第3話
■side:霧島 アリス
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「当たんないよ~!」
「やられちゃいました~・・・」
10人しかいないのだからAC式の試合をしようかという話になったが、初心者3人が付いてこれる訳がない。
なのでまずは、3人を最低限鍛える所から始めようと変則マッチを組んでみた。
宮本・安田・三峰の3人チームが戦うのは大場・杉山コンビだ。
2人には、手加減を頼んでいるので非常に温い攻撃しか仕掛けていない。
だが初めて銃弾が飛び交う戦場に投げ込まれた少女達は弾が近くを通るだけで驚き、たいしたダメージにもなっていない攻撃に悲鳴を上げ、過剰な反撃を繰り返す。
初心者あるあるなのだが、ここまで酷いのも相当である。
更に大場は、ショットガンマニアで様々な種類のショットガンを使い分けている。
ショットガンの対処方法を知らない初心者からすれば完全なる初心者殺しと化している状況であり、杉山の的確な援護もあってか初心者組が一矢報いる姿など想像も出来ないほど一方的な虐殺だ。
しかも完全に戦力にならず、とりあえず補助的な戦力扱いになっているギャル娘こと安田に関しては、狙撃も初めてでロクに当たらないにもかかわらず見た目が可愛いというだけで非常に扱いにくいビビット社のアイドル装甲セットに手を出している。
……あんな胸を強調した水着みたいな装甲、よくつけれるよね。
何とか説得して狙撃ライフルだけは初心者に優しいブルーム社製を持たせたが、それ以外はもう最初のうちは放置することにした。
あまり最初から厳しく言ってもやる気が無くなるだけだからだ。
LEGENDには、装甲によって耐久値というものが存在する。
これがある間は、見えないバリアのような壁が相手の攻撃を防いでくれる。
だが、この数値が0になるとバリアが消え、消えた状態で攻撃を受けると死亡判定となり、一時試合から離脱することになる。
耐久値は、装甲の硬さなどが参照されるため重装甲なものほど数値が高く軽量装甲ほど低いが、軽量装甲になると機動力が高くなるのでどちらも一長一短といった感じだろう。
また頭部や背中の動力コアへの攻撃は、通常よりも高いダメージとなるためライフルやミサイルなどの強力な一撃を頭部やコアに受けてしまうと、頭部破壊の「ヘッドショットキル」やコア破壊の「バックアタックキル」という特殊キル判定となり問答無用で死亡判定を受けてしまう。
特殊キルに関しては、基本的にこの2種類だ。
それらが試合中に発生すると会場に特殊キルアナウンスが流れ、ゲームログにも強調表示されるため非常に目立つ。
なので特殊キルをあえて狙って目立とうとするプレイヤーも多い。
そして動力コアだが、LEGENDでは必ず背中の中央に装甲を動かす動力コアが露出していなければならない。
なので装備などで隠してはいけない。
そしてこの動力コアは、非常に脆くちょっとしたダメージを受けただけで特殊キル「バックアタックキル」が成立してしまう。
そのため相手に背中を見せることは弱点を見せることと同義であり、この動力コアだけは命中判定が出れば例えマシンガンが数発掠っただけでほぼ確実に即死する。
だから簡単に背中を向けて逃げることが出来ないというのもLEGENDを面白くしている1つだ。
これらも経験して貰わないと身に付かない。
いくら口で言った所で逃げる時に背中を見せる人は居るし初心者にいきなり味方を信じて戦えと言っても無駄だろう。
先ほどから撃ち込まれる銃弾による恐怖に負け背中を向けて逃げようとしてはコアを撃ち抜かれ撃破されている初心者組を見て、経験者組は仕方がないと言いつつもため息を吐く。
「これは当面、あの子らの特訓かな」
新城の一言に、誰もが無言で頷いた。
□■□■□■□■□■□■□■□■
それから数日して祖母である学園長に呼び出され、学園長室に行く。
中に入ると祖母以外にも、20代のメガネをかけ髪をシュシュでお団子にした知的美人さんが居た。
「どうだい、部活動は?」
「圧倒的に人が足りません」
「予想だと、もうちょっと人が来るはずだったんだが変な横やりが入ったみたいでね。これだから教育機関の馬鹿どもは困るんだよ。下らない足の引っ張り合いで各国に後れを取ってることに気が付いてすらいない」
やれやれといった感じでため息を吐く祖母。
どうやら色々な大人の事情とやらがあったようだ。
「それはそうと、部活の顧問なんだけどこの子にやって貰うことになったから先に紹介しておこうと思ってね」
「はじめまして、霧島 アリスさん。私は
祖母に紹介され、自己紹介を始める知的美人さん。
「……もしかして昨年、現役引退された―――」
「ええ、そうよ」
LEGENDは仮想空間で戦うゲームで通常、攻撃を受けても痛みなどほぼ発生しない。
