第6話 ベッドでおやすみー

 私は誰かに身体を揺すられて目を覚ます。誰だ私の安眠を妨害するのは。


「おい、嬢ちゃん起きろよ」

「うにゅ?」


 目を覚ました私は寝ぼけ眼で周囲を見渡す。開いた門には門番二人、そして私を起こしている昨夜の親切な門番さん達。どうやら私はぐっすり眠ってしまっていたらしい。


 よく眠れた事は喜ばしいのだが、今までは物音や魔物の声で目を覚ますことが多々あったのだ。そんな環境下で過ごしていたにも関わらず、昨夜は少し良くしてもらっただけで警戒を解いて爆睡してしまうなんて、実は私チョロいんじゃないのだろうか、と心配になってしまうが、昨夜は心身共に疲れていただけだということにしておこう。


「おはようございます門番さん。見張りありがとうございました」


 おかげでぐっすり眠れたのでお礼は伝えておく。


「なぁに気にするな。それより俺達は交代の時間だけど嬢ちゃんの通行手続きは俺達がやる事になってるから、一緒に詰所に来てくれ」

「なんかスミマセン」


 私の所為で勤務外労働をさせてしまったようなので、申し訳なく思い謝ってみたが、どうも自分達の勤務時間中に訪れた人は後で対応する決まりらしい。それを聞いて安心して詰所までついて行くと、詰所の中には机と椅子に奥に竃があるくらいだった。私がキョロキョロと見ていると、門番さんが紙を取り出した。


「嬢ちゃん字は書けるか?」

「書けないですし、読めないですね」

「そうなのか? 言葉遣いなんか丁寧だし読み書きはできるのかと思ったよ」

「私が居た村では読み書きする必要がなかったので」

「成る程、田舎だって言ってたもんな。まだそういう所もあるんだな」


 私は自分が居た村の事も碌に知りはしないのだが、読み書きができないのは珍しいようだ。これは文字の勉強をしなければいけない。閉じ込められていた期間が恨めしい。


「それじゃあ、嬢ちゃんの名前とここに来た理由は?」


 質問に答えつつ私も門番さんに話を聞いていく。此処はアルクーレという街らしい。知らずにやって来たのかと呆れられたが、情報源がどこにもなかったので仕方がない。それと年齢のことを突っ込まれた、私は12歳くらいだと主張したのだが、どうも私は小柄らしく精々が10歳だと言われた。村での食事事情がここで影響してくるとは!


 なので私は今、門番さん達に連れられて冒険者ギルドへと向かっている。何故、冒険者ギルドなのかと言うと、冒険者登録をする時に登録者の名前と年齢が表記されるらしい。これは特殊な道具を使って行われるため誤魔化すことができないらしく、私みたいな身元が怪しい人物の情報を引き出すのに使ったりするようだ。


 冒険者ギルドでなくても、商業ギルドや市民権の発行でもできるのだが、商業ギルドは市民権が発行されてから三年経っていないと駄目で、市民権の方は発行出来るが親元から離れた子供を雇ってくれる所はないと説明を受けたので、冒険者を選んでみた。


 冒険者ギルドへとやって来ると、門番二人に挟まれた女の子という組み合わせで目立っているようだった。


(ああぁ……テンプレが起こりませんように……あぁ……でも何か起こって欲しいような……)


 私も異世界ものの小説などは読んでいたので、冒険者ギルドで絡まれるイベントが起こるのでは、と絡まれたいような絡まれたくないような複雑な気持ちだった。


 そのまま受付に行くと門番さんが受付嬢さんに話しかける。


「エレナちゃん、この子を冒険者登録して欲しいんだけど」

「ガイズさん、いらっしゃい。この子ですか? 随分と幼いですけど……」


 やはり私は幼く見えるらしい、数年後に期待しよう。それとご飯をくれた門番さんはガイズさんって名前なのか、と心の中にメモしておく。ガイズさんは受付嬢のエレナさんに私の事を説明してくれて、登録の準備が進められる。


「じゃあ、シラハちゃん。この魔道具の上に手を乗せてもらえる?」

「はい」


 エレナさんは受付のカウンターに水晶玉を用意する、どうもその水晶玉が魔道具のようだ。私は魔道具へと手を伸ばすが背伸びをしても魔道具の上には手が届かない。苦戦している私を見兼ねてか、もう一人の門番さんが私を両脇から手を入れて持ち上げてくれた。


「ナッシュさん優しいですね。シラハちゃんもう良いですよ」


 私を持ち上げてくれたのはナッシュさんというらしい、メモメモ。魔道具に手を乗せると光を放ち、光が収まるとそこからカードが出てきた。それをエレナさんが取り、ガイズさんとナッシュさんが覗いて驚いた顔をしながら、私とカードを見比べている。


