第55話 出会ったアナタは私のお昼ご飯
木々が生い茂る森の中、とある湖の水面に泡がコポコポと浮いてくる。
暫くして水の中から何かが勢いよく顔を出した。
「ぷっはぁ! やっぱり水浴びは気持ちいいなぁ〜」
はい、私です。
私は父さんと母さんと一緒に竜の里から帰ってきて、また狩り、食べる、寝る、という何も無いけど自由な生活に戻っていた。
水場には母さんと来ていて、父さんはお留守番である。なにやらショックを受けていたみたいだけど気にしない。
水場に来た時は、着ていた服を洗ったり水浴びしたりと、のんびり過ごす。
母さんが付いてきてくれれば、魔物も近寄ってこないので気を張っている必要もないので助かるのだ。
「はぁ〜……ずっと泳いでいたいや……」
プカプカと水に浮きながら空を眺める。平和だねぇ〜
そうそう、ふと冒険者カードを見てみたら私の年齢が13歳になっていた。
自分の生まれた日とか把握してないけど、冒険者カードが覚えてくれているなら、ありがたい。
もう少し気にかけておいて、ちゃんと誕生日も把握しておきたいけどね。
一年に一回の事だし日付の感覚さえ怪しいから、把握できるのは何年後になるのやら……。
それと加齢は関係ないけれど、最近になって私の胸が成長してきましたよっ!
まだ私の掌に収まるサイズですけども!
いつかもっと大きくなると信じているから!
そしたら、どこかの街に行って服とかも新調しないとね。
この世界の下着って、どうなってるんだろ……。
胸が大きくなったら欲しいよね絶対。
まあ、その辺は必要になったら店員さんにでも聞けばいいよね。
私は水場から上がって、ぷるぷるっと体を震わせて水気を飛ばす。なんか動物になった気分だね。
タオルのような物も無いので軽く乾いたら、予備の服に着替えて洗濯した服を回収する。
父さんが人化した時は普通に服を着てるから、竜から人になった時に既に服を着ているのはどうして? と聞いてみたんだけど、父さんの着ている服は竜鱗を変化させた物らしい。
竜鱗も生え変わるから、鱗が変化した服でも脱ごうと思えば脱げるみたいだけど相応の魔力を使うみたい。
しかも服のサイズは父さんの体にあった物になるから、私には大きすぎるので、母さんが人化を覚えたら服を用意して貰えたらいいな、とか期待してたりしている。
まぁ私は小柄だから、母さんの服でもサイズが合わないと思うんだけどね。
「母さん、お待たせ。いつも、ありがとね」
「気にしなくていいわよ。それじゃあ帰りましょうか」
「うんっ」
私は父さん達と一緒に暮らすようになってからは、最初の数日以外は毎日水浴びをしていて、その付き添いは母さんに頼んでいる。
ほら私って一応、女の子だしね。恥じらいってヤツも育てていかなきゃね……。
私達が寝床としている洞窟に帰ってくると、入り口付近で父さんが人化して寝っ転がっていた。
水浴び、洗濯時は必ず私が母さんに付き添いを頼むので、父さんはこうして不貞寝している事が多いのだ。
なので水浴びから帰ってくると、今度は父さんと狩りに出かけるんだ。
「父さん起きて。そろそろ、お昼ご飯の時間だから魔物を獲りに行こうよ」
「む? もう、そんな時間か……。よし! では行くか!」
体を揺すって父さんを起こす。
母さん曰く、あれは狸寝入りらしく私に起こされるのを待っているのだとか。何やってるんだよ父さん……。
私は一旦、父さんから距離を取ると、父さんが人化を解除して竜の姿になる。
父さんの竜の姿は凄く威圧感がある。
体を覆う黒くて剣のような鱗は、触れる物全てを斬り刻みそうだ。でも私が父さんの背中に乗る時は、鱗同士をピッチリと重ねて私が怪我をしない様にしてくれている。
だから、この危険な鱗に頬ズリでもしなければ危なくないのだ。
母さんは他の成竜と見た目が同じなので、群の中に紛れてしまうと私では見分けがつかなくなると思う。
本当なら娘として見分けたいけどね。けど匂いで判別する事ならできるからね! 全く見分けられない訳じゃないから!
