第52話 ダンジョンコアをぶっ壊せー
「またか……」
「出てくる魔物の数が増えてきたね」
「迷宮も己を守る為に必死なのかもな」
最初の階層を地下一階と考えるなら、現在地は地下二階。
そこへと降りてきてからは、魔物がそれなりに現れる。
地下一階が少なかったのか、地下二階が多いのかは微妙なところだけど魔石回収に足を止める事が多くなってきた。
出てきた魔物は父さんがサクッと倒しちゃうから止まる事もないんだけどね。
「時間ばっかり掛かるから倒した魔物は無視しよっか」
「む? 大して時間もかかってないし、我は平気だぞ?」
「私が気にしちゃうの。ダンジョンの中はなんかジメジメしてるし、早く出たいしね」
「ふむ。シラハが良いのなら、そうしよう」
父さんは相変わらず私に甘いね。
そんなに甘やかされたら、いつかワガママ娘になっちゃうよ。
歩いていると分かれ道が見えてくる。
分かれ道も、これが初めてではなくて、すでに七回目だ。
父さんの話しでは、分かれ道に目印を置いたり刻んだりしても、時間が経つと消えてしまうらしい。
だから虱潰しに探索するしかないのだとか。
メモ書きができる物でもあれば地図を書きながら進めるんだけどねぇ……。
無い物ねだりしても仕方ないし、そもそも私は測量とか出来ないから地図を書けるかも怪しいけどね。
「次はどちらに進もうか……」
「んー……父さん、左の道から私達の匂いがするから、ぐるっと回ってきたのかも……」
「なるほどな。では右だな」
父さんが私の言葉を疑う事もせずに道を決める。
怖い! 父さんの信頼が怖すぎるよ!
もう少しくらい悩んでもいいんじゃないかな!?
「どうした? 早く行くぞ」
「あ、うん!」
私が父さんの親バカっぷりに頭を悩ませていると、声をかけられて慌ててついて行く。
正解を引けるわけではないけれど、私が匂いで一度通った道を避けられるので時間はかかったけれど、探索は問題なく進んでいく。
そして私達は大きな空間に辿り着く。
その奥には明らかに洞窟とは違う、建築物のような人工的な部屋が扉を開けて待っていた。
「あそこが迷宮の最奥だな」
「それじゃあ、あそこにダンジョンコアがあるの?」
「そうだ。その前に
ダンジョンボス……。それを倒せばダンジョンコアが壊せるんだね。どんなボスなのかな?
結局ここまでの道中ではアイテムは落ちてなかったから、ボスからのドロップ品とかに期待しちゃうのは仕方ないよね。
まぁ、私としては魔石だけでも良いんだけどね。
私達が大きく開けた空間を歩いていると空気が変わった気がした。
私が辺りを見回すと周囲の壁やら天井に大量の虫が張り付いていた。
それを見てゾゾゾと全身に寒気が走る。
私は別に虫が苦手というわけではないけれど、さすがに限度というものがある。
周囲一帯を埋め尽くす虫の大群を見て、腰が引けない人がどれくらいいるのだろうか?
「チッ! コイツらは?!」
隣で父さんの焦った声が聞こえる。
数もそうだけど、もしかすると危険な魔物なのかもしれない。
昆虫には詳しくないけど、ゴキ……Gと呼ばれる黒いアイツの様な体と、その背中になにやら風船のようなモノを背負っている、よく分からない魔物だった。
そんな魔物がブブブッと音を立てて飛び出した。
(ヒィィ!? 気持ち悪い!)