例え思いっきり高い位置からジャンプして頭から落下したとしても精々、軽く手で叩かれる程度の痛みしかなく骨折などとも無縁だ。
そのため怪我など発生しようがないはずなのだが実は、ある意味深刻な問題点も抱えている。
それが『疑似痛覚症』と呼ばれる病気で通常、バリアがあるとはいえ撃たれたことを自覚させるために攻撃されると指で突かれたような感覚が発生する。
重い一撃などでも軽く叩かれた程度の痛みだ。
それ以上の一撃になるとオーバーキル扱いで痛みなどなく何かが当たったような感覚の後、いきなり復活待機待ちに飛ばされる。
そしてVR上のことなので実際には怪我などをした訳ではないし痛みなども攻撃などが発生した瞬間のみで、長続きすることはない。
捻挫や骨折などをしかねない状況であっても一定以上の痛みが発生するようなものは、自動的に『無かったこと』になる。
なので試合中に怪我をしたり怪我によって動きが鈍ったなどということもまず存在しないのだ。
しかしこのLEGENDを長く続けているプロなどでは、たまにこのVR上で発生した痛みが試合後にまで続くことがある。
これは仮想現実による痛みを脳が錯覚して怪我をしたと思い込んで痛みを発生させているらしく、現在でも明確な治療法が無く精々症状を軽くする程度だ。
そして厄介なことに最初は気にならない程度の痛みでも何度もLEGENDをプレイすることで痛みが悪化し、ついに怪我など何もしていないにも関わらず腕が動かなくなったりと生活に支障が出るレベルにまでなってしまう。
全員がなるという訳ではなく、ほんの一握りの人間だけに起こるタチの悪い病気で彼女もそんな運が無かった1人だ。
「プレイは、厳しいけど監督として指導ぐらいは出来るからね」
「プロの方に指導頂けるのは、ありがたいです」
「という訳で、彼女を部室まで案内してあげてくれるかしら?」
「はい」
「アリスちゃん。貴女に期待しているわ」
しっかりとプレッシャーをかけてきた祖母に適当に返事をし顧問となった元プロの前橋さんを部室に案内する。
部屋で新しい顧問だと紹介するとギャル娘以外は、彼女のことを知っており元プロが顧問となると解って歓迎ムードになった。
自己紹介が終わり、現在の状況を確認した前橋さんは
「とりあえず初心者の3人は、私が直接指導します。3人が試合に耐えうる状態になってから対戦形式で本格的な練習をしましょう。それまでは他の子達は、申し訳ないけどCPUトレーニングでまずは連携確認などをしておいてくれる?」
そう言われ、5v5の片側CPUオンリーのAC版練習試合が始まる。
だが動きが単調なCPU相手ではどうしても動く的のような感覚になり、皆は淡々と的に弾を当てるような感覚で処理する。
「う~ん、なんだかなぁ」
「これでは、腕が鈍りそう」
しばらく対人戦らしい対人戦をしていないためか京子ちゃんと晴香が、そんな話題を話している。
「これは、ゲームセンターでAC版やってた方が練習になりそう」
そう呟いた私に、先ほどの2人だけでなく2年生の4人も食いつく。
「何なら、これからやりにいく?」
「それいいね!」
「くっ、習い事が無ければ一緒に行けるのに……」
「あ~、私も今日は用事があって」
習い事とやらがある藤沢のお嬢様とメガネを拭きながら用事があるという杉山が残念そうな声を上げるが、こればかりはどうしようもない。
「という訳で、私達はAC版やってきますね」
「じゃあ残り時間の間だけ私達が代わりに貴女達の相手をして差し上げますわ!」
「ええ、解ったわ。あまり遅くならないでね」
「は~い」
前橋さんに許可を取ると私・南・大谷・新城・大場は、ゲームセンターへと向かい残った藤沢・杉山が初心者3人の練習相手として部室に残った。
「AC版とか久しぶり」
「ああ、アタシもよ」
「何だかんだでルールとかも違いますからね」
「そうそう、意外とやらなくなるわよね」
全員久しぶりにやるためか、最初にターミナルで大規模なデータ更新をかける。
突如現れた女子高生集団に、LEGENDをプレイしていた男どもはこちらに視線を向けそして驚愕する。
「おい!あれ、霧島アリスじゃね?」
「マジか!テレビで見るより、美人じゃん」
「U-15の大谷や南も居るぞ!」
「は?もしかしてAC版やるのか、あいつら?」
「とりあえず写メっとくか」
無遠慮で一方的な会話に無断盗撮。
慣れたとはいえ色々なんだかなと思えてしまうが、こういうのは無視する方が良い。
全員の更新が終わると全員で空いているVR装置を占拠して全員が同じチームを希望し5人チームが確定した後、オンラインで全国のプレイヤーから相手をマッチングする。
プレイヤー格差があるからか、それとも5人チーム相手になかなか良い条件の相手が居ないのか。
1分ほどしてからようやく対戦相手が決まる。
どうやら向こうも5人全員が店内でチームを組んでいるようだ。
