第56話 娘の手料理……とな?
「どうしようかなぁ……」
暇な時間に私は一人で悩んでいた。
父さんと母さんに相談しようかと思っても、場合によっては迷惑になるので迂闊に話せないでいるのだ。
「シーちゃん、どうしたの?」
「母さん……」
声をかけられるまで近くに母さんが居る事に気付かなかったよ。
「何か困っている事でもあるの? 私で良ければ相談にのるわよ?」
「うーん……でも……」
母さん達なら私が困っていれば、きっと助けてくれる。だからこそ、なんでもかんでも頼りたくないんだ。
それで苦労をかけるのは私の本意じゃない。
「シーちゃんが困っているのに力になれないのは寂しいわ……。だからお願い、話して頂戴」
「う……」
こういう言い方はズルいよ……。
でも、そこまで言うなら相談にのってもらうよ!
「あのね。私この前、ダンジョンコアを取り込んだでしょ? その時に手に入れたスキルを試したいんだけど、その為にダンジョンを造ったら邪魔になって迷惑かな……って思ってて」
私自身がダンジョンコアになるわけだけどダンジョンを造った場合、私はダンジョンから出られなくなるのかが分からない。
ダンジョンコアは本来ならダンジョンの最奥に鎮座しているわけだけど、私はどうなってしまうのか?
最奥の部屋に縛り付けられたり、ダンジョン内から出られなくなるのなら迷宮核は破棄するつもりだ。
だけど、もしダンジョンの外に出られるのなら、ダンジョンを自宅にするのも吝かではない。むしろアリよりのアリだったりする。
でもダンジョン内に魔物が跋扈するような環境なら却下だけどね。自宅警備員としてなら認めるけど、
つまりは、どういう事かというとですね。
私、凄くダンジョンを造ってみたいんです!
ただ、それでダンジョンを造る事ができても破棄する事が出来なかったら……?
父さんからあとで聞いた話だと、ダンジョンコアを破壊されたダンジョンでも魔物は出現するんだって。
でもそれはダンジョン内は魔力が濃いから魔物が発生しやすい、という事であって、それまでのダンジョンとは別物らしい。
つまりダンジョンコアの管理下で襲ってくる魔物か、元ダンジョンの中に自然発生した天然物の魔物かの違いだ。
ちなみに竜の里に出来たダンジョンは、私達が帰ったら竜族総出で吹き飛ばすって言っていたから既に跡形も無いと思われる。
ダンジョンコアが破壊された迷宮は、ただの洞窟と変わらないみたいで、外部から攻撃すれば容易に崩せるみたい。
話が逸れちゃったけど、私がダンジョンを造って消す事が出来なかったら、そこが魔物の温床になってしまうので破壊する必要がある。
私の実験の為に、そこまでするのに抵抗があったりするのだ。とはいえ、すでに魔物相手に酷いことしてるのに今更なんだけどね。
「気にする必要はないと思うわよ。竜だって寝床を作るために木々を薙ぎ倒したり、山を崩す事もするわ。それは人間もやっている事でしょ? シーちゃんだけが気にかけても仕方ないわよ」
母さんの言葉に私の気持ちが揺れる。
うう……そうだよね。私一人が環境に気を使っても、たかが知れてるもんね。
もう開き直って母さん達も巻き込んで、検証やっちゃおうかなぁ……。
「そうだね。でも父さんにも聞いてみるね」
「ガイアスなら嫌とは言わないと思うわよ」
うん。私もそう思うよ。
そして――
「いいぞ。むしろ我等にどんどん頼ってこい!」
悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらいに迷いがなかったよ……。
「だが試すなら場所は移すか……。どんな場所が良いのだ?」
父さんが場所について確認してくる。
良かった。それくらいは気にかける事ができるんだね。私の言った事なら、なんでもOKとかじゃなくて安心したよ。
「うーん。やっぱり周りに何もない所、かなぁ……」
「なら、さっそく行きましょうか」
「そうだな!」
