第2話
■side:霧島 アリス
「別に何処でも構わないんだからな?」
「そうよ、アリスちゃん。お母さまのことは気にしなくてもいいからね?」
この過剰なまでに優しく接してくる2人は、一応この世界の両親だ。
その両親が遠慮がちに進路について話してくる。
一人娘の自分にひたすら甘く、レジェンドをやり始めた時は『アリスちゃんが不良になった!』と倒れた。
それでいて2人とも仕事は、国の重要な役職だというのだから世の中、解らないものだ。
目の前にあるのは、新しく創設される学校のパンフレット。
巨大な資本をバックに世界にも通用するスポーツに特化した
学生を量産することを目的にしている。
その新しい学校の創設者であり校長が
目の前に居る、この世界の母方の祖母だ。
「二人とも何を言ってるの?アリスちゃんに最高の環境を提供できるのは私の所だけなのよ?設備は、全て最新式。あとは、アリスちゃんが来るだけなの」
レジェンドは、今年で30年目という意外と歴史のあるスポーツだ。
世界中で人気があり、日本でもスポーツの中では一番人気。
しかしそんな日本だが、国際試合やオリンピックではまったくと言っていいほど活躍出来ていなかった。
それに危機感を抱いた日本政府は、レジェンドの選手育成に力を入れ始めた。
それが5年前だ。
そしてその陣頭指揮を執っている日本のスポーツ振興大臣が目の前に居る祖母の旦那であり、私の祖父である。
そろそろ実績が欲しい所という絶妙なタイミングでU-15の日本代表が初優勝した。
しかも大会MVPは、自分の孫。
官邸内で、喜び飛び跳ねて叫んだ姿がニュースの一面で取り上げられ一時話題になったほどだ。
「別に私は、どこでも構わないよ。レジェンドやれるなら」
「じゃあウチで決まりね。本当にもう、最高の環境だから今度学校見学に来るといいわ」
そう言って広げまくったパンフレットを片付けることなく立ち上がる祖母に、ため息を吐く両親。
元から両親は、どうも祖父母に頭が上がらないようで結局は、こうなると思っていたのだろう。
「そんなに心配しなくてもいいわよ。私にとっても可愛い孫であり日本レジェンド界の宝だもの」
「いえ、それに関しては疑ってはいないのですが・・・」
「あら、尚文(なおふみ)さん。では、何が問題なのかしら?」
今更口を挟むような台詞に畳みかけようとする祖母。
「家から通うのではなく、寮というのが―――」
「アリスちゃんも年頃なんだから自分のことはある程度は、自分で出来た方がいいじゃない。それに寮には、寮母さんを含めお世話する人をたくさん雇ってるから大丈夫よ。いざとなれば、掃除・洗濯・食事全てを任せることだって可能にしてあるわ」
「そうは言いますが―――」
「まさか『寂しい』なんて言い出さないわよね?そろそろ子離れも必要よ?」
「うぐ・・・」
図星だったのか、父が撃沈した。
「という訳で、学校見学と入寮に関してはあとで書類にまとめて送っておくからちゃんと読んでおいてね」
そう言うと祖母は、さっさと出て行った。
「はぁ~」
明らかに声をかけて欲しそうなため息を吐く父。
「確かに少し早いかもしれないけどアリスちゃんが選んだ道だもの。お母さんは、応援するわ」
最初は、倒れた母だったが今では、こうして応援してくれる。
前世の記憶のせいでイマイチ両親という意識が薄いがそれでも自分を心配し、愛してくれる存在は本当にありがたかった。
□■□■□■□■□■□■□■□■
それから1か月ほどして。
私は、新しい学校に到着した。
【私立 琵琶湖(びわこ)スポーツ女子学園】
関西勢の中で、唯一レジェンドの有力校が存在しない弱小の滋賀県が、他県と比べ圧倒的かつ全面協力を約束して誘致したことで場所が決まった日本最大の湖を臨む学園。
新しい学校だけあって、何もかもが新しい。
全体的に大学のような作りになっており学校自体も広大な敷地に、様々な専門的な施設。
屋内トレーニング施設も充実しておりまさに金をかけて最新設備を買い漁った感じである。
レジェンドだけでなく、様々なスポーツに対応しておりまさにスポーツ学園の名に相応しい設備になっている。