父さんの背中に乗って上空からご飯となる魔物を探す。
さすがに上空で移動しながらだと私の嗅覚は役に立たないので、森を上から見る時は【熱源感知】を使っている。
【誘引】と【誘体】を使えば獲物からやってくるんだけど、最近は父さんがすぐに助けられる状況下で私が魔物を倒しているから、それはご飯をゲットできない時の最終手段だったりする。
暫く飛んでいると、森が途切れて岩がゴロゴロ転がっている場所になる。そこで私は魔物を見つけた。
「あ、父さん、あそこにロックスコーピオンがいるよ」
「むっ。ああ…あの舌が痺れるサソリか……」
「あ、そっか……。じゃあアレはナシで。父さんは何が食べたい?」
「そうだなぁ……うーむ」
父さんが悩みだす。
当たり前の事だけど、私と父さん達とでは食べ物の好みが違う。
私には【毒食】があるから毒を持つ魔物を普通に食べられるけど父さん達は違う。
体が大きいからか竜だからかは分からないけれど、毒持ちの魔物を食べても死んじゃうような事はないみたいだけど、美味しくはないらしい。
例えば私が食べた場合、さっきのロックスコーピオンなら、海老のように身がプリッとしていて、さらにピリっとした辛さがあって美味しかったりしちゃうのだ。
私が【毒食】を手に入れる前はパラライズサーペントの肉は酷い味だったけど、手に入れた後は美味しく頂けたので、そこから私は雑食系女子の道を歩んでいるんだろうね。
「ではアレも狩って、その後にもう一体仕留めるとしよう。シラハはアレも好きなのだろう?」
「うん……」
「ガハハ! 気にするな。アレを我等が無理して食べても気にするだろうし、かと言って我にはシラハに我慢させるつもりなどないからな!」
「父さんったら……」
やばい嬉しい。
父さんも母さんも私の我が儘を簡単に受け入れてくれるのには少し不安になるけど、今のようなちょっとした我慢にも気付いてくれる。
なんだろうね。
こう…胸の奥が暖かくなるんだよ。
父さんが地面に降りると私も直ぐに背中から飛び降りて、父さんが人化したら準備完了だ。
さあ、やろうか!
ロックスコーピオンは岩と似たような色をしているけど、一度見つけてしまえば見失うことはないので問題はない。
それにかなりデカいので迫力がある。
両手についている鋏で切られたら私の胴体なんて真っ二つだし、尻尾の先端にある針……というかサイズがデカいから杭みたいなアレに刺されたら毒がなくても死んじゃうよ。
私と目線の高さが同じだし。ちょっと怖いしキモい。
まずは一当てしてみようかな。
「というわけで【竜鱗(剣)】!」
剣のような竜鱗が数枚、掌から放たれてロックスコーピオンへと当たるが、全てが体を覆う甲殻に阻まれる。
あ、違うね。
ロックスコー……名前が長いね。サソリでいいや。
あのサソリの右の鋏がついている腕? 前脚? まぁ、どっちでも良いんだけど、そこの関節部分に竜鱗が一枚刺さってくれた!
私はスキルで体を強化しながらサソリに突進する。
そしてサソリの攻撃範囲に入る前に、余裕を持って竜鱗を弾けさせた。
「――――!?」
サソリが声にならない悲鳴を上げた気がした。サソリって鳴き声あるのかな? 口をギチギチ動かしてはいるけど発声という感じでもないしね。
サソリの右腕がダラリと地面に垂れ下がる。
(あと攻撃として使えるのは…口、左腕、尻尾。それなら口以外を潰せば良いね)
私はサソリの目の前まで到達すると【跳躍】を使って、サソリを飛び越える。
すると跳んでいる間は避けられないと思ったのか、サソリの尻尾が私を突き刺そうと迫ってくる。
(【疾空】)
それを私は宙に浮いたまま、さらに飛び跳ねる事で回避した。
そして――
「【爪撃】!」
サソリの甲殻の隙間を狙って振るった私の爪が、綺麗に節と節の間に命中して毒針を切り落とした。
毒は効かないんだけどね。あの針は怖いわ……。
私は【疾空】を使ってサソリの背中に着地する。
うん、身動き出来ない空中で動き回れるのは凄いね。
背中の上からサソリを見下ろす。
さてと、どう料理してくれようか……。
尻尾の針を落としたから背中に居れば鋏は届かない、なんて考えてみました。
(いやー……我ながらナイスアイディアだっ――)
私がチラッと油断したところをサソリの鋏が襲ってきた。
それをギリギリで回避する。
「っとぉ……! あっぶないなぁ……」
今のは少し肝を冷やしたね……。
ダメだね、良くない。
何かあれば父さんが助けてくれる、って頭にあるせいで妙に危機感が足りない。
喜んでやりそうだけど!
