第6話








■side:青峰女子 一条 恋





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「ガトリングの撃ち合いで負ける訳ないでしょ!!」


 中央の大型ガトリング持ちと盾や障害物に隠れながら肩部両肩ガトリングで攻撃してくる2人を相手に、私は自慢の大型ガトリングと両肩ガトリングを全弾発射しながら相手の攻撃を抑え込むことで被弾を減らすいつものスタイルで応戦する。


 更に自分の前には先輩の2年生で大型ガトリング持ちのSTが居て、その先輩も肩のシングルガトリングを混ぜた攻撃で弾幕を張ってくれている。

 撃ち合いの手数で言えば、こちら側の圧勝とも言えた。


 正面に最初はブレイカーも居たように見えたが、スグに見えなくなってしまった。

 なのでこのまま中央を押し込んでも問題なかったのだが、途中からアリスが中央をウロウロし始めたため早々に諦めた。

 彼女相手に迂闊な前進はNGだ。


 ……アリスの奴、こっちに手を振ってやがる。

 試合中なのに余裕かっ!と心の中でツッコミを入れつつチーム全体にアリスの位置を報告すると、無理をしない程度に撃ち合いを継続する。

 まあこの調子なら中央が押されることはないだろう。


 相手側の隠れながら肩部ガトリングを撃ってくるSTは恐らく初心者だ。

 大盾にも武器がついているタイプなのにガトリングしか使用しておらず、盾や近くに弾が着弾するたび萎縮しているようでたびたびオーバーヒートも起こしている。


 唯一、脅威になりえるのが大型ガトリング1本のみで機動力を重視した高機動STと呼ばれるスタイルの相手だ。

 彼女も撃ち合いに慣れているのか突き出した左肩の大盾を利用して被弾を最小限にしつつ発電所を盾にする形で、機動力を活かした見事なダメージコントロールを行っている。


 しかも特殊装備枠にS.L製の追加装甲を装備しているようだ。

 追加装甲は耐久値を増加させるものだが会社によって明確な差がある。

 S.L製は特に実弾防御系に特化した装甲で厄介だ。


 そのため先ほどからこちらのガトリングの大半が肩のシールドと装甲に弾かれてしまいダメージになっていない。

 もう少し踏み込めば距離による威力減衰もマシになってダメージも通るようになるだろうが、それをすると逆にこちらが危ない。


 ミサイルなどの高火力爆発武器があれば良かったのだが、ミサイル持ちは北側の侵攻ルートに行ってしまったので中央にはいない。


「くっそ、かったいなぁ~」


 最前線の同じくガトリング火力重視の先輩も相手のS.L追加装甲に手を焼いている。

 正直相手のSTは、凄く上手いと思う。


 かつてU-15で戦ってきた海外の選手と比べてもだ。

 こちらの武器性能・有効射程を正確に把握して自身の装甲強度や試合状況などから適切な交戦距離を維持してくる。

 それを崩そうにも相手は高機動スタイルのSTだ。

 相手の方がダントツに早い以上、どうしても相手にペースを握られてしまう。

 そのため今のようにこちらだけが一方的にジワジワ削られるような距離を維持して消耗戦を強いられてしまっている。

 本来ならこの状態を崩すために強引に前に出て圧力をかけるのだが、それが出来ないので困っていた。


 そう……アリスの存在だ。

 攻撃こそしてこないが定期的に視界に入るようにウロウロしている。

 その存在があるからこそ下手に前に出れない。


「あ~、も~。敵だとホントやっかいだわ~!」


 思わず愚痴る。

 私も先輩も補助装備がリペアユニットという一定量の耐久値を自動で回復してくれる補助装備をしている。

 そのため先ほどからの被弾は全て回復されダメージは無い。

 しかしリペアは無尽蔵ではない。

 対して相手の装甲は減った耐久値を回復することはないがダメージがほとんど通っていない。

 つまり消耗させられているのはこちらであり長期的な撃ち合いになるとこちらが不利になる。


 リペアユニットは非常に便利ではあるが支援ポットなどから補充出来ず、開始位置か軍事施設でないと補充することが出来ない。


 いくら中央がそこまで無理に押し込む必要が無いとはいえどちらも制圧せず撃ち合っている以上は、先に1キルを取って優位に立ちたいと思うのが常識である。


「ごめん!オバヒしそうだから、ちょい止め!」


「了解!」


 前で攻撃していた先輩がガトリングの撃ち過ぎでオーバーヒートしかけたためクールダウンしたいからしばらく攻撃を止めるという台詞を受け、自分のガトリングの状態を確認する。