寮に荷物を置いて学園内を見学し、そしてお目当ての施設を発見する。
「おお~、さっすがお祖母様」
レジェンドは、ロボットのコクピットのような球体型の設備の中にある座席に座って、ゴーグルなどを装備しプレイするVRゲームだ。
そのため設備費が高額なので旧式を利用している所も多い。
だが目の前にある設備はつい最近発表されたばかりの最新式。
それが何と30台も並んでいる。
思わずテンションが上がり、設備の電源を入れてシステムの確認を行う。
全てシステム更新が行われておりスグにでもプレイ可能な状態である。
しかもレンタル武装データもヤバイ。
貸出用データは、安いとはいえレンタル料が必要だ。
普通に購入している装備品を使うだけなら不要だが、VRデータといえども兵器であり高額であるため基本的に経験者しかデータを持っていない。
そしてその経験者でも、最低限しか持っていない人がほとんどなのである。
特に部活など「初めてプレイする人」が出てきやすい場所ではこのレンタル装備は、何より必須と言えるだろう。
実際、今までにも何度か全てレンタル装備フルセットで全国大会を勝ち抜いた選手も存在する。
なのでレンタル装備といえども、決して侮れない。
そのレンタル装備が、全メーカー揃っておりこれだけでもかなりの財産だ。
新しい環境、新しい戦友と共に戦場を駆ける。
その未来に思わずワクワクした―――
―――のは、遠い過去のように感じる。
入学式では、テレビで見たことある各スポーツ界で既に活躍している選手や将来有望と言われている少女達ばかりが登場し、そのたびにざわめきが起こる。
もちろん、レジェンドの有名選手も数多く居るはず。
そう思っていたが、現実は残酷なようだ。
レジェンドの部室に集まったのは、総勢10名。
転校組と新規組でギリギリなのである。
新規の学校故に1年生しか居ないのかと思えば壮大な引き抜きがあったのか、転校生という形でそれなりに2年生が居る。
まあ流石に3年生は居ないが、それでも2年生が居るのは正直、驚いた。
もしこの引き抜きが無ければ試合に必要な10名が揃わなかったことになる。
特にプレイ歴のある少女ほど、同じ感想を抱いたのか少し不安そうにしていた。
だが今更何を言ったところで、これからこのメンバーで当面は活動するのだ。
期待と不安の中、各自の自己紹介がスタートする。
「まずは、アタシからかな。2年、新城(しんじょう) 梓(あずさ)。大阪の日吉女学園から転校してきました。レジェンド歴は、5年。兵科は、ストライカーでガトリング派の1本持ちです!」
ショートヘアで活発そうなイメージが日本代表のリーダーだった谷町を思い出すような少女だ。
ストライカーは、大型の武器を持つことが多い火力職である。
そのため大型ガトリングを持つガトリング派や大型マシンガンを使うマシンガン派などの武器派閥が出来ていることでも有名である。
更に彼女の言う1本持ちというのは、それ以外の武装を持たないということ。
つまり彼女は、大型ガトリング1つのみで戦うスタイルだと言っているのだ。
「じゃあ次は、私かな。2年、大場(おおば) 未来(みらい)で~す。鹿児島の浦和館学園から来ました~。レジェンド歴は、5年。兵科は、アタッカーでショットガン派です!よろしくお願いしま~す!」
元気良く声を上げたのは肩ぐらいのセミロングの髪に正面の前髪に髪留めが付いた少女で、身長が小柄であるためまだまだ子供に見える。
「同じく2年の杉山(すぎやま) 栄子(えいこ)です。未来と同じ鹿児島の浦和館学園から転校してきました。レジェンド歴は、5年。兵科は、サポーターで主に弾薬・回復両持ちの支援です」
長い髪を大きな三つ編みにしており、メガネをかけた少し真面目そうな少女。
身体も華奢なので、これでサポーターは体力的に大丈夫だろうかと心配になってしまう見た目だ。
「次は、私ですわねッ!神奈川の名門、栄女学園から来ましたの!名は、藤沢(ふじさわ) 花蓮(かれん)!レジェンド歴は、8年。兵科は、ストライカーのミサイル装備ですわ!」