生理的嫌悪とでもいうのだろうか、今の私は全身鳥肌が立ちまくりだと思う。
そんな私を父さんが掴み上げる。
「父さん……?」
「奥まで投げる。シラハはここから離れろ!」
「え、父さん、ちょっと待っ――」
父さんを止めようとする間もなく、私は魔物の間を縫って投げ飛ばされた。
奥の部屋へと投げ込まれた私は床を転がり、その勢いが止まると、すぐに起き上がる。
すると入り口の扉が勝手に閉じていくのが目に入った。
「父さん、早くこっちに来て!」
私は父さんが居る空間へと走り出しながら声をかけるが、魔物が部屋中を埋め尽くしていて父さんが通る隙間など一つもない。
そして私が辿り着く頃には完全に扉は閉じてしまっていた。
「父さん! 扉を壊して!」
父さんならできるはずだ、と考えての発言だが扉の向こうまで声が届いているかも分からない。
そんな時、扉の向こうで父さんの叫び声が聞こえた。
「ぐおぉぉぉぉ!」
「父さん?!」
父さんのあんな声など聞いた事がなかった。
そんな父さんの声を聞いて、私の思考は吹き飛んだ。
「【竜咆哮】!!」
私から力が抜けて、前方の扉を破壊するべくスキルが放たれる。
「くっ!」
扉の至近距離で【竜咆哮】を放ったせいで、余波に吹き飛ばされる。
私は体を起こして扉に視線を向けるが、そこには僅かにへこんだ扉があるだけだった。
「そんな……」
この迷宮は発生して間もない、と言っていたし父さんもいたから心のどこかで安心していた。
それなのに今、父さんはピンチに陥っていて私は助ける事も出来ない。
自分の無力さを呪いたくなる。
(でも、諦めちゃダメだ! まだ何か手はあるはず!)
私は一度投げ出した思考を取り戻して考える。
今世での情報はたかが知れているけれど、前世でのダンジョンに関係する情報ならどうだ?
様々な設定があるし、その全てが間違っている可能性もあるけれど、この目の前の扉を開ける方法くらいはあるはずだ。
(そうだ、ここが最奥の部屋ならボスがいる。それを倒せば開くかも知れない。壊せないなら正攻法だ!)
私は振り返り部屋の奥を見る。
すると、そこには一体の魔物が佇んでいた。
(私が動くのを待っている?)
その魔物は私を見てはいるけれど、動く気配がなかった。
(鎧を着ていて、剣も持っている。隙間から見えるのは緑色の肌。なんの魔物だろう)
体が大きい人型だったので、最初はオークかと思って少し焦ったけれど、肌の色でオークではないと判断した。
もしかすると普通のオークともハイオークとも違うオークなのかも知れないけれど、それを判断する材料がない。
でも、少しゴブリンに似ているかもしれない。
相手はダンジョンボス。
そこらの魔物よりは強いのだろうけれど、今の私には時間がない。
「さっさと終わらせてもらうよ!」
私は【竜鱗(剣)】を飛ばして攻撃する。
だけど、私の竜鱗は鎧に弾かれて傷を負わせる事が出来なかった。
(それなら鎧の隙間を狙うしかないか…… 【竜咆哮】を当てられれば良いけれど、あれは撃つまでに若干の溜めがあるからな……)
以前ハイオーク戦でも隙を作って攻撃したにも関わらず、僅かに体を逸らされて全身を吹き飛ばす事が出来なかった。
だから目の前で馬鹿正直に【竜咆哮】を撃っても避けられる可能性があるのだ。
それに既に一度使ってしまっている。
もう一度使えば、たぶんまともに動けなくなる。父さんを助けるどころではなくなってしまうのだ。
なので【竜咆哮】は最終手段だ。
ボスゴブリン(仮)が剣を構えて私に向かってくる。
私もスキルを使って身体能力を上げて相手に近付き、ボスゴブリンの剣戟を回避したり、竜鱗を使って防いでいく。
そうしてボスゴブリンの隙を窺う。
「【爪撃】!」
私が【爪撃】で攻撃を繰り出すけどボスゴブリンの鎧に阻まれてダメージにならない。
(やり難い!)
ボスゴブリンの鎧を見る。
全身を覆う鎧の隙間を狙おうとしたけど、戦っている最中に鎧の隙間を狙うのは難しい。
私に鎧を貫く力があれば苦労はないのだけれど、ここで無い物ねだりをしても意味がない。
そうなると狙う場所は顔しかない。
ボスゴブリンは兜も着けてはいるけれど頭全体ではなく、視覚を確保する為なのか顔だけは見えている。
当然、ボスゴブリンもそこは警戒しているとは思うけど、鎧を削る為に時間をかけてはいられない。
それならダメージ覚悟で仕留めるしかない。
私は全身に竜鱗を出してボスゴブリンとの距離を詰める。
ボスゴブリンが剣を振り下ろすけど、私はそれを肩で受け止めた。
「くっ」
ズンと重くのし掛かる力に声が漏れるが、私は振り下ろされた剣を持つボスゴブリンの腕を掴む。
咄嗟にボスゴブリンが後ろに退こうとするが、力比べなら私も簡単には負けはしない。
そして私はボスゴブリンの腕を掴んだまま跳び、空いたもう片方の手で【爪撃】を使いボスゴブリンの顔を貫く。
肉を裂いた感触が伝わる。しかし――
(避けられた?!)
