第49話 お客さん
私が
自分の力を隠す必要もなく過ごせる今の生活は、開放的な気分にさせてくれる。
父さんか母さんのどちらかについて行って、その日の食事にする魔物を狩りに行ったり、竜の姿になってもらって背中に乗せてもらったりと楽しくやっている。
その合間に以前、私の力を証明するために取り込んだ
【潜影】影に潜む。光に当たると解除される。
【影針】影で針を作る。光に当たると解除される。
このシャドーという魔物は夜にしか出現しないらしく、手に入れたスキルも洞窟のような暗い場所や夜中でないと使い勝手が悪い。
陽が出ている時間帯だと日陰でしか使えないのだ。
【潜影】は使うと影の中に完全に入り込むので、そこに私が居るとは全く分からないらしい。これは父さん達に確認してもらったので検証が楽だった。
でも匂いは不自然に途切れる事になるので、嗅覚が優れている相手だと不審がられるかもしれない、との事だ。
そして、この機会に【擬態】も私以外からの視点で見てもらったところ、【擬態】は岩場なら岩に、森の中なら草や木々に見えるんだとか。
自分からだと変わっているように見えないので実感が湧かないけど、かなり精度が高いみたい。
ただ、やはりと言うか匂いは誤魔化せないので、明るい所なら【擬態】、暗い所なら【潜影】と使い分けていくのが妥当だと思う。
匂いで追跡できる相手の場合は、頑張って逃げるしかないね。
そして【影針】も暗い場所でしか使えないんだけど、このスキルは私の人差し指サイズの黒い針を飛ばせるんだ。
これは相手に放って傷を負わせる事ができるけど、相手の影に撃ち込むと動きを縫い付ける事ができるんだ。
効果だけ聞くと凄い! と思うでしょ?
でも、試した相手が父さん達だったから動きは一秒も止められないし、かすり傷一つ負わせる事ができなかったよ……。
だから、あとで魔物相手にも試す必要がでてきてね。
結果としては、縫い付けは十秒くらいは動きが阻害できるという、かなり素敵な効果時間を叩き出してくれた。
攻撃手段としては遠距離なら【竜鱗(剣)】の方が威力もあって使い勝手が良いから必要ないけども、暗い場所でなら暗器みたいな不意打ちに使えるかもしれない。
まるで
まあ、スキルの検証をしても私自身は狩りを殆どしてないから、あまり役にはたってないんだけどね。
なんか二人とも過保護で私を一人で行動させるような事をしないんだよね。
これは私の想像なんだけど、二人は子供が魔物に食べられた事がトラウマになっているんじゃないか、と思っている。
だから私一人で魔物と戦う事のないように気を遣っているんだと思う。
今すぐという訳ではないけど、いつかは私一人でも行動できるように説得するつもりだ。
だって話を聞いてる限りだと、竜は人よりずっと寿命が長そうだから、下手したら私の残りの人生をずっと二人に挟まれて過ごす事になってしまう。
決して二人の事が嫌というわけではないけど、何をするにしても親に守られて過ごすというのは、ちょっと情けない気がする。
困った時は助けて貰うけど、やっぱり何事にもチャレンジはしてみたいからね。
でも今は三人で日向ぼっこしながら、まったりとして過ごしたりしてるのもイイなぁ……って思ってる。
私は竜の姿の二人に挟まれて、ぬくぬくとしている。
ほんとすぐにでも寝ちゃいたいね。
私がウトウトしていると、父さんが不意に顔をあげた。
「父さん、どうしたの?」
「……面倒なのが来たな」
「面倒?」
私が尋ねると私達が寝床にしている洞窟に一つの影がやって来た。
「竜?」
そう。やって来たのは澄み渡った空と同じ色をした竜だった。その空色とも言えるような水色の鱗を煌めかせながら、洞窟の中へと入って来た。
「やあやあ、ガイアスにレティーツィア久しぶり! 元気してた?」
やって来た竜は軽い雰囲気で二人に挨拶してくる。友達か何かなのかな?
「レイリー……。なんの用だ」
父さんが低い声を出す。友達じゃない?