 両手で持つ大型ガトリングは調整しながら撃っていたのでまだまだ問題無いが、両肩はそろそろ危ない。


「しばらく状況動かないかもねぇ」


 などと考えながらオバヒしないように調整しつつも弾幕が薄れたのを好機と見て相手が前に出てこないよう注意を払って弾幕を調整する。






■side:琵琶湖女子 新城 梓






「うっわ~、こりゃキツイわ~!」


「な、何でそんなに愉しそうなんですかー!」


 気持ちが抑えきれず自分でもわかるほどとても愉しそうな声で話す私にテンパったままの宮本ちゃんが抗議する。


「凄いでしょ、このガトリングの雨!いや~ホント何よこれ!」


 テンションがドンドンと上がっていく。

 いやこんなに互いでガトリングを用意しての撃ち合いなんて滅多に起こらない。

 特にSTは高火力・高耐久の代償として鈍足であるため下手に移動することが出来ず、その場での撃ち合いになることが多い。

 しかもガトリングは互いに射線が完全に通っていなければ当たらないためガトリング同士だと完全な撃ち合いと化す。

 メイン武器にガトリングを選んだ人間で、この勝負を逃げる奴など居ない。


 だけど、あまりにも激しい撃ち合い。

 しかもこれが初めての試合である宮本ちゃんはレジェンドの熱気に飲まれてしまい、開始数分で既に肩で息をするまでになっていた。


 もはや余計な言葉も話せなくなり完全に余裕がない感じになってしまっている。


「相手が突っ込んで来ないのは、霧島ちゃんが居るからだろうなぁ」


 そう呟いて苦笑する。

 安田ちゃんに関しては、完全に隠れてしまった。

 声をかけてフォローしてやりたいのだが相手の攻勢が強すぎてそれどころではない。

 宮本ちゃんも初めての試合にしては頑張っているのだが、相手が悪すぎる。

 今は何とか交戦距離を調整して相手を抑えている状態。

 後ろで霧島ちゃんがけん制するようにウロウロしてくれてなければ、とっくに中央は押し込まれて後退しているだろう。


 どうしたものかと思っていたら後ろで霧島ちゃんが安田ちゃんに近づいているみたいなので、彼女のフォローは丸投げてしまおう。

 その代わりせめて宮本ちゃんのフォローを頑張るか。


 試合開始からずっと障害物である壁と自分の大盾でほとんど姿を隠れていて安全であるにも関わらず自分に攻撃が少しでも集中すると途端に焦ってしまい、両肩ガトリングを条件反射のように全力で撃ってしまう。 

 そして予想通り調整を一切しなかったガトリングは基準値を超え、早々にオーバーヒートを引き起こす。


 ビー! ビー!