「ほんとに12歳だったのか」

「だから言ったじゃないですか」


 どうやら私の年齢は12歳で合っていたようだ。正確に把握していた訳ではないので内心ホッとしている。


「それじゃ、あとは通行料を払ってもらえれば、街に入っても問題ないってことだな」


 ガイズさんが良かったなと言いながら私の頭を撫でくりまわしてくるので、髪の毛がボサボサだ。通行料を手渡すと、これで門番である二人の仕事は終わりになるので、ここでお別れになる。


「お二人とも昨夜から色々とありがとうございました」

「おぅ、いいってことよ」

「頑張ってな」


 本当になんでもないように言いながら二人は冒険者ギルドから出て行った。二人にとっては当たり前の事なのだろうが、私はそれで救われたのだ、感謝しかない。ありがたやー


「それでは冒険者ギルドについて説明しますね」

「はい。お願いします」


 エレナさんが説明を始めてくれる。まずは冒険者ランクについてで、ランクはGから始まりF、E、D、C、B、A、Sとなるらしい。そして依頼はソロの場合は自分のランクと同じランクのものしか受けられない。パーティーを組んだ場合は同ランクの冒険者が四人以上いれば、一つ上のランクの依頼を受けられるようになるらしい。冒険者の実績と依頼によっては受理されない場合もあるみたいだけど。


 そうでもしないと一攫千金を狙って無理な依頼を受けた冒険者が帰って来なくなるらしい。過去にそんなこともあったから今の制度があるんだとか。残りの説明は冒険者同士で争ってもギルドは関わらない、依頼が達成できなかった場合は違約金が発生するとか二階に書庫があるとか、そんな話だった。


 一通りの説明を受け、私はエレナさんに、この街で安心して泊まれそうな宿の場所を聞き、冒険者ギルドをあとにした。


 エレナさんに教えてもらった宿、日向亭に辿り着き私はその中へと入って行く。宿に入ると私と同じくらいの背丈の女の子が出迎えてくれる。


「いらっしゃい! 食事ですか?」

「あ、食事もですけど。今日の宿もお願いします」

「はい! 一泊3000コールで、食事は一食500コールになります」

「とりあえず一泊で、お腹減ってるので今ご飯貰って良いですか?」

「はーい! お母さーん、注文入ったよー」


 女の子は元気な声で注文を奥の厨房へと届けている。あの歳で親の仕事の手伝いとか偉いなぁ、と感心する。私は女の子にお代を払い、渡された鍵を持って部屋へと行くと荷物を置いて食事を摂りにいった。


 お腹一杯になった私は再度、冒険者ギルドにやって来ると、二階にあるという書庫に行き、そこに居る係の人に薬草や魔物の情報が載っている本を教えてもらい、ついでに読んでももらった。凄く仕事の邪魔をしている自覚はあるが、字が読めないのでは依頼を受けるための依頼票を取るにしても内容が読めなくて困るのだ。


 幸い本を読んでくれている人は、おっとりとしたおばあちゃんでニコニコしながら教えてくれる。なんでも最近お孫さんが結婚してしまった為、あまり会えていないらしく私と話していると懐かしい気待ちになるそうだ。若干気恥ずかしくはあるが、私も楽しかった。


 日が暮れるまで本を読み、今晩の宿である日向亭へと戻ると愛想のいい笑顔の女性が私を出迎える。


「いらっしゃい! 宿泊かい? ってお嬢ちゃんが一人で泊まるって事はないか! ご飯でも食べていくのかい?」

「ご飯は頂きます。あと今日の宿はもうとってありますよ」

「そうなのかい?」


 宿屋の女将さんだろうか。私の顔を見て少し難しい顔をする。顔を見られて反応されると嫌でも忌み子判定された時の事を思い出すから、ドキリとして困る。


「一応、確認の為に聞くけど家出じゃないんだよね?」

「違います」

「なら、なんでお嬢ちゃんみたいな子が一人で宿泊を?」

「帰る場所がないからです。ちなみにこれでも12歳です」


 帰る場所がないと答えたら女将さんは表情を曇らせた。誤魔化しても良かったのだが、変に詮索されるよりは聞き辛くした方があとが楽だと思ったので、そのまま口にした。


「そうかい、そいつはすまなかったね。お詫びに夕食はタダで良いよ。ゆっくり食べとくれ」

「ありがとうございます」


 女将さんは私の年齢についてはスルーして、お詫びとして夕食をご馳走してくれた。食べてる途中で女の子がやってきて、頭を撫でていった。たぶん女将さんから話を聞いたのだろうが、子供に子供扱いされたことに釈然としない。


 


 部屋へと戻ると少し固めではあるが、私にとっては前世ぶりのベッドでゆったりと眠ることができたのだった。






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