


「え? まだあるんですか?」


 江口が咄嗟に時計を見る。

 今から別の仕事となると、間違いなく日付が変わるだろう。


「これから深夜ラジオに呼ばれてまして」


「あら~、お忙しいんですねぇ」


「まあ、今からが一番忙しい時期なので」


 その言葉でまた周囲が、ドッと笑う。

 こうして様々な雑談などを交えながら

 次々とスタッフがスタジオから出ていき

 最後に電源が落とされるとスタジオは、静寂に包まれた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る