「あ・・・あれ?何でっ!? どうしてっ!?」


 警告音と共に急に停止する肩部ガトリングに驚き、混乱して叫び出す宮本ちゃん。


「宮本ちゃん、落ち着いてっ!ガトリングは、オバヒしただけだからっ!とりあえずオバヒ解除されるまで盾内蔵の奴を撃っておいてっ!」


「ひゃ、ひゃぃ!」


 少し強めに声をかけると慌ててそんな武器あったなという感じで盾を構え直して内蔵武器で攻撃する宮本ちゃん。


 まだ私の声が聞こえているだけマシかな?と思う。

 本当にテンパった人は他人の声すら聞こえなくなっちゃったり安田ちゃんみたいに逃げ出しちゃうからね。


「大丈夫だから、落ち着いて。みんな何度も経験することだから。私だって何度管理ミスってオバヒさせたか」


 笑いながら宮本ちゃんを落ち着かせようと自身の失敗談を語ってみる。


「とりあえず中央はよほど隙を見せない限り無理に攻めてこないから落ち着いて練習通りのことが出来るようにしよう。まずはそこからね」


「はい! ありがとうございます!」


 元気よく返事をする宮本ちゃんに思わず驚く。

 先ほどまで肩で息をしていた必死さは、もう無くなっていた。


 ……意外と化けるかもしれないね、この子。






■side:琵琶湖女子 リーダー 藤沢 花蓮 






「キャー!」


 近くでグレネードが連続爆発した音と衝撃に思わず叫び声を上げる三峰灯里さんは完全に逃げ腰のようですわね。

 でもまあ仕方がありません。

 初めての試合なのですから。


「早く逃げて!」


 一斉攻撃が来ると予想したであろう杉山栄子さんがグレネードで見えない煙幕の向こうから仕掛けてくるであろう相手に設置レーダーによる反応だけで位置を予測しての牽制射撃を行いました。


 レーダーの反応を見る限り相手は煙幕の向こうからの正確な攻撃に多少驚いたもののサポーターのマシンガンはそこまで威力が高くないのが欠点であるため、アサルトライフルの距離での撃ち合いでは即座に致命傷になることはありません。

 相手もそれを冷静に判断したのか無理して前に出るようなことをせず、咄嗟に下がって被ダメージを最小限に抑えたようですわね。


 その隙に三峰さんは杉山さんの更に後ろの軍事施設まで撤退することが出来ました。

 それを確認した杉山さんも同じく軍事施設まで下がり中に入って素早く消耗した弾薬やサポート装備・耐久値などを回復して迎撃態勢を整えています。

 流石は、サポーター経験者という所でしょうか。

 支援の的確さもありますが、再設置したレーダーや支援ポットの位置も完璧。


 相手も恐らく一旦下がって軍事施設を使用し、態勢を整えていることでしょう。

 こちらが一気に後方に下がったこと、そして高台から攻撃が無いこともあって

 そのまま攻勢に出ることはありませんでした。

 ……残念ですわね。


 レーダーの動きを見ても予想通りといったところでしょうか。


「はぁぁ~……」


「大丈夫?」


 深いため息を吐く三峰さんを見て杉山さんが声をかけていますわ。 

 互いに隣に居るのに全体回線を使用している辺り状況報告を兼ねているのでしょうね。


「すいません。緊張の連続で、迷惑かけっぱなしで……」


「初めての試合なんだから仕方が無いでしょ。気にする必要なんてないわ。むしろ灯里ちゃんは動けてる方よ。未来なんて初めての試合でテンパった挙句に味方に誤射したのよ?信じられないでしょ?」