乗り気な二人と共に私達は移動を開始する。
向かった場所は、先日ロックスコーピオンと戦った岩場だ。
さて、どれから始めようかな……。
【迷宮領域拡大】迷宮核の外側に領域を広げる。
【迷宮創造】領域内に迷宮を創り出す。
【主の部屋】迷宮核の内側に広がる部屋へと繋げる。
まずは【主の部屋】から試してみようか。
私はさっそくスキルを使ってみる。
その瞬間、周囲の景色が変わった。
「えっ」
唐突な変化に一瞬思考が止まる。
スキルを使う前は石や岩しかない場所だったのに、今は真っ白いだけの何もない空間が目の前に広がっている。
「ここは…どこ? 父さん、母さんは?」
辺りを見回すが二人の姿はない。
「いや、そうか……。ここは迷宮核の内側にある部屋。つまりは私の中、って事になるのかな? そうなると今ここにいる私は意識だけ中にいるのかな? それとも身体ごと移動している? もし身体もこっちに来てるなら父さん達きっと驚いてるよね、いきなり消えたってことだから……」
そう思ったら二人が心配になってきた。
「どうしよう……。どうすれば戻れる? ……そうだっ【主の部屋】!」
私は同じスキルを使ってみると、先程と同じように景色が変わった。ここは元いた場所だ。
そしてすぐに声がかけられた。
「シラハ! 良かった……。急になにも反応しなくなったから心配したぞ!」
「本当に良かったわ……それで、シーちゃんは一体なにをしたの?」
父さんと母さんは安堵の息を吐くと、何があったのか聞いてくる。反応しなくなったという事は、移動してたのは意識だけなんだね。
「心配かけてゴメンね。私【主の部屋】ってスキルを使ってみたんだけど、どうもそれの効果で意識だけ自分の内側に行ってたみたいなの」
「自分の……内側?」
「うん。正確には迷宮核の内側なんだけど、もう私が迷宮核みたいなモノだからね。それで内側には何もない空間があるだけで、そこで何ができるかは分からなかった」
いきなりの意識の移動で驚いたからね。
アレは今度ゆっくりと試してみよう。
「特に体に問題はないのよね?」
「大丈夫だよ。ただ、いきなり視界が切り替わるから、ちょっと気持ち悪かっただけだね」
「ふむ。不調になったりしていないのなら問題はない」
「ええ、そうね。もし少しでも調子が悪くなったら、すぐに言うのよ?」
「はーい」
私が返事をすると母さんが満足そうに頷く。
うん、調子は悪くないよ。
でもアレは慣れないと辛いかもしれない。急に視界も場所も切り替わるので、そのズレに酔う、とでも言えばいいのかな? とにかくソレが気持ち悪かったのだ。
そして欲を言えば、意識だけの移動ではなくて身体ごと移動して欲しかった。そうすれば完璧な隠れ家ができたのに……。
でも意識だけのはずなのに、向こうでも体はあったんだよね。あれは私の意識が作った内側用の体って事なのかな?
「それじゃあ次のヤツを試してみるね。【迷宮領域拡大】」
私がスキルを使うと、どんどん力が抜けていくのが分かった。これはキツい……。
「シーちゃん大丈夫? 魔力が外に流れていっているけど……」
「わかるの?」
「我等なら、これくらい造作もない。そうでもなければシラハを見つけられはしなかった」
「あ、そっか……」
そうだった。父さんは私の中にある竜核の魔力を嗅ぎ取って、私を見つけたんだった。
そして、やっぱり私が使っている力は魔力だったんだ。ちょっとスッキリ。
あ、でもスッキリしてる間も魔力が抜けていて辛いかも……。
そこで私はスキルを使うのを止めてみる。
ふむ……何か変わった?
「シーちゃんを中心に魔力が土地に広がったわね。これで魔力が広まった場所はシーちゃんの迷宮、という事かしら?」
母さんに言われて私は初めて魔力が土地に広がっていた事を知る。そうだったんだ……。
というか、魔力がある分だけ広めるつもりだったのかな……。その辺は練習すれば魔力を通したい場所を絞れたりするのかな?
魔力が回復したら試してみようかね。
「えっと……どの辺りまで私の魔力って広がっているの?」
「ちょっと待っていろ」
父さんは、そう言うと竜の姿になって空を飛ぶ。
何する気なんだろ。
そして、かなりの高さにまで上昇すると、何かを落としてきた。
アレって、もしかしなくても竜鱗?
上空から放たれた竜鱗が、私を中心に円になるようにして離れた場所に何枚も突き刺さる。
ああ、目印をつけてくれたんだ。なるほど分かりやすい。
そして父さんが地上に降り立つ。
「ありがとう父さん。アレなら私も分かりやすいよ」
「うむ。そうだろそうだろ!」
父さんにお礼を伝えて、私は自分の領域となった土地に意識を向ける。
(なるほど……たしかに自分の場所って感覚があるや。そうしたら【迷宮創造】を使えばいいのかな? あ、でも魔力足りるのかな? さっきゴッソリと持っていかれたけど……まっ、大丈夫かな)
若干の不安はあるけれど、私は好奇心には勝てずに少しだけ使ってみる事にした。
しかし何も起こらなかった。
「あれ?」
「どうしたの?」
「【迷宮創造】を使ってみたんだけど、特に何も起きなくて……」
「ふむ……。それなら何かを思い描いてみてはどうだ? さすがに手で捏ねて造る、なんて事はないだろう」
「なるほど……。やってみるね!」
父さんの言葉で私は再度、領域内に意識を向けて【迷宮創造】を使ってみる。
そして手始めにデコボコした地面が、真っ平らになる様を思い描く。
すると、転がっている石や岩が地面に沈むように消えていき、
「凄いわね……」
「ああ。ここまで速く綺麗に地面を均してしまうとはな」
二人が感心したように私が均した地面を見ている。
私はそれを横目で見ながら、想像以上に魔力を取られなかった事に驚いていた。
(今度は全然魔力を持っていかれなかったね。領域内には私の魔力があるから、それを使ったって事なのかな? 面白いね)
そして私は均した地面の上を歩いていく。
といっても私の広げた領域は、せいぜい直径で50メートルってところだけどね。
私は父さんが残した目印を超えて、自分の領域の外へと足を踏み出した。
「おっ。普通に出れた」
問題なく外に出られる事に私は安堵する。
そもそもダンジョンコアは動かないからダンジョンから出られない、なんて縛り自体が必要なかったのかもしれないね。
これで残りの懸念事項はダンジョンを消せるかどうか、だね。
私はもう一度自分の領域に意識を集中させて、自分の魔力が霧散するように想像してみる。
すると領域から自分の場所、という感覚が少しずつ消えていく。上手くいったかな?
「ねぇ、土地から私の魔力消えたかな?」
「ええ、消えたわ。今のはシーちゃんがやったの?」
「うん。その場所がダンジョンでなくなれば魔物も湧いてこないでしょ?」
「そうね。なら、これでシーちゃんの心配事は解消されたのかしら」
「だね。二人とも付き合ってくれて、ありがとね」
本当に助かった。
私一人だったら、簡単に試せなかったかもしれないからね。
「そうだ。シラハは魔物も出せるのか?」
「あっ、試してなかったね。でも領域は消しちゃったし魔力も余り残ってないから、また今度かな」
「ふむ……。もしシラハが、どんな魔物でも出せるのなら、旨い魔物肉が食えるかもしれんな」
「あら、娘に
「娘の手料理……と考えるならば、食べたくなるだろ?」
「たしかに……それは…アリね!」
おおぅ……。なにやら二人が盛り上がってきたよ。
まぁ二人に、ご飯を用意するのは構わないんだけどね。
ただ、魔物は出せない気がするんだよねぇ……。これは迷宮核を宿しているからこそ感じている事なんだろうけど、感覚的に無理だと分かる。
単純に今のスキルでは無理なのか、それともダンジョン内に湧く魔物は別の法則で出現しているのか、そこまでは分からないんだけどね。
何にしてもだよ。
娘の手料理で盛り上がっている二人に、それを伝えるなんて私にはできないなぁ……。
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