第5話
「でもアリスの場合は、接近戦も考慮しておかないとヤバイです。気づいたらナイフでバックアタックキル決められた~なんて強化合宿の頃からよくありましたからねぇ。U-15世界大会でもナイフによるバックキルだけで50キル超えてるとかいう頭おかしい状態ですから。とにかく近くにスモークやジャミンググレネードが飛んで来たら、アリスが来てる可能性があるので要注意です」
その言葉を誰も笑いも否定もしない。
何故ならそれは公式記録として残っており、今後抜かれることはないと言われているものだからだ。
実際に世界大会でスモークやジャミングなどのグレネードで相手を翻弄し、素早く背後を取ってナイフで背面の動力部位を破壊して一撃即死を決めるシーンは何度もTV放送されており、海外では『NINJA』と呼ばれたりもしている。
「じゃあ接近だけ注意すればいいのかって言われるとそうじゃなくて全員知ってると思いますけど、狙撃に関しても人間止めてるレベルなんで狙撃にも警戒しないとダメなんですよ。あの市街地マップで障害物の巨大廃墟ビルとかいっぱいあるじゃないですか。あれの窓とか欠けたビル壁の穴とかそういう所を平然と通して、その先に見える僅かな相手の頭を綺麗に撃ち抜きますからね。U-15の時なんて相手の大盾に付いてる覗き窓の部分を撃ち抜いてのヘッドショットとか決めてましたから。味方なのに恐怖を感じるなんて、初めてでしたよ。なので見晴らしの良い高台に陣取られたらアウトです。それこそミサイルや迫撃砲とかで爆撃して無理やり下がらせないとまず無理です。そんな感じなんで見晴らしの良い場所は、基本的に陣取るのも怖いですね。アリスの位置を常に把握してないと一方的に狙われるだけですから」
「……聞けば聞くほど、霧島 アリスは人間止めてるわね」
「ぶっちゃけアリスを相手にするぐらいなら、まだ京子と晴香の2人を相手にした方がマシです。それに彼女ばかりに集中するのも危ないですし」
「う~ん。やっぱ実際、試合で相手してみるしかないか。じゃないと現実的な対応が思い浮かばんわ。え~、残り時間何分ありましたっけ?」
「後28分よ」
私は白髪の目立つようになったもののまだまだ元気な我らが女性監督に時間を確認すると、聞かれると思っていたのか即答で答えが返ってくる。
「じゃあ10分間、各自装備のチェック。チェック後に再集合。そこでメンバー発表を含めた作戦会議を10分。残り3分で現場移動。何か質問は?」
「……」
「よし、じゃあまず装備チェックから。今回は練習試合だからスタメン以外もバンバン使っていくから、自分には関係無いとか思わずに装備チェックしておくように。以上、解散」
■side:世界的兵器メーカーの社長令嬢 藤沢 花蓮
「では、この私。『藤沢 花蓮』が、皆さんを導いて差し上げますわ!」
「いえ~い」
そう言えばリーダーって決めてなかったなという話になり、ここはぜひこの私が皆さんを率いなければと思い立ち、立候補させていただけば満場一致で私がリーダーになりました。
まあ、当然ですわね。
それにレジェンドのリーダーと言えば非常に重要な役割を担っており、単純にやりたいだけの人では無理なのです。
何故ならリーダーは、基本的にデメリットだらけ。
しかも基本的にゲームに参加出来ない監督の代わりに試合中、選手交代や武装交換の指示などもリーダーが決めなければなりません。
そう、それらを判断出来る冷静さと決断力が必須です。
何よりリーダーは、チームの顔であり代表。
それを私以外の誰が務められるというのでしょうか。
「では、今回の作戦会議から始めましょうか」
「リーダーは、何か意見が?」
元からそう答えるつもりだったのか、即答で返事をしてくる『新城 梓』さん。
「まあ今回は皆さんの動きや戦い方の確認もありますし、デビュー戦を控えた3人の支援も必要ですから必然的に防衛主体になりますわね」
「……」
この時彼女は気づかなかった。
他のメンバー全員が、彼女なら『華麗に全員突撃すれば問題ない』とか言い出しそうなんて思っていたことに。
「あら、どうされました皆さん?」
「い、いえ、別に」
こちらはギリギリの人数であり初心者を3人も抱えている。
そんな状態で連携を取って攻めるなど至難の業。
だからこそ無難な防御戦術を提案したのですが、どうも皆さんの反応がイマイチというか悪い。
色々と思う所はありますが、とにかく話を進めていかねばなりません。
時間は有限ですからね。
「そう言えば、相手にU-15の日本代表の方がいらっしゃいましたわね?」
「ああ、恋ですか?」
私の言葉に『南 京子』さんが答える。
確か彼女もU-15の選手だった方。
「そう、その方です。ちなみにどのような戦い方をされるので?」
「う~ん。ガトリングマニア?」
「あははっ、それは言えてるわ」
スグにその意味を理解した『大谷 晴香』さんは、大爆笑し始めました。
『霧島 アリス』さんまで軽く笑っている所を見ると、代表選手の間では有名な話なのかしら?