「え? そうなんですか?」


「おい、こら栄子!後輩に余計なこと教えるんじゃないわよ!」


 通信回線を使用していたこともあり思わぬ所から自分の話が出てきた大場未来さんは、凄い勢いで会話に入ってきましたわね。 


「誤射された人間の気持ちなんて解らないでしょ?」


「だからアレは、謝ったじゃん!」


「『あ、ごっめ~んw』というのが謝罪?」


「別にワザとじゃないんだからさ~」


「そうやってちゃんと謝罪しないから、こっちもいつまでも言うんでしょうに」


「あははっ」


 杉山栄子さんはメガネの似合う真面目そうなイメージでしたが、結構言うことは言うタイプのようで派手な言い合いをされています。


 突如始まった漫才のようなやり取りで皆さんから笑い声が聞こえてきましたわ。


 ……なるほど、これで適度に緊張が消えたという訳ですか。

 この役割は、本来私の仕事のはずです。

 今までは、単独プレイが多くそんなことを考えたことがありませんでした。

 先を越されたという感情と、自分からやるべきだったという後悔。

 そして代わりに盛り上げてくれたという感謝にチームとして初めて全員が少しまとまれたような雰囲気。


 何とも言えない感情に支配されつつも、それでいて何だか悪くない気分でもあります。


 ふいにレーダーを見るとこちらが全員一時止まったからか、相手側が動き出している様子が映っていました。


 せっかくリーダーになったのです。

 そしてこうして素晴らしいメンバーで戦えるのです。

 せめてリーダーらしくと思い、声を張り上げました。


「さて、相手が動いて来ましたわ。作戦通りに、まずは1勝いただきますわよ!」


「了解!」


 気持ちが良い返事と共に全員が動き出しました。


 そう、私の……いえ、私達の戦いは、ここからですわ。






■side:青峰女子 リーダー 大里 朱美






「では、ゆっくり前進しつつ様子見します」


「了解。高台もそうだけど、カウンターにも十分注意してね」


「了解。では、行きます」


 一旦ハンドグレネードを連続で投げて圧力をかけた南側の防衛部隊が動かなくなった南側から押し込んでみようと提案してきた。


 本来なら北側の自分達が攻撃を担当するのだが、相手防衛に大谷や南といった有力選手が居るため迂闊に攻めれない。


 私も高台からけん制しているが大谷の投げるハンドグレネードが的確過ぎて迂闊に前進すること出来ず困っていたのだ。

 特にSTは足元に投げ込まれると逃げようがないため、ここまで正確な投擲は下手をすれば一撃撃破の危険性まである。

 なので慎重にならざるを得ない。


 中央の派手な撃ち合いは恋の報告を聞く限り早々押し込まれることはないだろう。

 ウロウロしているというアリスの存在が少し怖いぐらいだが恋なら対処ぐらい考えているだろうから任せている。


 ならば少し怖いが南側が一番手薄であり反応を見るには丁度いいのではないかと考え、少し攻め込ませて反応を見ることにした。


 慎重なやり取りをしつつ前進する味方。

 レーダー上も問題ない。

 少し相手の高台までレーダーで監視出来ていないのが気になるが、その辺りは許容範囲だろう。


 中間を超え、相手の第二ラインであろう相手側軍事施設に味方が近づいた瞬間だった。


「高台!仕掛けてくる!」


 全体通信から入ってくる南側からの緊迫した声。


「状況説明っ!」


 詳しい報告を聞こうと声を張り上げたが……


―――ヘッドショットキル!


 突然、特殊キルアナウンスが流れる。

 反射的にログを見れば恋と一緒に中央を抑えていたSTの娘がヘッドショットを決められて撃破されたと表示されていた。


「―――ミサイラーッ!?」

「撃つ前に仕留めて―――」

「馬鹿っ!前からも攻撃が―――」


 スグに指示を飛ばそうとすると、今度は前進した南側部隊から叫び声にも似た声が回線に入る。

 だがそれらは一瞬で消え、静寂に包まれる。


 あまりにも激しい変化に一瞬フリーズしかけるも急いで状況を確認すると、ログには前進した3人が揃って撃破されたという表示。


「うっそでしょ……ッ!?」


 それしか言葉が出なかった。

 ほんの一瞬で立て続けに4人もやられたのだ。


 パニックになりそうな頭を叩いて無理やり意識をハッキリさせる。

 まず自分がしなければらないのは、指示を出すこと。

 何故なら自分が相手なら、このタイミングで一斉攻撃を仕掛けるからだ。

 急いで全員に対して防衛指示を出す。


「―――中央は、恋!アナタ1人で支えて!もう1人は、南の援護!北側から2人回すからそれまで南を通さないで!」


「了解っ!」


「それから―――」


「ちょ、ちょ、ちょっ!中央、前進してきたっ!抜かれはしないけど発電所は、守り切れないっ!」


 ―――レッドチーム、発電所制圧!


 次の指示を飛ばすよりも先に相手が動き出してきたことに思わず舌打ちをする。

 いくら恋でも1人では、厳しいだろう。

 こうなったら全体を下げよう。


「全員、一旦こ―――」


「南から侵攻し―――きゃぁ!」


 ―――ヘッドショットキル!


「南側は、1人やられて抜かれた!私はミサイルが連続で飛んできて身動き出来ないわ!」


 相手の動きが早すぎて指示が追い付かない。

 味方からの報告よりも相手の行動の方が早いのだ。

 既に設置したレーダーも破壊されているため、マップもまったく頼りにならない状態となっている。


 だが南が抜かれた以上、相手の狙いは司令塔攻撃だ。


「マズイ!南の援護中止!司令塔への攻撃を止めて!」


 ―――レッドチーム、司令塔への攻撃を開始しました!