私の爪はボスゴブリンの頬を抉り、兜を吹き飛ばしたが仕留めるには至らなかった。
体格差のあるボスゴブリンの顔を無理に腕を伸ばして攻撃した私は、隙だらけになったところを蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばされた先で、すぐに起き上がるが目の前にはボスゴブリンが迫っていた。
私はボスゴブリンの攻撃を凌ぎながら、どうにか次の手を考える。
ボスゴブリンの攻撃が大振りになった隙をついて、私はボスゴブリンの股を潜って後ろに回り、そこでスキルを使った。
ボスゴブリンもすぐに振り返るが、私を見失ったかのようにキョロキョロと周囲を見回す。
私はその様子を影の中から窺っていた。
そう、私はボスゴブリンの背後に回った時に【潜影】を使ったのだ。
相手に見られていると警戒されてしまうけれど、一瞬でも私の姿を見失ってしまえば影に潜ったなんて想像も出来ないはずだ。
本当なら【影針】を使って動きを止めたかったけど、ボスゴブリンの影とダンジョン内の暗さとの判別がつかないので使えなかった。
でも【潜影】なら全体的に暗いこの迷宮内のどこでも潜る事ができそうだった。
なら最初から使えば良かった、と思わなくもないけれど、早く倒そうと焦るあまり考えが及んでいなかった。
焦っても良い事ないね。
まだボスゴブリンは周囲を警戒している。
とはいえ、いつまでも様子見している訳にもいかない。
私はボスゴブリンの背後に回ると、【跳躍】を使って飛び上がった。
私が影から出てくるとボスゴブリンがバッと振り返る。
凄い反応速度だね、無理に突っ込んでも攻撃が当てられないわけだよ。
私は振り返ったボスゴブリンに再度【爪撃】で顔を貫こうとするが、それを首を横に逸らして避けられる。
避けられると同時にボスゴブリンの剣が私の胴を横薙ぎにするが、それも竜鱗で耐える。
私は攻撃を受けながらも【爪撃】を繰り出した手でボスゴブリンの顔を掴むと爪をたてる。
「ギギャ?!」
ボスゴブリンがゴブリンらしい声をあげる。もしかすると本当にゴブリンかもしれない。
そんな事を考えながら顔を掴んだ手に力を入れると、体を捻りもう片方の腕でボスゴブリンの目玉を貫いた。
ぷちゅりと柔らかい何かが潰れた感触が伝わるが、それに構わず力を込める。
ボスゴブリンが凄い暴れながら悲鳴を上げているけれど、手を抜いてあげるつもりはない。物理的にもね。
私はそのまま目玉を貫いた手を頭の中で掻き回すと、ボスゴブリンが力なく膝をつき痙攣しながら動かなくなった。
動かなくなったボスゴブリンを蹴り飛ばしながら私は腕を引き抜く。
扉へと視線を向けるけど、扉が開く気配はない。
「ボスゴブリンがまだ死んでいない? それともダンジョンコアを壊さなきゃダメ?」
私が悩んでいると頭の中に声が響いた。
『フォレストドッグとフォレストホークの結合を確認しました。
魔石が
スキル【疾空】が
使用可能になりました』
「また訳の分からない事が起きた……。でも今はそれどころじゃないっ」
私がスキルを獲得したという事は、きっとボスゴブリンは死んだはずだ。
それなら、あとはダンジョンコアだけだ。
すると部屋の奥の一部が崩れて、そこから七色に光る菱形の結晶体が現れた。
「あれがダンジョンコア? なら、あれを壊せばっ!」
私はすぐにダンジョンコアへと駆け寄る。
簡単に砕ければ、それで良いけれど砕けないようならスキルを使うしかない。
私はそう思いダンジョンコアに触れた。
そして、目の前のダンジョンコアが消えた。
「えっ――どこに……」
思わず私は声を出すが、すぐに答えは返ってきた。
『迷宮核を確認しました。
領域を確認、迷宮核を取り込みます。
迷宮核の取り込みが完了しました。
スキル【迷宮領域拡大】【迷宮創造】【
使用可能になりました』
「ええ……」
どうやら私、ダンジョンコアも取り込めちゃうらしいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます