第22話 ふぁんたじー

 パチリと目が覚める。

 目の前には見覚えのある天井。また領主様の屋敷へと運ばれてしまったわけである。


「はぁ、外は真っ暗だけど眠れそうにないなぁ……」


 また何日も眠ってしまっていたのだろうか……そんな事を考えながら部屋の中をうろうろと歩く。

 少し動いてみたけど包帯が巻かれているせいで動きにくくはあるけど、体が痛む事はないので、やはり何日か意識が戻らなかったのだろう。


「また迷惑かけちゃったなぁ……」


 そう思うと私は居ても立ってもいられなかった。

 私はすぐに部屋を出ようと動きだした。そして部屋の扉を開けると入り口の前に人が立っているのに気がついた。


 部屋の前には見張りなのか兵士が二人いたが、扉を開くとギョっとした顔で私を見ていた。


「あ、あの〜。おはようございます?」


 日が完全に落ちているのに、おはようはいかがなものかとは思ったが、目を覚ましたばかりの私の口からスルっと出てしまった。


 片方の兵士が目配せをすると、もう一人がどこかへ走っていった。きっと領主様のところだね。


「シラハ殿……は、その、どこか不調などはありますか?」

「いえ特にはないですね……また何日もご迷惑をおかけしてスミマセン」

「迷惑だなんて思っていませんよ。それよりルーク様がこちらにいらっしゃるので部屋で待っていてください」

「え、領主様に来てもらわなくても私が出向きますが……」


 兵士の人が領主様に連絡しに行ったのは分かってたけど、呼びに行っているとは思わなかった。

 そういえば、以前も私のところまで来てたね。

 貴族を部屋に呼びつけるとか不敬なんじゃないのかな?


 少しすると慌ててヒラミーさんがやってくる。私が薄着だったので上に羽織るものを用意してくれた。あったかい……


 その後に領主様、レギオラさん、アルフリードさん、セバスチャンさんが部屋へと入ってきた。その後ろには白衣を着たおじいさんもいる。レギオラさんはずっと屋敷に留まってたのかな?


 白衣を着たおじいさんは医者のようで私の脈を測ったり首の包帯を外して怪我の具合を見ている。首って包帯巻くほどの怪我をしてたのかな? 首絞められただけだけど、もしかして結構くっきりと痕が残ってたのかな……

 あの時は必死だったから分からなかったけど、酷かったんだね。


 首を見た後に私のお腹を見ようとしたら、ヒラミーさんが咳払いをして領主様達を追い出そうとしたが、私が後ろを向いていれば良いと言ったので渋々と了承してくれた。

 早く話を聞きたいだろうしね。


「ふむ……傷も残っていませんな。驚異的な回復力ですな」

「先生の治療が良かったんですよ。ありがとうございました」


 私がお礼を伝えると皆が微妙な顔をする。可笑しな事でも言ったかな? お礼を伝えるのは普通だよね?


 医者のおじいさんは私を見終わると部屋を出ていき、私はベッドに寝かされて、その状態で話をする事になった。

 私だけ寝てるの落ち着かないんだけどな……


「あの、せめて椅子を持ってきて座ってください。凄く居心地が悪いです……」

「む、それなら仕方ないな……セバス」


 私が懇願するとセバスチャンさんが椅子を用意し始める。ごめんなさいね……。でも立ったままだと大人達に囲まれて見下ろされてってなるから圧迫感が凄いのよ……


 椅子の準備ができるとセバスチャンさんとヒラミーさん以外は座る。まぁ、執事や使用人が一緒に座るとかしないよね。


「えっと。まずはまたお屋敷でお世話になってしまって申し訳ありませんでした」


 私は最初に言っておかなければいけないと思っていた事を謝っておく。すると領主様が怪訝そうな表情をした。


「なぜシラハが謝る?」

「え? だって怪我をしただけなのに、ここまで運んで治療してくださったんですよね? 私はただの冒険者でしかないのに」

「たしかにシラハはただの冒険者だが、今回シラハが怪我をしたのは魔薬絡みの報復だと考えている。それならシラハの治療も守りも依頼した私の責任の範囲内だ」

「でも依頼を受ける条件に自衛ができる、も入ってましたよね? それなら今回の事は自己責任になるのでは?」


 正確には腕が立つだった気がするけど、大した違いはないと思う。それでも領主様との認識は違うようだけど。


「たしかに条件には腕が立つを入れてはいたが、領内の面倒事で相手はそれなりの力を持つ組織だ。そんなのを相手に一冒険者に自分の身は自分で守れ、だなんて薄情なことは言わんよ」

「なるほど……」


 やっぱり領主様は甘いと言うかなんというか……そこまで気にしてたら大変だろうに。


「でも何日も治療で滞在していたなのなら、やっぱりご迷惑をおかけしていたかと」

「それなんだが……たしかにシラハに治療は施した。だが治るのが早すぎないか?」

「いや、早すぎと言われても何日寝てたんですか私」


 首はともかく、お腹の傷は結構深かったと自覚している。刺されただけならまだしも、いや刺されただけでも大怪我なんだけどね。その傷にさらに足蹴にするんだから酷いもんだとは思ってたけど、実際は大したことがなかったのかな?