 電光石火とは、まさにこのことだろう。

 攻勢が始まったと思った瞬間……立て続けに味方が撃破され、最重要防衛施設である司令塔が攻撃されているのだ。

 流れるような連携攻撃に完全に翻弄されている。


「間に合わなかっ―――くぅ!」


 司令塔への攻撃アナウンスと共に北側に居る大谷や南が、攻勢を一気に強めてきた。


 こちらの動きを封じるかのような弾幕の嵐で、とても顔を出せる状態ではない。

 下手に動けば間違いなく撃破されてしまうだろう。

 ただこういった激しい弾幕はSTが数機居る場合を除けば弾切れなどの関係で短時間しか展開出来ない。

 だが今、その短時間が命取りなのである。


「くっそ!軍事施設側から攻撃されてます!」


 その報告に再度マップを見るが詳細は、一切映っていない。

 恐らくグレネードか何かの爆風に巻き込まれて破壊されたのだろう。

 レーダーも無く味方も自衛のみで手一杯となれば、もはや全体マップなど何の役にも立たず状況把握すら不可能。


 せめて司令塔への攻撃を止めたいが誰も止めに行ける状態ではない。


 そもそも司令塔への攻撃というものは、武器によるダメージがダイレクトでゲージを減らすため1秒でも早く止める必要がある攻撃である。


 たった1~2秒……たった数発のマシンガンでも20~30ポイントは減らされる。

 攻撃している相手を1人撃破して攻撃を止めた所でほんの僅かな攻撃で2~3人撃破分のポイントを持っていかれる。

 そのため司令塔への攻撃は、何としてでも止めなければならないのだ。


 司令塔は遠距離から攻撃出来ないように周囲が壁で覆われている。

 そのためほぼ真下からしか攻撃を受け付けない構造だ。

 しかも司令塔は自陣の最奥にあることがほとんど。

 よほどでない限り踏み込まれることなど無いはずなのだ。


 そこまで攻撃難易度が高い司令塔攻撃だが、それが1回決まれば勝負が決まるほどの点差を出せてしまうため現在の状況はもはやほぼ負けと言ってもいい。

 今から立て直したのちに相手側を押し込んで逆にこちらが司令塔攻撃を成功させるなど、流石にもう不可能だ。


*画像【練習試合:決着】

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 ―――試合終了


 誰も止められない司令塔への攻撃が続き、ついに大音量の音と共に試合終了の合図が鳴る。


  青峰:0

 琵琶湖:1000


 相手を1ポイントも減らせず、自分達は0というまさに何も言えないほどの完敗であった。


「うわ~、マジか~」


 予想をはるかに超えた初戦の結果に私は、思わず呟く。

 状況が動いたと思った瞬間、一気にやられたという感じだった。


 私達の青峰女子は、昨年の全国大会で京都府代表校である。

 ここ5年間は毎年府の代表になっている強豪の1つであり、全国制覇も8回とレジェンド名門校の1つとして全国的にも有名な学校である。

 当然ながら選手層も厚く遠方からここを目指す娘も多い。

 そのため今では1軍から5軍まである大所帯である。


 更に今回は今年の試運転としてあえて最強チームで挑んだのだ。

 最強チームを試せる期間などあまり無いし、練習試合形式ならその場で色々と選手を入れ替えることも出来てチームの調整も非常にしやすい。

 何より試合をすることで見えてくることも多い。


 特にLEGENDは1試合60分であり

 60分間ぶっ通しで試合が進むのだが

 他のスポーツと違い選手交代の制限が無い。

 そのため選手交代は、他スポーツよりも激しく起こることがある。


 だから今回のチームは、全力で挑むことになった。

 メンバーも全国高校生大会経験者が中心で唯一経験していない1年もU-15世界大会優勝チームのメンバーとあって、ここ数年で最高のチームなのではないか?という自信もあった。

 しかし、その結果がこれである。


「すいません!私が、あそこで抜かれなければ!」


「散々言われていたのにカウンター食らった私達が!」


「いや、抑えきれなかった私が!」


 気づけば目の前はゲームのチーム編成画面になっておりチーム内限定通信では自分が悪かったという謝罪合戦になっていた。

 誰もがここまで一方的に負けるとは思ってなかったのだ。

 切っ掛けを作った自分のミスだと言いたくなる気持ちも解らなくもない。

 だけど、それらは私の仕事だ。


「はい、そこまで!今のは、誰が悪いとかじゃない。もしそれを言うなら完全に相手を舐めてた全員の問題よ」


「……」


 私の言葉に誰もが黙る。

 誰もが程度の差はあれどいくら強い選手を集めているとはいえ、出来たばかりの新設校のチームに負けるわけがないと思っていたのだ。


「ここは、素直に認めましょう。相手は……強い。恐らく全国大会ベスト8には確実に入ってくるレベルの完成度だと思う。だからこそ、今練習試合が出来ている幸運に感謝しましょう。これがもし全国大会だったら私達は、もう終わっていたのだから」


