第35話 ぐったりです
『フォレストドッグの成長を確認しました。
スキル【跳躍】が
使用可能になりました。
フォレストホークの成長を確認しました。
スキル【有翼(鳥)】が
使用可能になりました。
サハギンの成長を確認しました。
スキル【側線】が
使用可能になりました。
フォレストマンティスの成長を確認しました。
スキル【擬態】が
使用可能になりました。
レッドプラントの成長を確認しました。
スキル【誘引】が
使用可能になりました』
頭の中に、いつもの声が響いてきて新しいスキルの習得を告げてくる。
本当なら、すぐにでもスキルの確認をしたいが、なるべく早く戻った方がいいよね。
「死ぬかと思った……」
私の目の前には血を失ったハイオークが倒れている。
私を掴んでいた手はズタボロだが、こちらの竜鱗もバキバキに砕けている。
今回ので気が付いたのだけど、自分の力だからかは分からないが、砕けた竜鱗で私が傷つく事はなかった。
正直なところ【麻痺付与】がハイオークに効いたかは分からないけれど、使えるものは全て使ってみた事に後悔はない。
ないのだけれど……。
「気持ち悪い……。吐きそう、視界がグラつく……」
【竜咆哮】を使ってから力が入らなかったけど、その後にもスキルを多用したのが不味かったのか、今にも倒れそうだった。
「でも、早く戻らないと……」
さっき使った【竜咆哮】で、きっと駐屯地は大騒ぎだろう。
もしかすると、リィナさん達が探しているかもしれない。
私がいない=騒ぎの原因。と結びつくとは思えないけど、用心するに越したことはない。
なので私は震える足に力を入れて立ち上がると、ハイオークの魔石を回収する。
急いではいるけど、これだけ苦労したんだもの。
当然、魔石は貰ってくよ。
私がハイオークの魔石に触れると、また声が聞こえてくる。
『ハイオークの魔石を確認しました。
領域を確認、魔石を取り込みます。
ハイオークの魔石の取り込みが完了しました。
スキル【剛体】【獣の嗅覚】【誘体】が
使用可能になりました。
【獣の嗅覚】は重複するため表示されません』
おそらくハイオークを倒した事で領域に空きができたんだろうね。
ハイオークの魔石を持って帰ったら、言い逃れもできないから取り込めるなら、その方が安心だね。
私が覚束ない足取りで駐屯地に戻ってくると、やはりと言うか当然と言うか、辺りは騒然としていた。
オロオロと不安がっていたり、ピリピリしている冒険者達を横目に私が馬車を目指して歩いて行くと、リィナさんと遭遇した。
リィナさんは私の姿を見付けると慌てて駆け寄ってくる。
「シラハどうしたの?! ボロボロじゃない!」
そう言いながらリィナさんは私に自分のローブを掛けてくれる。
着ている物は、どうしようもなかったんだよね……。
ハイオークに掴まれて、竜鱗で対抗しようとした時点でローブは諦めていた。というか、その時は頭になかったんだけどね。
なので私が纏っていたローブは、あちこちが裂けてしまっていたので、バレるんじゃないかと周囲の目が気になった。
「スミマセン……。転んでしまって……」
「嘘! 転んだって、こんなにならないよ!」
リィナさんにすぐに否定される。だよね、私も無理な言い訳だと思うもん。
でも、ちょっとここで立ち話しているのは辛い。
「あの……、ちょっと気持ち悪いので休みたいです……」
「って、シラハ顔が真っ青じゃない?! 肩貸すから…ほら、掴まって」
私が体調不良を訴えればリィナさんは、すぐに馬車まで連れて行ってくれた。
馬車に着くと他の三人が居たが、話をするのも辛かったので、そのまま荷台に乗り込むと横になる。
服くらいは着替えたいけど、動くのもしんどいのでやめた。
リィナさんは事情を聞きたそうにしていたけど、私の体調を気にしてか、様子を見ているだけだった。
私が馬車で休んでいると、警備に協力してほしいと誰かが喋っていた。
内容から考えれば警備隊の人だろうね。
元気なら夜番くらいは引き受けるけど、今は動けそうにないんだよね。
私の様子を窺っていたリィナさんに「無理です」とだけ言って、それを外の人にも伝えてもらった。
調子は良くなるどころか、どんどん悪化している気がしている。
横になっているだけなのに、目の奥がチカチカするし吐き気も気持ち悪さも、酷くなる一方だ。
そんな気分の悪さと闘っていると、また誰かがやって来た。
外でデュークさん達が断っているが、相手がなかなか引き下がらないようだった。
きっとハイオークが倒された事には、まだ気付いてないだろうから不安なんだろうね。
だから、私の匂いによる索敵に頼りたいんだと思う。
怪我人もいるし最悪、死者もいるかもしれない。それなら使えるものは、なんでも使いたいよね。
私が力の入らない身体を無理に起こそうとすると、リィナさんが手伝ってくれた。
私はリィナさんに支えられながら荷台から顔だけ出すと、外にはハイオークと戦っていた隊長さんがいた。
隊長さんも、あちこち傷だらけだけど血は止まっているみたい。きっと体力回復薬は使ったんだろうね。
怪我してるのに動かなきゃいけないとか大変だね。
隊長さんが私に気付き口を開きかけたけど、すぐに目を見開くと口を閉じた。
私、そんなに酷い顔してるかな……?