ロングヘアーの髪先が、グルグル巻きになっている
テンプレ系お嬢様で、スタイルも良い。
黙っていればモテそうな外見だが、言動が色々残念だ。
「U-15でMVPを取った霧島アリスさんがいらっしゃると聞いて転校してきましたの。よろしくお願いしますわね、おーほっほ!」
しきりにこちらを見ながらの自己紹介に凄いのが来たなという感想しか出てこない。
「あれ? 藤沢ってあのFUJISAWA?」
「そうです!レジェンドの兵器メーカーの1つであるFUJISAWAは、父の会社ですわ!」
新城梓が確認すると待ってました!と言わんがばかりに我が家自慢を開始する藤沢花蓮。
「―――ですから」
「まだ自己紹介が終わってない。さっさとやりましょう」
杉山栄子が長引きそうな自慢話を止める。
その流れに皆が賛同してさっさと自己紹介を再開し始める。
「じゃ、じゃあ次、私ね。1年の南(みなみ) 京子(きょうこ)です。レジェンド歴は、3年。中学時代は、仙台アローズの育成クラブチームに在籍してました。兵科は、サポーターです。アリスちゃんが来るって聞いてこの学園に決めました。あまり活躍してませんが一応、U-15で日本代表やってました。よろしくお願いします」
長めの髪を後ろで高めのポニーテイルにしている少女でU-15で一緒に戦った戦友だ。
小柄だが動きが素早く、冷静な判断が出来て攻撃も支援も出来るバランスタイプである。
活躍していないのは、そもそも試合にあまり出ていなかったからだ。
しかも今回U-15を率いた監督は、攻撃的な戦術を多く採用するため彼女のような地味で堅実な支援をする戦術とは相性が悪かったということもある。
個人的には、移動の飛行機やバスで隣になることが多かったのでU-15で一番会話をした相手とも言える。
「それじゃ、次。私は、宮本(みやもと) 恵理(えり)と言います。1年です。レジェンドは、憧れてただけでプレイしたことはありません。初心者ですが、よろしくお願いします」
髪は、肩ぐらいまでのセミロングだが髪先が癖ッ毛なのかウェーブがかかっている。
平均より少し高めの身長に、大きな胸。
スタイル抜群の美少女だ。
さぞ男にモテるだろう。
残念ながら前世では傭兵をしていたからか、結婚をしなかった。
いや、男性とのお付き合い自体がなかったというべきか。
男ばかりの職場ではあったが、どちらかといえば戦友という印象が強かったせいかもしれない。
などと色々考えていた私など関係なくドンドンと自己紹介が進んでいく。
「私は、安田(やすだ) 千佳(ちか)で~す。1年で、恵理ちゃんとは幼馴染なんだ~。レジェンドは、よく解らないけど恵理ちゃんがやるっていうから思い切って一緒にやることにしました。よろしくで~す!」
長い髪で軽いツインテールを作っているがそれでもなお腰まである髪。
手首にもカラフルなシュシュを着けており明らかにギャルっぽい。
少しだけ小柄でスレンダーな体型。
薄く化粧もしているようで、オシャレに気を使ってますよという感じが伝わってくる。
「え~っと。1年の大谷(おおたに) 晴香(はるか)と言います。
レジェンドは、中1からです。兵科は、アタッカー。アサルトライフル中心です。私も一応は、U-15日本代表やってました。最高の環境でプレー出来ると聞いてこの学園を選びました。よろしくお願いします」
肩にかかるかどうかの長さの髪は毛先が全て内側に曲がっており、大人っぽい感じがする。
身長も平均的でスタイルも普通。
彼女は、監督のせいでU-15で苦労した1人だ。
主にアサルトライフルを使う一般的なアタッカーなのだが彼女は、低威力・高連射という銃を使用していたため基礎火力重視を掲げていた監督との相性が悪くあまり出場出来なかったのだ。
だが、彼女の持ち味は、ハンドグレネードである。
意外と扱いの難しいハンドグレネードを使わせると彼女の右に出る者は居ない。
U-15では、19キル全てグレネードであったことを見てもその精度の高さが解るだろう。
しかしグレネード系は、持てる数が少ないため補給支援が必須であり、その辺りから敬遠されてしまったみたいだ。