「中央どうする?」
「私、レダ降ろして弾薬と回復のポット持ちますね」
「じゃあ中央は、晴香と未来と京子。
北側は、私。
南は、アリスって感じでどう?」
「じゃあ、それで」
「よし、じゃあ久々の対人戦といきますか」
■side:相手チーム サラリーマン 元・AC版上位ランカー
「久々じゃないですか、このメンツで出撃って」
「俺ら社会人だから、なかなか5人集まらんよな」
「でもまあ久々にかつての上位ランク勢が集まったんですから
派手に行きましょう!」
俺達は、かつてAC版で高ランク帯に居座っていた常連チームだ。
しかしそれぞれが社会人となり、なかなか機会が持てず現在ではランクが下がってしまっていた。
だが、それでも今日たまたま集まれたことでかつての栄光を取り戻すと意気込んでいた。
「おっと、試合始まりましたよ」
「じゃあ配置は、いつも通りで」
「りょ~」
「お~け~」
「よし、いくか」
まるで毎日通っていた頃のようだなと懐かしみながら、ストライカーで大盾持ちの頼れる我らがリーダーは中央に陣取る。
「お?相手は、女の子集団っぽいぞ?」
「女子でAC版とは、なかなか」
「しかも女子高生集団っぽい?」
「あ、真ん中の子、タイプかも」
相手が女子高生っぽい集団だと解るとみんな大人げないとでも思ったのか、気が抜けた感じになる。
だが、それが大きな間違いだった。
「ちょっ!?射撃精度ヤバイってっ!?」
「めちゃくちゃ強いぞ!中央押し切られそうだ!!」
戦闘が始まった直後から、スグに仲間が押し込まれだす。
予想外に正確な攻撃に体勢を立て直している暇さえないほどだ。
そんな中、中央の少女達に見覚えのある顔があることに気づく。
「ん? え?あれっ!?」
「どうしたよ?」
仲間の言葉が聞こえた瞬間に、相手が誰であったかを思い出す。
「中央に居るのってU-15日本女子代表の大谷と南じゃねっ!?」
「は?……うげっ!!マジかよッ!?」
「くっそっ!!やられたっ!!」
戦闘開始からそれほど時間が経っていないにも関わらず、仲間の1人が集中攻撃を受けて撃破される。
「お前ら気合入れ直せよっ!相手は、JKとはいえ世界大会優勝選手だぞ!!」
「上等だ!やってやるぜ!!」
―――ヘッドショットキル!
みんなが気合を入れ直した直後に響く特殊キルアナウンス。
「へ?うっそでしょ。誰よ、ヘッドショット決められた奴」
―――ヘッドショットキル!
味方が連続で撃破されたため状況を確認しようとした瞬間、またも響く特殊キルアナウンス。
慌ててログを確認するも、それが事実だと言わんばかりに強調表示されたログを見て思わず叫ぶ。
「はぁ!? 連続ヘッドショットだとぉ!?」
通常、ヘッドショットはよほどのことがない限り発生することはない。
アサルトライフルやガトリングですら頭部を狙うことが難しく、また数発当てた程度で特殊キルまではいかない。
しかも頭部を狙えば、外す弾の方が多くなる。
それなら全弾しっかり胴体にでも当てた方がダメージにもなるし撃破にも繋がるからだ。
狙撃に関しても動き回る相手にヘッドショットを決めることは難しく基本的には、胴体など当てやすい部分に強力な一撃を当てることで相手にプレッシャーを与えたり、手負いの相手を逃がさず仕留めることが本来の役割である。
また無理に狙って外してしまえば、その外れた弾で相手側も自分が狙撃で狙われていることに気づいて隠れてしまう。
つまりヘッドショットキルとは、まさに一発で正確に相手の頭部に当てる技術が必要なのである。
だからこそ連続ヘッドショットなど、滅多に見ることはない。
にも関わらず、今この試合でそれが起こっているのだ。
これはマズイと思い慌てて後方に下がろうとしたのだが―――
―――ヘッドショットキル!
会場には無常なアナウンスが流れ、気づけば目の前には復活カウントの表示。
それはつまり、俺達は全員が復活カウント待ちというLEGENDで最大の屈辱を受けてしまったことを意味する。
そして復活カウント同士でしかやり取り出来ない通信と全体情報で
俺達は、誰を相手にしていたか……ようやく気づく。
「霧島アリスが居るじゃねぇぇぇぇかぁぁぁぁぁ!!!」
かつて高ランク帯で暴れまわった俺達は、こうしてU-15世界大会優勝選手を含む女子高生チームに一方的に完敗することになった。
そしてその時の試合データはゲームのターミナルにリプレイデータとして保存され誰でも閲覧できるようになったのだが、どこの誰が見つけたのか試合の動画はネットに晒され話題になって凄い再生数となる。
またこの動画でアリス・大谷・南が同じ学校に入ったという情報が流れ、高校大会優勝を目指す各校は警戒感を強めるのだった。
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