第135話 ゴロゴロダラダラしていると、時間の経過が早い気がします

「飽きた……ヒマ……」


 私はゴロリとベッドの上で寝返りをうつ。


 手の中には、何十時間とプレイしたゲーム機が握られている。


 はて……私はなんで、ずーっとこんな事をしているんだろう?


 ふと、そんな疑問が頭に浮かんだけれど、すぐに何処かへと放り出す。


 何度か、そんな疑問や違和感が浮かびはするけれど、思い出せないので潔くスルー。

 思い出せない事に時間を割くのも勿体無いので、ゲームを再スタート。


 配管工のおじさんでお姫様を助けに行くゲームをずっとプレイしているので、次は別のゲームにしようかな?

 お父さんと旅をしているところから物語が始まるゲームでも、やろうかな?


 お父さんとの旅か……楽しそうだなぁ。


 そんな事を考えながらゲームを起動……したところで誰かが部屋に入って来た。



 え? 此処って私の部屋なんだけど?

 ノックくらいしてよ。

 というかドアとか付いてたっけ?


 誰だよ……と思いつつ振り返ると、そこにはカトレアさんが立っていた。


「え……カトレアさん、ですよね? なんで――」


 なんで此処に…と言いかけて、ずっと感じていた違和感がハッキリとした。


 そうだ。


 私、なんでゲームしながらゴロゴロしてたんだろう……という事に気が付いたけど、色々と思い出そうとする前にカトレアさんが私の側まで近付いて来ていた。


 そして私の頭にそっと手を乗せる。



「カトレアさん、私……って痛いいたいいたいっ!」


 頭を撫でられるかと思ったらアイアンクローで頭を握り潰されそうになった。

 中身でちゃう!


「アンタって子は……。どれだけ周りの連中に心配かけてると思ってるんだい……!」

「ごめんなさい! ちょっと、その辺の事がすっぽ抜けてたと言いますか、色々とおかしかったみたいなんですぅ……」


 すぐに解放されはしたけど、握られたところ凹んでるんじゃないかな……


 ペタペタと触りながら、頭の無事を確認する。


 いや……頭の確認も大事だけど、それより前に確認しなきゃいけない事がっ!


「って…カトレアさん、どうして此処に?!」


 私が今いる場所は、たぶん……というか間違いなく【主の部屋】の中のはずなのに、どうやって……


「そりゃアンタを起こす為に決まってるじゃないか……」


 何を言ってるんだ、と言わんばかりの態度なカトレアさん。


「起こすって……私そんなに寝てました?」


 【主の部屋】に滞在している間は、私の体は外で意識を無くしている感じになっているはずだけど、ちょっとボケていたからってわざわざカトレアさんが起こしに来る程の事では……


「アンタ……もう十日っくらい眠りっぱなしらしいじゃないか……」

「とっ…?!」


 十日?!


 あまりにも寝ていたらしくて、言葉にならなかった。

 というか私……寝過ぎなのでは?!



 アルクーレの街の前で、魔物退治をしようと思ったら原因不明の体調不良に陥って……その後は領主様の屋敷まで運ばれた気がする。


 そこから十日が経過してるって事?

 父さんや母さん心配してるんじゃ……


 いや……最悪、暴れている可能性も……? お爺ちゃんもいるし……


 ……あわわわわ……助けるつもりが皆に迷惑をかけているパターンに……?


「カトレアさん、街は無事ですか?!」

「街? ……ああ、特に被害は無かったと思うよ。西門の前が荒れてはいたけど」


 西門……は、お爺ちゃんが街と魔物を隔てる為にやったヤツだから問題ないし、街も被害は無かったのなら良かった……


「あと……暴れている人とかいませんでした? 私の周りに……」

「暴れ……ては、いなかったね」


 急にカトレアさんの顔色が悪くなった。

 暴れてはいないけど、何かしてるって事ですか……


 なおの事早く帰らないと……


 でも普段なら自分の意志でパッと意識を外に戻せるはずなのに、今はそれができない。


 私の体調不良の原因は母さんが真化したからなんだと思うんだけど、その影響をどうやって取り除けば良いのやら……


「此処に来る途中でナヴィっていう子に会って、アンタの目を覚まさせるなら取り込んだ魔石の力を消せば良いって言われたよ」

「え?」


 どうしたもんか……と悩んでいるとカトレアさんから解決策が提示された。

 というかナヴィに会ったの?


 私、ナヴィに会ったのって転生時の時だけなんだよね。

 基本、声だけだし……


「カトレアさん…ナヴィって、どんな様子でした? 私からじゃナヴィの様子が分からないので……」

「気になるかもだけど、まずは目を覚ますのが優先だよ」

「はーい……」


 ナヴィの事も聞きたかったけど、カトレアさんの言い分ももっともだ。


 とりあえずステータスオープンっ!