その時……ふとTV中継で見ていた、一歩も引かずに全てのガトリングを連射していた日本の選手の姿を思い出したので、その姿を口にした。
「そういえば……大型ガトリングに両肩ガトリングというガトリングばかりの方がいらっしゃったような?」
「そうそう。そのガトリング馬鹿」
「世界大会でも目立ってたものね。日本のガトリングガールとかって言われてたっけ」
笑いながら会話をする京子さんと晴香さんの言葉で、皆さんその姿を思い出したのかあちらこちらから『あ~』と声が聞こえてきます。
『宮本 恵理』さんも理解したという顔で
「そう言えば居ましたね。大型ガトリングと両肩ガトリングを一斉射して中央で激しく戦ってる人。TVで見てたの思い出しました」
と、会話に入ってきました。
「それが『一条 恋』。ちなみに補助装備はG.G.Gの大型リペアだから、撃ち合いの最中に回復されるって点では非常に厄介。大火力で回復を上回るか、リペア切れ待ちからの一斉攻撃だね」
「恋は撃ち合い上等!っていつも言ってるからね。そう言えば、ロシア戦の時に―――」
京子さんと晴香さんはU-15の時の試合で、その恋という方がリーダー命令を無視して撃ち合いをしたということで、通信越しに派手な喧嘩をしていたと思い出話を始めてしまいました。
本来なら止めるべきなのでしょうが、U-15の代表選手達が語る裏話なんて聞ける機会はそうそうありません。
そういう話は私も興味がありますので、ついつい聞き入ってしまいます。
世界大会やプロの試合では、たまに他人には理解出来ない装備編成で戦う選手の方がいらっしゃいます。
その中でも特にガトリングは大きく無骨な見た目、その派手な音や殲滅力。
何より撃ち合いの花形としてTV映りも良いので愛好家は非常に多く、ウチでも売り上げ上位に入る武器ですわ。
そうそう、本格的に思い出しました。
彼女……『一条 恋』という方は大型ガトリングを両手で持ち両肩にまでガトリングを背負い、常にステージ中央の撃ち合いに参加して、一歩も引かずに戦い続けている選手でした。
特に装備しているガトリングを一斉に撃った時の音が凄まじく、音だけで相手が迂闊に頭を上げれないということが度々あったりと、なかなかに目立っていましたね。
「―――てな感じで結局は、お互い仲直りはしたんだけどね。まあ試合中は、ギスギスしてて大変だったわ」
色々と考え事をしていると、どうやら話が終わったようですわね。
すると監督が手を叩いて自身に注目を集める。
「さて、そろそろ作戦会議を始めましょうか」
「はい!」
全員で元気良く監督に返事をすると、まずは監督が考えた作戦とフォーメーションが説明される。
それをリーダーの私が中心に色々と修正意見を言いつつ、時間ギリギリまで話し合いを行いました。
■side:琵琶湖女子監督 前橋 和歌子
お腹に響くような振動とでもいうべきか。
ガトリングの撃ち合いはよく見かけるが、ここまでのガトリング祭りも珍しい。
私が選手をしていた頃でも滅多に見ない光景だ。
目の前の観戦モニターに映っているのは、そんなガトリングの壮絶な撃ち合い。
中央に陣取ったガトリング専の新城は、新人STの宮本とBRの安田を連れて発電所の牽制を行っている。
今回、ウチはレッドチーム。
青峰はブルーチームとして登録された。
LEGENDは、この2色でチーム分けをすることが多い。
長い名前や呼びにくい名前など咄嗟に判断出来ないような名前のチーム名で呼ばれるよりは、単純に赤か青として呼ばれた方が見た目にも観客的にも解りやすいためだ。
しかし表記されるログだけはしっかりと学校名などだが。
現在目の前で行われているのは、中央の発電所の取り合いである。
発電所は取った側が司令塔への攻撃権を得る施設だが、別に取られたからと言ってスグにどうこうなるものでもないし、取られた所で司令塔への攻撃さえ阻止出来れば何の問題もない施設である。
そのため無理をして主導権を取るような施設ではない。
まあ取っていることで多少は相手への牽制になる程度であり、過度に押し込まれなければ問題ない。
だからというべきか
序盤からそこまで激戦区になることはなく、様子見による撃ち合いが多くなる。