「……はい!」


 全員の気持ちを引き締めるために多少厳しめに声をかけたが一斉に元気良く返事をするチームメンバーに「心配は必要無かったかな?」と思いつつもベンチに向けて回線を開く。


「監督、ちょっと良いですか?」


「……どうした?」


 外にある自チーム側ターミナル端末にアクセスして監督を呼び出すと、いつも厳しい顔をしている監督が画面越しにニヤニヤとしていた。


「……何で笑ってるんです?」


「いや、大里をリーダーにしたのは間違ってなかったなと」


 恐らく先ほどのやり取りをベンチでも聞いていたのだろう。


「……やめて下さいよ、そういうの。ところで一度ミーティング挟みたいので琵琶湖女子に声かけて貰えませんか?」


「ああ、わかった」


 それからスグに一時休憩となり、私達青峰女子はミーティングのために待機室を借りて再度真面目なミーティングを行った。



 …………………

 ……………

 ………



 すっかり空は夕焼けに染まった頃。

 私達は学校まで帰ってきていた。

 本来ならこのまま校門前で解散という流れだったのだが、急遽私の提案で選手全員が学校の部室に集まっていた。


「いや~、してやられたね」


 誰もが予想外の戦績に沈黙していたのであえて明るい声を出してみる。


「ある程度の予想はしていたけれどこれはちょっと対策考えないとマズイわ」


 監督も、今回の件についての感想を述べる。


「これから貴女達は、彼女らと嫌ってぐらいにぶつかるんだ。徹底した対策を立てるのは悪いことじゃない。それにあの子らに勝たないと全国制覇出来ないからね」


「はははっ」


 監督の軽口に皆で笑う。

 皆、優勝を目指しているのだ。

 1度や2度の負けで落ち込んでいる暇などない。


「しっかしU-15の3人を中心にヤバイのがゴロゴロいたね。あの辺を何とかしないと、本気でヤバイわ」


 私の言葉に誰もが同意しながら誰もが目の前の巨大スクリーンから視線を外さない。


 そこには今日の試合のリプレイが流れていた。

 しかもただのリプレイ画面ではない。

 全員の配置や設置物など全てが表記されている【観戦モード】と呼ばれる空からの見下ろし型定点カメラのアングルであり、練習試合で反省会をする時などに非常に便利なデータである。

 何故ならその時自分や相手がどう動いていたのか?

 何が設置されていたのか?

 などというものが、そのまま表示されているからだ。

 テレビの解説などにもよく利用されており、レジェンドを知る者なら誰でも一度は見たことある画面でもある。


 画面では一番最初の試合。

 藤沢花蓮による高台からの奇襲で3人が一瞬で撃破されたシーン。

 FUJISAWA製・腕部4連ミサイルx2 

 FUJISAWA製・肩部6連ミサイルx2 

 FUJISAWA製・脚部3連ミサイルx2

 トータル26発のミサイルによる一斉攻撃なんて誰が耐えられるんだろうか?

 世の中には、こういったミサイルに魅了された人種が居る。

 【ミサイラー】と呼ばれる派閥だが、確かにこれに奇襲されたのではどうしようもなかっただろう。

 というか扱いにくいミサイルをよくもここまで使いこなせているなと感心すらしてしまう。


 しかも次の瞬間、まるでそれに合わせるかのようにアリスがスグに南側に走り出したかと思えば躊躇いなくミサイルの雨で出来た煙幕の中を駆け抜けていく様子が映っていた。


 しかもアリスは後方に回るついでに小型の投擲型レーダーを投げ込んでおり、それにより少しの間とはいえ相手にこちらの情報が全て筒抜けになってしまっていたのだ。


 なので投擲レーダーが投げ込まれた瞬間、状況を理解した相手側の主要選手が一斉に戦線を押し上げ一気に勝負がついてしまったのがこの観戦モードによるデータで見れば嫌でも解る。