 名前:シラハ

 領域:《紫刃龍騎》《森林鷹狗》 サハギン

     フォレストマンティス レッドプラント

     ハイオーク エアーハント シャドー

     迷宮核 シペトテク ウッドゴーレム

     ジャガール(異) アーマードゴブリン

    (0)



 スキル一覧


  通常:【牙撃】【爪撃】【竜咆哮】【丸呑み】

     【鎌撫】【吸血】【風壁】【影針】

     【根吸】【雄叫び】【不動】【空弾】


  強化:【竜気】【剛体】【熱源感知】【跳躍】

     【水渡】【疾空】【瞬脚】【鎧皮】


身体変化:【竜鱗(剣・氷)】【有翼(鳥)】

     【血液操作】【擬態】【潜影】

     【有翼(竜)】


状態変化:【麻痺付与】【解毒液】


  重複:【獣の嗅覚】【側線】【誘引】【誘体】


  自動:【体力自動回復(中)】【毒食】【夜目】

     【潜水】【散花(●)】【光合成】


  迷宮:【迷宮領域拡大】【迷宮創造】

     【主の部屋】


  特殊:【贄魂喰ライ(15)】【龍紫眼】




 私はステータスを確認して、どの魔石を外すか思案する。


 何やら【竜鱗(剣)】が【竜鱗(剣・氷)】と表記されているけど、その確認は後回し。



 うーん……どの魔石にしようかなぁ。


 レッドプラントのスキルは【吸血】【誘引】【血液操作】だから、これかな……


 【血液操作】は、戦闘でも使ったりしてたけど、他と比べると……かな?


 という訳でレッドプラントの魔石を外す!


『レッドプラントの魔石を外します。外した魔石は消失します。外しますか?』


 ナヴィからの確認の声が頭に響く。


 最初の頃に魔石を外す……の説明は聞いてたけど実行した事はなかった。


 魔石同士のリンクで枠が確保できてたから。


 でも今回は、リンクも出来ないから外すしかない。


 あまりやりたくはなかったけど、こればかりは仕方がない。


 やっぱり枠は空けておいた方が良いみたいだし、今度からは空き枠も確保しておこう。


 そして私の中から、スッと力が消えていったのが分かった。


 ヨークやシリューが私の中から飛び出して、抜けて行くのとは違う喪失感があった。


「これで漸く起きられるかな……」


 せっかく手に入れたスキルが消えて、ちょっと寂しくもあるけど、外に出られると思うと、ちょっと安心もするね。




「あれ?」



 出られると思ったけど、まだ出られない……


「どうしたんだい?」

「魔石を一つ外したんですけど、まだ出られなくて……」

「となると、まだ消さなきゃいけないって事なのかね?」

「そうなんですかね……あまり外したくはないんですけどねぇ」


 スキルが減るという事は、私が選べる選択肢……行動の幅が減っちゃうんだよね。

 その方が無茶はできないんだけどさ。



 ん〜……となると、次の魔石を外す候補は……ウッドゴーレムかなぁ。


 スキルは【根吸】と【光合成】の二つで、魔力回復に貢献してくれるスキルだけど、即効性がある訳じゃないから余裕がある時でないと効果を実感出来ないんだよね。


 魔力回復については、本当にそろそろ魔力回復薬の常備を考えないとなぁって思っている。


『ウッドゴーレムの魔石を外します。外した魔石は消失します。外しますか?』

 

 YES


 頭の中で了承すると、ウッドゴーレムの力も私の中から消えていく。

 あー……勿体無い。



 勿体無いけど目を覚さないと、スキルも使えないからしょうがない。

 原因も調べなきゃだけど、とりあえずは外に戻らなきゃね。



「ん……今なら外に戻れそうな予感がします」

「そうかい。そりゃ良かったよ」

「カトレアさん、ありがとうございました」


 私はペコリと頭を下げる。


「あたしはナヴィの言葉を伝えただけだよ。魔石の力を消すだなんだってのまでは知らなかったし、ナヴィが教えてくれなきゃ何も出来なかったよ」

「それでも此処まで来てくれましたし……」

「あたしは依頼でアンタの所まで来ただけで、此処まで来たのは、まぁ……成り行きだよ」


 そう言ったカトレアさんは、少し遠い目をしていた。


 依頼という事は領主様辺りからの依頼だろうけど、その後は父さん母さん達に睨まれながら私の中に来たんだろうし、苦労は大きかったはず……



「ほら、もう起きれるんなら早く起きてやんな。目を覚ませば、また話せるんだしさ」

「そうですね。では、また後でお話ししましょう」

「はいよ」



 そして私は【主の部屋】を後にした。




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