絶不調です。と言えるくらいには調子は悪いけど、口を噤む程ですか。そうですか。
そう考えるだけで、調子が悪くなった気がするよ。
「わざわざ来てもらって申し訳ないんですが、今は体調が優れないので、お手伝いできません」
「そ、そうか。それは済まなかった」
私がそう伝えれば大人しく引き下がってくれた。
助かった。
馬車の中に引っ込んだ私は、支えてくれていたリィナさんに体重を預ける。
もう無理。力が入らない……。
「シラハ無理しないでよ!」
「あはは……。ほんと、すみません……」
すぐにでも意識を手放して眠りたいところだけど、まだ眠気がやってこない。
今の私の不調はスキルの使い過ぎだとは思うけど、私はなにを代償にして、この力を使っているんだろう。
(あり得そうなのは魔力かな……。魔法適性はなかったけど魔力は誰にでもあるみたいだし)
もしそうなら、今の私の不調って魔力回復薬で治るのかな?
ただ残念な事に魔力回復薬は持ってないんだよね。
こんな事になるとは思ってなかったし。
リィナさん達も魔法は使ってなかったし、魔力回復薬は持ってないよね、きっと。
それになんで魔力が無くなったのか説明もできないし。
気を紛らわせようと少し考えてみたけど、頭の中がぐるぐると回っているような感じがしてきたので思考を放棄する。
そこで漸く眠くなって来たので、私は眠気に身を任せた。
私は馬車の揺れで目を覚ます。
まだ頭の奥に鈍い痛みがあるけど、普通に動く分には問題ないと思う。
私が目を覚ますと、側には寝る前と同じようにリィナさんが居てくれた。
「あ、起きた。水飲む?」
リィナさんが起きた私に気付き、水袋を差し出しながら聞いてくる。
私はそれを受け取り喉を潤す。ぷはぁ…生き返る〜
リィナさんは私の様子を見ていたが、元気そうだと判断したのかボロボロになって帰って来た理由を聞いてきた。
「それは……転んで、ですね……」
寝起きの頭では良い言い訳も浮かばない。
そんな私を見てリィナさんが溜息を吐く。
「シラハがなんで言いたくないのかは分からないけど……。でも本当はハイオークを追い払いに行ったんじゃないの?」
「え……」
バレてる?!
「昨日シラハが眠ってから、駐屯地にいた人達にハイオークが森の中に逃げた事が説明されたの。警備隊の人も理由は分かってないみたいだったけど、シラハがボロボロだった事と無関係とは思えなかった」
ど、どうしよう……。私が追い払ったというのは本当だから、そこは良いんだけど。
どうやって警備隊に気付かれずにそんな事をやったのか、と聞かれると答えられない。
「もしかして、シラハ――」
心臓の鼓動が大きくなった気がする。リィナさんはどこまで気が付いているの……?