「わ、私は、三峰(みつみね) 灯里(あかり)と言います。レジェンドは、未経験です。この学校は、新しい学校なのでその……部活も新しいし、私みたいなのでも入って大丈夫かなと思って来ました。よ、よろしくお願いします」
背中まである髪を首の後ろあたりでヘアゴムで軽くまとめており平均的な身長にスレンダーなスタイルだが、少し気弱な感じを受ける。
「さて、じゃあ私で最後か。1年の霧島アリスです。レジェンドは、中1の頃からアーケード版をやってて中2の終わりぐらいから正規のレジェンドをやり始めました。兵科は、ブレイカー。狙撃・遊撃どっちもやれるけど、基本は気分で動きます。一応、U-15日本代表やってました。よろしくお願いします」
「一応って、世界大会MVPなのに?」
「いやいや、最優秀選手が何言ってるのよ」
なるべく簡単な自己紹介で終わらそうとするとU-15で一緒に戦った南と大谷が、ツッコミが入れてくる。
「別に取りたくて取った訳じゃ―――」
「決勝戦のアメリカ代表監督が、試合後のインタビューで『日本のアリスには、してやられた。彼女は、学生大会に紛れ込んだ現役グリーンベレーだ。とてもじゃないが勝負にならない』って言ってたわよ」
「準決勝のロシアの監督も同じようなこと言ってたわよね?確か『アリスは、現役のアルファ部隊だと言われても信じるよ。それぐらい他とは、明らかに技量が違い過ぎる』だったかな?」
「へぇ~。アリスっちって凄いんだ~?」
南と大谷の容赦のないツッコミに安田千佳が参加してくる。
個人的に安田は、ギャル娘というイメージで固定されそうだ。
「いや、アタシも入学式で見た時はビックリしたよ。『霧島アリスが居るッ!!』って」
「ですよね~!私も『テレビで見たことあるっ!』って思わず叫んじゃいそうになりました!」
更に新城と大場も会話に加わり何故か私の話題で盛り上がる。
そしてどうしてもと言われ、プレイを始めた当初の話をするハメになった。
あれは、中学1年の頃。
ゲームセンターでAC版のレジェンドに出会った所から始まる。
AC版は、正規のレジェンドとは違い
人数は5v5で戦場も小さい。
軍事施設などの施設類も無く、純粋な撃ち合いと司令塔と呼ばれる弱点への攻撃だけだった。
始めた当初は、装備などにお金もかけなかった。
単純に値段が高かったというのもあったが無料貸出装備だけで十分だったというのもある。
毎日のようにゲームセンターに通っていたのでいつの間にか両親が不良認定してくるということもあったが
それでも中学2年までは、通い続けた。
AC版は、ゲームセンターということもあり男女比率は、男の方がかなり多い。
そしてVRゲームといえ、見た目など身体は再現される。
ここまでくれば解るだろう。
美少女と化した私は、非常に目立つ存在でしかもプレイし始めてスグにあり得ないスコアを叩き出す。
そのため『運営が用意した最強のCPU』などと言われることもあったが遠征と呼ばれる遠くのゲームセンターに行ってその土地のプレイヤーと交流をする集団が、私が実際にゲームセンターのターミナルで武装のチェックをしている所を勝手に動画に取ってネットに流した。
そこからスグに『この美少女は誰だ?』と噂が広がりその異常な戦績と共に紹介されるようになる。
すると通っていた学校のレジェンド部の部員がある日、その評判を知り全力ダッシュで教室にやってくると半ば拉致される形で部室に連行され部活動としてレジェンドをすることになったのだ。
そこからスグにエースとなって中学3年の頃に全国大会に出場して優勝。
最優秀選手に選ばれ、そのままU-15日本代表選手に。
そして海外で開かれたU-15に出場という流れである。
オンライン対戦が出来るのだからわざわざ海外まで行く必要が無いと思う訳だが、色々な都合や事情にルールなどで遠征は必要らしい。
この辺りだけは、非常にアナログのままだなと感じる部分だ。
こうしてレジェンド歴を語り終えると様々な反応が返ってくる。
それらに返事をしながら、今日の部活動は終わりを迎えた。
これが、のちに少女達の間で語り継がれる新設校レジェンド部のスタートだった。