「なんで、そんなに警戒してるのさー。僕なにかしたかい? って、おや? そこにいるのは人間じゃん。なに、非常食か何か?」
レイリーと呼ばれた竜が私を見ると、警戒するどころか食料扱いしてきてゾッとした。そうか、私って他の竜から見たら食べ物と同じなんだ……。
父さんと母さんの扱いのせいで私の感覚がおかしくなっていたらしい。
少し気を付けた方がいいかもね。
そう考えた時だった。
私の左右から押し寄せた空気に、私の体が瞬時に強張る。
そして、すぐにそれが何かを理解した。
「レイリー。次にこの子を非常食扱いしたら、その喉を喰い千切るわ」
「我は貴様の目玉を潰して竜核を引き摺り出してやる」
父さんと母さんだ。
二人がレイリーに向けた怒りか殺気が私を竦ませたらしい。さすがにこの至近距離での、それは心臓に悪いよ……。
私の為に怒ってくれたのは嬉しいけどね。
「ちょ、ちょっと! なんで二人共そんなに怒ってるの?! 僕二人の逆鱗にでも触れちゃった?!」
二人の怒りにレイリーが慌て出した。
私との関係を知らないんだから、困惑するのも仕方ないよね。
「我の娘を非常食呼ばわりとは、貴様は喧嘩を売りにここに来たのか?」
「いや違うからね?! そんなつもりじゃないって! って、え? 娘? 嘘でしょ……? あ、本当? そうですか……じゃなくて! 人間を娘?! なに考えてるのさ!」
レイリーが慌てて父さんに詰め寄るけど、父さんが尻尾を振って近寄るな、と意思表示する。
「娘に近づくな。病気が移る、帰れ」
「え……」
父さんの言葉で私は一歩引く。
病気とか言われると、ちょっと怖いよね。
「僕は病気持ちじゃないから! ほら、ガイアスのせいで引いちゃってるじゃん!」
「それは貴様が非常食とか言うから怖がってるだけだ、帰れ」
「用事があって訪ねて来たのに帰れるわけないじゃん!」
「用があるのなら、まずは私達の娘に謝りなさいな。それが出来なければ話は聞かないわ」
「分かったよ! ……えっと、なんか…ゴメン」
レイリーが頭を下げる。
竜が人に頭を下げるなんて結構な大事件だと思うんだよね。それなのに……
「誠意が足りないな。話にならん」
「そうね。卵からやり直した方がいいわ」
「全否定?!」
父さんと母さんがレイリーをディスる。ちょっと可哀想に見えてきたよ。
「父さん母さん。話くらいは聞いてもいいんじゃない?」
「む。娘がそう言うなら話だけは聞いてやろう」
「ほら、早く話しなさいな」
「わ、わーい。ありがとー」
二人の変わり様にレイリーが棒読みの感謝を伝える。
なんか私の両親がごめんね。
「この二頭が素直に言う事を聞くなんて驚いたよ……。君もありがとね」
レイリーが驚いたような声音で、そんな事をいいながら私にもお礼を伝えてくる。
可哀想に思ったのも理由なんだけど、二人が怒っているのが嫌だった、っていうのが一番の理由なんだよね。
「えーと。それじゃあ……娘ちゃんは初めましてだから自己紹介させて貰うね。僕はレイリー、真竜に至った竜で天竜と呼ばれている。君のお父さんガイアスとは、昔からの付き合いなんだ」
「私はシラハです。訳あって父さんと母さんと一緒に暮らす事になりました。以後お見知り置きを……」
「君が娘になった、ってところは凄く…凄く興味あるけど……! とりあえず先に用件だけ済ませちゃうかな」
なんかレイリーが私達の事情を聞きたそうに葛藤していたけど、ひとまずは話をする事に決めたらしい。
「ガイアスさ、ちょっと里に戻って来てくれない?」
「断る。よし用件はそれだけだな帰れ」
「酷い! もう少し悩んでくれてもいいじゃん! あと理由も聞いてよ!」
「里には貴様も含めたお強い真竜様達がいるだろ。我が戻る必要性を感じんな」
「だーかーらー! ガイアスじゃなきゃいけない理由があるんだって!」
父さんは心底どうでもよさそうな顔をしているけど、レイリーが食い下がる。
私は竜の里の事は全く分からないから口出しできないし、これは父さんに持ち込まれた話だから、やはり私の出る幕はない。
「里に
「ダンジョン!?」
はい。レイリーの言葉に反応したのは私です。
ダンジョンの話は聞いた事なかったけど存在するんだ!