「実は魔法が使えて、その事を隠してるの?」
「えぇ?」
リィナさんの予想外な言葉に肩の力が抜けてしまった。
「ほら、魔法使える人って少ないし、周りに知られると勧誘も酷いみたいだから、パーティーメンバーにしか教えないって人もいるらしいよ」
「な、なるほど……」
思わず納得してしまったけど、その設定に乗ってしまった方がいいかな? でも実際に魔法が使えるわけじゃないし、すぐにボロが出そうなんだよね。
「じ、実はそうなんで――」
「やっぱり! ねえねぇ、どんな魔法なの?!」
リィナさんが凄く目をキラキラさせながら、食い気味に魔法について聞いてくる。
凄く罪悪感が……。見せるわけにもいかないしね。
「その……。私の魔法はちょっと特殊でして、人前では使うなと私の師匠に厳しく言われてまして……。それに万全の状態でも昨日みたいになってしまうので」
「そっかぁ……、残念」
リィナさんが口を尖らせながら引き下がる。
昨日の私を知っているから、リィナさんもそれ以上は何も言ってこないと思う。
なんとか無事に誤魔化せたね!
「ん? シラハ魔法使うと調子悪くなるの?」
「はい、昨日みたいになります」
魔法を使っても調子悪くなる事ってないのかな? でも私は、この設定で押し倒すよ!
「それって魔力枯渇ってやつじゃないの? 魔力回復薬は?」
「使う予定なかったので、持ってませんでした」
「このお馬鹿! 旅には何があるか分からないんだから、色々と用意しておくものよ! 分かった!?」
「は、はひ……」
急遽作った設定だったので、そこまで用意してなかったんだよ……。
そんなに怒らないでよ……。ぐすっ
「リィナがシラハを虐めてるぞ」
「馬鹿デューク、虐めてるんじゃないから! 注意してるだけ!」
「だってシラハ泣きそうだし」
「え?! あ、ゴメンねシラハ!」
私がヘコまされていると、デュークさんが顔を覗かせてリィナさんを茶化す。
あのまま注意されてたら確実に泣いてたよ……。
ほんと助かりました。
「ほんと虐めてるつもりじゃないんだよ?」
「分かってます。私のことを心配してくれたんですよね、ありがとうございます」
リィナさんが私の顔を覗き込みながら涙を拭ってくれる。
私の事を思っての注意だと分かってても泣いてしまうなんて困ったね。
「シラハって、可愛い顔をしてるのね……」
「ふぇ?!」
いきなりリィナさんが私の頬を撫でてきたので、思わず変な声が出てしまった。
なんだろう、リィナさんの瞳が潤んでて背筋がぞくりとする。
凄くいけない事してる気分だよ!
その後は何事もなくて、いつもの調子に戻ったリィナさんに見張りをして貰って、身体を拭いたり着替えたりした。
なんだったんだろう。リィナさんって、そっちの趣味でもあるのかな?
私が着替えてる間は、休憩という事で馬車も停めてくれていた。
着替え終わった私は、リィナさんと荷台を出て五人揃って食事を取る。
私だけ献立違うけどね!
と言っても皆の手元にスープがあるくらいだけど。
私が皆がカップに入れて飲んでいるスープを見ていると、フィッツさんが私の視線に気付いたのか、苦笑しながらカップを渡してきてくれた。
物欲しそうな目をしてたのかな……。
「シラハはまだ本調子じゃないだろうし、これでも飲んで元気になりなよ」
「ありがとうございます」
「――――っ」
私がニコリと笑いながらお礼を伝えてカップを受け取ろうとすると、フィッツさんが一瞬焦ったようにカップを落としそうになる。
その後は特になにも言ってこなかったけど、随分と顔が赤くなっている。
今のやり取りに赤面するような要素あったかな?
食事を終えると男三人がなにやらモジモジしていて挙動不審だった。
リィナさんは片付けもままならない三人に冷たい視線を向ける。
「あんた達、さっきから前屈みになってなにしてんの? 早く片付けちゃってよ」
「分かってるんだが……その」
カルロさんが言い辛そうにしている。デュークさんとフィッツさんも何やら視線が泳いでいる。
前屈みで女性である私達に言い難いこと……なるほど。
「片付けが終わったら私達は離れてるので、手早く済ませちゃってください」
「「「えっ……」」」
「あれ、違いました? 男性は溜まると毒と聞きますし、我慢は良くないかと……」
「言うな! それ以上は言わないでくれ……!」
「手早く? 溜まるって?」
リィナさんが私に聞いてくるけど、これって男性にとってデリケートな問題だし、ここでは言わない方がいいかな。
ちょっと踏み込み過ぎたかもだけど……。
私とリィナさんは片付けを終えると、馬車が見えるギリギリの位置まで移動して時間を潰す事にした。
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