…………………。
……………。
………。
「か、勝手に変な方向にぃぃぃ!!」
「こ、これは、ああ、バランスがッ!!」
「け、結構、重いぃぃぃ!!」
人の忠告を聞かずストライカーを選びST用重装甲をまとい、重武装をした結果。
初心者達は、解りやすいぐらい見事に動けなかった。
「一応、ストライカー用の重装甲の中でも軽めのを選んだのだけど……まあ、そうなるよね」
「わかるわかる。私も最初、こうなったわ」
「誰しもが必ず通る道ですからねぇ」
対して経験者組は、予想通りな展開に昔を懐かしんでいた。
仮想現実とは言え、ちゃんと重量というものは再現されている。
当然、重いものは重い。
重力という概念も、VRでも健在だ。
今日は、せっかくなのでということでVRを起動し練習モードを立ち上げる。
そして兵科と貸出用装備を初心者達に選ばせた。
何故か全員ストライカーを選び、多連装ミサイルや大型マシンガンなどを装備する。
まあ特大火力でゴリ押ししてる姿はテレビでも見栄えが良く、ストライカーはある意味人気兵科だ。
でも大半が、このST特有の超重量という洗礼を受けて挫折するまでがテンプレとも言える展開である。
特にギャル娘こと安田千佳は、既に装備全てを外しそれでもなお重量に振り回され機体が安定しない。
「とまあ、体験して貰って解ったと思うけど仮想現実とはいえ、ある程度の物理は働く。いくら装甲によって人間を超えた動きが出来るといっても中身は、人間だからね。それなりに身体を鍛えてないと、そうなるのよ」
「それに現実とは違い、重量関係はデタラメな状態になってますけどそれでもそれなりに重量は、かかりますからね」
LEGENDのデータは、現実の兵器に転用されている。
それは今や誰もが知る所ではあるがそれもある意味そうではない部分も存在する。
現実では、装甲というよりパワードスーツというべきかそれともプチロボットとでもいうべきか。
そんな全身装甲に身を包み、見た目完全にロボット状態となる。
それに各種武装を持たせるのだが、完全ロボット化している関係で装甲や駆動系などが、超重量武器を装備したまま戦闘することを可能にしている。
つまり全身ロボット化装甲を装備しなければ大型ガトリング1つ持てないのだ。
ところがLEGENDは、VRであることを最大限利用しており見た目の華やかさを重視するためか、全身装甲などではない。
剣道の防具を思い出して欲しい。
頭・胴体・腰・腕に防具が付いている。
これに膝から下にかけての足具が付いた感じになるのがLEGENDの装甲である。
もちろんこれがリアルなら単純に重いだけで支えも無いため大型装備など持てる訳がない。
装甲が薄いせいで、装甲が無い所に被弾した瞬間アウトだ。
だがLEGENDは、VRである。
ダメージは、耐久値のあるバリアが肩代りしてくれるし吹き飛ばされても攻撃されても見た目ほどのダメージを負わない。
派手に見えてもほぼ痛みなど発生しない。
たまに発生することもあるが、軽い痛みがある程度だ。
例えるなら突然軽く手で叩かれるぐらいの痛みで問題などない。
そのためLEGENDでは、昔ネットで見た兵器の擬人化という萌え絵に近いような装甲を付けて戦う状態になる。
しかし兵器の重量は、そういったVR特有の配慮で深刻な重さではないのだ。
まあ超重量物ばかり装備すれば、流石に重すぎて動けないがVR故にその辺りが非常に緩いというか見た目を気にした感じになっている。
なのでLEGENDのデータをそのままリアルの兵器にスグ転用出来るなんてことはない。
出来るのは、精々武器だけだろう。
まあそういったこともあり、初心者でも気軽に始められる一方で人気のあるド派手な装備は、初心者には難しいという矛盾した感じになっている。
こういったことは初心者には、口で言うより経験して貰った方が早い。
なので経験し、後悔していると思われる場面でこうして基礎体力の重要性を教える方が効果的なのだ。
それにこれを経験してもストライカーなどをしたいという人は、ちゃんと筋トレなりをするだろうし取り回しの練習も積極的にやるだろう。
真面目にやりたいと思えば、そこまでハードルも高くはない。
そう、誰も最初から練習もせずにマラソンで10キロ走れる訳じゃない。
体験し、諦めずに練習して、そしてそれがやがて10キロ走れる根性と体力を作るのだ。
「よ、よく動けますね」
「まあアタシらも最初は、動けなかったもんよ。ちょっと動かしただけでも振り回されたりとかね。でも毎日、筋トレしたり走り込んだりして体力つけたからね」
「ええ、基本的な体力は、当然必要ですわ!でなければ、優雅に!軽やかに!そして美しく!戦えませんものね」
憧れからレジェンドに入った宮本恵理の言葉にストライカーで先輩の新城梓と藤沢花蓮がアドバイスというべきか、基本的な体力が必要だと教えている。
まああんな重いものをもって下手すれば1時間ぶっ通しで戦うのだ。
それなりの体力とメンタルが必要である。
「もう、む~り~」
散々重量と駆動制御に振り回されたあげく倒れ込んだまま動けないギャル娘こと安田千佳には、重装甲のストライカーは無理だろう。
「お、おおお、おおおっ」
全身をプルプルさせ、何とか耐えている三峰灯里だが彼女も恐らく……あ、こけた。
……恐らくストライカーは、諦めそうだ。
「せっかくですから、中型装甲のアタッカーに軽量装甲のブレイカーも試した方が良いんじゃないですかね?」
暇過ぎて練習モードで出てくる的をひたすらアサルトライフルで適当に射撃していた大谷が、飽きたのかこちらに混ざってくる。
「それで好みや適性を見るべきでしょうね。当面の目標とかも必要ですし、今更分担も何も無いでしょうから」
U-15で一緒だった南も、会話に入ってくる。
とりあえず今のメンバーでギリギリなのだ。
下手にバランスを取るぐらいなら自分のやりたい兵科を頑張ってくれる方が成長に繋がるのは当たり前の話である。
「じゃあ、せっかくだからみんな揃って全兵科や装備を使っての適性を見る感じから始めようか」
「あ、あの。どのメーカーのものが良いんでしょうか?」
「人それぞれになっちゃうから色々試してみたら良いと思うよ?」
そうして結局、ウチのチーム編成は、こんな感じになった。
■2年
新城 梓 ストライカー:ST
大場 未来 アタッカー:AT
杉山 栄子 サポーター:SP
藤沢 花蓮 ストライカー:ST
■1年
南 京子 サポーター:SP
大谷 晴香 アタッカー:AT
宮本 恵理 ストライカー:ST
安田 千佳 ブレイカー:BR
三峰 灯里 アタッカー:AT
霧島 アリス ブレイカー:BR
う~ん。
ST:3
AT:3
SP:2
BR:2
バランスが取れていると思いきや、思いっきり攻撃的な布陣である。
ちなみに一般的な編成は
ST:2
AT:4
SP:3
BR:1
ぐらいだろう。
ストライカーは、高火力・高防御力でレジェンドの花形ではあるが同時に鈍足でもあるため、スピード感のある試合が苦手である。
なので最初は、攻防のバランスが取れたアタッカーとその支援にサポーターを多くして様子見をしつつ試合展開を見て編成の入れ替えを行うのが一般的だ。
宮本恵理は、STに憧れがあるようでそれならとSTを頑張って貰うことにした。
しばらくして自分に向いてなければ変更すればいい訳だし最初は、やはり好きなものからでないとやる気も出ないだろう。
三峰灯里は、STに未練は無いようだったのでうちでは何故か人数も少ない、基本のアタッカーからという流れになりアタッカーとして当面頑張って貰うことになった。
このまま正式にアタッカーとなって貰いたい所だ。
安田千佳は、アタッカー用中型装甲ですら怪しい状態だったため完全に戦力外通告状態である。
一応それでも試合に出て貰わなければならないので軽さと前に出なくて済むようにするために消去法でブレイカーで狙撃スタイルとなった。
「あとは、まあこれはこれで、やってみるしかないでしょ」
新城梓の一言で、全員が納得する。
あとは練習あるのみだ。
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