 そして最初に走り抜けたアリスがそのまま司令塔への攻撃を行い、周囲がそれを援護する形で勝負がついたという訳だったようだ。


 詳しく見れば見るほど、個人のレベルが異常に高い。

 チームとして機能しているというよりは、ある程度の方針はあるがあとは自由にどうぞといった感じである。

 にも関わらず誰かが動けばそれを察して暗黙の了解のように綺麗な連携へと繋がっていく。


 特にU-15の3人と新城・藤沢に関しては最重要マーク対象とも言える状態だ。

 どの試合を見ても動きが洗練されている。


 新人である可能性の高い選手をカバーしながら戦線を維持出来る新城の総合力は、恋でも崩しきれなかった。


 毎試合完璧な奇襲で確実に撃破を取って来る藤沢花蓮も脅威である。

 彼女によって人数不利を作られてしまい、押し込まれるのがパターンとなってしまっていたからだ。


 また正確なグレネード投擲でジワジワとラインを上げてくる大谷に、その隙を的確にカバーする南の2人が居たラインも侮れない。

 人数差が同じだと押し込まれてしまうため余分に人を回すか、定期的にカバーを入れなければならなかった。


 そして何より霧島アリス。

 気づけば何処かの戦線に紛れ込みヘッドショットを取って来る。

 かと思えば突然踏み込んで戦線を突破してくるなど神出鬼没過ぎて対策のしようがない。

 そもそもレーダーに映らないのだ。

 そんなことあり得るのかと思うだろうがまるでこちらのレーダーの位置や範囲を正確に知っているかの如くギリギリでかからない動きをしているのが、観戦モードの映像に映っていた。


 そう、まさに観戦モードならまだ何とか動きが解るがこれが実戦なら……この動きは予想出来ないだろう。


「まだまだ即席チームのはずなのに、これか~」


「………」


 本日行われた練習試合のリプレイが全て終わる。

 しかし誰もが口を開かない。


 明らかに実力差がある試合展開なのがリプレイデータで嫌でも解る。

 今回は調子が悪かっただとか相手の戦術が上だったとかそういう問題ではない。


 言い訳が出来ないほど私達、青峰女子は練習通りに動けていた。

 それを完膚なきまでに叩き潰されたというだけなのだ。


「お前達が落ち込むのも理解出来る。正直、今のままじゃ100%勝てないだろう。だが、ここからが勝負さ。相手が手の内をここまで晒してくれたんだ。対策が出来るウチの方が、今では有利だ」


 暗い空気を吹き飛ばすように監督の女性が、強い口調で全員に声をかける。


「さっそく明日から動くよ。まずは、今日のデータを元にしてウチの3軍に琵琶湖女子の編成や動きを再現して貰う。その3軍相手に、これから編み出す戦術が有効かどうかを検証しながら練習をしていこうか。もちろん、人の入れ替えもドンドンやっていくからそのつもりで頑張りなさい」


「はいっ!」


 皆、新たなライバル校の出現に気持ちを新たにしていた。


 気合が入ったのは、何も今回戦った一軍や二軍だけじゃない。

 ここまでの大敗であった以上、一から戦略の構築をすることになる。

 そうなればメンバーも激しく入れ替えることになるだろう。


 人数の多い名門校でしかも上位が固定気味だった状態が急に脆くなり、隙間に入り込む余地が生まれたのだ。

 下位の選手達にとっては、まさに千載一遇のチャンスである。


「私だって外される可能性がある訳で……。こりゃ頑張らなきゃダメだな」


 私が、そう呟くとそれを聞いていた恋が「そうですよね」と苦笑しながら言っていた。

 彼女だって今回、何とか一矢報いたかっただろうにそれが出来ずに終わった悔しさを持っているはずだ。


 私は、そんな恋と共に監督に頭を下げて設備の使用許可を取る。

 すると周囲でそれを聞いていた仲間達が次々と頭を下げた。

 そんな姿に監督も「好きにしろ」と苦笑しながら許可を出してくれたのでその日、夜遅くまで青峰女子の部室の電気は消えることはなかった。





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