この施設が重要になるのは、点差が付いた後半に逆転を狙った突撃があった時ぐらいである。
そんな施設で開幕にも関わらず、正面では新城の大型ガトリングと宮本の両肩ガトリングによる攻撃。
対して相手にはガトリングマニアこと、世界中にその存在感をアピールした一条恋による大型ガトリングと両肩ガトリングによる一斉射撃。
更にその恋の近くに居る最前線の敵STも、大型ガトリングと肩部シングルガトリングによる射撃を仕掛けてくる。
お前らどんだけガトリング好きなんだよと言いたくなる光景だ。
後ろから援護射撃をするはずの安田千佳は、まるでアイドルのような見た目重視の可愛らしい装甲姿で狙撃ライフルを抱えたまま完全に隠れてしまっている。
初心者であるという点だけでなく、この激しいガトリングの撃ち合いという大迫力な光景に飲まれてしまい、完全にテンパっているのだろう。
先ほどから流れ弾が近くに着弾するたびに小さい悲鳴を上げている。
こうなっては彼女はこの試合使い物にならない。
今回試合をしているマップは『デュエルエリア』と呼ばれる非常にシンプルで解りやすい戦闘エリアである。
このマップは互いに片側に高台があり、高台には中央からしか登ることが出来ない。
つまり高台側から攻めても高台を制圧出来ないため下手に前に行くと、高台から回り込まれ挟撃されてしまう恐れがある。
逆に高台側から攻めれば相手を押し込んでも背後を取られることはないため、高台側が攻撃の主軸になりやすい。
中央突破という可能性も無い訳ではないが、中央突破は左右からの援軍が間に合いやすいので現実的とは言えないだろう。
なのでこのマップは高台を基本に攻撃・防御がハッキリしており、脇道や遮蔽物も少なく大荒れしにくいため、相手撃破によるKD差がそのまま勝敗に繋がりやすい基本的なマップと言えるだろう。
北側エリアは相手側に高台があるため、こちらからすれば防御ルートになる。
そこにはU-15で堅実的な戦いを見せた大谷と南。
そしてショットガンマニアの大場という経験者3人でガッチリした防衛にしてある。
対してこちらの攻撃ルートである南側には、新人アタッカーの三峰と経験者でサポーターの杉山。
高台にリーダーの藤沢という形で攻めるというよりは、全体的に新人を試合に慣れさせるための布陣となっている。
正直な話、経験者の娘達に関しては特に問題がある訳ではないので気にしていない。
U-15に入っていなかったとはいえ引き抜きで集めた人材である。
元々それなりに有名であったり実力のある選手達ばかりなのだ。
なので彼女達を今後どう使っていくかをこの試合で、まずは確認していこうと思っていた。
ちなみに霧島は中央後方でウロウロする遊撃ポジションをやらせている。
逆に彼女に関しては、どう扱うべきか非常に悩んでいた。
狙撃をさせれば正確な連続ヘッドショットというプロでも難しいことを平然とやってのけ、遊撃をさせても一瞬の隙を見つけては一気に仕掛けて相手を仕留める。
さながら映画で出てくる主人公のようなたった一人で敵部隊を壊滅させる一騎当千、まさにワンマンアーミーである。
突然レジェンド界に現れ中学生大会ではほとんど無双状態で母校を優勝に導き、U-15世界大会でも他国のエース選手を寄せ付けない驚異的な強さと記録で日本をアジア勢初優勝へと導いた天才。
プロ選手として戦った経験があるとはいえ私程度の凡人では、この天才を正直どう扱えばいいのか解らないというのが本音だ。
「まあとりあえず皆の戦い方を含め、じっくりと見せて貰いながら考えますか」
*画像あり
「近況ノート:第5話」
■近況ノートに挿絵を添付してみました。
本来だと近況ノートにあるような挿絵を入れ、試合展開などを解りやすく表記する予定でした。
カクヨム様では挿絵が挿入出来ないとのことで、挿絵無しの状態で掲載いたします。
もし挿絵込みを希望される場合は、小説家になろう・ハーメルンなどには挿絵込みで投稿しておりますので、そちらで読んで頂ければと思います。
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