それはそうとサソリって背中に腕がまわるんだね。魔物だからなのか、元々それくらい余裕だ、ってところを見せてくれたのかは謎だけど、それなら邪魔なあの腕も切り落としちゃうしかないよね!
私が背中に乗っているから、それを目印に攻撃をしているんだろうけど狙いが甘いね。
え、さっき当たりそうだった? そんな昔の事は忘れたよ。
そして大振りになったところで【鎌切】を使って左腕を斬り飛ばす。
なんかサソリが慌てているのか凄く動いている。
背中に乗っている私は揺れるから堪ったもんじゃない。
私は直ぐに背中から飛び降りた。あのままじゃ酔っちゃうよ。
ふと私とサソリの視線が重なった……気がする。
「ゴメンね……。どうか私のお昼ご飯になってください」
口の中に竜鱗を撃ち込んで爆ぜさせるとサソリは動かなくなった。
『パラライズサーペントの成長を確認しました。
スキル【丸呑み】が
使用可能になりました。
サハギンの成長を確認しました。
スキル【水渡】が
使用可能になりました』
お、新しいスキルだ。あとで確認しとこっと。
ふぅ、終わった。色々と。
「シラハ、良くやった。偉いぞ」
サソリを倒すと父さんが近づいてきて頭を撫でてくれる。
えへへー。褒められたー。
良いね、こういうのって。
「だが背中の上に乗るまでは良かったが、乗った途端に気を緩めたのは何故だ? 反応もギリギリだったようだし何かあったのか?」
「うっ……」
「む?」
不味い。やっぱり、しっかりと見てましたか……。
父さんは私には戦って欲しくないみたいだけど、力を使いこなせるようになるのは大事だ、と説得して戦わせて貰っているので戦いに関しては厳しかったりする。
「その……背中ならサソリの鋏も届かないかな〜なんて思って……」
私は正直に答える。
ここで誤魔化すと後で母さんに見抜かれて怒られるに決まっている。
おのれ、真眼の祝福めっ……!
「なぜ届かないと思ったのだ……。いいかシラハ、魔物相手に己の常識を当て嵌めようとするな」
「はいっ!」
いつもとは違った父さんの真面目な言葉に、私は思わず背筋が伸びてしまった。
最初はずっと、こんな感じだったのにね……。
でも確かに前世の世界と、今世の世界は違うんだから似た形であっても動きや生態が同じなわけじゃ無い。
どうしても似ているモノに当て嵌めてしまうのは良くないね。気を付けないと。
「さて……注意は終わりだ。もう一匹獲ったら帰るとするか」
「うん」
父さんは注意をし終えると私と視線を合わせようとはせずに竜の姿に戻る。
私は、そんな父さんの背中に乗ると、背中を撫でながら声をかけた。
「父さんは私の事を想って注意してくれたんでしょ? 私の為に言ってくれたんだもん。父さんを嫌いになんてなったりしないから気にしないで」
「む…むぅ……。バレてしまっていたか……」
「わかるよ〜。父さん分かり易いもん」
「レティーツィアにも言われたな……」
「あははは! 言われてるところ想像できるね」
「むう……」
父さんが拗ねるけど、思わず私は笑ってしまう。
やっぱり母さんも、そう思うよね。
「レティーツィアに、先程のサソリの事を伝えたら怒られると思うか?」
「た、たぶん……」
「そこまで笑うのなら、我は分かり易い竜ではないと証明してやろう!」
「おおっ!」
父さんがやる気だよ!
お叱りが無くなるなら、私は応援しちゃうよ!
「頑張って! 父さん!」
「任せておけ! ガハハー!」
結局、バレて二人一緒に怒られました。
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