「シラハが襲われたのは昨日だ」

「え、昨日?」

「正確には今日の二時頃か……そして今は二十一時だな」

「その時計、針が狂ってるんじゃないんです?」

「私もそう思ったし、寝落ちして丸一日時間が経ったのかとも思ったが、そんなことはなかったよ……」


 領主様が疲れ切った顔をしている。色んな意味で疲れてますね……お疲れ様です。

 

 それよりも私が怪我してから一日も経ってないんだ…… 【体力自動回復(中)】の恩恵だと思うけど、ここまで早く治るとは思わなかったよ。


「確認だがシラハ、もうどこも問題はないんだな? 毒を使われていた可能性もあったんだが……」

「さっき少し動きましたけど、大丈夫でしたよ」

「そうか……良かった」


 領主様は安堵した様子で私の頭を撫でた。少し気恥ずかしかったが不快とは感じずに目を細めてしまった。悪くないもんだね。

 不意に撫でた手が離れて若干の名残惜しさを感じるが、領主様は急に居住まいを正すと頭を下げてきた。


「そしてシラハを巻き込んだにも拘らず守れなくて、本当に済まなかった」


 いきなりの領主様の謝罪に私がポカンとしてしまう。よく見るとアルフリードさんやレギオラさんまで頭を下げている。


「あ、頭をあげてください! 私もあれで終わったと思って油断してたので皆様のせいではないです!」


 私が慌ててやめさせるとアルフリードさんが膝をついて、私と視線を合わせてきた。


「今回の調査において、君の働きがなければ僕は未だに拠点を抑えられなかっただろう。それなのに僕は君に報いることが出来なかった。もし君が望むのであれば当家で君を引き取る事だってするよ」

「いえ、貴族のお屋敷に住むとか疲れちゃうので結構です」


 アルフリードさんが突飛なことを言ってくるが、わたしに貴族の生活とか無理です。


「それなら我がアルクーレ家で引き取るのはどうだろうか」

「もっと無理です。息詰まっちゃいます」

「そうか……」


 二人が肩を落とすが、私みたいなのをよく家に入れるとか言い出すよね。本気ではないと思うけど……あ、ヒラミーさんもガッカリしてる。ごめんね、お嬢様とかは興味あるけど自分がなれるか、と言われれば無理だと思うんだ。  

 というか旅をしたいし。


 ここって貴族の学校とかあるのかな? そっちも興味はあるんだけど、やっぱり平民ってだけで虐められるよね。  

 さすがに貴族の令息令嬢を殴るわけにはいかないからパスパス。三日で縛り首にでもなりそうだよ。


 まあ、引き取って貰っただけで学校に通えるとは限らないけど、妄想するだけならタダだからね。


 随分と話が脱線してしまったけど、話をしなきゃいけないのは私を襲った相手についてだよね。

 なので私は相手の右腕を切り落としたことを報告した。あと分かることは相手が男だったことくらいかな。


「部屋の惨状から見ても君だけの血にしては多いとは思っていたけど、よく腕を切れたね。でも腕の治療なんて簡単にできることじゃないだろうし手がかりにはなるね」

「そうだな。セバスすぐに各治療院に連絡してくれ」

「承知いたしました」


 アルフリードさんの言葉に領主様が頷き、セバスチャンさんに指示をだす。やっぱり手慣れているよね。私の事については手落ちだと言ってるけど、あれは私がここに留まることを断ったから、それを尊重してくれただけのことだし私としてはなんとも思っていない。


「腕って治るのに時間かかるんですか?」

「嬢ちゃんの話だと腕をスッパリ切ったようだが、それでもすぐに繋げても丸一日は力が入らないと思うぞ。元に戻るには早くても一週間はかかるんじゃないか?」

「結構かかるんですね」

「嬢ちゃんの治りが早すぎなだけだ」


 私の疑問にレギオラさんが答えてくれたが、私が異常だとよく分かってしまう。


(ただそこに突っ込まないのは、私が襲われた事による罪悪感からなのかな……)


 もしくは魔薬調査の功績か、その両方かは分からないけど、その気遣いはありがたかった。

 

(森育ちじゃ言い訳にはならないしね)


 困った時の森育ちも怪我の治りは説明つかないからね。


「怪しい者がいれば、引っ張ってはこれるが証拠がないからな……」

「容疑者がいれば、あとは匂いで分かりますよ」

「ほんとに鼻が利くな。獣人並なんじゃないのか?」

「えっ獣人?!」


 レギオラさんがポロっと零した言葉に私は反応してしまった。ちょっと皆がビクッとしたが気にしない。


「なんだ獣人に興味があるのか?」

「獣人というより他種族に興味があります!」

「そ、そうか」


 ちょっと引かれている気もするけど、獣人だよ! モフモフだよ!

 この世界の獣人はどんな感じなのかな? やっぱファンタジーと言えば魔法に亜人だよね。


 他種族には獣人の他にエルフ にドワーフ、竜人、魔族がいるんだって。

 魔族以外の種族とは交流があるらしいけど、亜人を差別する場所もあるから、僅かに交流があるだけみたい。


 そして魔族は魔王の傘下だから、どの種族とも敵対しているとか。ほんとにいたよ魔王!

 他所の大陸だから関わりもないみたいだけどね。

 私が生きている間は、その大陸から出てこなければ、それでいいです。あ、フラグになりませんように……


 いいね。他の種族の人とも会ってみたいよ。せっかく異世界に来たんだしね。


 私は襲ってきた相手のことはそこそこに報告して、あとは亜人について聞くことにした。



 皆は苦笑していたが、最後には生温かい視線を向けられていた。

 私は子供だから良いよね!





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