ヤバイ。ちょっとワクワクしてきたかもっ
「ほら、娘ちゃんは興味津々なんだから話聞いてみない?」
「仕方ない。早く話せ」
私が興味を惹いているのを理由にレイリーが話を進めるけど、ダンジョンの話はちょっと聞いてみたい。
「話すと言っても、里の中にダンジョンが発生したからガイアスに破壊して貰いたい、ってだけの話なんだけどね」
「やはりか……」
父さんが面倒臭そうに呟く。なんで、父さんなんだろう。
「その竜の里には他にも沢山の竜がいるんですよね? なんで他の竜の方がダンジョンを破壊しないんですか?」
「それは……」
「簡単な話だ。我が人化する事ができるからだ」
「人化ができる……? もしかしてダンジョンって狭いの?」
父さんの言葉に私は一つの結論に行きつく。たしかに、入口が狭かったりすれば、竜が入る事はできない。
しかも人化が出来る父さんに頼むという事は、ダンジョンは外からじゃ破壊できないのかもしれない。
「竜が入れる大きさの迷宮も無くはないが、大抵は狭いな。そもそも竜族は迷宮などに興味もないしな」
「とはいえ散々馬鹿にしていたガイアスに助けを請うなんて、いつの間にか竜族は誇りを失ってしまっていたのね」
「そうだな。我の力も、人化を会得した事も笑っていた連中は誇り云々と語っていたが、奴等の言う誇りとは何なのだろうな」
二人の反応が凄く冷たい。ただ話を聞いているだけだと、里にいる竜は随分とムシがいい連中だと思った。
「二頭の言い分はもっともだけど、そこを何とか頼めないかな?」
「引き受けるわけないだろ。早く帰れ」
「頼むよ!」
レイリーは必死に頼み込むけど、父さんは相手にもしていない。当然だよね。
たぶんだけど、レイリーは父さんを笑ったりはしていないんだと思う。もし父さんを笑った連中だったのなら、それこそ話すら聞かなかったと思うもの。
私が三人を見ていると、父さんと目があった。
「シラハは迷宮に行ってみたいのか?」
「そうだよ! 娘ちゃんの為にも行こうよ!」
「うるさい。貴様には聞いていない黙れ」
父さんは私に判断を委ねようとしているのかもしれない。
ダンジョンは行ってみたいけど、父さんと母さんが不快な思いをするのなら行きたくはないんだよね。
「父さんは里に行くのイヤじゃないの?」
「シラハが行きたいなら、何処だってイヤではないぞ」
「そうね。家族であちこち行くのも楽しそうね」
ほんと二人とも私に甘すぎだよ……。
でも、そこまで言うのなら行ってみたいかな。それに行きたくないって言ったら気に病みそうだし。
「それなら行ってみたい」
「本当かい!? ありがとう娘ちゃん!」
レイリーが喜んでいるけど、行って楽しい思い出を作るにしても、父さんにはダンジョン破壊という里の為の仕事がある。
それなら、言っておかなきゃいけない事がある。
「レイリーさん。私達が竜の里に行くのには条件があります」
「ん? 条件?」
レイリーが首を傾げた。
父さんと母さんも不思議そうな目をしている。
「まず里についたら、里にいる全員は父さんに謝罪してもらいます」
「えっ?!」
「今まで、ずっと笑い者にしてたのに困ったから助けて欲しいんですよね? それなら助けて貰うなら今度は、笑った側が恥でも頭を下げてください。それが出来なければ帰ります」
「い、いや、ちょっと待ってよ。そんな事できるわけ……」
「誇り高くて頭を下げられないなら、そのまま誇り高く滅びれば良いんです。私達が竜の誇りを踏みにじってまで、助けてあげるなんて酷い事できません」
竜にだって大事なモノはあるはずだ。
故郷である里。家族。友。
それらが本当に大事なら、頭を下げるくらい安いモノだ。
それでも自分達の安っぽい誇りやプライドを優先するなら、勝手にすれば良い。
父さんは自分が行きたくない場所にさえ、私の為なら行ってくれると言うし、私の願いの為に人から攻撃を受けても反撃せずに人を助けてもくれた。
そんな父さんだけが我慢するなんて許せない。
なら私が他の竜に恨まれても、きちんと父さんに対して謝罪をさせてやる。
「そして謝罪の他には報酬も用意してください。父さんは便利屋ではないので、働きに対しての対価があって当然です」
「対価は大丈夫だけど、謝罪は……」
「貴方達竜族にとって、里がその程度の存在なら滅んでも構わないのでは?」
「大事な所だからね?! 僕達の祖が眠ってる地なんだから!」
「なら謝罪くらい簡単ですね。無問題です」
「ガハハハ! さすがは我の娘だな!」
「ええ。本当に頼もしいわ」
父さんと母さんが私を褒めてくれる。少しでも力になれたら嬉しいよ。
「僕に対しても物怖じしないし、竜族に喧嘩を売る発言するし、本当に君達の子供だね……。分かった、そっちはどうにか説得してみるよ」
レイリーは若干疲れた雰囲気だったのは、言うまでもない事だね。
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